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2026.09.01

好きだから続ける。だから道が広がる。 レシピ開発、氷彫刻、ブランドの運営。 赤羽目シェフが描く新しい職人の生き方

赤羽目健悟シェフ
赤羽目建悟シェフ
中沢乳業株式会社 経営企画室 R&Dグループ パティシエ
赤羽目建悟さん
【経歴】
1984年 東京都昭島市生まれ
2004年 服部栄養専門学校卒業
2004年 村上開新堂入社
2006年 帝国ホテル入社
2023年 中沢乳業入社

【受賞歴】
2008年 国際ジュニア製菓技術コンクールポルトガル大会優勝
2015年 ザ チョコレートショーピース チャンピオンシップ アメリカアトランタ優勝
2015年・2016年 タイカービングコンテスト フルーツ部門優勝
2018年 明治神宮奉納 登記全国氷彫刻展優勝
2019年 クープ・デュ・モンド日本予選氷彫刻アントルメグラッセ部門優勝
2020年 コッパデルモンド デラジェラテリアイタリア大会準優勝 氷彫刻部門賞
2021年 クープ・デュ・モンド フランス大会準優勝
2024年 ワールドアイスアートチャンピオンシップ イタリア準優勝
2025年 フランス ステファングラシエ杯 監督権審査員 優勝
運営サイトはこちら

「パティシエとして働くなら、いつか独立しなければならないのだろうか」「コンクールに挑戦したいけれど、仕事との両立は難しいのではないか」
製菓業界で働く人たちの中には、そんな迷いを抱えている人も少なくないでしょう。

しかし今回お話を伺った赤羽目 健悟シェフは、そのような固定観念を軽やかに飛び越えていました。
乳業メーカーである中沢乳業株式会社でレシピ開発を行いながら、氷彫刻のコンクールへ挑戦し続け、さらには自身のパティスリーブランド『akabame lab.』を立ち上げて、百貨店の催事にも出店されています。

全く異なる複数の活動を同時に続けるその姿は、多様な働き方が求められる今の時代において、職人の新しい可能性を示しているようでした。

老舗洋菓子店からの転職、17年間の帝国ホテル時代

赤羽目シェフのパティシエとしてのキャリアは、明治7年創業の老舗洋菓子専門店「村上開新堂」でスタートします。手づくりにこだわるこちらのお店の看板商品は予約をすることも困難なため、お菓子好きの間では「幻のクッキー缶」とも呼ばれているとか。

歴史のある洋菓子店で何を学ばれましたか?

赤羽目シェフ
「レシピの持つ力というか、一つひとつの工程の意味や重みと向き合う日々でした。先輩に教わったことを毎日丁寧に反復する中で培ったのは、仕事に対する向き合い方です。『村上開新堂』では伝統を重んじてお店の味を守り続けるのが大前提。職人たちが変わらぬお菓子を毎日つくり続ける手仕事の難しさを痛感しました」

赤羽目建悟シェフ

2年間の勤務を経て、帝国ホテルへ転職されたんですね。

赤羽目シェフ
「トラディショナルなクッキーや焼き菓子と向き合う日々の中で、雑誌で見るような華やかなお菓子の世界にあこがれるようになりました。色鮮やかな生菓子や大きな細工菓子など、当時の自分の仕事の周りになかったものに惹かれていったんです。転職のきっかけになったのは『コンクールに挑戦したい』という思いが芽生えたことです。『帝国ホテル』は当時も積極的にコンクールへ挑戦する先輩たちが多かったんですよ」

ホテルへと仕事の舞台を移した赤羽目シェフは、レストランで提供されるデザート、ショップで販売される商品の製造、ウエディングケーキ、宴会菓子、ショコラなど、さまざまな部署で多彩な経験をされ、気が付けば17年が過ぎていたと言います。

赤羽目シェフ
「ホテルでは本当に伸び伸びと働かせてもらいました。パティシエの仕事は多岐に渡るので定期的な配置換えがあります。言い換えると、常に新しい技術を学ぶチャンスがあるということです。また、自分が望んだコンクールへの挑戦を応援してもらえる環境も整っていました。職人として技術を磨き、大型のチョコレート細工や飴細工のコンクールに挑戦してきました。そこで得た経験を、ホテルのウエディングや宴会に欠かせないピエスモンテの製造に活かすことができ、さらなるやりがいを感じながら充実した日々を送ることができました 」

人生を変えた氷彫刻との出会い

赤羽目シェフの名前を語る上で欠かせないのが氷彫刻です。大規模な宴会や祝宴の際に依頼が入ることが多い氷彫刻ですが、その技術を持っているパティシエは中々いません。当時帝国ホテルで専属だった氷彫刻家が後継者を探していた時、飴細工やチョコレート細工のコンクールに取り組んでいた赤羽目シェフに声がかかりました。

赤羽目シェフ
「氷彫刻に挑戦してみないかと打診があった時、最初はパティシエとしての仕事がおろそかになると思って断ったんですよ。ただ、実際に氷彫刻を教わる方は世界的にも認められた職人だったので、世界に通用する技術を直接学べる機会はそう多くないこと、さらには、『クープ・デュ・モンド』にも氷彫刻部門があることが後押しになり、やってみようと決意して飛び込んだんです。約3年間氷彫刻担当の部署に在籍したんですが、繁忙期には朝から晩まで氷を彫っていることもあり、ケーキ屋さんでは経験できないような環境で集中して技術を磨くことが出来ました」

結果として、その氷彫刻での新たな挑戦は大きな実を結びました。約3年という短期間で日本代表レベルに到達し、数々のコンクールに挑戦される中で転機が訪れます。

赤羽目建悟シェフ

▲2024年、イタリアのガエタで行われたワールドアイスアートチャンピオンシップ出場時

赤羽目シェフの経歴の中で切っても切れない『クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー』(※以後クープ・デュ・モンドと表記)への挑戦です。

赤羽目シェフ
「帝国ホテルには『クープ・デュ・モンド』に日本代表として出場経験のある先輩がいたので、入社当初から自然に世界の舞台への関心は芽生えていました。そこに氷彫刻漬けの日々が重なったことで、自分の現在の技術力を確かめたいとも考えるようになり、氷彫刻の日本代表を目指すようになったんです。更なる上を目指したいという想いが原動力になりました」

乳業メーカーのR&Dグループという立場となった現在もなお、パティシエ人生で転機となった氷彫刻への想いが強い赤羽目シェフは、国内外の大会やイベントに参加し続けています。挑戦へのモチベーションや参加する意義についても伺いました。

赤羽目シェフ
「氷彫刻は、パティシエにとってもお菓子とは少し離れた世界といえますが、僕自身は好きだから続けているというのが一番です。パティシエは自分がなりたくてなった職業なので、仕事そのものは楽しい。コンクールも然りです。氷彫刻もやりたくて自分のために始めたことなので、今もなお休日を利用して大会に出ることが苦にはならないんですよ。ホテル時代とは違い氷彫刻専用の部屋があるわけではないので、練習不足で出場することになっているのが少し悔やまれますが、大きな氷を販売している氷屋さんの駐車場で彫らせてもらったり、氷彫刻をやっている仲間で集まって講習会をしたりと活動は続けています。そういった機会を作ることで、氷彫刻に魅せられる新たな職人も出て来ると思いますし、自分が教わった技術を後進に伝える責任があると思っています」

「クープ・デュ・モンド」に出られて得たものは何だったのでしょうか。


赤羽目シェフ
「気力も体力もすべて注いで、チームで作品を作り上げた結果として得たものは、かけがえのない仲間と大きな達成感、そして新たな目標です。『クープ・デュ・モンド』では、飴細工、チョコレート細工、氷彫刻を軸とする3人1組が国の代表となり、チームで作品をつくり上げて各国の代表チームと戦います。フランスでの本選に向け、本音で語って意見を出し合い、時にはぶつかり合い、準備を重ねていきました。歴代の代表選手の先輩方にも意見を伺う場が設けられ、アドバイスを受けてさらにブラッシュアップを重ねる中で、チームとしての士気も上がり、本当に信頼できる仲間になれたと思っています。大会出場から5年が経った現在も『この3人で出場出来て良かった』と心から思えますし、今も2人との交流が続いています」

赤羽目建悟シェフ

▲『クープ・デュ・モンド』2021年の代表メンバーと共に出られた百貨店催事(2026)での1コマ。左より赤羽目シェフ、塚田 悠也氏 (ELEGRANT U) 、原田 誠也 氏 (株式会社RIB chocolate)

「自分のブランド」を持つという選択

「クープ・デュ・モンド」でみごと準優勝に輝いた赤羽目シェフは、次なる舞台として独立を意識するようになります。
世界大会に挑む仲間たちの中には、独立して自らの店を構えるシェフも多く、企業という組織で働く魅力を感じながらも、「もっと自由に挑戦したい」という新たな思いが芽生え、開業という次の目標が明確になったそうです。そんな中出会ったのが、中沢乳業での働き方でした。

御社のR&Dグループには、将来自分の店を持ちたいパティシエが在籍しながら技術開発を行う文化があるそうですね。実際に独立開業された先輩たちも多いとか。


赤羽目シェフ
「修業時代当初は、自分のお店を持ちたい気持ちはあまりなかったのですが、『クープ・デュ・モンド』に出た頃から、いずれはもっと自由にいろんなことにチャレンジしてみたいという想いが募ってきました。一緒に大会に出た2人のチームメートの独立開業も刺激になったと思います。そんな中、出会ったのが中沢乳業です。

R&Dグループでは独立開業に向けての経験や知識を深めつつ、今より自由な働き方で開店準備ができるのが魅力的でした。一緒に働いている畑田は以前からの知り合いで、彼自身も自分のブランドを手掛けながら仕事をしています。そうした社内環境を知り、『ここなら開業準備と仕事を両立できる』と感じて入社を決意しました。弊社のR&Dグループを経験されたのちに独立されている先輩パティシエも多く、さまざまな事例を聞ける風通しの良い社風にも惹かれました。入社後、中沢乳業の商品開発や技術提案を行いながら、自身のブランド立ち上げの準備も進めていったんです」

独立を視野に入れている人材に入社してもらうという、会社の度量の大きさに驚いています。


赤羽目シェフ
「本当に会社からのサポートには感謝しています。現在は、これまでの知識や技術で自社製品の魅力を伝えるレシピ開発を行っていますが、自分自身にとってはお菓子の重要な素材の一つである乳製品の理解を深めることができる貴重な時間になっています。ゆくゆく開業がかなった暁には、中沢乳業との良好な関係を保ちながら自店で中沢製品を使用して販売するお菓子という形に変えて中沢製品の良さを広めていくことが微力ながらも会社への恩返しになるのかなと考えています」

現在ご自身のブランドでは百貨店催事にも出店するまでになっていますよね。

赤羽目シェフ
「コンクールやイベントに参加することで仲間ができ、チャンスに繋がる話をいただくようになりました。その横の繋がりのおかげで視野も広がり、さらに仲間が増えてきている感覚です。楽しくて仕方ありません」

赤羽目建悟シェフ

▲2026年5月新宿の伊勢丹での催事の際、イートインスペースでのデザート

赤羽目建悟シェフ

▲物販で販売された宝石のようなボンボンショコラ

赤羽目建悟シェフ

▲オリジナルの缶に詰まったプティフール・セック

なぜ両立できるのか

取材中、最も驚いたのは「睡眠時間」の話でした。現職での仕事に加えて、氷彫刻、ブランド運営、催事出店をこなすとなると誰もが多忙な毎日を想像するでしょう。しかし赤羽目シェフは、「8時間くらい寝ています」と笑っていました。
仕事を優先しながらも、有給休暇やスケジュール調整を見事に行い、異なる活動を組み立てられています。自分の時間と体調を管理しながら無理なく継続する姿は、現代的なプロフェッショナル像そのものです。精神論に頼らない姿勢こそが両立を支える鍵となっているといえるのではないでしょうか。

若い職人たちへのメッセージ

最後に、若い職人へのアドバイスを伺った際の赤羽目シェフの答えは、実にシンプルでした。

赤羽目シェフ
「『仕事以外にも目標を持つこと』そして『好きなことを見つけること』。
コンクールでもいいし、仕事には一見繋がっていないような勉強会でもいい。単純に仲間づくりでもいいんです。何かに挑戦することで世界が広がり、外へ出れば横のつながりができます。そこで視野を広げれば、会社の中だけでは見えなかった世界に出会うことができます。過去の自分も外に一歩踏み出した時、現場で抱えていた悩みがとても小さく感じられた経験をしました。是非、やりたいことをして、好きだからこそ続けて、上達する努力や工夫をしましょう。そこから道が開けますので」

帝国ホテルでの17年間も、氷彫刻への挑戦も、中沢乳業でのR&D業務も、自身のブランド立ち上げも、その根底には「好きだから続ける」という共通の価値観が流れていました。

取材を終えて

働き方が多様化する現代において、赤羽目シェフの姿は一つのロールモデルになるのかもしれません。会社員か独立か。仕事かコンクールか。安定か挑戦か。そのどちらかを選ぶのではなく、自分の「好き」を軸にしながら複数の夢を同時に育てていく姿。目の前の仕事を大切にしながら、自分の目標を持ち続けることで、未来を開いていった赤羽目シェフの歩みは、そのことを力強く教えてくれました。
今回のインタビューは、「将来の道は一つではない」ということをぜひ若い職人さんたちに知ってほしい。と筆者が心から感じる時間でした。

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Writer
chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
製菓業界に足を踏み入れて早20数年。読者目線の企画運営が目標です! 食べることと旅行が大好きな1児の母。サンマルク、カイザーゼンメルが大好きです♡
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