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2022.01.26

「夜の街で働く人々に恩返しがしたい」。パン業界の常識をくつがえし、夕刻から深夜までの営業で一躍人気店となった「夜のベーカリー まほろば」

「夕方5時にオープンするベーカリー」が大阪に誕生し、話題となっています。「ベーカリーとは午前中に開くもの」という固定観念をくつがえす完全夜型のこのお店は、「開店早々たちまち目標売上の1.5倍を記録した」ほどの人気店となりました。
「製造の主力スタッフは20代」という若い感性とパワーに満ち溢れた注目店にうかがい、従来とは違った運営スタイルが支持された理由をうかがいました。

 

陽が暮れてから開店する「夜のベーカリー」が人気

大阪の東心斎橋。スナックやBAR、ラウンジが軒を連ねる歓楽街です。このオトナの街に2021年10月8日、『夜のベーカリー まほろば』がオープンしました。

「夜の」と冠されたこの新店は、その名のとおり夕方5時オープン、深夜3時クローズという、パン業界では極めて珍しいナイト営業。
「ベーカリーは早朝から営業するもの」といったステレオタイプから大きく逸脱した業態です。

言わば「常識はずれ」なこの店には、のれんを掲げると同時にお客さんが続々と来訪。
焼きたてのパンが見る見る消えてゆきます。

「お客様が混む時間帯が3回あります。先ずは開店直後。次に終電後。最後は閉店間際の深夜2時台。深夜零時過ぎにピークが2度あるのが当店の特徴です。それだけではなく、お客様がいらっしゃらない時間は開店以来まったくない状態なんです。正直に言って供給が追いついていないので、増産が今後の課題です」

そのように嬉しい悲鳴を上げるのは、実質キッチンの陣頭指揮を執るスーシェフの小林達哉さん(27)。
パン職人歴7年。
ベーカリーがなかった街に新しい一歩を踏み出そうとするオーナーの気概に共鳴し、求人を見て応募したといいます。

オーナーの想いは「夜の街で働く人々への恩返し」

『夜のベーカリー まほろば』は株式会社ジオが挑む初のベーカリー。
ジオは京都の舞鶴を拠点に全国で飲食店、ホテル、介護事業、ガソリンスタンドなどを運営する会社です。
オーナーはジオの代表取締役である水嶋亨さん(54)。
ベーカリーを開くのは、一代で会社を築いた水嶋氏の念願だったのだそう。

小林シェフ

オーナーはミナミ(東心斎橋を含む大阪市中央区の繁華街の総称)で数軒の酒場を営んでおり、日頃から『夜の街で働く人々に恩返しをしたい』と考えていました。そして現場でリサーチしてみると、『出勤前や仕事終わりに焼き立てのパンが食べたい』という声が多かったそうなんです。それならば、『夜においしいパンを味わってもらえるベーカリーを始めよう』と。

「水商売に従事する人々に喜んでほしい」と立ち上げた、まほろば。当初の意図通り、ホステスさん、黒服さんなど、おミズの現場で働く人たちがリピーターとなっています。

贈答用に3個から5個入りのボックスセットをご注文いただく場合も多いんです。ママやホステスさんが、『お客様へのプレゼントにするから』とよく言われています。

まるで洋菓子のようにパンを箱詰めにしてギフトにする。歓楽街だからこそ生まれた新しいニーズでしょう。

 

あえて挑んだ「食べにくい生地」がヒット商品に

よく売れる商品は、「クロワッサン・オ・ルヴァン」(280円)と「カレーパン」(300円)。

小林シェフ

この二つは飛びぬけて、よく売れます。ハード系が得意なので、そちらももっと話題になってほしいのが本音ですが(苦笑)

クロワッサンは「自分史上最大量のバター」を用い、パリッパリに。カレーパンは特別に「カレーパン専用の生地」をこねるのだそう。

小林シェフ

カレーパンの現在の流行は“さっくり軽い生地”です。けれどもうちでは時代に逆行し、歯ごたえがあって、もちもちに仕上げます。言わば『食べにくいカレーパン』を目指しているんです。噛み心地の強さが満足感へとつながり、それが人気の理由なのだと思います。

軽い食感よりも重めの口あたりが好まれる。これは総菜パンを「晩ごはん」として食べたい消費者がミナミに多く存在する証し。確かにこの街は、陽が暮れてから活性化するのですから。どっしりとした「食事としてのカレーパン」が好評を博すのは理にかなっています。

同じく「食べごたえ」で人気なのが「海老カツパン」(450)。ブリオッシュ生地のパンにボリュームがある海老カツがドンッ。タルタルソースもたっぷり。見た目のインパクトは絶大です。

小林シェフ

実は海老カツパンは、お客様のリクエストで誕生した商品なのです。『お腹がいっぱいになるパンが欲しい』というご要望に応えてお出ししたところ、ヒット商品になりました。

つい、「夜だから軽めのものがいいのでは」と思いがち。逆でした。これは「ミナミで店を開いて初めてわかったケース」なのだそう。

 

根付きはじめた「お酒のつまみにパンを食べる習慣」

まほろばを訪れるのは、もちろん接客業の従事者ばかりではありません。大阪市内で働く会社員たちもやってきます。彼らが「ミナミで飲んだ帰りに家族へのお土産としてパンを買う」という新習慣を生みだしたのです。

小林シェフ

たとえば終電が近い時間にクロワッサンを買えば、朝までパリパリ状態を保てます。ご家族の朝食時間にピッタリ合うんです。『まほろばのパンを土産にすると、家族がとても喜んでくれる。酔って帰っても妻が許してくれるようになった』と嬉しそうにお話しされる男性もおられます。

さらにまほろばは、コロナ禍以降の「家呑み」需要を掘り起こしました。終業後にナッツやオリーブ、濃厚チーズなど塩味系のパンを購入し、「自宅での晩酌のおつまみ」として味わうOLやサラリーマンが多かったのです。

小林シェフ

この現象も意外でした。今後はワインやビールに合う味付けをさらに研究し、『おつまみパンコーナーを設けよう』と話しています。

このように「夜のベーカリー」というコンセプトは当たり、出店後またたく間に「目標売上の1.5倍を記録した」といいます。今後は「歓楽街に焼き立てを届けるパン屋さん」として2軒目、3軒目を計画中なのだそう。

街の空気に寄り添い、その街で生きる人々に想いを馳せたからこそ誕生した「夜のベーカリー」。店を軌道に乗せ、利益を上げるためには、ときには大胆な発想の転換が必要なのだと、まほろばは教えてくれました。

*商品はすべて税込み。2021年12月14日(火)取材時点の価格

 

●About Shop
夜のベーカリー まほろば
大阪府大阪市中央区東心斎橋2-8-4
電話:06-6211-0707
営業時間:17:00~翌27:00
定休日:日
公式サイト
公式インスタグラム

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Writer
吉村 智樹
吉村 智樹
運営サイトはこちら
京都在住で、ライターと放送作家をしております。 朝日放送『LIFE 夢のカタチ』構成を担当。
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