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2023.05.30

人との繋がりがもたらす新たな道。フリーランス パティシエ 小西拓也のストーリー

フリーランスパティシエ小西拓也さん
フリーランスパティシエ
小西 拓也さん
神戸の製菓学校を卒業後、帝国ホテル大阪へ就職。その後、「Seichiro,NISHIZONO」でスーシェフを担当。2022年9月よりフリーランスとして活動。
技術コンテスト 2016 チョコレート味覚部門 金賞、食の都大阪グランプリ 2018 GRAND-PRIX、チョコレート イノベーション コンテスト2022ペイストリー部門優勝(国内1位)。
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パティシエの小西 拓也さんは、帝国ホテル大阪や、人気店Seiichiro,NISHIZONOで腕を振るった実力派。現在はフリーランスパティシエとして、企業や専門学校、個人店などからの依頼に応じ、お菓子教室の講師やレシピ提供・技術指導など、活動の幅をさらに広げています。

今回は、そんな小西さんが、フリーランスという働き方を選んだきっかけに迫ります。

パティシエのスタートは一流ホテルから

中学生の頃、ドラマ「アンティーク〜西洋骨董洋菓子店」に憧れ、パティシエの道を志した小西さん。神戸の製菓学校を卒業後、大阪の一流ホテル、帝国ホテル大阪でキャリアをスタートさせました。

「入社してしばらくは製菓部門ではなく、調理部門を担当していました。少し戸惑いましたが、調理の知識だけでなくマナーや気配り、身だしなみなど、社会人として大切なことを学ぶことができました。ホテルでの毎日はまさに修行で、食器洗いなどの裏方業務をこなしながら、技術を磨く日々でした。その後製菓部門へ異動し、 帝国ホテルならではの高度な製菓技術を学ぶことができたと思います」

そんななか、より製菓技術の研鑽に専念したいという想いが募っていったという小西さん。休日に楽しんでいた食べ歩きのなかで出会った『Seiichiro,NISHIZONO』のケーキに魅了され、同店で働くことを決意します。

「しかし、当時はパティシエの募集を行っておらず、一度断られました。でも、どうしても諦められず再度問い合わせをすると、『まずは研修から…』とお返事をいただきました。研修期間を経ての本採用だったので、ようやく働けることが決まった時は、本当に嬉しかったです」

運営スタイルの違いがもたらしたパティシエとしての成長

ホテル、そして個人店と、運営スタイルの異なる職場を経験した小西さん。それぞれでの修行がパティシエとしてのスキルアップに繋がったといいます。

「帝国ホテルでは、個人ではなくチームで仕事をします 。それぞれの役割・持ち場が明確で、互いに補い合うことで、最高のお菓子作りが実現できる環境でした。

Seiichiro,NISHIZONOでは、ホテル時代の分業型とは違い、ほとんどの業務を最初から最後まで一人で行う自己完結型でした。そのため、幅広い仕事ができ嬉しい反面、当初は失敗することへの恐怖心が常につきまとっていました。しかし、徐々に失敗してもリカバリーする力が身につき、ホテル時代とは違った精神力や技術を得られたと思っています」

また、帝国ホテルでの修行時代、コンテストに意欲的に出場し結果を残す先輩方の姿に刺激を受けたそう。熱意が高まり、数々のコンテストに参加。賞を勝ち取っていきます。

「何かのコンテストで、自分と同い年のパティシエが優勝したと聞くと、負けていられない!という気持ちがふつふつと沸いてくるのです。その気持ちがコンテストで結果を出す原動力になっているのではないかと感じています」

小西拓也シェフが制作された、ヌーベル・パティスリー・デュ・ジャポン技術コンテスト 技術コンテスト 2016 チョコレート味覚部門 金賞作品

▲ヌーベル・パティスリー・デュ・ジャポン技術コンテスト 2016 チョコレート味覚部門 金賞作品

小西拓也シェフが制作された、チョコレート イノベーション コンテスト2022ペイストリー部門優勝作品

▲チョコレート イノベーション コンテスト2022ペイストリー部門優勝作品

修行先で出会った、フリーランスという働き方

コンテストで華々しい結果を残すなか、2022年9月にフリーランスとしてのキャリアをスタートさせる小西さん。とくにフリーランスを目指していたわけではなく、あることがきっかけでその道を歩むことになります。

「有名パティシエの中には、お店を開業する前にフリーランスとして活躍していた人たちがいます。実は、『Seiichiro,NISHIZONO』の西園シェフもその一人なんです。シェフのもとで働いていた際に、フリーランスという働き方を知ったのですが、初めからフリーランスパティシエを目指そうとは思っていませんでした。

ところが、30歳に近づき、シェフから今後について聞かれることが増えるにつれ、自分自身の将来についてより深く考える時間が増えてきました。コンテストのことばかり考えている自分に、独立してお店を持ちたいのか、この先どのように進んでいきたいのかを問われていたのだと思います。

そんな時、知り合いの経営者の方から『新しい事業を始めるから、力を貸してほしい』と誘われました。その事をきっかけに、フリーランスのパティシエという働き方をより現実的に考えるようになりました。

いきなりフリーランスとして独立することは資金面などで不安が残りましたが、幸いバックアップしてくださる方がいることも後押しとなり、一歩踏み出すことができました」

フリーランスだからこそできる、さまざまな体験

フリーランスとして独立した小西さんの元には、日々さまざまな依頼が舞い込むといいます。

「ありがたいことに帝国ホテルやSeiichiro,NISHIZONOで働いていた時に繋がった方々から、専門学校の講師やレシピ開発などのご依頼をいただくことが多いです。そこには人との繋がりの大切さを感じています。また、SNSを通じて新規のお仕事をいただくこともあります。例えば、新店舗オープンのマネジメントや、お菓子教室の講師などです」

小西シェフがお菓子教室でレクチャーされている際の一コマ。

▲お菓子教室での一コマ。枠にとらわれず様々な経験ができるのは、フリーランスの醍醐味

「フリーランスになるにあたり、どうやって自分のブランディングをしていくか、またそこから仕事の依頼をどうやってしていただくかを考えていました。SNSの活用は、これからの時代必須だと感じたため、独立前から、自分なりにSNSでの発信に取り組んできました。

僕はもともとマメな性格ではないですし、文章を書くことも得意ではなかったので、はじめは他の方の見よう見まねで投稿していました。しかし今では写真を綺麗に撮ることに気を配り、自分なりのスタイルを見つけています。今こうやって、SNSを通じてお仕事の依頼をいただけているのは、そんな下準備があったからだと思いますね」


忙しい毎日に感謝しつつも、やはり収入面では不安を感じることもあるという小西さん。しかし、フリーランスとして働きながら得られる経験と知見は、その不安をはるかに上回るほどの価値があると感じているそう。

「当然、フリーランスとして働く場合、安定した収入は望めません。レシピ開発などでは、初めにまとまった報酬をいただくことが多いので、収入が多くなる月もあれば、厳しいなと感じる月もあります。

しかしながら、フリーランスだからこそ経験できることがたくさんあります。例えば、新店舗オープンに携わる仕事の場合、そのお店のたった1度しかない、お店のスタートの部分を経験することができます。

もし、ずっとどこかで雇われていた場合、新店舗オープンという経験を何度も得られることはなかったでしょうし、自分自身でお店を開業するとしても、オープンの経験は一度きりのことです。

その点、フリーランスであれば、さまざまな方が経営する、いろんなタイプのお店のオープンを経験することができます。このような経験は、フリーランスならではの醍醐味だと思っています。

僕はお菓子作りが好きなのはもちろん、人と接するのも好きなので、このように人と関わりながらいっしょに何かを創り上げていく今の働き方に、非常にやりがいを感じています」

多様なお客様に合わせた表現力が求められる世界

フリーランス という働き方を選択する人が増えていますが、向いているのはどのような人なのかを小西さんに伺いました。

「人との関りのなかでお仕事をいただくことが多く、それが仕事を続ける原動力にもなっています。ですから、人と関わることが好きな方には向いているのではないでしょうか。

また、はっきりと物事を言える方が適しているかもしれません。異業種の方からの依頼では『こんなイメージで作って欲しい』など、抽象的な表現をされることもあります。そんな時はこちらから具体的な提案を絵で表したり、言葉で表現出来たりできることが重要だと思います。以前依頼を受けた時に『こんな風にだったらできるけどこれは厳しいかな』と思ったことをストレートな言葉で表現していまい、『こんな形になりますが自分で大丈夫ですか?』と問い返してしまい依頼してくださった方に不安を抱かせてしまったことがありました。

今は自信を持ってできること、逆に(スケジュールの関係やさまざまな事情で)できないことを、しっかりと伝えるようにしています。明確なコミュニケーションが取れると、お互いのビジョンも合わせやすく、仕事もスムーズに進むと実感しています」


パティシエが輝けるお店を目指して

また、小西さんは今後、フリーランスとして働きながらもお店を持つことを目標としています。

たとえば、ビル1棟の各フロアに専門店が集まっているようなイメージです。そこで、信頼できる仲間とともに、お店の運営や商品開発を行いたいです。

お菓子作りが好きなパティシエは、お店のために身を削って働いてしまいがちです。真摯にお菓子作りに向き合っているのに、自己主張ができず才能が発揮できないパティシエを多くみてきました。

僕がお店をするのであれば、そのようなパティシエと一緒に働きたいと思っています。お菓子作りに情熱を注げるパティシエこそが、もっとも信頼できるパートナーですから。彼らにとって良い労働環境と、輝ける場所を提供できたらと思い描いています。

パティシエもお客様も、みんなが喜んでもらえるお店を作りたいです」

取材を終えて

フリーランスで働き出し、とくに人脈のありがたさを感じると繰り返しおっしゃる小西さん。

今までのキャリアの中で、小西さんが人との繋がりを大切にしてきたからこそ、こうやって毎日を忙しく過ごせるのではないかと感じました。

また、客観的な視点や、積極的な行動力はフリーランスとして生きていくために必要な力ではないかとも思います。

小西さんの夢である「お菓子の街」もきっと叶えてくれる、そんな気がしました。

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Writer
さとう れいこ
さとう れいこ
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大阪在住フリーライター&カメラマン。取材・インタビュー記事、SEO記事など幅広くジャンルレスに執筆しています。
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エディター兼ライター シオリ
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