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2023.11.07

開業を目指すパン職人・パティシエに読んでほしい 開業直前パティシエールが先輩パティシエールに本音で質問しました!【前編】

chefno

パン職人、パティシエ の皆さんの中には、「自分のお店を持ちたい!」という夢をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

近年、職人としての働き方にも様々な形が見受けられるようになってきました。オンラインでのお菓子教室、フリーランスパティシエとしてメニュー開発や製造指導、店舗を持たず、独自のECサイトとイベント出店のみでの菓子販売など、自身の生活スタイルに沿った働き方を選択しやすい空気感も生まれてきています。

そんななか、なぜ「独立開業」なのか?
「自分のお菓子が作りたい」「お菓子はもちろん、お店の雰囲気、運営スタイルも自分で決めたい」「子育てをしながらも職人であり続けたい」「人に指示をされるのが基本的に苦手」さまざまな想いを胸に開業に向けて動き出しているパティシエール3名と独立開業9年目のオーナーパティシエールの座談会のはじまりです!

<座談会に参加いただいた方>

加藤絵梨果(かとうえりか)さん

岩手県出身。製菓専門学校卒業後、神戸の『パティスリー リッチフィールド』で18年間勤務。うち7年間を製造責任者、5年間を支店長として勤務。
2024年4月に神戸市中央区で『Pâtisserie CERNE』(パティスリーセルン)を開業予定。“CERNE”とはフランス語で年輪を意味する。お客様とのご縁を大切にし、“年輪のようにお客様の幸せの輪が広がっていきますように”との思いを店名に込めた。

花本奈美 (はなもとなみ)さん

鳥取県出身。製菓専門学校卒業後、神戸の『パティスリー リッチフィールド』で8年間勤務。在籍中に挑戦したパティシエールのためのコンクール(ボワロン杯)で2012年2位、2015年3位入賞。
その後、奈良県の『パティスリーネイロ』のオープニングスタッフとなり、同店のスーシェフとして2年間勤務後、現在は実家のパティスリー『ボヌール洋菓子店』で製造スタッフとして従事。結婚、出産を経て2023年12月に米子市で『菓子 ヒナゲシ』を開業予定。

公式インスタグラム:ヒナゲシ公式インスタグラム

谷本久実(たにもとくみ)さん

和歌山県出身。製菓専門学校を卒業後、神戸の『パティスリー リッチフィールド』で9年間勤務。その後、フランス(ヴェルサイユ)の『Au chant du coq』(オ・シャン・デュ・コック)で1年勤務後、東京のフレンチレストラン『le sputnik』 (ル・スプートニク)でシェフパティシエとして3年間勤務。2024年1月に地元の紀の川市で『KII』(キイ)を開業予定。

公式インスタグラム:KII公式インスタグラム

前田こず枝さん(まえだこずえ)

2015年11月にオープンした『Le Bonbon Et Chocolat』のオーナーパティシエール兼ショコラティエール。大阪のパティスリー『五感』『プチプランス』を始め関西の数軒のお店でトータル約8年間パティシエールとして勤務。フランス(リヨン、アルザス)のパティスリー・ショコラトリーでの勤務経験から、ヨーロッパのように日本でも気軽にチョコレートを楽しんでいただきたいとの想いで日々商品開発中。2019年より単一品種のカカオ豆から製品に仕上げる、ビーントゥバー、ビーントゥボンボンシリーズの製造を開始。2020年より東京で開催されるサロンドショコラに4年連続出店中。

 

前編テーマ:準備とスケジュール どんなお店をどこで開業?人は雇うべき?

谷本さん

開業場所や物件を決めたポイントは何ですか?探し始めてからどれくらいで開業できましたか?

前田さん

まず場所は、実家の長浜(滋賀)の近くが必須でした。出産を控えていたので、実家の母のサポートを得るためです。
物件は、静かな通りで探していました。集中して探していた期間は約5カ月間。帰省したタイミングで偶然ここが空いていたんです。イメージ通りの立地だったので、直ぐに商工会議所さんに相談し、開業支援をして頂いてここに決めました。4月に店舗を見つけて、7月に契約。すぐに着工してもらい、9月にはもうお店が完成していました。物件を見つけてから5カ月という準備期間は、短いと思います。

加藤さん

実家が岩手県で、場所については悩んだのですが、神戸で開業します。神戸での知人が増えたことと、家族の後押しもあり覚悟を決めました。4月から神戸市内を中心に探し始めて、6月に製菓関連の業者さんを通して今の物件に巡り会えました。元々パティスリーだった物件で、前オーナーがお店を閉めるタイミングでご紹介いただけたので、機材をそのまま譲り受けることができることも決め手になりました。自店での看板商品に育てたいバウムクーヘンを焼くための機械を購入し、それを設置するための必要工事期間を1週間としています。1月に店舗を引き渡してもらい、4月の開業を目指しているので、準備期間は約1年ですね。

花本さん

開業場所は私も悩みました。関西で約10年間修業をしてきたのですが、最終的には実家のある鳥取県境港市のパティスリー『ボヌール洋菓子店』で子育てをしながらパティシエールとして働いていました。夫は公務員なので、今の生活拠点を移すのがむずかしく、また、実家のパティスリーにも影響を与えないような地域という事を考慮して、隣町の米子市で土地から物件を探していました。探し始めて約3カ月後に、工務店さんがもともとジェラート専門店であった中古物件を紹介してくれました。店舗兼住宅、駐車場5台、大きな道路に面している等の探していた条件にピッタリだったので即決しました。その後、増築部分についての設計図作成が約2カ月間、工事期間が約3カ月間の予定でしたが、工事開始が遅れてしまっているので、実質準備期間は約1年です。

谷本さん

開業場所は地元で立地の良い場所を探しはじめ、約4カ月で今の物件に出会えました。物件を決めてからデザイナーさんとやりとりを始めたので、図面の完成が遅くなってしまい、工事の開始日が思っていたより遅れてしまいました。開業までの準備期間を短くしたいのであれば、そのあたりは視野に入れた方がいいですよね。

前田さん

お店の場所は偶然やご縁で決まることも多いですよね。広さはどれくらいですか?何人体制で営業する予定?

谷本さん

広さは厨房と店舗を合わせて17.5坪です。和歌山県という土地柄から多くの方が車移動で生活されているので、駐車場は必須だと考えていました。駐車場スペースが確保できる物件(2階建て)だったことが決め手になり購入しました。人員は姉に手伝ってもらうかアルバイトの方を雇うかでまだ悩んでいます。

加藤さん

うちは駐車場無しの19坪です。開店当初から人を雇える余裕があるのか不安なので、アドバイスを頂きたいです。

前田さん

販売さんは絶対雇った方がいいですよ。自分1人で作って売ろうと思われているなら、やめた方がいいと思います。うちではオープン以来8年間、ずっと同じ方が販売をしてくれています。

花本さん

私は悩みながらも、最初は1人で開業することも考えています。
私が住宅兼店舗にこだわったのは、3歳と2歳の子供が寝ている時間(できれば早朝4時からとか)に働きだしたかったんです。子供が起きる頃に一度家に戻って、保育園の準備を済ませてすぐにお店で開店準備をすることができたら、営業時間は販売もできるかなと思って。

前田さん

そんなに早くから毎日働いていたら、身体が持たない!! 私は9時から働いています。ケーキがメインのお店ではないので、10時のオープンまでに準備は整います。うちにも小学生と保育園児がいるので朝の忙しさはよくわかります。これから長く続けていくためにも無理しすぎないで、家族はもちろん販売員さんを雇って1人で抱え過ぎない方が良いと思いますよ。

谷本さん

スタッフの教育で苦労はなかったですか?

前田さん

初年度は、細かく仕事や想いを伝えながら慣れてもらいましたが、苦労はしていません。うちの販売さんは元々母の知り合いでお菓子が好きな働き者。2年前に会社を法人化したタイミングで、社員になってもらいました。
2年目からは何も言わなくても、全部任せっきりです。オンラインショップの商品の発送や、予約のチョコレートの箱詰めなどの段取りを組むことも全てやってもらえるので、製造に専念できてすごく助かっています。

chefno開業座談会

▲元々3人は同僚だった事もあり、座談会序盤から、質問が次から次へとあふれていました!

花本さん

法人化ですか。私たちにはまだ先の話ですが、どんなタイミングで法人化に踏み切ったのですか?

前田さん

税理士さんのアドバイスを受けて決断しました。1年、2年と売り上げがたってきたらわかりますが、個人事業主は、売り上げが上がれば上がるほど、所得税と住民税が高くなっていくんですよ。個人事業主は売上から仕入を引いた金額が自分のお給料という形になって、そこに税金がかかるんです。一方、法人はある程度税率が決まっています。税金の仕組みが違うんですよね。

花本さん

税理士さんはどのように探したんですか? お金のことは最初から税理士さんに依頼をしていましたか?

前田さん

お店の法人化をきっかけに、商工会議所さんに信用できる方を紹介していただきました。
開業してから税理士さんにお願いするまでの4年間、確定申告も全部自分でやっていたんです。皆さんにお勧めしたいのが、「クラウド会計」。最初の2年間はクラウド会計ではない、別のソフトで会計処理をしていて、すごく面倒でした。経費の支払いなどでインターネットバンキングやクレジットカードを利用することもあると思いますが、クラウド会計は金融機関の取引明細を取り込むだけで自動的に仕分けを行うことが可能です。お店のエアレジもクラウド会計に登録しておくだけで、全て連動して会計作業を行えるので、経理業務の効率化に繋がりますよ。

花本さん

経理面での業務が一番面倒な気がしています。お菓子だけ作っていたいのですが、独立となるとそうはいきませんよね。

加藤さん

決算だけを(税理士さんに)依頼しようか迷っていて。月額いくらでというお話があるのですが、その金額が妥当なのかもわからなくて。

前田さん

クラウド会計を導入していたら決算書も簡単に作れるので自分でできるかも。無料でお試しもできますし。こんな経理の話って皆さんわかりますか?

加藤さん

はい、簿記をやっていたので、仕分けの意味もわかります。

前田さん

それなら簡単にできると思いますよ。
とはいえ、ある程度の時間は取られるので、開店初年度からケーキをたくさん作って、どんどん売っていく計画なら、最初から税理士さんにお願いするというのも選択肢の一つです。やっぱり、税理士さんは税金のプロなので。自分で経理業務もすべて行っていた4年間は、節税の方法を何も知らなかったので、税理士さんにお願いしていれば良かったと今では思います。
あと、確定申告の手続き期間が、個人事業主だと2月16日から3月15日までなんです。バレンタイン後の1年でいちばん忙しい時期に確定申告業務に追われるのは、本当にしんどくて。法人化すると決算月を自分で決めることができるので、余裕をもって確定申告が行えます。
みなさんインボイス制度*については知っていますか?

【インボイス制度】2023年10月1日に開始された消費税の仕入税額控除方式のうちの一つ。企業活動でやり取りされる代金のうち、消費税がいくら含まれているかを書類上で明らかにし、正確な消費税を納めることができるように考えられた方式。消費税を納める企業として決められた対応が取れないと、納める税額が増えてしまい損をすることも。

谷本さん

最近はTVのCMなどでもよく耳にするので制度については知っていますが、事業者としてのどう対応するべきかは詳しくありません。

前田さん

開業する個人事業主は、前年(課税期間の基準期間)の売り上げがないことから、開業から2年間は免税事業者*となり、消費者から預かっている形になっている消費税を国に納めなくてよいという制度があります。しかし、10月から始まったインボイス制度導入後は、企業が消費者から預かっている消費税を正確に納めるためには、基準を満たした請求書や領収書(インボイス)が必要になりました。
消費税は、そもそも消費者から預かって事業者が国に払う制度なので、本来は、預かった消費税から仕入に払った消費税を引いた残りの消費税を私たちお店側が国に納めるんですよ。お店が課税者登録をしていなくて、正確な領収書が出せないと経費とみなされない会社の方も出てくると思うので、皆さんはどうされるのかなと思ったんです。

【免税事業者】消費税の納税義務(確定申告と納税)が免除されている事業者のこと。 反対に、消費税の申告納税義務がある事業者のことを「課税事業者」と呼ぶ。免税事業者は、前々年の売上が1000万円以下で、消費税を納めなくていい事業者を指す。

花本さん

経費で落とせないお店では買わないでおこうというお客さんもいるとは思いますが、初めは個人事業主として開業予定です。どのような制度を利用するのが自分に合っているかを確認する意味でも、商工会議所さんに相談をして困ったときにアドバイスしてもらえる関係性を築いておくことは大事だなと思いました。

前田さん

今の段階で苦労していることは?

花本さん

10月オープン予定だったのですが、店舗工事の着工が遅れて12月オープンになりました。加えて、引っ越しが伴うので、保育園の空きがなくて本当に困っています。保育園がこのまま見つからなければさらにオープンは延期しないといけなくなるかも...

加藤さん

何もかもです。物件は決まりましたけど、デザイナーさんを決めたり、見積もりを取ったり、役所に提出する書類を作ったり。お菓子の試作もしたいのに、そのほかの膨大な仕事に追われています。休日や仕事の合間だけでは時間が足りなくて。

前田さん

くじけそうにはならない?

加藤さん

オープンしてからはもっと大変だと思うので、今は前向きに考えるように意識しています。今悩んでいる事のひとつに、お店のロゴやシールのデザイン、HPなんかのデザインがあるのですが、デザイナーさんはどうやって見つけられたのですか?

前田さん

今のホームページは知り合いに紹介してもらったデザイナーさんに作り直してもらったんですけど、最初は自作のホームページで運営していました。お店のロゴもイラストレーターというデザインソフトを使って自分で作りました。

加藤さん

すごすぎます!どこで覚えたんですか?

ボンボンショコラ

▲化粧箱や鮮やかなブルーの缶の中央に配置されたネコのロゴもデザインソフトを使って作ったそう

前田さん

開業前に3ヶ月間ウェブデザインの学校に通ったんです。そこでアドビのデザインソフトのイラストレーター、フォトショップ、ドリームウィーバーの最低限の知識を身に着けました。ポスターやチラシ、新商品の販促物をその都度、デザイナーさんに頼む費用を省きたいなと思って。イメージ画像はオンラインで購入しています。それをイラストレーターで配置して文字をいれるくらいなら、案外自分でできますよ。
ソフトの使用料はトータルで月額6500円位*ですが、その価値はあります。オンラインショップに商品を上げる時にも、自分で写真を撮ってフォトショップで画像調整して、サイトにあげています。

※ソフト単品であれば月額1078円(フォトプラン20GB)から利用が可能(2023年11月現在)
アドビホームページ:https://www.adobe.com/jp/

谷本さん

せっかくの自分のお店だから、デザイナーさんを雇ってかっこよくしたいとは思わなかったんですか?

前田さん

お金がなかったので、自分でできる所は自分でという考えでした。「そんな開業資金でよくできたね」ってよく言われました。お店が軌道にのってからホームページをリニューアルするときにデザイナーさんに頼みました。

加藤さん

ホームページの制作費はどれくらいかかりましたか?他にデザイナーさんに依頼したものはありますか?

前田さん

知り合いを通じて安くなりましたが、普通に頼むと30~100万くらいはすると思います。HPの制作費も補助金を利用できることがあるみたいですよ。
補助金っていろんな費用に使えるので、商工会議所さんに相談してみるのがいいと思います。自治体によって補助金や助成金制度が設けられているはずなので。他に依頼したのは、オンラインショップとパンフレットです。

ボンボンショコラ

▲ボンボンショコラのパンフレット

加藤さん

開業資金について教えてもらえますか?

前田さん

わたしの場合は政策金融公庫さんで600万円借りて、改装費が350万位でした。機材は全部中古で揃えたのですが、オーブンが50万、ミキサーは未使用の新古品で25万、急速冷凍が18万、冷蔵庫が2台で24万位です。今もまだ全部使えているので私には十分でした。あとから導入したのは、リバースシーターとエンローバーです。

花本さん

お店づくりや厨房設計で注意しておくことはありますか?

前田さん

急速冷凍機の設置場所ですかね。熱の逃げ場を考えないと厨房全体が暑くなるんですよ。一番の悩みの種です。ここは元々築100年くらいの古民家で、壁に断熱材が入っていません。冬場の室温は10度以下で、夏場は暑すぎます。機械の故障が怖いので、クーラーはずっとつけっぱなし。熱を出す急速冷凍機とオーブンの設置場所は厨房が狭いなら特に考えた方がいいですね。

前編はここまで。
『自分のお菓子を作り続けたい!』そんな想いを持って開業に踏み出そうとしている方々の背中を押せればと思って企画した座談会。

後編ではオンラインショップの運営やオリジナル包材のオーダーについてのお話です。 お楽しみに!

chefno開業座談会

▲包材について質問中。8年間お店をされているシェフの言葉にはすべて説得力が。

●取材協力

ボンボンショコラ


le bonbon et chocolat(ボンボンショコラ)
住所:滋賀県長浜市元浜町18-22
営業時間:11:00~17:00
定休日:水・木
公式ホームページ:https://le-bonbon-et-chocolat.com/
公式インスタグラム:www.instagram.com/le_bonbon_et_chocolat/

 

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chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
製菓業界に足を踏み入れて早20数年。読者目線の企画運営が目標です! 食べることと旅行が大好きな1児の母。サンマルク、カイザーゼンメルが大好きです♡
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