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2022.06.27

「ぎんざ 空也」(銀座)もなかの中に入った餡子の奇跡と、未来へ進化し続ける餡子の美味しさとは?

銀座の老舗和菓子店「空也(くうや)」。東京の中でも数多くある老舗の中でも、お菓子において日本の名遺産とも呼べる「空也もなか」は、現在も予約でしか買えない日もあるほどの人気ぶりです。ひと口食べて感じる、最中の香ばしい香り、口の中で広がる餡の旨味とコクは、老若男女問わず長く愛され続けています。

そんな老舗を引っ張り、「餡」の魅力を若い人へ、そして日本中へ、はたまた世界へとつないでいくのが5代目の山口彦之さん。時にはDJ「アンコマン」として活躍し、時には異業種コラボで「餡子」の新たな美味しさを引き出していく。そんな山口さんへ、「餡」が持つ魅力とこれからの可能性について、ufu.編集長である坂井が取材させていただきました。

 

餡子×スパイス、餡子×チョコレート。5代目が開く、新しい「餡子」の引き出し

今回取材をさせていただいた「空也」5代目の山口さん。1979年生まれで、サラリーマンを経て「空也」に入社し、2011年には「空いろ」をスタート。「空いろ」では、歴史と伝統を引き継ぐ「空也」とは違い、山口さん自身が発信機となり、ゼロからスタートをさせたお店。新しい感覚を持って、より餡子の魅力や美味しさを世の中に広げています。

そんな「空いろ」では、昨今お菓子界でも話題になるようなプロジェクトが続々と。22年となる今年のバレンタインデーは、世界大会を優勝し今もっとも勢いのある瀧島誠士シェフ率いるSeisteとのコラボレーションも話題になりました。また山口さん個人での取り組みとしては2021年の冬に東京・自由が丘のスパイス専門店「香辛堂」との驚きのコラボレーションが実現し、「スパイスあんこ」を発売。

坂井「昨年はスパイス専門店、そして今年のバレンタインデーではショコラトリーであるSeisteとのコラボレーションなど、和菓子とは違う分野の方々とコラボをされています。『餡子』とは全く別のジャンルとの組み合わせで商品を開発する理由は、どんなところにあるのでしょうか?」

山口さん「まず取りわけ和菓子という、この世界自体が昔から型にはまった世界のままであることへの危機感が大前提としてあります。柔軟な発想で和菓子のことを、そしてその未来のことを考えることが必要だと思っています。“餡子や和菓子の魅力を多くの人に知ってもらいたい”その想いが強くて、その一環が『空いろ』です。『香辛堂』さんとのお取組みもそうですが、分野が違っていても“面白い”と思えることはどんどんやっていきたいです。

坂井「『香辛堂』とのコラボレーションは、どういった経緯で話が進みましたか?」

山口さん「スパイスあんこに関していうと、実は『香辛堂』さんが餡子があまり得意じゃないそうなんです(笑)。得意じゃないものを、どう美味しく変化させるかというのが凄く興味深くて。“スパイスとあんこ”は一度挑戦してみたい領域でした。ただ、和菓子もそうですが、スパイスという分野は“容易く足を踏み入れられないな”という考えもあり。そこでスパイスの世界においてメインストリームで活躍している方にお声がけをいただき、初めてスパイスの世界へ挑戦することができました。」

 

代々続く「空也」の餡子が持つ美味しさと可能性

坂井「他メディアのインタビューでは『餡子が命』と拝読しました。『餡子』が持つ美味しさと、その可能性を引き出したいと感じたきっかけを教えてください。なぜ『餡子』なのでしょうか?」

山口さん「餡子は、幼少期から身近なものだったので、特別な何かというわけではありませんでした。小さいころから、ケーキ屋にも行きましたし、チョコレートも食べましたが実家が和菓子屋ということもあり、他のお店の和菓子を食べたことがなかったんです。そして社会人になり、お菓子のことを勉強したいと思って製菓の専門学校へ。そこで学校で習う餡や同級生の仲間の店のお菓子を食べて、小さいころから食べてきたものとの違いを感じました。

“うちの餡子って、美味しいんじゃなかろうか”というのを再認識しました。それほど、餡子が違いを生むと思ったんです。

坂井「製菓の専門学校を卒業されていたんですね。イメージとしては、山口さんは、代々続くやり方を学ぶのかと思っていました。」

山口さん「たしかに、専門学校で教えてもらうものと家で教えてもらうものでは違いました。逆に、『空也』が伝統的にやっているアナログな作業もすごく大事なんだと、そこで気づくきっかけにもなりました。

それに、うちは代々経営に専念しお菓子の勉強をしてこなかったんですよ(笑)」

 

「継がせたくない」と言われてしまう和菓子の世界を変えたい

坂井「『DJアンコマン』としても活躍されるなど、餡子という枠組みだけではなく、和菓子を広めようという意図も感じられました。今山口さんが感じている和菓子業界の課題感やこれからもっと、よりよくしていこうと思われていることがあれば教えてください。」

山口さん「一番最初にお伝えした通り、和菓子の世界は固定概念に縛られていて、チャレンジがしづらい土壌でした。ここ5年ぐらいで、色々なお店がサブブランドをかまえて、洋菓子とコラボレーションしたり、頭が堅い世界が急激に変わってきています

“ネオ和菓子” そういったカテゴライズがされるお店も増えていて、この先の和菓子界にとっては、いい傾向だと思いました。10年前、『空いろ』を立ち上げた時は、新しいことをやっている和菓子屋さんはなく、それがうちのような小さな店が新しいことをやったので波風が立ったんです。そこで一石を投じた格好になったことが、今の和菓子業界に大きな変化のきっかけに少しはなったのではないかなと思っています。

ただ現状として、和菓子の消費量自体は上がっていないですし、ここ10年ですと和菓子屋自体がすごく減っています。まだまだ若い人へのアプローチも足りていないと思っています。どうしても菓子屋の親からすると『継がせたくない仕事』にもなりつつあります。“こんな大変な思いをして、子どもたちにやらせたくない”みたいな話はよく聞きますし、それがとっても残念で。

和菓子でも“もっとこんな面白いことできるじゃん”“こんな商品だってできるじゃん”そんなことを伝えていきたいと思っています。例えばDJに関しては、そこだけ切り取ると、そのイメージがいい・悪いという部分もありますが、私の思っている“もっと和菓子をより身近に感じて欲しい”という部分はブレていないつもりです。DJをきっかけに、和菓子に興味を持ってもらえれば嬉しいですし、形が違っても“こんな楽しみ方ができる”という提案になればと思っています。」

坂井「そんな想いが隠されていたんですね。先ほどお話に出ました、『空いろ』を立ち上げた当時、波風が立ったとおっしゃっていましたが色々とご苦労もあったのでしょうか?」

山口さん「メディアに多く取り上げて頂き、密着してドキュメンタリー番組として放送をされたんです。うちの場合『新しいことをやる息子、それに反対する父』みたいな切り取り方をされてしまい。『空いろ』の取り組みについても、長年通ってくださっているお客様からもお叱りを受けることもありました。」

坂井「DJは、もともと音楽がお好きだったなどございますか?」

山口さん「実は大学のときに就職したい唯一の仕事が、FMラジオ局だったんです(笑)。音源もレンタルで済ませず、買うタイプです。今度『松屋銀座』で5月20日、ターンテーブルを回して、イベントをやるのでぜひ来てください。」

 

いい形で、世界へ。餡子の魅力の発信をしたい

坂井「コロナ禍で海外の観光客も減ってしまった中で、『メイドインジャパン』の食品として「餡子」の魅力はその一つだと思っています。山口さんが餡子の魅力を海外の方に向けて、今後発信したいこと、また餡子ひいては和菓子の文化をどう伝えていこうと思われているか、もしお考えがあれば教えてください。

山口さん「“餡子を世界に”は今までずっと、言い続けています。ただ言い続けていく中で自分たちだけだと、外に発信するのは難しい部分があります。細かい話で言うと、税関をこえる大変さもあります。

海外の方からすると、餡子は外から来る未知なるものです。外のものを簡単に認めてもらうのも難しいですし、とにかく“自分たちが持っていくんだ”ということだけでは難しいというのも痛感しました。きっといい形で、貿易会社さんなのかはわかりませんが、協力して世界へ発信ができるいいタイミングがあるんじゃないかと思っています。

日本にあるお菓子、餡子をそのまま世界へ持っていき食べてもらっても、簡単には受け入れられないと思うので、その国や地域に根づいている食材や何かと組み合わせたり、現地風にアレンジするといいのではないかなと思っています。」

餡子だけではなく、和菓子と人とが結びつき合うような熱い取り組みをしている山口さん。取材の時も親切にしていただき、銀座の街や街全体の取り組みを教えていただき、また今も健在な老舗のお店を連れて行って紹介してくださいました。銀座という街を愛するからこそ、和菓子を愛するからこそ、エネルギッシュに行動する山口さんの心に突き動かされました。ぜひ一度「空也」の最中、そして餡子の美味しさを見つめてみてもらえたら。

 

●About Shop
空也
東京都中央区銀座 6-7-19
営業時間:10:00~17:00(土曜日のみ16:00まで)
定休日:日・祝日

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