2025年6月4日(水)・5日(木)、大阪・関西万博会場「EXPOメッセ(WASSE)」にて、パン業界の最前線を体感できる一大イベント「ベーカリー・エキスポ・ジャパン」が開催されました。今回は、パンの焼ける香ばしい香りが立ち込めた熱気あふれる2日間のイベントの潜入レポート記事です。
目次
パンの可能性を伝える一大イベント
「ベーカリー・エキスポ・ジャパン」は、製パン技術の世界一を競う国際コンクール「ベスト・オブ・モンディアル・デュ・パン」をはじめ、世界各国のトップブーランジェによるパン文化の体験を通じて、「パンの未来」や「パンの持つ可能性」を来場者に伝えることを目的としたイベントです。
会場のマップはこちら。

▲ベーカリーエキスポジャパン会場マップ(※当日配布パンフレットより抜粋)
パンはもちろん、ワインやスペシャルティコーヒー、日本料理人とのコラボによる創作パンなど、多彩なコンテンツが展開され、パンの楽しみ方を広げる新しい提案が各ブースで発信されていました。来場者はそれぞれのブースを巡りながら、新たな味覚体験を楽しんでいました。
会場では取材に訪れたテレビクルーも多数見かけ、イベントに対する注目の高さがうかがえます。

▲テレビ局の取材を受けるレ・アンバサドゥール・デュ・パン創設者のひとりである ティエリー・ムニエ氏と同協会日本支部 理事長の安倍竜三シェフ(ブーランジュリーパリゴ)
デモンストレーションブースで職人技を間近に
会場内でもひときわ注目を集めていたのが、国内外のブーランジェによるデモンストレーションブース。全国から集まったパン職人や海外のシェフが力を合わせてパン作りを披露し、普段はなかなか見られない製造工程を間近で見ることができるとあって、来場者たちは興味津々。焼きたてのパンはその場で購入が可能で、ピーク時にはなんと最大5時間待ちとなるほどの盛況ぶりでした。

▲開場直後から列ができ、2日間共に列が途切れることはありませんでした。
イベントに参加した職人の1人は、
「普段はなかなか接点のないパン職人たちと出会い、製法や素材への考え方を語り合える貴重な機会となりました。経験の浅い職人たちにとっても、非常に有意義な時間だったと思います。 M.O.F. のシェフをはじめ、海外の素晴らしい職人たちと一緒にパン作りができたことは、本当に貴重な経験でした。また、レ・アンバサドゥール・デュ・パンの理事のみなさんと過ごした数日間も、忘れられない時間になりました」と話してくれました。
来場者だけでなく、参加した職人たちにとっても実り多いイベントとなったことがよく分かります。

▲フランス 人M.O.F. (国家最優秀職人章)のシェフの作業場面も間近で見ることもできました。
また、ヨーロッパやアジア、南米など、世界各国のパン文化を体験できるブースも多数出展。異なる国や地域のパンを食べ比べることで、パンという食文化の多様性と奥深さを実感できました。
「シェフズテーブル」が示した、パンの未来
今回の目玉企画のひとつが「シェフズテーブル」。日本を代表するブーランジェと気鋭の若手シェフが3人1組のチームを組み、前菜・メイン・デザートのいずれかを担当。「食事パン」をテーマに、この2日間だけの特別なメニューが提供されました。

▲会場の一角に設けられた特設スペースでは、来場者が一皿一皿を丁寧に味わっていました。
3チームのそれぞれのメニュー構成は以下のとおり
①
【前菜】 佐藤シェフ(アシェンテ)
Pain&Legumesラタトゥイユと生ハムのタルティーヌ/宮崎完熟マンゴーとリコッタの北野かおりブリオッシュ/日向夏とクリームチーズのフェンネル・セモリナパン/季節のサラダ添え
【メイン】 毎川シェフ(レサンシエル)
湯種のパンドミとポークカツレツ~2種のオレンジソースで~
【デザート】 岸本シェフ(ブーランジェリー キシモト)
ブリオッシュフォレノワール~フランボワーズの香りと共に~
②
【前菜】 割田シェフ(ビーバーブレッド)
6種の味と香りのパンと素材のマリアージュ
【メイン】 西川シェフ(サ・マーシュ)
国産小麦きたのかおりの雑穀パンに甘夏風味の照り焼きチキン スープ仕立てのオーツミルクリゾット
【デザート】 栗原シェフ(パン工房ぐるぐる )
ラベンダー風味のカリカリクロワッサン~5種のクリームとソースの味わい~
③
【前菜】安倍シェフ(ブーランジュリーパリゴ)
キタノカオリのパンオルヴァンと春よ恋のリュスティックのシーザーサラダ
【メイン】 大村シェフ(ワンダラスト)
フォカッチャロマーナ若鶏とブッラータ バジルとトマトのコンフィ~イタリアの風に吹かれて~
【デザート】 伊原シェフ(バックシュトゥーベ ツオップ)
国内産小麦きたほなみのパンデピス~スパイスの誘惑~

▲参加者に料理の説明をする西川シェフ
創造性に富んだ料理を万博会場で味わえるという唯一無二のイベントは予約開始数分で全席完売になったそうです。
この企画でメインを担当したサマーシュ西川功晃シェフに話を伺ったところ、「シェフズテーブル」は“未来のパン屋の在り方”と強い想いを持っていました。
西川シェフ
「パン職人が料理の知識も身につけ、パンと料理のペアリングを提案する。この“未来のパン屋”のスタイルを発信したかったんです。菓子パンや惣菜パンにとどまらず、パン屋さんが“食事パン”を提案することによって、土台となるパンがより日常に根付いていくことを願っています」

▲西川シェフのメイン。料理とパンのペアリングを通して「未来のパン屋さんのスタイル」を体現。

▲チーム一丸となって料理を仕上げていく姿も印象的でした(写真左:割田シェフ 写真右:西川シェフ)
この企画を通じて、多くの来場者がパンの新たな可能性に触れ、その奥深さと幅の広さを実感する機会となりました。こうした試みは、今後もさまざまな形で継続されていくことでしょう。
パンとチーズの共演―ギルド・クラブ・ジャポンが届けたチーズ文化の体験
今回のイベントをさらに盛り上げていたのが、「ギルド・クラブ・ジャポン」。
同クラブは、フランスにある本部「ギルド・アンテルナショナル・デ・フロマジェ コンフレリー・ド・サン・テュギュゾン協会」の日本支部として、2018年に設立されました。
チーズの製造や流通・販売に携わる専門職をはじめ、愛好家やレストラン経営者など多彩なメンバーで構成される、いわば“チーズのプロフェッショナル集団”です。
ブースでは、販売用のラクレットチーズが温められており、会場内には終始、チーズとパンの良い香りが漂っていました。
イベント期間中、ギルド・クラブ・ジャポンによるさまざまな企画が来場者を魅了しました。
まず6月4日には、新たにメンバーに加わるチーズのプロフェッショナルたちが正式に迎え入れられる叙任式が開催されました。ベーカリーエキスポでのブース出展を契機に、今回初めてレ・アンバサドゥール・デュ・パン・デュ・ジャポンとのコラボレーションのもと、万博会場での開催が実現されました。

▲叙任式の様子。中央がフランス本部会長のロラン・バルテレミー氏
また、「シェフズテーブル」のコースのひとつとして、フランス人M.O.F.ブーランジェのパトリック・フェラン氏が手がけたパンと、パリに店舗を構えるフロマジュリーヒサダの久田早苗氏が熟成したチーズのペアリングが提供されました。

▲今回のペアリングに出されたチーズ3種。来場者は配布された資料とともにチーズの知識を深めていました
熟成・厳選した最高の状態のチーズと、パンの組み合わせを紹介し、来場者はパンとチーズのマリアージュを通じて、味覚の新たな発見を楽しんでいました。
2日目のパンの世界大会ベスト・オブ・モンディアル・デュ・パンの競技時間中には、チーズカットの披露も行われました。使われたのはコンテチーズの製法に準じて作られた日本製の約40kgのホールチーズ。専用のワイヤーでスムーズにカットする職人技が披露されました。見た目は硬そうでも、滑らかに切れていく様子に、多くの来場者が釘付けになっていました。
今後はチーズのファンをさらに増やすべく、このようなコラボレーションの機会を増やしていきたいというお話を伺い、今後の活動がますます楽しみになりました。
世界最高峰の製パン技術が集結「ベスト・オブ・モンディアル・デュ・パン」
そして何といっても本イベントの最大の目玉は、国際ブーランジェコンクール「第5回 ベスト・オブ・モンディアル・デュ・パン」です。これは、2023年にフランスで開催された「第9回 モンディアル・デュ・パン」の上位6カ国が再びフランス以外の国に集い、熱戦を繰り広げる世界一のパン職人の座を競う大会です。今回の出場国は、中国、フランス、台湾、日本、韓国、ベルギー。6カ国中4カ国がアジア勢という顔ぶれからも、パン文化がヨーロッパにとどまらず、アジア地域でも発展し、その技術が評価されていることがうかがえます。
初日の6月4日には開会式と前日競技が行われ、翌5日には本戦として、パンの焼き上げや芸術的な飾りパンの製作が展開されました。審査は世界各国から集まった審査員 によって厳正に行われ、観客は普段なかなか目にすることができない世界大会の緊張感と熱気を間近で体感することができました。
パンの技術を競う世界大会は他にもありますが、この大会の特徴は、選手(25歳以上)、若手選手(22歳以下)、そしてコーチの3名で構成されるチーム戦であることです。審査するパンのジャンルも、日常食べるパン(ここではバゲットと呼ばれるフランスパン)、健康と栄養を意識したパン、ヴィエノワズリー、大型の飾りパンなど、複数のジャンルで技術を競い合います。まさにパンの総合芸術とも言える競技内容に、来場者からは感嘆の声が上がっていました。

▲最高レベルの技術が注ぎ込まれて生み出されたパンは、圧巻の出来栄え
本大会の詳細なレポートは別記事で公開中です。さらなる舞台裏を知りたい方はぜひチェックしてみてください。
パン文化の未来を感じる2日間
「ベーカリー・エキスポ・ジャパン 2025」は、単なる展示会や販売イベントではなく、これまでになかったパン食の体験、そしてパン食の未来を体感できる場だったと言えます。世界の最高レベルの職人技術が集結する競技、創造性あふれる料理、そして職人たちの情熱が交差する空間は、来場者にとって忘れがたい体験となったに違いありません。
今後もこうしたイベントを通じて、パンの魅力がさらに広がるとともに、職人たちの技が次世代へと受け継がれ、一般の人々の暮らしの中にも、より一層パン食が根づいていくことを期待しています。
●取材協力
レ・アンバサドゥール・デュ・パン・デュ・ジャポン
公式サイト:https://www.ambassadeursdupain.jp
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/lesambassadeursdupaindujapon/