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2024.01.09

インタビュー 老舗和菓子屋からパン屋へ パティシエ出身シェフが作る美しいパン ル・シュプレーム 渡辺 和宏

ル・シュプレーム オーナーシェフ
渡辺和弘(わたなべかずひろ)
祖父の代から続く和菓子店を継ぎ、パン屋としてフランスパンのLe Supreme.(ル・シュプレーム)を2007年に開業。その後、名古屋の百貨店に支店を出し、3店舗目を2021年にドイツパンのGerman Sup/ex.(ジャーマンスープレックス)を開業。

 

自らハードルを上げることでその名に恥じぬ店に


名古屋駅から電車で1 駅の所にある栄生(さこう)駅から徒歩3分ほど歩いた場所にル・シュプレーム(LeSupreme .)はある。ヨーロッパの街角に佇むブーランジェリーのような外観、ガラス張りのドアを開けた瞬間飛び込んでくる所狭しと並んだパンが印象的だ。
美しく統一された木造のカウンターには約80種類のパンが毎日並ぶ。名古屋市内に系列店を3店舗構えるほどの人気店で、地元の方が毎日パンを求めてやってくる。もともとこの土地にあったのはオーナー渡辺和宏さんの祖父の代から続く和菓子屋で、そこを改装し、2007年ル・シュプレームを開業。フランス語で最高、極上という意味のシュプレームを店名に加え、最高という店名は御来店されたお客様に対し全力でパンに向き合って行きたいという気持ちを表現したものだ。店名は変えたものの、会社名は祖父の代から続く株式会社梅花堂キャンデーストアーとそのまま残した。今もお店の隣のパン工房の扉には、その名前が刻まれている。


渡辺さんの祖父はとてもバイタリティに溢れた人物で勉強熱心だった。和菓子屋の看板を掲げながらも、屋上でビアガーデンや喫茶をしてみたり、バームクーヘンを焼いてみたり、時にはパンの勉強をしてパンを焼くこともあった。渡辺さんとしては、和菓子屋からパン屋に変えたというよりも、祖父の姿を見て育つうちに、多くの商品の中からパンという道を究めたという気持ちだった。

幼少期から、両親、祖父母の姿を見て育った渡辺さん。絵を描くことやデザインすることに興味があったものの、家族で経営する和菓子屋を継ぐことが両親や祖父母の想いを大切にし、喜ばせる方法だと感じて、進路を決める際にはパティシエとして進学することにした。
就職先は、修業もかねて東京の有名ホテルへ。パティシエとして入社したものの、ベーカリー部門の人手が足らず、一時手伝う形でベーカリーの仕事を任されることとなった。当時の渡辺さんは祖父の影響もあってか、ベーカリーの知識が身につくならパティシエとしても更に自分の強みになると思い引き受けた。ある程度ベーカリーの知識を身につけたらパティシエに戻ろうと思っていたが、逆にその魅力に引き込まれてしまったという。祖父から受け継いだその探求心は、ベーカリーへの炎を燃やすこととなった。

今でも時折、パティシエの知識を活かして、ケーキも作ってみたくなるという。そんな渡辺さんの作るパンは、ケーキのように美しいものばかり。時にはパティシエの技法を使ってパンを作ることもあるのだそう。日々研究のために、パンと同じくらいケーキも食べ歩いているというのも頷ける。

五感をフル活用する仕事 苦労の連続だった


ホテルで修行して5年ほど経った25歳の頃、渡辺さんは独立を意識しはじめ恵比寿のリテイルベーカリーで修業をすることにした。ホテルもリテイルもどちらも大変だったが、時間の感覚や流れが大きく違ったという。また、リテイルではパンを焼くオーブンのすぐ隣に、お客様の姿が見えることがホテルとの一番の違いだった。ホテルでは時間通りに淡々とパンを焼き上げていたが、リテイルではお客様の反応を直に目にすることができる。勉強にもなったが、難しいところでもあった。

また、少しの生地の変化や匂い、気づきが大事で昨日と違うなと思ったら仮説を立て、先回りをしながら、製品がぶれないように管理する。こうやって五感を早朝からフル活用しながら、働かなければならない仕事だと改めて認識した。

恵比寿のベーカリーでは、チーフを任されるまでになったが、専門学校ではパティシエの勉強しかしてこなかった。独立前にベーカリーの理論や知識を身につけたいと思い、5年続けたリテイルベーカリーを退職後、渡辺さんは専門学校の講師の助手として働き始めた。専門学校で助手として働きながら、自らもパンと向き合い学んだという。パン作りにおいての理論を基礎から学ぶ他、人を雇い、人に教えるというところでも学ぶことが多かったと渡辺さんは語る。

2021年に新店舗 ジャーマンスープレックス開店

2007年名古屋に戻った渡辺さんは、そこから地元の和菓子屋を改装し、ル・シュプレームを開業。じわじわと人気店となっていった。いつも頭の片隅にあるのはお客様の期待を良い意味で裏切ること。期待を裏切られると、驚きが生まれる。人は驚くと印象に残り、記憶に刻まれる。そんな商品や店作りをしたいと語る渡辺さん。こだわりを持たず、柔軟に小麦粉や、製法を使い分け、一番おいしい形で商品を届けたいと考え日々厨房に立つ。

その思いが実り、有名百貨店にも支店を構え、地元の方から愛されるパン屋になった。2021年には、とある縁からジャーマンスープレックス(German Sup/ex .)をオープンさせることとなった。店名は〝ル・シュプレームのドイツ風〟という意味を乗せた造語。渡辺さんは、修行時代からドイツパンが好きで試行錯誤を重ねてきた。ライ麦パンの持つ独特の酸味、旨味や、そのパンの持つデトックス効果、低GIの商品価値はこれからの市場やニーズに合致するパンだと思いコンセプトとして取り入れたそう。また、ル・シュプレームで小麦主体のパンを提供し、ジャーマンスープレックスではライ麦主体のパンを提供することで、造り手も幅広く学べる環境作りを考え開業したとのことだ。


左から

あんぱん 190円
お店が売れなかった時期にメディアに紹介してもらい火が付いた商品。和菓子屋で作っていたあんこを採用しています。国産の小豆から自家製したあんこがぎっしりパンに詰まっています。甘さ控えめで女性に大人気です。

クロワッサンアンヴェルセ 250円
秋冬限定商品。逆折(サカオリ)という、洋菓子に使う製法で作っており、生地をバターで包んで、伸ばして折っています。普通のクロワッサンと違い、繊細な層で食感が軽く、芳醇なバターの風味が香ります。

青唐辛子のフーガス 320円
ライ麦が10%入ったフランスパンの生地に、青唐辛子とゴーダチーズを包んで葉っぱのカタチにして焼きました。青唐辛子の辛みをゴーダチーズが包んでマイルドにしています。病みつきになる一品です。

ネギ味噌ベーコン 290円
名古屋の名産を使ったパンを作りたいと考案した商品。ベーコンに名古屋名物八丁味噌を合わせて、ネギをのせて焼いたパンです。

栗とフランボワ 370円
縦に割ると洋菓子のような構造になっており、上にフランボアのジャムその下にモンブランクリーム、その下にアーモンドクリームを入れて焼いています。全部口に入れるとすべての食材口の中で混ざり合うのが特徴です。

 

【渡辺さんに聞いた】人材育成の大切さ


昨今、特に働き方や労働環境の見直しがオーナーの課題だと感じています。インターネットが発達した今、情報があふれ、地方のお店のレベルもどんどん上がっています。そんな中、自分の店の扉をたたく従業員には良い環境で修業してほしいと思っています。その人の人生を預かるという意識で接し、従業員に対して、自分を高める場所を提供できるよう努力をしています。

人材育成として、専門学校で講師の助手として働いていた経験から、できるだけ個人の能力を考え、ひとりひとりに合わせた成長の計画を立てています。もちろん学校とは違うので、どうしても忙しい時期や人がいない時期など、労働時間が長くなってしまいます。そういったところはまだまだ課題を感じていますが、多くの従業員を抱えながら、年に一回は僕自身が従業員と個人面談をして、できるだけ従業員に寄り添うようにしています。

また、従業員にはコンテストなど積極的に参加するよう勧めています。僕自身も、今よりお店が繁盛していなかった頃、時間もあったのでコンテストに参加して自分の力量を試していた時期がありました。大体のコンテストは、使う材料の制限や、テーマがあることが多いので、その材料を勉強するきっかけにもなりましたし、材料を知れば、作るパンの幅も広がります。さらに、コンクール先で仲間ができ、情報交換の場にもなりました。参加することで勉強になり、その内にどんどんコンテストで賞をとれるようにもなりました。その頃は、もちろん賞を取ることも意識していましたが、お店でも商品化できるようなものを作っていました。コンテストに出て、今の力量を計ると同時にそれ以上の得るものがあったと思います。
そういった僕自身の経験から従業員にも積極的に参加してもらいたいと思っています。

新店舗は従業員のため。次の新たな挑戦


2021年、本店から3駅ほど先の「神宮前駅」に3店舗目をオープンさせました。元々あった本店、百貨店内に構えた系列店、そして新店。百貨店の店舗は新店と本店の2つの店舗の真ん中にあり、製造もその2店舗で行っています。ご縁があって、声をかけていただいたことが開店のきっかけでしたが、そこはモノづくりと同じで、自分が作りたいものを突き詰めたいという思いがありました。また、百貨店の店舗での売り上げが伸び、パンを作っていた本店で機械も人もフル稼働になっていたのを緩和する意味もありました。ドイツパンというコンセプトで商品を作り、スタッフもローテーションすれば、いろんな種類のパンを作る経験をさせてあげられるのではないかと思い、ジャーマンスープレックスと店名を変えオープンしました。店名を変えたことで、お客様からの認知度はまだ低いのですが、ル・シュプレームを立ち上げた頃のようにやっていけたらと思っています。

常に10年先の自分がどうなっていたいのか、今できることを考えていますが、今後の目標は自分が最期までパン作りを続けられる店を守っていきたいという思いがあります。そのためにまずは、祖父の代から続く店の建て替えなども視野に入れて、ル・シュプレームがさらにお客様から愛されるお店になるように、パンを作り続けたいと思っています。


SHOP DATA
ル・シュプレーム

●所在地:愛知県名古屋市中村区栄生町7-8
●立地:名鉄名古屋本線「栄生駅」から徒歩3分
●開業年:2007年
●定休日:月・火曜日
●従業員:13人(販売4人・製造7人・製造補助2人)
●営業面積:31.5坪(売場7.5坪・厨房24坪)
●日商:平日25万円/ 休日40万円
●オーブン台数:2台
●ミキサー台数:2台
●パンの種類:70種類(生地15種類)


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ベーカリーパートナー編集部
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