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2024.02.08

パン×地産地消 パン屋が始める地産地消 地域や食の未来を考える

パン屋さんの取材をしていると、こだわりの素材や地域のものを活用したパンづくりをしているパン屋さんの話を聞くことがあります。今回は特に地産地消を意識しているパン屋さんの3つの実例を紹介します。ぜひ食の未来や地域とのつながりを考えるときの参考にしてみてください。

名産品の干しいもを使ったシュトレン、海外での知見を地元茨城に還元

ラ・メゾン・デュ・パン・クリハラのオーナーシェフの栗原淳平さんに話を伺いました。


ラ・メゾン・デュ・パン・クリハラ
オーナーシェフ 栗原 淳平さん


地元茨城出身者でつくりあげたお店づくり、
茨城県産のもので作った商品を展開しています。

Point1
茨城県産の素材を使い、地元のものを美味しく食べてもらうことを大切にしている

Point2
茨城県出身者の建材や家具、デザイン、絵画で空間づくり

Point3
海外で得た知見を地元茨城に還元

地元茨城県に還元するお店

ラ・メゾン・デュ・パン・クリハラを2020年6月にオープンしました。パン工房ぐるぐるに次いで3店舗目のお店です。新しい価値を創造し、提案していくお店でありたいという想いでオープンしました。地元茨城県産の素材を使い、地元のものを美味しく食べてもらうことにこだわっています。たとえば、干しいもシュトレン﹂を開発したのですが、特産品である干し芋と茨城県産小麦を使っています。通常のシュトレンは大きいサイズですが、干しいもシュトレン﹂は日常的に食べられるサイズにしています。砂糖をまぶしていないことや形も異なる部分もあります。シュトレンの本場ドイツでも地域ごとのシュトレンの特色がありますし、干しいもシュトレンも茨城県の特産品を活かしたシュトレンとして広めていきたいです。またお店自体も地元茨城県出身者たちと協力した店づくりです。店内の御影石のカウンターや笠間焼用の土の土壁やデザイン、さらに植栽なども地元出身者たちとのコラボレーションで生まれています。店内には茨城とフランスにゆかりのある画家が描いた絵画も展示されております。
また海外への展開も視野を入れています。私自身ドイツで開催されるパンの世界大会に出場しますし、そのような海外での経験や知識をもとに地元茨城県に還元することが重要だと思っています。


SHOP DATA
ラ・メゾン・デュ・パン・クリハラ
茨城県水戸市笠原町1373-1

小麦栽培・製粉・パンづくり生まれた疑問から食育を考える

パン屋小麦生活の社長加古隆一さんに話を伺いました。


パン屋小麦生活
社長 加古 隆一さん

パン屋小麦生活は小麦栽培・製粉・パンづくりまですべて自分たちで一貫して行い、
神戸市西区から小麦とパンで地産地消に取り組んでいます。

コンバイン乗車体験の様子

農協からの誘いに縁を感じて

パン屋小麦生活の活動は17年前からスタートしました。もともと私は、菓子会社の工場勤めで、よりお客様に近くなりたいと勤めていた会社をやめてパン屋さんになろうと思いました。その準備のために専門学校に通いはじめた頃、今の活動につながるきっかけがありました。実家が農家ということもあるのですが、地元の農協さんが、兵庫楽農生活センターにてパンづくりなどで農産加工をしてくれる人材を探している話を聞きました。これも何かの縁かと思い、その仕事を請け負うようになりました。当時は自分と妻だけで週末限定でその仕事をはじめており、平日は専門学校に通ってパンづくりの勉強をしました。専門学校を卒業してからは平日にパン屋さんでアルバイトなどし、週末に楽農センターのパンづくりをしていました。その楽農センターのパンづくりの仕事が多くなってきたタイミングでその仕事のみに集中するようになりました。製造したパンの販売は農協直売所や様々なスーパーなどで販売しています。また、2018年から2022年にかけて実店舗の運営もしていたのですが、限られたスタッフということもあり、活動の広がりを考えて、実店舗は閉めて、各所でのパンの販売と、食育イベント活動、栽培した小麦の製粉化とそれを使ってもらう活動に注力することにしました。

小麦の素朴な疑問から食育を考える

兵庫楽農センターでのパン教室では、パンをつくりながら、対話していくスタイルです。朝ごはん何食べたという話からはじめます。だいたいパンを食べていると答える人も多いです。それなのに普段の食事で身近な小麦について、どこからやってきて、どのように食卓にきているのかを知らないし、教えてもらう機会もなかなかないと気付きます。身近なのに、知らないこと自体が面白いねというところから興味をもってもらいます。楽農センターでは小麦の現物を見てもらい身近に感じてもらいます。私が神戸で小麦栽培をはじめた当初は、神戸市内で小麦を育てている農家さんはほとんどあ1りませんでした。だけど、小麦を育てる文化があってもいいのではと思い、試行錯誤を重ねました。植えることはできても収量を増すということが難しいなど課題もありながら進めてきました。

神戸産小麦をどのように生かしたいか

栽培した小麦を製粉したものを少しずつ混ぜながらおいしいパンになるように、試行錯誤しています。配合のうち1、2割に活用するなど、このようなパンならつくれますよというようなPRをしながら、様々なお店の方など興味をもってもらった方々にいろいろ触ってもらいたいなと思います。地元の神戸で1週間前に製粉されたばかりの小麦でつくられたパンとなると、わくわくすると思います。そのように神戸でできた小麦を使って何が作れるかということを一緒に考えていきたいなと思っています。


様々な場所で移動販売をしています

SHOP DATA
パン屋小麦生活
各所で対面販売や移動販売をしています。
最新情報はインスタグラムをご覧ください。
インスタグラム:インスタグラムはこちらから

食料時共立1170%の十勝地域から日本の食の未来を考える

株式会社満寿屋商店の代表取締役社長杉山雅則さんに十勝地域での地産地消と満寿屋商店の取り組みとビジョンについてお話いただきました。


株式会社満寿屋商店
代表取締役社長 杉山 雅則さん

創業1950年の十勝で愛され続けるパン屋「満寿屋商店」。小麦は十勝産小麦100%、他の食材は可能な限り地元産を使用したパン作りを行っています。運営するベーカリー「麦音」では、お客様が触れる事ができる小麦畑を望みながらパンを楽しむことができます。

満寿屋商店の目指すものとは

満寿屋商店は創業1950年で70年以上パンを製造販売してきました。2012年からは全てのパンを十勝産小麦で製造しています。私たちが運営するベーカリー麦音は3600坪の敷地面積があり、小麦畑もあるベーカリーです。店内には水車と小麦粉を挽く石臼があり、店舗の上にある風車が回ると水車が回り、その力が石臼に伝わり、小麦粉を挽く仕組みです。お客様は、十勝の自然エネルギーを元に小麦の粒が粉になる過程を見ることができます。パンで地元・十勝のすばらしさを伝えるために、十勝産小麦100%使用した全商品の製造を行っています。十勝地域にはこれまでずっとお世話になってきました。十勝なしではこれまでの事業が成り立っていないと言っても過言ではないでしょう。創業者である私の祖父は農家の出身であり、また、創業当初から農家のお客様が多く、農作業のおやつとして畑で一番おいしく食べてもらうにはという観点で設計されたパンをつくっていたという経緯もあります。私たちが目指しているのが、地産地消の重要性と十勝の魅力を全国に伝えることです。パンは地域と人々をつなぐ存在であり、地産地消が新たな価値を生み、食の未来を切り開くものだと信じています。

店内で小麦を挽いています

十勝地域の食材とパンづくりの未来

十勝における小麦生産は日本全国の4分の1を占めています。また小麦以外にも、水、砂糖のビート、乳製品、ジャガイモ、豆、肉類など高品質な食材が豊富に生産されています。十勝の自給率は1170%を超えており、日本全体の食料自給率38%のうち3%分ほどを十勝が占めていると言われております。十勝の存在が日本の食料安全性を保つうえで不可欠とも言えます。私たちはパンづくりを通じて十勝地域を応援し、地域の価値を高めることで食料自給率の向上につながればと思っております。十勝で小麦を生産している農家さんから聞いて大変共感しているのが、麦人チェーンをつくっていこうというものです。麦人チェーンとは、小麦に関わる人々研究・生産・流通・加工・消費が連携し、バトンリレーのように小麦の価値を伝える事です。十勝で私たちは農家さんと関わりあいながら、農家さんが作った農作物をパンにして小麦の価値を伝えていき、さらに地域の食文化を高める麦人チェーンをつくっています。


アンドーナツで地産地消
<十勝産の材料>
・小麦 ・水 ・生イースト ・たまご ・あんこの小豆 ・佐藤のビート

十勝地域をパン王国に

十勝産小麦を使ったパン製造、農家さんや地域の人々との協働、十勝の魅力を広く伝えていくことをこれまでしてきました。これからはその取り組みをもっと拡大していきたいと思っています。そこで私たちが2030年のビジョンとして掲げているのが、十勝をパン王国にすることです。そのために、パンのテーマパークの創設、十勝産小麦のブランド化、十勝の名物パンとかちパン開発と普及、そして、その取り組みを今後長く続けるためにも最終的には十勝の食文化を体験することができ、地産地消を通じたパン作りを学ぶことができる﹁とかち食の学校﹂の設立もしたいと思っています。現在でも十勝には麦音だけでなく、様々なパン屋さんが年々増えており、すでに70軒ほどあります。それぞれのパン屋さんに十勝産小麦を使用した独自のパンが増えることで、テーマパークのアトラクションのようにパン屋巡りで十勝に来てくださる方々を楽しませることができると思います。パン、小麦が十勝の新たな観光資源になることで、北海道全体の小麦生産地をめぐる旅など企画できるのではないかと思っています。北海道には十勝だけではなく他にも魅力的な小麦の産地がたくさんあります。北海道各地の小麦を、そしてその小麦で作られた名物パンをめぐる旅をしながら食の未来を考えることができるのではと思っています。


Pick up 麦人チェーン
小麦の価値を高めるための異業種連携。小麦畑から消費者に届くまで、小麦に関連する人々(研究・生産・流通・加工・消費)が連携し、バトンリレーのように小麦の価値を伝えることを目指している。

SHOP DATA
麦音
北海道帯広市稲田町南8線西16-43

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ベーカリーパートナー編集部
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