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2023.11.16

スモールスタートが広げるパティスリー開業の可能性 滋賀県・大津市 マカロンとショコラの専門店「FUSE(フューズ)」

fuse布施さん
FUSE オーナーシェフ
布施 文彦 (ふせ・ふみひこ)さん
京都・大和学園で料理を専攻。ホテル出身の講師の影響で、ホテル勤務に憧れを抱く。当時放映されていた、洋菓子がテーマのTV番組の影響もあり、パティシエに転身。2007年ホテルの製菓部門に入社し、7年半勤務。在籍中には、2012年の「トップオブ パティシエ イン アジア」にて日本代表に選出され、翌13年には同大会で優勝を果たす。その後ブライダル系の会社に入社、シェフパティシエを務める。約8年の勤務を経て退職し、2022年に自身のお店「FUSE(フューズ)」をオープン。
運営サイトはこちら

職人として修行をした先に、独立を考えられる方も多いと思います。開業資金の調達に物件探しなど、考えることは山積みですが、なかでもお店のコンセプトは準備を進める上ですべての軸となる重要な要素です。

今回取材した布施さんのお店は週3日の営業、販売するのはマカロンとショコラのみ。思い切った運営方法の裏にはどのようなコンセプトがあるのでしょうか。マカロンとショコラの専門店「FUSE(フューズ)」、その魅力の鍵は「スモールスタート」にありました。

食品ロスをゼロに!特化型パティスリー「FUSE」のコンセプト

2022年12月15日、滋賀県大津市の住宅街にオープンした「FUSE」。お店に入ると、常時10種類以上並ぶ色鮮やかなマカロンが目を引きます。ショーケースのすぐ奥には厨房があり、ミキサーの回る音、フルーツをカットする音、焼き立ての素材の香り…。職人の手仕事を間近で感じられる、コンパクトながら好奇心を刺激する店内。

「見てもらったらわかる通り、とにかくお店が狭いんです。ですが、マカロンがメインなので、このサイズ感でも問題ありません」

そう話す布施さんは、ホテルやパティスリーでの長い修業時代に培った幅広い経験と知識だけでなく、国内外の洋菓子大会での優勝という輝かしい受賞歴の持ち主です。生菓子・皿盛りデザートの製造技術にも長けた布施さんが、あえてマカロンとショコラに商品を限定したのには、修行時代の経験が大きく影響しているそう。

▲店内には「トップ・オブ・パティシエ・イン・アジア」始め、表彰状の数々が飾られています

パティスリーの店内

▲取材時にはプラリネの仕込みが行われていて、店内はナッツの甘く香ばしい香りが広がっていました

商品ラインナップをマカロンとショコラに限定された経緯を教えてください

布施さん
「(理由は、)食品ロスを出さないこと。これに尽きます。修行時代、たくさんのお菓子が廃棄される現実を目の当たりにしてきました。お客様に喜んでもらうために気持ちを込めて作ったお菓子が、捨てられてしまうのがすごく悲しかったんです。後輩に食べるかと聞くと『要らないです』と言われ、上司には『捨てといて』と指示される毎日。パートの方に切り分けて配るなど工夫はするものの、それでも追い付かないほど毎日ロスは出る。『何してるんやろう…』と思いながら、お菓子をゴミ箱に運ぶ日々が続きました。こういった経験から、『自分がお店をする時は、絶対ロスが出ないやり方にしよう』と強く決めていました」

▲フードロス削減への取り組みとして、割れてしまったマカロンを再利用し、クッキーとして販売

「ロスを減らすためには、生産性が良くて保存が効く商品でなければならない。最初にチョコレートが浮かんだのですが、名だたるショコラティエと勝負して生き残るイメージが出来なかったんです。そこで辿り着いたのがマカロンでした。マカロンはチョコレートに比べ専門店の数が少ない。見た目も華やかですが、まだまだファンの少ないお菓子。伸びしろを感じました。ですが、『マカロンだけで(利益を出すの)は絶対無理やって』と先輩方に散々言われ、ラインナップにショコラも追加しました(笑)」

FUSEのマカロンの特徴を伺えますか

布施さん
「一番の特徴は、ケーキの要素が入っていることですね。たとえば、サンドするクリームは1種類だけのものが一般的ですが、FUSEのマカロンは1種類で完結するものは少ないです。あと、断面にもこだわっています。マカロンって一口で食べる人はあまりいないと思うんです。ですので、ケーキの美しい断面を見るあの楽しみを、マカロンでも再現できるんじゃないかなと思って常に意識しています」

▲繊細な装飾が施されたカラフルなマカロンは圧巻の美しさ

「一般的なパティスリーでは、ケーキを作って、焼き菓子を焼いて、それからマカロンを作るので大変だと思うんです。時間は限られているし、手間もすごくかかる。ですが僕の場合は、持っている技術と時間のすべてをマカロンに注げます。全力でマカロンを作ったらおもしろいなと思いました」

マカロン

▲ケーキのような立体感のある味を表現するため、食感にこだわっているそう。写真は9月の新作、和栗のマカロン(出典:FUSE公式Instagram)

週三日の営業も、FUSEの大きな特徴ですよね。営業日数はどのように決められたのでしょうか

布施さん
「営業日を増やせば売上は上がりますが、お客様の来店が分散し人件費などの固定費も上がってしまうので、日数を絞るべきと考えました。

損益分岐点※ってあるじゃないですか。これが一番大事やなってずっと思っていたので、光熱費と人件費と…ちょっとした変動費とかを入れて、ちゃんと計算しました。週3日の営業にしたことで、従業員は少数精鋭、当初から予定していたオンライン販売の発送業務などに集中できる日数を確保する事が出来ました。営業日数を絞ることも、オンライン販売も、保存性の高いマカロンとショコラだからこそ実現出来たことです」

※損益分岐点:売上と支出が全く同じ金額になる(利益がゼロになる)こと。損益分岐点を上回れば黒字、下回れば赤字となる。一般的に同点が低いほど、赤字への耐性が強く良いとされている。

オフ (祝日であれば家族と過ごす、平日は会計処理やインプットの時間に。)
仕込み・発送業務
仕込み・発送業務
営業 (11:00~18:00)
営業 (11:00~18:00)
営業 (11:00~18:00)
オフ 家族と過ごす

▲布施さんの一週間のスケジュール(多少変動あり)

FUSEオーナー 布施さん

▲日曜日を含む週2日の休日には、修行時代には充分にとれなかった家族との貴重な時間が詰まっている

開業準備は苦悩の連続!それでも、こだわりを捨てなかった意思の強さ

まず、開業場所について。滋賀県・大津市を選ばれたのはなぜですか?

布施さん
「『トップ・オブ・パティシエ・イン・アジア』での出場を通してなりたいパティシエ像がはっきりしたことで、自然と開業の地として浮かんだのが、大好きな地元・滋賀県でした。

大会に出場していた各国の選手は、みんな頭で何かを考えているのではなく、勝手に手が動くくらい、とても楽しそうに作品を作っていました。

楽しむ余裕などまったくなかった自分と比較して、『この人たちには勝てないな』と実感したんです。そういった経験を通して、メディアを活用したような大きな活動をするよりも、身の回りの人たちをほんの少し喜ばせることの出来るパティシエになりたいと考えるようになりました。

琵琶湖の湖岸沿いにはベンチがたくさんあるので、湖を眺めながら自分の作ったお菓子を楽しんでもらえたらなと考えました。

物件は『琵琶湖沿い』の条件のもと探したんですが、理想の物件にはそう簡単に出会えず、何件も内見しました。最終的に契約した物件は、1階がテナントになっているマンションの物件でした。近くに大きなホテルがいくつかあり、京都へのアクセスも良く、一目で気に入りました。

ですが確認すると、飲食店の入居は不可、おまけに業務用200Vの電源は通っていないとの事…。いきなり大家さんを突撃し、どうしてもここでお店がしたいという想いを伝え、何とか了承をいただきました」

パティスリー外観

▲性別関係なく来店いただけるようオールジェンダーを意識しているFUSEらしい、無機質で癖のない外観

大津湖岸なぎさ公園

お店の目と鼻の先にある「大津湖岸なぎさ公園」。FUSE のマカロンやチョコレートを片手にベンチでくつろぐにはピッタリの場所

物件がようやく決まり、次はお店のイメージづくりに大切な内装づくりが始まると思います。内装業者選びはどのようにされたのですか?

布施さん
「気になる業者に片っ端からメールを送りました。内装屋さんを紹介してもらえる人がいるなら、そちらの方が楽だと思います。僕は、知り合いの紹介で取引に制約が生じる事を避けたかったので、ゼロから自分で探しました。メッセージのやり取りを経て一社に絞り、具体的な話し合いがスタートしたんですが、自分のやりたいイメージを伝えると、『そんなの普通じゃない、こうするのが普通』と言われることが続いて…。それが普通なんやって思ってはいたんですけど、やり取りを進むにつれ、自分のお店の内装なのに業者主導で進むことに違和感を覚えて。思い切って業者を変える決断をしました。最終選んだ業者の方とは『予算内で可能な限り進めていきましょう』と希望に寄り添った打ち合わせが出来ました。時間はかかってしまいましたが納得いく内装になり、作品(施工実績)がどうこうよりもまず人で選ぶべきと勉強になる良い経験でした」

▲内装費は約800万円。修行時代、厨房からお客様は見えず、商品と数字だけに向き合う日々が続いた。自分のお店では極力壁を取り払い、お客様と繋がれる内装を意識

開業を目指す方へメッセージ

では最後に、開業を目指す方へメッセージをお願いします。

布施さん
「お菓子でも、パンでも、コーヒーでも、自分の興味のあること・出来ることを選択し、集中して取り組めば技術は自ずと身に付きます。そのなかでもやはり、「人」を見ることを忘れないでほしいです。誰かに喜んでもらいたくて、パティシエになった方が多いと思います。その想いが、仕事に追われるなかで無くなるのはすごく勿体ない。ですので、『今を頑張れ。(技術や売上だけに集中するのではなく)人を見ろ』。これが一番伝えたい事ですね」

取材を終えて

これから挑戦したいことを伺うと、大手コーヒーチェーンでアルバイトをするスタッフによるコーヒーの勉強会、海外への商品の輸出(実現に向けて英会話教室にも通われているとか)、ロスが出ない形での生菓子の受注生産など、たくさんの展望が…!「本当に夢が多くて(笑) でも、急いではないです。一歩一歩、やれることからやっていけたらいいなと思っています」と、とても楽しそうに話す布施さん。

商品ラインナップや営業日数を絞ること以外にも、電話を置かない、イートインスペースを作らない、駐車場を設置しないなど多くの要素が削ぎ落されたFUSE 。お店に残ったのは「不便さ」や「物足りなさ」ではなく、「余白」であることが印象的でした。それは呼吸するようにその時々でお客様や従業員に寄り添い変化する力であり、布施さんのエネルギーの源になっているように感じました。

●取材協力
マカロンとショコラの専門店 FUSE フューズ
住所:滋賀県大津市島の関12-11
営業日:木、金、土
営業時間:11:00~18:00
※専用の駐車場無し

インスタグラム:https://www.instagram.com/fuse_macaron_chocolat/
布施シェフのインスタグラム:https://www.instagram.com/fumihiko.fuse/
オンラインショップ:https://fuse-macaron-chocolat.square.site/

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Writer
chefno編集部
エディター兼ライター M
chefno編集部
エディター兼ライター M
輸入商社の営業部で働きながら、編集部ディレクター・ライター修行中。一歩踏み込んだ情報発信が目標です。バタークリームと杏ジャムがあればご機嫌な甘いもの好き。
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