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2022.12.20

新メニュー開発のインスピレーションはどこから!?vol.03-割烹cob(コブ) / 山村 茂雄-

cob店内
割烹cob 大将
山村 茂雄さん
山口県下関市出身。高校卒業後、居酒屋で料理修行したのち独立。2017 年に塩おでんと和食のお店「割烹cob」をオープン。
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浮かんだアイディアや使いたい素材を商品(作品)として形にしていくことは、パン職人、菓子職人の仕事にとって醍醐味のひとつではないでしょうか。ひとりで考える、師匠や近しい人に相談する、同業者の情報を参考にする…方法は十人十色ですが、忙しくてなかなか新商品開発に時間が割けない、アイディアが浮かばない、マンネリ化しているなど、悩みやジレンマがつきまとうこともあると思います。

みなさんの新商品開発のヒントになればと、製菓・製パン業界とはフィールドの異なる分野で新メニュー開発をされている方々にお話をお聞きする「新メニュー開発のインスピレーションはどこから!?」シリーズ第3 弾です!

 

「やっぱり料理が好き」諦めきれずに再び進んだ料理人への道

大阪府豊中市にある、塩おでんと和食のお店「割烹cob(コブ)」。大将のお名前「山村」の山の字をマークにしてみると「コブ」のように見えることから、お店の名前を「cob(コブ)」とされました。割烹というと敷居が高いように感じてしまいますが、日常的に親しんでもらえるよう、カジュアルでやわらかい印象の店名にしたと山村さんはいいます。

そんな山村さんは、山口県の出身。大阪へ移り住んだのは、高校卒業後だそう。

なぜ大阪だったのでしょうか

山村さん:
「実はお笑い芸人を目指していました。大阪の養成所へ通っていたのですが、すぐに心が折れてしまったんです。おもしろい奴って、トコトンおもしろいですから…。昔から料理の勉強もしたいな、と思っていたので、その後は料理の道へ進むことにしました」

養成所を辞め、調理アルバイトからスタートした山村さん。その後、結婚を機に一度は料理の世界から離れたものの、やはり料理がしたいという気持ちが抑えられず、再び料理人への道を歩み始めます。

山村さん:
「やっぱり料理が好きなんですよね。料理人になると決意を新たにしてからは、居酒屋で6年ほど修行して基本を学び直し、そこから独立しました。和食の基本はお出汁。特に鰹と昆布でとった白だしは、和の食材以外にも合うんです。例えば、トマトソースやカレーソースと合わせても、うまみのベースとして白だしが活きてきます。そこで、出汁と塩で調味した塩だしに旬の素材を合わせたおでん、「塩おでん」をメインとした和食の料理店をオープンしました」

看板メニュー 塩おでん「トマトモッツァレラ巾着」

▲看板メニュー 塩おでん「トマトモッツァレラ巾着」

「コブ」のように見える山村さんの「山」の字をお店のシンボルに

▲「コブ」のように見える山村さんの「山」の字をお店のシンボルに

 

メニューから食材を仕入れるのではなく、食材からメニューを考える

塩おでんをメインに、単品料理やコース料理を展開している割烹cob。味はもちろんのこと、美しいお料理のビジュアルにもうっとりします。料理は大将の山村さんお一人で作られているとのこと。どのように新しいメニューを開発されているのか伺いました。

新メニューを開発するスケジュールは決まっていますか

山村さん:
「僕は季節に合わせてメニューを作っている感じなので『月に何品新しいレシピを考える』といった具体的なスケジュールはありません。季節といっても四季だけでなく、秋と冬の間、冬と春の間…と、移り変わりの時期もありますよね。ですので、その時に市場に出てきている食材でメニューを考えるんです。市場に出ている食材は、その季節の一番旬なものですから。仕入れた食材によってメニューが変わるので、コース料理でも日によって内容が変わります」

季節ごとの旬の食材でメニューを考えられているのですね。市場で食材を見て、すぐにレシピが思い浮かぶのでしょうか

山村さん:
「思い浮かぶときもあれば、思い浮かばないときもあります(笑)思い浮かばなくても、良い食材であれば仕入れて、店に戻ってからあれこれ考えを巡らせていくのも楽しい時間です。ただ、毎回新しいメニューを作るというよりは、ベースになるレシピがあって、そこに食材を合わせて行くという感じですね。

例えば、おでんのベースとなる『おでん出汁』、そこに旬の食材で『鮎』を合わせてみる。鮎は美味しいけれど、食べにくい。食べにくいから好き嫌いが分かれるところもあるので、どうしたら食べやすくなるか?どうにかならないか?と、考えぬいて出来上がったのが『鮎のにゅう麺』です。鮎を三枚におろし、骨まで丸ごと食べられるようにしっかり乾かしてから焼き、さらに揚げました。肝をすりつぶし、鮎の身に塗って焼き、それらをおでん出汁と合わせてにゅう麺としてお出しする。ベースとなるおでん出汁は不動の存在、そこに旬の食材『鮎』の良さがプラスされて両方の良さがうまくマッチする…といった具合に組み立てていきます。こうすることで、ニュアンスの違った新しいメニューに変化していくんです」

揚げた鮎のにゅうめん

▲三枚に下ろし、骨までまるごと食べられるように揚げた鮎のにゅうめん

山村さん:
「自分で市場に仕入れに出向く以外に、有機栽培農家さんから直接仕入れもしているのですが、あえてこちらから野菜の種類は指定せず、農家さんにお任せする時もあります。旬の物や美味しい物というのは、その道のプロである農家さんが一番わかっているからです。

ただ、食材として良いものであっても、和食には向かないものが届くこともたまにあります。例えばビーツなんかは、クセが強くて個性もしっかりとしているので、和食向きではないんです。そんな時は、試行錯誤を重ね、いただいた大地の恵みを料理として生かす気持ちにも力が入ります。ビーツは、じゃがいもと玉ねぎと共に火を通し、出汁とクリームでのばした茶碗蒸しとして提供することにしました。お客様の反応もよく、ほっとしたのを覚えています。自分の意思では仕入れない食材でも、信頼できる農家さんに選択してもらうことで、新しい角度から食材と向き合え、新しいメニューが生まれる… こういう一期一会のようなメニュー誕生もよくありますね」

有機栽培農家から仕入れている野菜たち

▲有機栽培農家から仕入れている野菜たち

ビーツの茶碗蒸し

▲目にも鮮やかなビーツの茶碗蒸し

メニュー作りについてどなたかに相談することはありますか

山村さん:
「お店を手伝ってくれている妻に試作品の味をみてもらうことがあります。とくに人気メニューの『塩こんぶアイス最中』は、彼女の力を借りなければ完成しなかったと思っています。『塩こんぶアイス最中』はその名の通り塩こんぶを使ったアイス最中です。『割烹cob』の名前にかけて、あえて塩こんぶという、アイスとのかけ合わせが難しい食材を使うという縛りを設けて毎シーズン作っています。塩こんぶを入れなければ、もっといろいろな種類の味で作りやすいのですが、季節ごとにアイスのフレーバーや餡を変えてみて、塩こんぶとの組み合わせに毎回四苦八苦しながら作っています。

味見をしてもらって『こうすれば良くなりそう』と妻からのアドバイスを受けるのですが、作り手としては食材の関係でできないこともあったりで・・・何度もぶつかりますが、その分満足のいくメニューができ、女性のお客様はもちろん、男性のお客様にも喜んでいただけるスイーツとなっています」

塩こんぶアイス最中

▲紫芋と栗きんとんの塩こんぶアイス最中は秋冬の定番メニュー

レシピ作りに関するツールがあれば見せていただけませんか

山村さん:
「ベースとなるレシピはノートに残しています。基本となるレシピなので、調理していく中で新たな発見などがあれば書き足して内容を深めています。季節ごとに思いついたレシピはメモ用紙に書くのですが、たいていはそのまま捨てていますね。食材が変わればレシピも変わるので。基本的には頭の中で考えていて、調理しながら完成させていくイメージです。瞬間的に『これいいかも!』と思ったら作って、味見して、納得いく形に仕上がるとお客様にお出ししています」

レシピ用のメモ用紙と、ベースレシピ用のノート

▲その時々に思いついたレシピ用のメモ用紙と、ベースレシピ用のノート。書き足しを重ねるノートは、年季を感じる料理人の七つ道具

 

家庭料理のような日常に寄り添うメニューを少し特別に

食材からインスピレーションを受けてレシピが浮かぶということですが、その湧き上がるアイデアの源は何なのでしょうか

山村さん:
「私は、『料理からも四季を表現したい、感じてもらいたい』と常に思っているので、日々の暮らしの中で季節を感じることを大切にしています。休みの日には山へ景色を眺めに行くこともあります。そこからアイディアが湧いてくるのかはわかりませんが(笑)

居酒屋で修行していた頃やお店を始めた当初は、新しいメニューを作らなければと追い詰められてしんどくなってしまうこともありました。でも、今はたとえレシピが思い浮かばなくても考え込まないようにしています。やっぱり『作り手が楽しくないと、料理も美味しくない』と思うので。それよりも、食材から自然と思い浮かぶメニューを作るほうが自分には合っていると思っています」

メニューを考える上で大切にしていることはどんなことですか

山村さん:
「僕が一番美味しいと思っているのは家庭料理なんですよ。今までいろんなお店でいろんな美味しい料理を食べてきましたが、振り返ってみると家で妻が作ってくれた料理、実家で母や祖母が作ってくれた料理が頭の中に思い浮かぶんです。ですから、家庭料理にプロの技を掛け合わせたような料理を出したいという想いがあります。例えば家庭料理だと、その日の夕飯メニューをカレーに決めていても、スーパーに行ったら安くて良い状態の魚が売っていたから、魚料理に変更なんてことよくありますよね。僕が仕入れに行ってメニューを考えるのはそんなイメージに近いのかも。

あと、いつも同じメニューで同じ味ばっかりだとつまらない。だからちょっとニュアンスを変えるために、素材に味噌や胡椒、ソースを重ねてみる。でも、あまり変わったアレンジを加えると、それはそれで印象に残らないと考えています。あくまでも家庭料理のようないつもの食事。それがちょっと特別なものになるようなメニュー作りを大切にしています」

 

最後に、今後の展望をお聞かせください

山村さん:
「今まで僕ひとりで料理をしてきたのですが、提供スピードや料理のクオリティをさらに安定させるためにはひとりでは限界があります。今の厨房ではちょっと狭くて僕ひとりしか入れないので、もう少し大きなお店で、調理補助のスタッフも入れてやりたいなと思っています。ありがたいことに、うちの料理を楽しみに来てくださるお客様がいらっしゃいます。そのお客様の想いに応えるためにも、お店作りにも力を入れていきたいです」

「家で食べる料理が一番美味しいと思うんですよね」思わず笑顔がこぼれます

▲「家で食べる料理が一番美味しいと思うんですよね」思わず笑顔がこぼれます

 

取材を終えて

大将のメニュー作りの原点は、我々の「食」の原点ともいえる「家庭料理」にありました。メニュー作りは旬の食材との一期一会、四季折々の景色の移ろいを料理に落とし込む、身近な暮らしからアイデアを摘み取る、それを真摯に繰り返す作業なのです。また、印象的だったのが「作り手が楽しくないと、料理も美味しくない」というお話。「僕は大したことしてないんです」と取材中、常に謙遜されていた大将でしたが、そのあたたかい人柄と、料理への愛情を強く感じる言葉でした。食に関わる全ての職人にとって、当たり前のようで忘れてはならない大切な哲学といえるのではないでしょうか。

 

●取材協力
塩おでんと和食 割烹cob
大阪府豊中市待兼山町21-5 ハイツ石橋1F
電話:06-6398-7255
営業時間:17:00-22:00(21:00 L.O)
日曜定休・不定休
公式HP:サイトはこちらから 

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Writer
さとう れいこ
さとう れいこ
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大阪在住フリーライター&カメラマン。取材・インタビュー記事、SEO記事など幅広くジャンルレスに執筆しています。
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エディター兼ライター シオリ
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