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2022.07.19

新メニュー開発のインスピレーションはどこから!?vol.01ーモダンフレンチレストラン Courière(クーリエール)松本 拓也ー

レストランCourière(クーリエール)オーナーシェフ
松本 拓也さん
19歳で料理の世界に飛び込み、フランス料理界の重鎮トロワグロ氏のもとで働いた経験をもつ師匠からクラシックスタイルのフランス料理を基礎から学ぶ。同時期に和食レストランでも並行して修行。その後は、神戸市西区の創作料理店、神戸市中央区のミシュランビブグルマン獲得店、神戸北野のイノベーティブレストランを経て、2020年9月に神戸元町・鯉川筋で、国産食材と日本ワインにこだわるモダンフレンチを夫婦で開業。 月ごとに総入れ替えされるアイデアの詰まった12品のコース料理が人気。
運営サイトはこちら

浮かんだアイデアや使いたい素材を商品(作品)として形にしていくことは、パン職人、菓子職人の仕事にとって醍醐味のひとつではないでしょうか。ひとりで考える、師匠や近しい人に相談する、同業者の情報を参考にする・・・方法は十人十色ですが、忙しくてなかなか新商品開発に時間が割けない、アイデアが浮かばない、マンネリ化しているなど、悩みやジレンマがつきまとうこともあると思います。
みなさんの新商品開発のヒントになればと、製菓・製パン業界とはフィールドの異なる分野で新メニュー開発をされている方々にお話を聞いてきました。

修業時代に培われた探求心と、常に緊張感をもって料理をしたいという想いが短期サイクルでの新メニュー開発をうみだす原動力

料理の世界に入って3年程経過したあたりから自分の好みの味、スタイルを確立し始めたという松本シェフ。この頃から、料理を食べるときには常に「自分だったらこうする」という探求心を大切にしてきたといいます。意見することが許された修行先では、「私だったらこうします。ちょっと作ってみていいですか?」とアレンジしたり作り変えたりし、それが実際に店のメニューとして採用されたこともあったそう。修行時代に培われたこの視点は、現在も変わらず、どんなに美味しい料理に出会っても忘れないよう自身の中で持ち続けているそうです。この「自分だったらこうする」がシェフのメニュー作りにどんな影響を与えているのか、お話を伺っていきましょう。

月替わりでメニューを総入れ替えされていると聞きました

松本シェフ;
「はい。ずっと同じ料理を作り続けていると、どうしてもそこに慣れが生じてしまい、料理をすることが‘’作業‘’という感覚になってしまうのが嫌なんです。常に緊張感もってフレッシュな気持ちで料理をしたいという想いから、当店では、月に1度、12品で構成するコースメニューを総入れ替えしています。あと、月に1度「シェフがやりたいこと!」をコンセプトにした、ジャンルにとらわれない1日限定のイベントメニューを提供する日を設けています」

シェフのひと月のサイクルをお聞かせください

松本シェフ;
「月初から新メニューがスタートします。そこから1週間は、その新メニューに慣れる時間、そしてより改善点が無いかに集中する時間。それ以降は次の月に向けての新メニューの構想を頭の中で巡らせる時間が始まります。これと同時進行で、月1回のイベントのアイデアも練っていきます。
そして、その月のメニューを終え、月末~月初に3日半お店を完全クローズし、この3日半で全メニュー入れ替えの為の仕込み、試作、仕上げを行う。これが私の1ヵ月のサイクルです。

浮かんだアイデアは頭に浮かぶたびにどんどんメモに書き出しています。メニュー入れ替えの3日半は、最初の2日間で、メモに書き出したアイデアや頭の中で固めてきたアイデアを整理し、そして黙々とひとりで仕込み作業に取り掛かります。そして、3日目が試食という構成です。出来の良かった料理でも、温度や酸味など若干のバランス修正があるので再度試作。ですから、3日目は2回作って2回食べる日という感じになりますね。2回目の試食後にドリンク担当の妻と共にペアリングを確かめていきます。それでもメニューが決まらない時は残りの半日で修正をかける。この3日半に集中して一気に出し切る感じです。

コース12品を作っていくなかで1~2品、何度試作しても納得のいかない場合もあります。昔は、そのことに焦ってしまった時期もあったのですが、今は苦労して修正を繰り返したメニューの方が意外と1ヵ月を通して1番好評だったりすることが多く、やり直して苦労した分よかったと思える瞬間です」

▲料理中に新しいアイデアが浮かべばすぐにホワイトボードにメモ

▲その月のメニューの最終版はこの形でメモとして毎月残されていきます。途中で浮かんだ修正やシェフだけにしか分からない細かな書き足しがたくさん

 

季節・旬を細かく追いかけていくメニューづくり

メニューを考える上で大切にしていることはどんなことですか

松本シェフ:
「ひとことでいうなら『その季節に私が食べたいものを作る!』もうこれに尽きます。
月ごとにメニューを変えるということは、旬を細かく追いかけていくということ。これから夏の時期にかけてだと、ハモや鮎が絶対に入ってきますが、そういう素材を自分だったらどういう風にして食べたいか?を追求していくのが私のメニューづくりの軸。だから考えるのは翌月の新メニューのことだけ。そのメニューすら最終決定するのはメニュー替えの前日になってようやく!なんていう時もあります。仕込みが始まってから「何かちがう!」となって変えることもあります。だから、年間スケジュールを立てたり、長期的なメニュー作りといったやり方ではなく、自分の直感に従って月ごとのメニュー作りをしています」

日ごろから素材選びやメニュー作りに繋げるために意識していることはありますか

松本シェフ;
「外食、コンビニの新商品、旅先の道の駅など、どんな場面でもとにかく気になる物は全て食べてみるようにしています。たとえ美味しくなさそうだと思っても!以前、長野へ赴いた際に、道の駅で’’レタスのアイスクリーム’’というのが気になり食べてみたんですが、青臭くて全く美味しくなかったんです(笑) でも、その記憶は何かに使えるかもと自分の中で残しておきました。それをのちに、抹茶と合わせてみたらどうか?と思い立ち、レタスと抹茶のアイスというメニューを考案してみると、お客様からすごく好評だったなんてこともありました。

▲長野での体験から生まれたレタスと抹茶のアイス

食材の仕入れでも、気になる物はとにかく試すようにしています。
例えば、仕入先の八百屋さんに、面白い野菜があったら必ず案内してもらえるようにリクエストしています。最近気になって食べたのは‘’ひまわりのつぼみ‘’。農家さんにとっても商品化したばかりの新しい試みで、まだ食べたことのある人は少ないかも知れません。アーティチョークのようにガクを外して中心部分だけをいただくんです。ほんのりとした苦味で、ホクホクした食感がおもしろく、次の新メニューに取り入れたいなとアイデアを練っています。

▲ホクホクとした食感のひまわりのつぼみ

その他には、‘’ライムの葉‘’というのも紹介してもらいました。そのままちぎって食べるには硬いのですが、清涼感のある香りがすごくいいので、煮出して何かの香りづけに使えるんじゃないかなと考えています。こういう珍しい野菜はスポットものが多く、一度きりの出会いだったりするので大切にしています」

▲白い泡のソースの部分にライムの葉を煮出すアイデアが使われた「マナガツオの炭火焼」。ココナッツやレモングラスを使ったタイカレーをイメージした仕立ての一品

 

「食」への探求心が主軸となるメニューづくりに、インスピレーションを与えてくれる存在

SNSを拝見し、シェフのお料理が盛られる器の美しさが印象的です

松本シェフ;
「僕のメニュー作りは、素材、調理法はもちろんですが、その先にどの器にどんな風に盛り付けるかまでを考えて完結します。器が先に決まって、その器に盛りたいメニューが後からついて来ることもあるくらい、器を愛してやみません。出来るだけ作家さんと直接話 をさせていただいて、作家さんの想いなどをお伺いしてから買うようにしています。自分のイメージする形や大きさ、デザインを伝えて特注で作って貰うこともあります。

▲器への愛が止まらない松本シェフ。「気に入っているものがたくさんあるんです!」と、どんどん器が出てきます

▲「薄くて白い平皿」という名前の器は、ネーミングセンスに惹かれて購入。はりまもち粉と海苔を合わせた生地をつけて揚げた鱧を、下に敷かれたトルティーヤで巻いていただく一品

料理の器以外では、水のグラスって、お客様がお店にいらしてから帰られるまで、ずっとテーブルの上にあるものなので、すごく良いものを使いたいという想いがありました。他の店にはない、持ちやすくて美しいものをと僕が開業前に一番時間をかけて探したのが水のグラスです。
透明でないグラスなので、正直、水の残量が分かりにくいのですが・・・(笑)どこにでもある透明のグラスだと味気ないと思っていたので、このグラスに出会えて本当に満足しています。
コーヒーカップも時間かけて探しました。美濃焼のものです。国産食材にこだわったコース料理をお出ししているのに、最後のコーヒーだけカップ&ソーサーというもの違和感があり、和のコーヒー茶碗にこだわって探しました」

▲美濃焼のコーヒー茶碗(左)と、和歌山の和田山さんという作家さんが作る水用グラス(右)

国産素材とは、シェフにとってどんなインスピレーションをもらえる存在ですか

松本シェフ;
「開業準備を進めていた頃に、国内の様々な食材の生産者さんを訪れました。生産者さんたちの想いを直接お聞きし、頂いた食材で調理を重ねるうちに、日本の食材を活かすのに、昔ながらのフランス料理のやり方が果たして正しいのか?と自問自答するようになりました。考えを巡らせていけばいくほど、今まで自分が持っていた『フランス料理を作るならフランスの食材』をという思い込みがほろほろとほどけてい
ったんです。
そこからは、どんどん日本の食材を活かしたフレンチが作りたいという想いが強くなりました。国産は、我々にとって鮮度が一番良い食材です。技術が進んだとはいえ、遠く離れたフランスから運んでくる間に鮮度が落ちてしまうフランスの食材を使うよりも、これがあるべき姿なのではないかと思っています。そんな日本の食材を使った料理に合わせるドリンクって何だろう?と考えた時、自然と日本ワインや日本酒が浮かびました。

開業当初から、シイタケ、マイタケ、生きくらげは、岡山の原木シイタケの生産者のムサシ農園さんの物を気に入ってずっと使わせて貰っています。私自身の出身が明石なので、タコや鯛は明石のものを使っています。
最近ですと、京都亀岡の七谷鴨さんという鴨の生産者さんを訪問させていただいたのですが、可愛い雛を抱かせてもらい、改めて生命の温もりを感じ、感謝の気持ちを持って絶対美味しくしないといけないな!という責任を感じました。こうして生産者さんを訪問する事で、メニューへ繋がることはもちろんなのですが、新たな感情が芽生えたり、料理に対する熱が一層強くなるきっかけになったり、刺激を貰うことばかりなので、これからもたくさんの生産者さんを訪問して良い食材との出会いを見つけていきたいと思っています」

▲提供されるワインはオール日本ワイン。ペンギン好きのシェフ故の?ペンギンラベル率の高さがほほえましい

月替わりのメニュー以外に、イベントメニューも提供されているとのことですが、シェフにとってイベントとはどのような存在ですか

松本シェフ;
「月ごとにメニュー替えをしているといえども、1か月間は同じ料理ばかりを作ることになるので、どうしても私が一番嫌な‘’作業‘’という感覚に囚われてしまう時があります。そこで、気持ちをリフレッシュするために、月に1度、イベントを行うようにしています。このイベントでは、「自分がやりたいことをする!」をコンセプトに、月ごとのメニューとは全く違う、料理のジャンルを超えた1日限りのイベントメニューをお出ししています。例えば、6月は「デザートのみの7品コース」というテーマでイベントを行いました。
僕自身、デザートを作るのも食べるものも好きなんです。月ごとのコース料理だとお口直しの軽いデザートと最後のしっかりしたデザートの2品しか出せないので、それをデザートのみで7品のコースにするとなると、より多くの引き出しが必要になり、より想像力をしっかり働かせなければならない。そのために勉強も必要になるし、新たな発想を持ってデザートづくりをしなければお客様に満足していただけない。こういう気持ちになれる事こそが、イベントをする目的だと思っています。そしてそれが自分にとってのリフレッシュになっています。
もちろん、カジュアルなテーマのイベントをすることもありますよ。過去には、ラーメンが好きなので本気でラーメン作ってみたら面白いかも!という発想から、ラーメンイベントを開催したこともあります」

最後に、今後の課題や目標についてお聞かせください

松本シェフ;
「今抱えている課題は、店の作りの事。開業して実際に動き出してみて、居抜き物件の限界を痛感していることは、カウンターと厨房が離れていることです。私は、料理の温度を一番大切にしているので、お客様の目の前で火を入れて、盛り付けて、そしてすぐにお客様に提供したいという想いがあり、将来的には納得のいく動線が確保できる店舗に移転したいと思っています。
今の店は夫婦二人だけで回していくにはちょっと広いなとも感じているので、もっと小さい箱でもいいし、内装もこだわりたい。これはできる限り早く達成したい目標のひとつです。

そして、やはりフランス料理をやっている以上、ミシュランというものに憧れはあります。もう神戸に5年くらい、ミシュランをとるレストランが出ていないので、それを1つの具体的な目標に設定するのはいいなと思っています。目に見える形で自分の料理を評価していただけることは、モチベーションに繋がります。

あとは、シンプルに、これからも、もっともっと美味しい料理を作り続けていきたいです!」

▲松本シェフの一番の理解者であり、メニューづくりを支える存在でもある奥様と

 

取材を終えて

今回お話を伺った中で、筆者が特に印象に残ったのは、「旬を細かく追いかける」というシェフの表現でした。
五感で四季のうつろいを感じ、楽しむ国民性である我々日本人にとって、食における「旬」を季節ごとに味わえることは、どこか懐かしい記憶に繋がったり、新しい感覚に出会えたり、本能的にしあわせを感じる瞬間なのではないかと、改めて食のもつ豊かさを感じさせられる機会となりました。

今回のテーマである新メニュー開発。松本シェフのメニューづくりの太い軸となるのは、自身が食べたいと感じるものへの強い探求心。日々の生活の中で常にアンテナを張り、食に関する経験は記憶としてストックしていく。それを必要に応じて引き出しから出し、メニューへと繋げる。この一連の流れはとても自然で流れるように美しく、包丁使いや出汁の取り方といった料理人として一般的に言われる技術とは異なる、これぞ料理人としての職人技なのではないかと感じました。

 

●取材協力

Courière(クーリエール)
住所:兵庫県神戸市中央区下山手通4-10-26
電話:078-599-7699
営業時間
ランチ12時一斉スタート
ディナー18時一斉スタート
定休日:水曜日、木曜日のランチタイム
公式Instagram: こちらから

 

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chefno編集部
エディター兼ライター R
chefno編集部
エディター兼ライター R
ワインショップ、ワインインポーターでワイン漬けの日々を過ごして20数年。私なりの視点でパンやお菓子とワインを結びたい。基本的に白ワインが大好きだが、実が大きく皮が薄いことで優しい軽やかな赤ワインを生むブドウ品種‘’アラモン‘’が忘れられない。
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