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2022.03.02
パンづくりとは我慢や苦労ではない。パン業界の古い慣習をなくしていきたい下町の人気店「メゾンムラタ」が語る効率化の重要性
メゾンムラタ オーナーシェフ
村田 圭吾さん
福井県出身。1985年生。
15歳で地元の「リテイルベーカリー」に入社。
17歳で神戸に転居し「ビゴの店」に入店。
22歳、パン職人の文化を追及すべく渡仏。
名店「メゾン・ランドゥメンヌ」などで約5年半の修業を経て2012年、帰国。
パン教室の主宰をつとめ、2年間で約400名の生徒を指導する。
2015年4月に神戸・和田岬の笠松商店街内に同店をオープン。
運営サイトはこちら

今回は、兵庫県神戸市の下町商店街で開業したパン職人のご紹介です。

「パリの名店の味が商店街で味わえるなんて」。
驚きの声とともに連日お客さんが殺到する評判のお店が神戸の片隅にあります。
昭和レトロな街でひときわ異彩を放つ話題のブーランジュリー、流行した背景には「効率化をはかり、生産性を向上させ、おいしいパンを回転よくお客様に提供する」というポリシーがあったのです。
シェフはフランスでの修業から何を学んだのか? 下町で人気店を興したシェフの素顔に迫ります。

 

スタッフには「時間を無駄にしないで」と教えている

「“こんな下町に、よく店を開いたね”。そう言われます。けれども迷いはありませんでした。どんな場所でもやっていける自信があったから」

「メゾンムラタ」オーナーシェフ、村田圭吾さん(37)はそう語ります。

行列が絶えない「メゾンムラタ」。場所は神戸の湾岸の街、和田岬。昭和で時計の針が止まったような、懐かしい雰囲気の「笠松商店街」にあります。
そんな神戸の中心街からずいぶんと離れた場所にありながら、「本場パリの味を堪能できる」と、たちまち他県からもお客さんがやってくる人気店となりました。

パンの回転率が早い、早い。陳列したとたんにお客さんの手が伸びる。
売れ行きはもちろん、供給スピードにも驚かされます。
決して大きなお店ではないにもかかわらず、村田さんをはじめ11名の職人やスタッフが目まぐるしく動きます。
スタッフが無駄なく交差するフォーメーションは見とれるばかり。お客さんはつねに焼きたてを購入できる状態なのです。

村田シェフ


僕は時間を無駄にするのが嫌い。「今日3時までかかった作業は、明日は2時50分に終わろうね」と、スタッフには時短を心がけるよう呼びかけています。
“パン業界は長時間労働”というイメージをなくしたいんです。

「メゾンムラタ」で働く職人たちの前職はアパレル系の店長、医大生、左官工、保育士など多種多彩。
皆、村田さんの人柄と高い技術、特に「早業」に惹かれて集まってきた人たち。
村田さんは「この店で時間の大切さを学び、新天地へ羽ばたいてほしい」と願っています。

 

フランス人が食べても「おいしい」と言わせる自信

店舗に並んでいるのは、添加物を使わずに焼き上げた、天然酵母から生まれたパン。
フランスで学んだ製法が活かされています。
調理法は「高水和・高分解」。水分を多めにし、冷蔵庫で時間をかけて発酵させます。「調整点を見極めることで、伸展性の高いもっちりした生地が生まれる」とのこと。
村田さんが自らを「発酵職人」と名乗るゆえんです。

村田シェフ


特にハード系はフランス人が食べても評価してもらえる自身があります。例えば、セーグルと旬の牡蠣とシャブリのように、パンと料理を合わせて食べる食習慣が日本には定着していないと思います。ですので、関連性のある具材を生地に混ぜ込み、パンを食べることで全てが完結できるようにアレンジをしています。

 

パン職人は“量”をつくらないと上手くならない

村田さんは福井県出身。母子家庭で育ちました。
パン職人の道を歩み始めたのは、なんと15歳の時。きっかけは畑違いのアルバイトでした。

村田シェフ


お小遣いを稼ぐために新聞配達をやっていました。このアルバイトが長く続いたので「早朝から働く仕事がむいている」と自覚したんです。目がさめて5分後にフルパワーで働ける体質でしたので、将来はパン屋さんになろうそう決めました。

いったん商業高校へ進学したのですが、パン職人になりたい気持ちは抑えきれず、3ヶ月で中退しました。
どうしても「授業を受けている時間がもったいない」と感じてしまって。今になって学校でもっと商業の勉強をしておけばよかったと顧みる日もあります。けれども当時は「教室ではなく現場で手に職をつけたい」。そんな焦りがありました。

村田さんは「人生のロスタイムだと感じたらスパッと切る性格。それは現在も変わっていない」と自己分析しています。

パン職人を志す村田さんに理解を示した担任のはからいで、地元「リテイルベーカリー」に入社。実際にパンづくりに携わるうちに、さらなる向上心が芽生えました。

村田シェフ


「パン職人は量をつくらないとうまくならない」。そう痛感しました。パンづくりの理論やテクノロジーは、たくさんつくらないと理解できない。頭でわかっても手に馴染んでこないとダメだと感じ、もっとたくさんのパンに触れたい、学びたいと思うようになりました。そのためには「パンの本場である神戸で修行しよう」。そう考えて17歳だった当時の私は、職人寮がある神戸「ビゴの店」に転職しました。

パン職人になる事は、誰にも相談をせず自分で決めました。母親の反対もなかったですね。「どうせ反対しても、あなたは行くんでしょ」って(笑)。

フランス伝統の製法で、神戸はもちろん全国に名を馳せる「ビゴの店」。村田さんはここでの修業で「さらにパンづくりのおもしろさに魅了された」と振り返ります。

村田シェフ


パンは努力すれば努力したぶん、ちゃんとおいしくなる。地道にやれば、お客様が評価してくれる。努力が比例して結果につながるんです。しっかり目標を立てて、そこに全力で向かっていく性格の僕にとって、パンづくりはとても合っていました。

「パンは努力を裏切らない」。村田さんの夢は遂に海を渡り「フランスで働きたい」と考えるようになったのです。

ただその想いを実現するトリガーとなったのは、とある「屈辱」でした。21歳でビゴの店を退職した村田さん。「料理とともにあるパン」を勉強したいと考え、一時期レストランで働いていました。そこで、唇を噛む出来事が起きたのです。

村田シェフ


たまたま僕が働いたお店だけなのでしょうが、パンをないがしろにされたんです。「営業時間外に適当に焼いておいてくれ」と。料理人がパンをすごく軽く見ていて。その姿を見て、自分のパンへの想いを再確認した部分はありますね。

 

パンの先進国フランスで見た効率化の進歩

日本でフランス語を学び、22歳で渡仏。もっとも長く働いたのがパリ9区に本店を構える「メゾン・ランドゥメンヌ」。ブーランジェリー・オブ・ザ・イヤー・パリを受賞したこともある名店で、村田さんは目からウロコが落ちる経験をするのです。

村田シェフ


「やはりフランスはパンづくりの先進国だ」。そう感じました。いい意味で伝統にこだわらない。職人がラクになる方法を日々研究し、創出している。効率化が進み、ハイクオリティなパンを短時間で焼き上げる方法を生みだしている。「日本より10年、いや15年は進んでいるな」と思いました。反対に言うと「日本のパンづくりは古い慣習に縛られているのではないか」と気がついたんです。

実際、フランス人シェフたちからは、よく「君は自分に厳しすぎる。もっと肩の力を抜けよ」「お前、頭ガチガチだぞ」と注意されました。「君があまりにも仕事を完璧にやってしまうから人手が足りてしまい、雇用を促進できないじゃないか」と皮肉を言われた日もありましたね。

ストイックな姿勢はむしろ逆効果に。
村田さんがフランスで学んだこと、それは「パンづくりはレシピと科学。我慢や苦労ではない」「頭を使って効率化をはかれば、みんなが幸せになる」といった、経営の持続化を可能にする考え方でした。

 

「パン業界は過酷な長時間労働」というイメージをなくしたい

およそ5年の歳月のなか、ともにフランスへ渡った女性と現地で結婚。一児を授かったことを契機に、パートナーの実家がある和田岬へ帰国します。そのとき27歳。村田さんはいよいよ起業を決意するのです。

とはいえ開店資金はまだありません。そこで村田さんはパン教室を開講。2年にわたって約400人の生徒に指南し、月謝を設備投資に充てました。その結果、なんと無借金でオープンに漕ぎつけたのです。

村田シェフ


生徒さんがたくさん来てくださったのは、本当にありがたかったですね。お金がたまってはオーブンを買い、ミキサーを買い。少しずつ設備を整えていきました。なぜ借り入れをしなかった聞かれることもありますが、補助金の知識がまったくなくて(苦笑)。知っていれば数百万円、借りられたかもしれないのに。けれども今となっては、これでよかったのかな。

2015年4月、いよいよ「メゾンムラタ」がオープン。開店において村田さんがこだわったのは、フランス仕込みの「効率化」でした。

村田シェフ


おいしいものをつくる。品質が高いものをつくる。それは当たり前です。これまで15時間かけてひとつのパンをつくっていたとするならば、僕は添加物を使わず、同じクオリティのものを12時間で焼きあげる。僕はその方法を考えるのが役目だと思っています。「パン業界は長時間労働」というイメージをなくしたい。

村田さんは無駄な時間や経費を削減するため「換気扇をどこに設置するか」「コンプレッサーはどこに置くか」「天井に熱い空気が滞留しないようにするにはどうしたらいいのか」など、導線や作業効率の妨げになりえる要素を徹底的に洗い出し、改善に努めました。「用途別にダスターの色を変え、迷う時間をなくす」など、小さな非効率も⾒逃さず排し、定時ですべての作業を終えられるように日々努力されています。

村田シェフ


パンは「人と人をつなぐアイテム」です。パンを通じて人と人が出会う。それが楽しい。それが僕の幸せなんです。だとすれば、つくる側がつらい気持ちで仕事をするのは違うと思うんですよ。

 

取材を終えて

下町ムードいっぱいの和田岬に現れたブーランジュリーは、意外にも最先端な考え方に貫かれていました。
まさに岬に立つ灯台のように、メゾンムラタは「パン業界の今後の航路を照らす存在」だと、取材を通じて感じたのです。

 

●About Shop
メゾンムラタ
兵庫県神戸市兵庫区小松通2−3−14
電話:0785873977
営業時間:7:15~17:30 日曜日7:15~14:00
定休日:月 水
公式サイト:サイトはこちらから

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Writer
吉村 智樹
吉村 智樹
運営サイトはこちら
京都在住で、ライターと放送作家をしております。 朝日放送『LIFE 夢のカタチ』構成を担当。
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