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2022.09.15
第9回モンディアル・デュ・パン日本代表選考会レポート!

パン技術の世界一を決める大会、 モンディアル・デュ ・パンの日本代表選考会が9月7日から9日にかけてインテックス大阪で開催されたFABEX関西2022において行われました。晴れて日本代表の座を獲得したのは誰なのか、chefno編集部が大会レポートをお送りします。 

パン技術の世界大会「モンディアル・デュ・パン 

 モンディアル・デュ ・パンとは、フランスパンの正統な技術の継承と美味しく健康によいパンの普及を目指して設立された協会Les ambassadeurs du pains(レ・アンバサドゥール・デュ・パン)が主催するパン技術の世界一を決める大会のひとつ。世界各国から代表チームがフランスに集まり、世界一の座を争います。パンの味や見た目のみならず、栄養・健康面も評価の対象としているのがこの大会の特徴。世界大会は2年に一度開催され、日本代表チームは前回大会で谷口佳典シェフ(ブーランジェリー フリアンド)、その前の第七回世界大会では大澤秀一シェフ(コム・ン)と、なんと2大会連続で優勝という輝かしい成績を収めています。 

今年で第九回を迎える モンディアル・デュ ・パンの選考会では、大澤シェフ、谷口シェフに続けとばかりに今回も腕に自信のあるパン職人たちが2日間にわたり日本代表の座を巡ってしのぎを削りました。 

真剣な面持ちで黙々と、時にアシスタントと連携をとりながらパンをつくっています。代表選考会2日目となるこの日の出場選手はブーランジュリーヤナガワの柳川玖哉シェフ、ブーランジュリーベルドールの奥裕樹シェフ、源宗園の高橋佳介シェフの3名。決められた時間のなかでたくさんの作品を作らなければならず、職人としての技術だけでなく、いかに効率よく的確に作業を進められるかも大きなポイントとなります。ブース前のテーブルには焼き上がった作品が並べられていきます。会場でマイクを手に進行を務めておられたアンバサドゥール協会理事の児玉圭介シェフ(ボン ヴィボン)にお話を伺いました。 

児玉シェフ


このコロナ禍のなかでもたくさんの方にもお集まりいただけて、嬉しいかぎりです。回を重ねるごとに関係企業の会員さんも増えてきており、本当に皆さんの協力があって運営ができるので、すごくありがたいことです。今大会で第9回目となり参加する選手の数も増えてきています。みなさん前回、前々回といろいろなものを見て勉強されてきていますし、技術や考え方も時代とともに進化しています。僕らも知らないような新しい食材も出てきているので、こちらも勉強になりますし、とても楽しみです。

 

「すべてはこの日のために」持てる技術のすべてを注ぎ込みしのぎを削る選手たち 

▲ブーランジュリーヤナガワの柳川玖哉シェフ

▲源宗園の高橋佳介シェフ

ベルドールの奥裕樹シェフ

会場の一角に目を向けると、有名シェフたちが指揮をとっていろいろなパンを焼き上げているブースが。近づいてみると、オリジナルのトートバッグに焼き上がったパンを詰めて販売されていて、売上は日本代表チームの渡航費などのサポートに使われるとのこと。パン業界が一体となって盛り上げていこうという気概が伺えます。 

▲会場で販売されていたオリジナルトートバッグ。なかには焼き立てのパンがどっさり

すべてのパンが焼き上がると、選手の方たちのプレゼンテーションが始まります。作品の説明を聞いていると、職人の方たちがどんな想いで、そしていかに調整や工夫を繰り返しながらパンづくりをされているかが伺えました。審査員たちによる試食審査では、各選手の焼いたバゲットやクロワッサンが順番に審査員のテーブルに運ばれ、見た目や内相のチェック、そして香りや味が評価されます。 

▲各選手のパンを審査する審査員たち

 

いざ試食審査。歴代王者たちの評価は.. 

審査するのはいずれも名のしれたパンの名手ばかり。パンが運ばれてくると、それまで和気あいあいと喋っていた表情とは打って変わり、真剣な表情でパンを観察し、香りを嗅いで味を確かめます。審査する立場といえど、同じ同業者でありライバルでもある職人たち。自然と審査にも熱が入ります。審査員のなかには前回世界大会で優勝された谷口シェフの姿もありました。今回の選手たちの作品は前回王者の目にどう映ったのでしょうか。 

谷口シェフ


基本はあくまでパン、おいしいパンを作るというのが前提なので、そこまで大きく変わってくることはないんですけれども。前回選手として参加した時と比べて、2年違うだけでもう随分とパンの細工が細かくなっていってるというか、技術やトレンドが進んでいってるなという印象があります。 モンディアル・デュ ・パンの良いところのひとつは、時間規定が普段の労働時間とリンクしているところで、コンクールで段取りよく動くというのは当然のことなんですけれども、コンクールに挑戦することによって気づくことも多くて。それを店にもフィードバックすることで普段の仕事を見直すきっかけになる。僕自身もそうしてきましたし、おかげさまでうちのお店は、効率よく仕事をすることができています。

▲バゲットの試食審査の様子

課題のアイテムはバゲットに始まりクロワッサン、デニッシュ、サンドイッチと、実際のベーカリーと同じように、あらゆるアイテムに対応できる能力が求められます。そして モンディアル・デュ ・パンの特徴のひとつである「健康パン」。今大会では新たに「グルテンフリー」のルールが設けられました。昔ながらのしきたりに縛られることなく、時代に合わせたパンを作ることも求められます。第七回世界大会で優勝され、今回審査員を務めている大澤シェフは今年5月にグルテンフリー専門のお店「コム・ン グルテンフリー」をオープンさせたばかり 

大澤シェフ


パンというのは何千年もの歴史があって、いままで何億人もの職人たちが作ってきて今に至るんですけど、グルテンフリーというのはまだここ何年かでみんながやりだしたばかりです。パン職人としていままでやってきたことが全く通用しないという難しさがありますし、それだけにまだまだ進化途中というか、可能性がたくさんあると思うんです。そんななかで、みなさん色々と工夫されていて、どれも美味しくて、いろいろ参考にしたい部分もありました。大会が終わったらいろいろと話を聞いてみたいですね。

 

最後の難題「ピエスモンテ」に挑む 

コンクールもいよいよ佳境に入り、最終課題のピエスモンテが作られていきます。審査員やギャラリーが見守るなか、選手たちは事前につくっておいたパーツを組み上げていきます。今回のテーマは「映画」。全参加選手6名のうち、4名がジブリをテーマにしたものでした。ディテールにまでこだわった、馴染みのあるキャラクターや風景がみるみるうちに作り上げられていきます。 

ピエスモンテの最大の難関はなんといってもバランス。パンというやわらかい素材だけを使って、時には2メートル以上もあるピエスを組み上げるのは並大抵のことではありません。どの選手もアシスタントと息を合わせながら慎重に、常にバランスを確かめながら作業を進めていきます。見ているこちらもつい息を止めて見入ってしまいました。 

▲アシスタントと息をあわせながらピエスを組み立てていく柳川シェフ

▲審査員が心配そうに見守るなか、バランスの難しいピエスを組み立てる高橋シェフ

大きなトラブルもなくどの選手も無事時間内にピエスを組み立てることができ、展示スペースに運ばれていきます。どの作品も迫力があり、近くで見てみるとじつに細かいところまで作り込まれていて、石や木などの質感も忠実に再現されており、とてもパンだけで出来ているとは思えません。こういった繊細な作業というのは日本人の得意分野で、世界トップレベル。フランスから訪問されていたアンバサドゥール協会本部のパトリック・フェラン氏も、作品の美しさに目を丸くしておられました。 

フェラン氏

6名の出場選手みんな素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。どの作品も美しく、また正確に作られている。ピエスの細部にいたるまでしっかりと再現されていて、器用な日本人の特長がよく出ていたと思います。

日本代表チームは前回、前々回と世界大会で優勝していますが、どの選手が選ばれたとしても、来年開かれる世界大会ではきっと上位に入ってくるでしょう。世界大会にはヨーロッパだけでなくアジアや南米からも代表チームが出場します。みな優勝や上位入賞を目指して日々努力しています。お互いに刺激しあって、パンの技術が世界的にもっと広まって、向上することを願っています

 

また、来年3月に東京で開かれるモバックショウでは「ベスト・オブ・モンディアル」が開催されます。

モンディアル・デュ ・パンの世界大会は2年に一度開催されるのですが、その2つの大会の間に、前年の世界大会での上位6チームで争うのが「ベスト・オブ」です。世界大会はフランスで行われますが、この大会はフランス以外の国で行われます。これまで台湾、上海、そして前年はコロナ禍で中止になってしまったペルー。来年は、中止になってしまった2020年と、今年の2022年のベスト・オブの2つが東京で開催されることになりました。つまり第七回と第八回のモンディアル世界大会の上位11チームが一同に会します。きっと素晴らしい大会になると思いますよ。

 

果たして優勝は… 

すべての競技と審査が終わり、代表選考2日目が終了しました。そして翌日の結果発表、会場にはたくさんのギャラリーが集まり、どの選手も緊張した面持ちで自分の名前が呼ばれるのを待っています。 

第三位、第二位と入賞者が発表されていきます。どちらの選手も上位入賞の喜びの表情はそこにはなく、ただただ日本代表の座を逃した悔しさがにじんでいます。そしていよいよ第一位、モンディアル世界大会に出場する、日本代表となる選手の発表です。 

会場が息をのんで見守るなか、名前を呼ばれたのは、源宗園の高橋佳介シェフ 

喜びを爆発させることもなく壇上へ向かい、静かに優勝の挨拶をする高橋シェフ。その表情は、マスクをしていることもあって淡々としているように見えます。それでも話しているうちにだんだんと優勝の実感が沸き起こってきたのか、努力が報われた喜びなのか、時折声を震わせながら話す姿が印象的でした。トロフィーを持つ手がすこし震えているように見えたのは、きっとトロフィーの重さだけが原因ではないはずです。 

優勝した源宗園の高橋佳介シェフ(中央)。第二位はブーランジュリーヤナガワの柳川玖哉シェフ(左)、第三位はラブレドの高木弘文シェフ(右)という結果でした

表彰式が終わり、張り詰めていた選手たちの表情も心なしかほどけた様子です。大会関係者たちも無事大会を終えて安堵の表情。会場がひときわ賑やかな話し声に包まれるなか、表彰状とトロフィー、副賞を両手に佇む高橋シェフにお話を伺いました。 

高橋シェフ

前回大会が3位という結果に終わってすごく悔しい思いをしたので、次こそは優勝することだけを考えて、休みの日も必死にトレーニングをして、自分のできることをやろうという気持ちで、このコンクールに臨みました。

ピエスモンテは、実際お店で練習をしていたときも、立っている状態をキープしたことが一度もなかったんです。当日はもう、倒れてしまったら倒れてしまったでっていう覚悟でやりました。最後の最後までしっかり生地がくっつくように押さえて、なんとか倒れずに仕上げることができて、審査員のかたに評価をしてもらえたのでとても良かったです。途中であきらめずにリカバリーして、なんとか自分のやりたいことをやりきったという部分では、自分のなかでも成長した部分かなと思います。

競技が終わって、(優勝の)自信はあったと言ったら嘘になりますけど、とにかく自分のやったことを信じていたので、それが最高の結果になって良かったと思います。

コンクール中に自分を成長させることができて、このことは来年の世界大会にもつながると思います。世界大会に向けて、これから厳しいトレーニングが始まると思いますが、頑張っていきます。

 

▲高橋シェフの作品

▲高橋シェフのピエスモンテ

みごと念願の優勝を果たし、来年の世界大会へ向けてさらなる鍛錬を誓う高橋シェフ。世界大会へは、この日行われた最優秀若手コンクールに出場した若手選手のなかから(優勝はデイジイ西新宿店の松永ももこさん)ひとりをコミ(アシスタント)に迎え、日本代表チームとして二人三脚で世界を目指します。 

 来年の3月には東京でのベスト・オブモンディアル・デュパン、そして10月にはフランスでの世界大会と、2023年はモンディアル・デュ ・パンから目が離せない一年となりそうです。 

 

●取材協力
レ・アンバサドゥール・デュ・パン・デュ・ジャポン
公式サイト:https://www.ambassadeursdupain.jp
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/lesambassadeursdupaindujapon/

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Writer
chefno編集部
編集&映像制作 コウヘイ
chefno編集部
編集&映像制作 コウヘイ
映像制作とフランス語関連の記事担当。18年のフランス在住経験あり。フランス生活で得た気づきやエスプリを生かして面白い&センスの良いコンテンツづくりを目指します!好きなお菓子はダントツでタルトタタン。
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