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2022.02.18
ヴァンドゥーズから学ぶ接客術Vol.3 「私の意識を変えた、忘れられない失敗」
一般社団法人 全日本ヴァンドゥーズ協会/チーフ・テクニカルリーダー マリールーコーポレーション/ホスピタリティ・アドバイザー
高木真理子さん
第2回「全日本ヴァンドゥーズコンクール」優勝 兵庫県三田市生まれ。1991年に三田市にある洋菓子の名店「サント・アン」に入社。同店のリーダーを経て2005年に店長に就任。2012年にヴァンドゥーズ認定資格を取得。2016年に同店を退職。2017年にマリールーコーポレーションを起業。現在「ケーキハウスツマガリ」の契約社員として現場に立つ。
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シリーズ「ヴァンドゥーズから学ぶ接客術」。

「ヴァンドゥーズ」という仕事を通して、接客術を学ぶこのシリーズ。
第3弾にご登場をいただくのは、第2回「全日本ヴァンドゥーズコンクール」において栄冠に輝き、現在はチーフ・テクニカルリーダーとして奮闘する高木真理子さん。

高木さんに、ヴァンドゥーズ認定資格を受験した当時のお話や、チーフ・テクニカルリーダーとしての役割をおうかがいしました。
高木さんの高い理念の背景には、接客への意識を変えるきかっけとなった「ある失敗」があったのです。

 

接客には正解がない。だから難しい

高木さんは第2回「全日本ヴァンドゥーズコンクール」で優勝をされています。もともとヴァンドゥーズへの憧れがあったのですか。

実は…正直に申しまして、洋菓子店で働くまで「ヴァンドゥーズ」という言葉があることさえ知りませんでした。

私は兵庫県の三田(さんだ)市で生まれ育ちました。
結婚して故郷の三田へ戻った頃、地元の「サント・アン」がパートを募集していると知ったのです。
「洋菓子の名店で働くなんて楽しそう」と好奇心をいだき、現在のマダムに面接をしていただきました。
これが洋菓子業界へ足を踏み入れるきっかけ。

▲「サント・アン」在籍時代(左から2番目が高木さん)

実際に店頭に立ってみて、「楽しさ」と「難しさ」をともに味わいました。
人と接することが好きなので、お客様と語らいあったり、お勧めをしたり、とても楽しかった。

けれども、接客には正解がないんです。お客様によって、喜んでくださるサービスがまるで違う。お客様が何を求めているのか、瞬時に見極めなくてはならない。
声に出してはくださらないご要望を察知しなければならない。毎日ががむしゃらでした。

お客様との対応に悶々と悩む日が続きました。
「パティシエのように、私たち接客スタッフにも講習会があれば問題を解決できるのに」。
そう思っていたところ、マダムのお友達が「ヴァンドゥーズの資格試験を受けてみれば?」と教えてくださったのです。
それがヴァンドゥーズを知ったいきさつ。

▲2017年 第2回「全日本ヴァンドーズコンクール」において優勝(写真中央が高木さん)

 

涙が溢れ出た「二度としてはいけない失敗」

「接客に悩んでいた」とのことですが、失敗はあったのでしょうか。

ありましたよ。「失敗の女王」と呼ばれていましたから(苦笑)。

特に憶えているのが、サント・アンで店長をしていた頃の「ローソク忘れ」。
常連のお客様から「バースデーケーキにローソクが入っていない」と電話がかかってきたのです。
「責任者として、出向いておわびをしなければ」と、お宅へおうかがいしました。

玄関口まで通していただき、謝罪をしました。
するとお客様が「このアルバムを見てもらえる?」とおっしゃるのです。
アルバムを開いてみると、二人のお子様が成長してゆく姿が写真に映しだされていました。
そうして、「私は子どもの成長の節目節目にサント・アンのケーキでお祝いをしてきたの」とおっしゃるのです。

お子様はサッカーをしておられたので、サッカーボールのカタチをしたデコレーションケーキを特注された日もありました、そんなふうに誕生日だったり、入学式だったり、卒業式だったり、ご家族の大事な日のたびにケーキを買ってくださっていたのです。

私は愕然とし、涙が溢れました。私も子育てをしてきましたから、記念日のケーキがどれだけ大切なものかがわかるのです。
それなのに、アルバムの1ページを台無しにしてしまって。お客様は私どもを叱りはしませんでした。けれども叱られるよりもつらかった。
「二度とこういう失敗をしてはいけない」と重く受け止めた、忘れられない1日でしたね。

▲バースデーケーキのローソクを入れ忘れ、「二度とこういう失敗をしてはいけない」と反省したという

「ヴァンドゥーズ認定」資格で得た「自信」

「ヴァンドゥーズ認定」の資格試験を受験して、意識は変わりましたか。

変わりました。
たとえば箱詰めの方法やスペーサー(ケーキの箱詰めの工程で、空いたスペースに入れてケーキが動かないようにする紙)の使い方など、それだけで一冊の本ができるほど技術は多岐にわたります。
受験するまで知りませんでした。認定試験ではケーキを入れた箱を目の前で揺さぶられ、「そんなことまでするの?」と驚きました。

そして、テクニックを憶えるだけではなく、「お菓子をなぜそこまでしっかり保護しなければならないのか」を改めて考えるきっかけになりました。

お客様は、どうしてお店に来てくださるのか。

それは「お菓子で誰かを喜ばせたい」「贈り物にしたい」「自分へのご褒美」など、幸せなひとときを求めているからなのです。
誰かの幸せを願って、決して安くない値段のお菓子を買ってくださる。
私たちは絶対にそのハッピーな気持ちを損なってはダメなのです。

パティシエがいくつもの工程を重ねてやっとできあがったお菓子を可能な限りそのままのかたちで、スピーディーに、お客様が召し上がるシチュエーションまで届けねばならない。
そのために私たちヴァンドゥーズは細心の注意を払い、衛生に心を配り、用意してさしあげる。それがいかに大事な心構えであるかを学ばせていただきました。

もうひとつ得たのは、「自信」です。

ヴァンドゥーズに認定されると、約200ページのルールブックがもらえるのですが、そこには、私が独学で憶えてきた接客のノウハウが好例として掲載されていました。
これは自信につながりましたね。
「私が泣きながら得た知見は、間違っていなかったんだ!」って。
それゆえに、金バッヂをつけたときの感動はひとしおでした。

▲左襟に輝く金バッヂはヴァンドゥーズ認定資格取得の証し

「お菓子は生き物」。だからこそ一秒でも早くお届けしたい

全日本ヴァンドゥーズ協会のチーフ・テクニカルリーダーとして、どのようなお仕事をしていますか。

パワーポイントを使った基本的な講義もしますが、多くは実地での研修ですね。
全国のお店におもむき、スタッフと同じように店頭に立ち「気づきの共有」をしてゆきます。
たくさんアウトプットした分、インプット(私自身の学び)も山盛り。ありがたいことです。

▲専門学校で実践的に教えるのも重要な仕事

誤解されがちですが、「マナー講師」ではないのです。型通りの礼儀作法だけでは現場はつとまりません。
接客に大切なのは「まごころ」ですから。

そのため
「この商品、この位置でいいの?おいしく見えてる?わかりやすい?」
など、お客様の視点で考えてもらうようにしているのです。
ときにはディスプレイを変えてしまう場合もあります。

私は「お菓子は生き物」だと思っています。フレッシュでおいしいお菓子を一秒でも早くお客様に召し上がっていただきたい。
でないとせっかくのお菓子が台無しになってしまう。

そのために、
どうすればお客様の心をグッと惹きつけられるのか。
購入していただけるのか。

「それを一緒に考えましょう」と伝えています。
いちばん重要なことは、現場スタッフが「自信をもつこと」。
心の余裕ができ、自然と笑顔が増え、丁寧に寄り添い、感じよい接客ができる、研修をした皆さんがそうなって欲しいと願います。
そのために、必要な知識や技術、情報、経験をお伝えし、ともに考え、より良いを目指しています。
全国の洋菓子店が元気で明るく強くお客様に愛される店でありつづけること。
そのお手伝いをすることが、洋菓子店で大きく育んでもらったご恩、私の使命として活動しています。

 

コロナ禍だからこそさらに重要になるヴァンドゥーズの役目

今後、ヴァンドゥーズの存在意義はどう変化していくのでしょうか。

新型コロナウイルスにより「販売」「接客」のあり方は大きく変わりました。
マスクをしていて笑顔をお届けできない。長くお話ができない。距離を取らなければならない。従来の方法論が通用しない。

けれども、だからこそ温かなおもてなしの気持ちがいっそう重要になってくるはず。
いま私はケーキハウスツマガリで接客の勉強をしています。
お客様のなかには緊急事態宣言が明けて真っ先にお店へやってきてくれた方がいました。
そして「お店を開けてくれてありがとう」とおっしゃるのです。私たちこそ感謝すべきなのに。
そんなふうに大勢のお客様から励ましのお言葉をちょうだいしました。

不穏で、気が滅入るできごとが多い時代です。人と人が気軽に出会えない昨今。

だからこそ、おいしいお菓子で笑顔になっていただきたい!
そして、まごころの接客で「うれしいな」「あったかいな」を感じていただけたら。
私たちヴァンドゥーズはお菓子で人を笑顔にし、心と心をつなげる尊い存在になると確信しています。

▲「コロナ禍の時代だからこそ、いっそうヴァンドゥーズの温かな接客が求められる」という

 

取材を終えて

ヴァンドゥーズ協会を起ち上げた稲村省三初代会長が「突出した才能」と絶賛したのが高木さんでした。

洋菓子業界と無縁だった高木さんが、パートから正社員へ、リーダーから店長へ、そして協会を代表するヴァンドゥーズへと進化。
そこにはプロであると同時に、「お客様の気持ちに寄り添う」という姿勢がつねにありました。

「プロの視点」と「ユーザーの視点」。どちらも兼ね備えているからこそ、お客さんの気持ちが理解でき、お客さんが望むサービスを瞬時に察知できるのではないか。
取材を通じて、そのように感じました。そしてそのバランス感覚は、洋菓子を提供するうえで、とても大事ではないかと思うのです。

●取材協力
❏全日本ヴァンドゥーズ協会
公式サイト:サイトはこちらから


 
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Writer
吉村 智樹
吉村 智樹
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京都在住で、ライターと放送作家をしております。 朝日放送『LIFE 夢のカタチ』構成を担当。
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