2023年の10月11日から13日にインテックス大阪で開催されたFABEX(ファベックス)関西2023において、アンバサドゥール・デュ・パン・デュ・ジャポンとリテイルベーカリー共同組合が主催する製パンコンクールが開催されました。
そこで行われた「コンクール・デュ・パン・トラディショネル」と国際技能五輪の日本代表選考会を兼ねた「最優秀若手ブーランジェコンクール」の様子をchefno編集部がレポートします。
目次
レスペクチュス・パニス製法でのバゲット・トラディションの製パン技術を競う「コンクール・デュ・パン・トラディショネル」
「第二回コンクール・デュ・パン・トラディショネル」出場者
鹿野 大介(クーロンヌジャポン)
川井 奈々子(ブーランジュリー パリゴ)
岸本 亜紀(ブーランジェリー・フリアンド)
池田 匡(ブーランジュリー グルマン)
奥 裕樹(ブーランジュリー ベルドール)
須貝 文智(Bakery Bank)
まず、開催1日目と2日目に行われたのは「コンクール・デュ・パン・トラディショネル」。
このコンクールは、レ・アンバサドゥール・デュ・パン*が提唱する、伝統的かつ健康にも配慮した「レスペクチュス・パニス」という製法で作ったパンのコンクール。
ハード系パンに定評のある名だたるベーカリーから、経験豊富なパン職人たちが挑みました。
【Les ambassadeurs du pains(レ・アンバサドゥール・デュ・パン)】
フランスパンの正統な技術の継承と美味しく健康によいパンの普及を目指して設立された協会。世界各国から代表チームがフランスに集まり、製パン技術の世界一を決める大会のひとつ「モンディアル・デュ・パン」を主催する。
競技ブース内では、パン職人たちが真剣な面持ちで、黙々とパンをつくっています。皆さん経験豊富なパン職人で、迷いもなく一心に競技を続けておられました。
今回で二回目を迎えるこのコンクールについて、モンディアル・デュ・パン世界大会の優勝者でもある谷口佳典シェフ(ブーランジェリー フリアンド)にお話を伺いました。
このコンクールは、フランスのアンバサドゥール協会が提唱している『レスペクチュス・パニス』という古き良き伝統的な製法を再構築し、それを日本でも広めていこうという狙いで、今回で第二回目を迎えます。
1キロの小麦粉に対してイースト1グラム、ルヴァンリキッド1グラム、低塩分で16℃~18℃の低温で長時間発酵させるなどのベースがあり、最終的なレシピは出場選手がそれぞれ考えて作るのですが、そのレスペクチュス・パニス製法で伝統的なパン(パン・トラディショネル)を作るというのがこのコンクールのルールになります。
レスペクチュス・パニス製法で作ったパンというのは通常のミキシングで作ったバゲットなどと比べて酸化が抑えられるんです。なので、小麦の味がより感じられますし、長時間発酵で塩味も感じられる、大変美味しいパンになります
競技が終了すると、選手の方たちのプレゼンテーションと試食審査が始まります。
各々の選手が、パンに凝らした工夫やパン・トラディショネルへの想いを伝えました。
レスペクチュス・パニス製法をベースにした伝統的なパンということで、なかなか違いを生み出しにくいアイテムながら、出場選手はいずれも名店で働く職人や他の製パンコンテストで優勝経験のあるシェフたち。どのパンも素晴らしく、審査員の方たちも採点に苦労されている様子でした。
「第二回コンクール・デュ・パン・トラディショネル」」優勝者は奥 裕樹シェフ
表彰式で最後に名前を呼ばれた瞬間、それまで緊張した面持ちで立っていた奥シェフの表情がほっとほどけました。 昨年行われたモンディアル・デュ・パン日本代表選考会では悔しい結果に終わった奥シェフですが、今回みごとに雪辱を果たしました。
とにかく優勝したかったので、こうして優勝することができて本当に嬉しいですし、光栄です。
バゲットには特に思い入れがあって、お店のお客さまにも美味しいバゲットを食べてもらいたい、バゲットの美味しさをもっと知ってもらいたいという思いでやっていますので、今回の優勝もバゲットを食べてもらういいきっかけになるんじゃないかと思います。
普段お店をやっているなかで大会の練習をするのも大変なのですが、小学生の頃から夢は『世界一のパン屋になること』なので、次の大会になるかは分かりませんが、モンディアルの代表選考会にもチャレンジしたいと思っています。
未来のパン業界を背負って立つ職人を育てる。第七回最優秀若手ブーランジェコンクール」
「第七回最優秀若手ブーランジェコンクール」出場者
吉田 美咲(Zopf)
梨本 奈々美(国際調理製菓専門学校)
坂田 竜一(パン工房フルニエ)
滝澤 和花(モアザンベーカリー)
「技術の継承」をミッションのひとつに掲げるアンバサドゥール協会の、こちらも重要な意味を持つ「最優秀若手ブーランジェコンクール」。今回は国際技能五輪の日本代表選考会も兼ねた、出場選手にとっては非常にプレッシャーのかかる大会となりました。
出場するのは22歳以下の若きパン職人たち。
たくさんのギャラリーと先輩職人たちの前での競技とあって、普段どおりの力をどれだけ発揮できるかが問われます。
そのハードな労働環境から、離職率が高く、常に人手不足に悩まされているパン業界。懸命に競技を行う若手職人たちの姿に、若手育成に力をそそぐアンバサドゥール協会のメンバーたちも熱心にアドバイスを送ります。
谷口シェフが世界大会で優勝したチームではコーチを務めたブーランジュリーパリゴの安倍竜三シェフにコメントをいただきました。
今回で七回目を迎える若手ブーランジェコンクールですが、年々レベルが上がってきている印象がありますね。
今回のコンクールは技能五輪の日本代表選考会も兼ねていて、そちらはもともと専門学校生の枠で行われていたんですが、より広くパン業界全体から送り出そうということで、今回の形になったんです。若いうちから世界の舞台で戦うというのは、すごくいい経験になるんじゃないかと思います。
パンの出来だけでなく、厨房の後片付けまで審査の対象になるのがアンバサドゥール協会のコンクールの大きな特徴。ただパンを作るだけでなく、実際の現場で求められる「プロの働き手」としての能力も試されます。
慣れない環境と限られた時間のなかでいくつものアイテムをつくらなければいけない焦りや緊張もあり、ある選手は、あやうく生地にクープを入れずに窯入れしてしまいそうになるというシーンもありました。
おそらく初めての経験と思われるピエス作品ではどの選手も組み立てに苦戦している様子。
部品の接着に使用する素材は様々で、ライ麦粉を水で溶いたものを接着剤として使い、なかなか部品が安定せず苦労している選手もいれば、水あめを使って接着したあとエアスプレーで素早く固定させるという、若手とは思えないテクニックを駆使する選手も。
「第七回最優秀若手ブーランジェコンクール」」優勝者は
緊張とプレッシャーのなか、6時間の競技を戦い抜いた4人の若手パン職人たち。
競技終了の合図とともに、安堵の表情が浮かびます。
プレゼンテーションと試食審査ではマイクを向けられ緊張しながら各々のパンのポイントを説明。若手とは思えないパンの出来に、審査員も「すぐお店で出せるクオリティ」と感心していました。
そして結果発表の時。どの選手も緊張した面持ちで自分の名前が呼ばれるのを待っています。
優勝したのは、モアザンベーカリーの滝澤 和香選手。努力が報われ優勝した喜びから、その目には涙がにじんでいました。
―優勝おめでとうございます!
仕事終わりに毎晩練習してきたので、ベストを尽くすことができて良かったです。そして、それが最高の結果として出たのでとても嬉しいです。
クロワッサンの製造で練習のときと使うバターが違ったので、折込のところで苦労しましたけど、全体を通して比較的スムーズに作業ができて、最後の清掃まで余裕を持って終われたのでそこが良かったと思います。
そしてちょうどこのころ、フランスのナントでは10月22日~25日にモンディアル・デュ・パン世界大会が開催されていました。日本代表として出場したのは高橋佳介シェフとアシスタントの松永 もも子選手。コム・ンの大澤秀 一シェフ、フリアンドの谷口 佳典シェフに続き、日本の三連覇に期待がかかっていましたが、結果は惜しくも4位でした。
この大会では上位5カ国のうち4カ国がアジアという、アジア勢の活躍が際立った大会でした。世界全体で職人たちの製パン技術が上がってきているパン業界。つぎに世界に挑戦する職人は誰なのか。次回のモンディアル・デュ・パン日本代表選考会が楽しみです。
●取材協力
レ・アンバサドゥール・デュ・パン・デュ・ジャポン
公式サイト:https://www.ambassadeursdupain.jp
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/lesambassadeursdupaindujapon/