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2026.07.28

「こうありたい」を諦めない。サント・アンに学ぶ女性の働き方|信川さんが語るキャリアとの両立

サント・アン

以前にchefnoでご紹介した「サント・アン」塚口社長への取材時、話題は女性の働き方にもおよびました。パティスリー業界に従事する女性の割合は年々増加傾向にあり、専門学校では7~8割を女性が占めています。一方で、プロの現場において中堅以上のパティシエとなると、依然として男性の割合が高いのが現状です。これは、女性が年齢を重ねるにつれて結婚や出産といったライフステージの変化を迎える中で、離職率が高くなる傾向があることを示唆しています。

そんな状況のなか、サント・アンでは、5年前はスタッフのほとんどが男性でしたが、いまはそれが逆転し、ベテランもふくめ9割が女性スタッフだそう。女性にとって働きやすい環境が整っているサント・アンで、創業間もない頃から長きにわたってお店で働いてきたのが、ゼネラルマネージャーの信川浩子さんです。
販売員のアルバイトからはじまり、販売のエキスパートとなり、いまはゼネラルマネージャーとしてサント・アンの運営を支える信川さんに、仕事との向き合い方や、子育てとの両立などについてお伺いしました。

販売のアルバイトから、気がつけば20年

サント・アン

信川浩子さんは、長年にわたってサント・アンの成長を見届けてきたスタッフのひとり。結婚・出産・育児を経験しながらもサント・アンで継続的に働きつづけ、また、男女雇用均等法をテーマにした講演会に招かれるなど、社外にも活躍の場を広げる信川さんは、女性のキャリア形成におけるひとつのロールモデルともいえます。

信川さんが「サント・アン」で働くことになったいきさつや、これまでの道のりを教えてください。

信川さん
「高校を卒業する時に、演劇がやりたかったわたしは、進学も就職もしなかったんです。それでアルバイトとして始めたのが、サント・アンでの販売員のお仕事でした。人見知りで、接客も初めてだったので、はじめの頃は苦労しました。ケーキの値段もなかなか覚えられず、ラッピングにも時間がかかるし、みなさんに迷惑をかけっぱなしでした」
それでも信川さんは、初代の塚口シェフ夫妻や周りのスタッフの方たちに温かく、ときに厳しく見守られながら、サント・アンでの仕事と演劇に没頭。はじめは不慣れだった販売の仕事もエキスパートの域に達し、気が付けば20年が経っていました。

サント・アン

▲1990年頃の写真。前列左から2番目が信川さん(提供:サント・アン)

信川さん
「その頃、父が亡くなったんです。わたしはまだアルバイトをしながら演劇を続けていたんですけど、当時独身だったということもあって、父の死に直面して『この先ずっとひとりでいるのだろうか』と不安になっていた時に、ちょうど正社員のお話をいただいたんです」

出産と育児を経て再びサント・アンへ

2007年から正社員として働き始めた信川さんは2009年に結婚、2年後に第一子を妊娠。会社を辞める潮時になるだろうと思いながら上司に妊娠を伝えると、返ってきたのは「またすぐ戻ってきてくれるんでしょ?」という言葉でした。会社に必要とされていることに喜びを感じた信川さんは産休・育休を取得し、一年後に再びサント・アンへと戻ってきました。

信川さん
「ただ、当時は百貨店に常設する店舗の店長でしたので、子どもの体調不良などで急なお休みや早退をいただくことが会社に迷惑をかけてしまうのではと考えてしまいました。そういう部分で、正社員として戻ることはわたしのなかで心理的ハードルが高かったので、パートとして戻りたいということを会社にお願いしました」

周りの正社員に対して、気を遣う部分があったんですね。お気持ちはよく分かります。そのほうが心理的には楽になりますよね。

信川さん
「ただ、パートとはいっても仕事の内容は店長として以前と変わらなかったので、現社長の紗希さんから『ちゃんと正社員のお給料もらってください』と言っていただいて。それでわたしもあらためて気持ちを引き締めて、ふたたび正社員にしていただくことになりました。子供もある程度大きくなってはいましたが、会社の定時が18時半のところを16時で帰らせていただいて、少しずつ伸ばして今は17時に帰らせていただいています」

サント・アン

▲よき理解者でもある現社長の塚口紗希さん(右)と

「まかしといて」と支えあえる職場

周りの方の理解という面ではいかがですか?

信川さん
「社長の紗希さんをはじめ、みなさんとても友好的で、協力してくださいました。何度もシフトを代わっていただくことがありましたが、みなさん『大丈夫!まかしといて』と笑ってくれるのでこちらとしてもとても気持ちが休まりました。

以前にコロナ禍で小学校が休校になった時に、わたしは毎日小学2年生の息子を連れて出勤していたのですが、その間も息子は食堂で賄いのスタッフにみてもらいながら勉強したり、ゲームをしたりして、おかげさまで無事過ごせましたし、私も安心して働くことができました。

ほかにも男性スタッフのお子さんの保育園が見つからなくて仕方なく会社まで連れてきていた時期があったんですけど、その時も紗希さんが遊んであげたり、私たちで面倒をみたりしていた時もありましたね」

温かい職場の理解に応えようと仕事にまい進し、現在はゼネラルマネージャーとして、サント・アンを支える重要なピースとして、常に会社のことを考えながら業務に取り組んでいる信川さん。3年前には、「仕事で悩んでいる人の相談に乗れるようになりたい」と思い、キャリアコンサルタントの資格を取得するなど、仕事の幅を広げています。

サント・アン

現在はどんな業務をされているのですか?

信川さん
「いまは人事関連の業務だったり、ホームページの運営や、月一回発行している広報誌を紗希さんと一緒に作ったりと、いろいろです。土日や繁忙期には売り場に出ることもあります。あとは、キャリアコンサルタントの資格を生かして、『花咲き面談』という名前で、リーダー職のスタッフを中心に面談者となって、スタッフたちとペアを作って仕事でやりたいことや困っていることを話し合う取り組みを始めています」

キャリアコンサルタントの資格をしっかりと生かされていますね。

信川さん
「キャリアコンサルタントだと相手の話を聞いてアドバイスをしたりするのですが、花咲き面談では相手に寄り添うように一緒に答えを見つけていくような感じなんです。隣にいるだけで相手が自然と話したくなる。そんな面談を目指しています」

サント・アン

▲人に寄り添い、聞くことがいまのテーマだという信川さん。スタッフとの細やかなコミュニケーションも忘れない

サント・アン

▲月一回発行のサント・アンの広報誌「THE LETTER」季節の商品情報や、スタッフ紹介の記事などが記載されている

ひとりで抱え込まなくていい。周囲と協力しながら前に進む働き方

子育てをしながら働くことについて、どのような思いがありますか?

信川さん
「子育て中は、子供と離れている時間というのもある意味大切だと思います。ずっと子供と一緒にいると、ひとりで悶々と悩んでしまう人が多いので、切り離して仕事やほかのことに熱中できる時間をつくる。私は販売という仕事が好きで、お客様と関わっている時間というのがやっぱり私らしくいれる大切な時間なんです。だからこそ、仕事で個人としての自分を満たしてあげることで、子供に向き合った時も100%でいられると思うんです」

お子さんと離れることに葛藤を感じるお母さんも多いと思います。

信川さん
「そうですね。私の場合は義母が子供を預かってくれたりして、とても助けてもらいました。子供を預けることにどうしても罪悪感みたいなものを持ってしまうこともあると思うんですけど、旦那さんはもちろん、自分の親や義理の親など、頼れるならどんどん頼ったほうがいいと思います。ひとりで全部をちゃんとしようと思わないで、周りに支えてもらいながら続けていくことが大切だと感じています」

サント・アン

▲食堂兼休憩室でのひとコマ。若手・中堅・ベテランに壁がなく、家族のような雰囲気がサント・アンの社風

お店の女性スタッフたちを近くで、同時に遠くから見守りながら、どういったことをアドバイスしたいですか?

信川さん
「これまで長く働いてきて、妊娠を機にお仕事をやめる人を多く見てきましたし、自分もかつてはそういう考えを持っていました。ただ、自分の人生を自分らしく生きるためには社会的に自立しているというのはとても大事なことだと思うんです。産休・育休制度だけでなく、パティスリー業界としてもまだまだ未成熟な部分もあると思いますが、環境を嘆くだけでなく、『自分はこうありたい、こうしたい』と強く思える女性がこれからもっと増えてくれるといいなと思います。そしてそういうスタッフをわたしも全力で支えたいと思っています」

サント・アン

取材を終えて

取材を通して印象に残ったのは、誰かが無理をして成り立っている職場ではなく、個人のあり方を尊重して寄り添う「サント・アン」の職場づくりでした。互いが支え合い、誰かが助けを必要とする時には「大丈夫、まかしといて」と自然に声がかかる。
そんな職場を実現できるのは、ルールとしての取り決めではなくて、塚口社長の人柄を端緒とする、コミュニケーションの積み重ねから生まれる「日常の関係性」があるからではないでしょうか。

人材定着や女性活躍が課題として語られ、制度や環境の課題もあるなかで、信川さんの言葉どおり、「こうありたい」と思える人を増やすこと。そして、それを支える環境を皆でどうつくるか。サント・アンの取り組みは、個人の意思を尊重し、それを支える、これからの組織のあり方のひとつを示しています。

【取材協力】
サント・アン

サント・アン
住所:〒669-1535 兵庫県三田市南が丘2丁目7-10
営業時間:10:00-18:00
定休日:火曜日
公式HP:http://www.saintan.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/patisserie_saintan/
Facebook:https://www.facebook.com/saintan3101

 

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Writer
chefno編集部
編集長&映像制作 コウヘイ
chefno編集部
編集長&映像制作 コウヘイ
映像制作とフランス語関連の記事担当。18年のフランス在住経験あり。フランス生活で得た気づきやエスプリを生かして面白い&センスの良いコンテンツづくりを目指します!好きなお菓子はダントツでタルトタタン。
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