2022年“スイーツを一人で”または“友人と”とっておきのデザートを楽しむ人が増えていることから、目の前で出来立てのデザートを食べることができる「カウンターデザート」がトレンドに。出来立てだからこそ感じられる食材の持つ瞬間的な香りや繊細な食感は格別です。
そんなカウンターデザートのお店が昨年から続々と増えている中で、今年注目のお店が神楽坂にOPEN。“日本茶”をテーマに、茶葉が持つ魅力を引き出す「VERT」(ヴェール)でいただくことができる、最高のデザートコースの秘密を取材してきました。
目次
退廃的で無機質な空間に咲く、お茶の青々しさ
最寄り駅は「飯田橋駅」または「神楽坂駅」。神楽坂のわき道を入り、食通が通う名店ぞろいの飲食店がひしめく裏路地へ。駅から徒歩約5分程度の立地のいい場所にあります。
ビルの2階にある店舗は、真黒な扉を開けばシックであり、シェフのこだわりのカウンターが。カウンター席ながら、通路も広く客席もそれぞれ空間がかなりゆったりしているので、“お茶”をテーマにしていることもあり、静かにそして楽しく、思いのままにお茶を楽しめるような、デザイン性が優れた空間になっています。
「飾らないような、廃れて、崩れた荒野のような店内に、平和的な色を表す緑を差し色にしました。空間は私自身で、“お茶”という“緑”が生命力を発揮して、平和=ひとときでも和やかな気持ちを、楽しい時間を表すようなイメージを考えて作りました。」そう話すのは田中シェフ。
こだわりの空間の至るところに、茶わんや茶杓(ちゃしゃく)や茶筅(ちゃせん)といった小道具も主役に。
名店出身の若きシェフの個性と、ソリッドなデザート
このお店でオーナーシェフをつとめるのは、新宿のカウンターデザートのお店「ジャニス・ウォン」、六本木のモダンフレンチのお店「ジャン・ジョルジュ トウキョウ」、そして前職として上野毛にあるグラスデザートの名店「ラトリエ・ア・マ・ファソン」で腕をふるった田中俊大シェフ。
店名の由来は、フランス語でthé vert=「緑茶」を表します。仕事からの帰宅途中に思いついたという店名。「ヴェール」というフランス語にした理由は、田中シェフがこれまでに洋菓子の技術を学んできて、その洋菓子の技術や知識を持って“日本茶の新知見”を見出そうと思ったから。
そんな田中シェフが作るデザートコースは、日本茶をテーマにしたデザートのペアリングです。
お茶の種類から、深く知る日本のお茶文化とそのコク
お待ちかねのコース料理の紹介です。「VERT」のデザートコースは豊富な茶葉のラインナップを楽しめる「日本茶」と、デザートの5品・5杯のペアリングコースになっています。それぞれデザートに合わせたお茶は、産地や品種も異なり、温かいお茶から水出しにしたものなど、様々な表現を持って、そのお茶の持つ魅力を田中シェフが引き出してくれます。メニューにも、当日のお茶の種類や農家さんの情報が。
特に田中シェフが惚れた福岡県の「八女抹茶」をベースにデザートを構成していくことが多く、深みとコク、香りとその表現の幅の広さはお茶の新たな楽しみ方や魅力に気づくことができます。
田中シェフのスペシャリテ「蜜柑と煎茶」が思い出させる「日常茶飯事」の趣き
デザートコースの中でも、ぜひ食べていただきたいのが「蜜柑と煎茶」。田中シェフが初めて作った、思い入れのあるお茶のデザート。
蜜柑をエルダーフラワーの香りをまとわせ、ジュニパーベリーを使った
パルフェと穂紫蘇の組み合わせ。そこに合わせるお茶も繊細なもの。数ある種類の中から「白折」を使用し、茶葉持つ旨味と甘み、苦みが同時に鼻に抜けていくような豊かさです。
プリッとした蜜柑はジューシーで、煎茶の香りがぎゅっと中にとじこめたかのよう。このデザートの背景には、古くから使われている言葉「日常茶飯事」に秘密が。「毎日のありふれた事柄」を意味する言葉には、お茶が日本人の生活の中に根付いている飲み物であり、文化であることが紐づけされています。田中シェフが幼少期に、家族で団らんしながら煎茶をすする、そんな風景を一皿に表現。「昔良く見慣れた光景や背景に想いを馳せながら召し上がっていただけたら」と田中シェフ。
日本茶のテーマの背景にあるものとは?
なぜお茶をテーマに、アシェットデセールを始めようと思ったのか、田中シェフにお話を伺うことができました。
田中シェフ「子どものころから、日本の歴史について興味がありました。教科書を開いてはなぜこの武将はこの戦いに負けたのか、なぜここで死を決意したのかなど常に考えていて。パティシエとして今生きている中で、およそ1200年の歴史がある“日本茶”に惹かれたのは、ある意味必然だったのかもしれません。
特にお茶に興味を持ったのは福岡県の朝倉にある山科茶舗の3代目山科康也さんのお話を聞いてから。日本茶をどうやったらもっと世の中に認知してもらえるか。作り手が世代交代し若くなり、新しくなっていく日本のお茶を、どうやって多くの人に楽しんでもらえるかを考えました。どこか敷居が高いと思われがちなお茶を、スイーツという分野で多くの人にその魅力を楽しんでもらえるのではないかと考えたんです。パティシエとして、どうやったら“作り手が一生懸命作った最高のお茶”を恩返しできるのか、それを考えながらデザートを作っています。」
蒸らし、煎じ、冷やし…表現で変わる、茶葉が持つ様々な顔とその魅力
華やかな見た目とはかけ離れた茶葉。そんな茶葉が秘めるポテンシャルは想像のはるか上を行く、と田中シェフ。茶葉を煎じたもの、水出しし冷やして旨味と甘みを引き出しものなど、実際のコースの中ではさまざまな茶葉の美味しさを楽しむことができます。季節で変わる茶葉の顔や種類も、楽しみ一つ。
お茶が好きな方々も、茶室のように静かな空間でお茶を楽しめます。
デザートコースは完全予約制。平日の夜は、アラカルトメニューもスタート
そして、最後にお店のシステムの紹介。デザートコースは、12時・15時の2部制となっており、アラカルト営業は19時〜21時(火・金・土)と、すべて完全予約制。予約方法は、公式InstagramのTable Checkからとなっています。
アラカルトをやろうと思ったきっかけを伺うと、「コースまでいかなくても、日本茶スイーツに興味がある、試しに一皿食べてみたい、そう思って頂ける方にお越し頂きたく準備しようと考えました。」と田中シェフ。
今後は日本を代表する日本茶スイーツ店を一つの目標としているそうで、日本茶とデザートのペアリングぜひ楽しんでみてほしいです。
●About Shop
VERT
東京都新宿区津久戸町3−19 eLCCS神楽坂津久戸町2階A区画
営業時間:19:00~21:00(アラカルト)
定休日:水・木曜日(不定休)