これまでの道のり
はじめまして。
ベルギーで、パン職人として活動している、若杉あかねと申します。
このたびベルギーより「ブーランジェ通信」を担当することになりました(記事冒頭写真の一番右が私です)。まずは私自身について少しご紹介したいと思います。
私は父の仕事の関係でベルギーのルーヴァンに生まれ、現在までベルギーで育ちました。小学生から中学生にかけては、平日は現地の学校へ通い、土曜日は日本人学校補習校にも通っていたため、振り返るとかなり忙しい学生生活を過ごしていました。
ベルギーは中高一貫校がほとんどで「セカンドスクール」と呼ばれる学校に6年間通います。料理が大好きだったわたしは、中学3年生のときに、普通科の中学から調理課程がある学校へ転校し、卒業と共に調理師免許を取得しました。高校は卒業したものの、ベルギーでは学費が無料(!)なのもあり、もう少し高校生でいたいと思い(笑)、同じ敷地内にある製菓・製パンの学科に編入しました。
19歳でその課程を修了し、続けて1年間、チョコレート・アイスクリーム・飴細工の専門コースに通いましたが、ついに高校生でいられる期間のリミットとなり、今年の6月完全に高校を卒業しました。同じキャンパス内に、料理コース、製菓・製パンのコースが隣接していて、さらにチョコレートのコースを続ける選択肢があるのは、とても恵まれた環境だったと思います。
製菓製パンの専門学校では、素晴らしい先生方に出会い、さまざまなコンクールに挑戦する機会をいただきました。ベルギー・フランス語圏の高校生を対象に製菓製パン技術を競う「Wannet(ワネ)」というコンクールでは第1位を獲得しました。そして、ベルギーで毎年行われているクロワッサンのコンクール「Croissant d’Or(クロワッサン・ドール)」では自身のクロワッサンが審査基準を満たし“金のクロワッサン”に認定されるなど、多くの経験を重ねることができました。これらの成果は、先生方のご指導と温かい支えのおかげだったと、心から感じています。
コンクールを通してつかんだパンの世界大会「モンディアル・デュ・パン 」への出場権
そして、私の人生を大きく変えたのが、ベルギーの高校生を対象に製パン技術を競う「Aspirant Baker(アスピラント・ベイカー)」というコンクールです。
「アスピラント・ベイカー」は、パンの世界大会「モンディアル・デュ・パン」のベルギー代表チームの一員となるための重要なコンクールでもあります。 このコンクールでファイナリストに選ばれた8名の高校生には、その年のモンディアル・デュ・パンの国内選考会に「助手」として参加できる権利が与えられます。
私はそのコンクールで第1位を獲得しました。

▲Aspirant Baker表彰式での私
ベルギーのシステムでは、 「モンディアル・デュ・パン 」に助手として参加できる権利を得たファイナリストたちは、自らシェフやコーチを見つけ、チームを組んでベルギー予選に挑戦します。
私は、通っていた高校の先生でもあり、これまでのすべてのコンクールでコーチを務めてくださった Serge Alexandre(セルジュ・アレクサンドル) 先生と Olivier Collet (オリヴィエ・コレ)先生に、世界大会でのシェフとコーチを依頼し、ベルギー代表としての準備が始まりました。
先生方は、前回(2023年)の「モンディアル・デュ・パン 」にも参加されており、セルジュ先生はコーチとして、オリヴィエ 先生はシェフとして出場されていました。今回はその役割を入れ替え、チームとして新たな挑戦に臨むことになりました。 実は、ベルギー国内大会では、私たち以外に挑戦チームがいなかったため、私たちのチームは、ほぼ自動的に代表チームになることができました。今年1月、審査の代わりにデモンストレーション形式で作品を発表するという過程を経て正式にベルギー代表チームとして選出されました。
こうして、ベルギー代表チームの一員として世界大会への挑戦をスタートしました。
日本の選出方法と違い、ベルギーは助手がシェフやコーチを指定できるというメリットがある代わりに、助手は、自分と組んでくれるシェフやコーチを見つけられなければ 「 モンディアル・デュ・パン 」に参加できないというデメリットもあるということです。
大会の練習は主に学校で行っており、先生方も授業がある中、その授業の合間を縫って一緒に練習しました。
ベルギーでは7~8月のほぼ丸々2か月近くが夏休みになるのですが、当初はその夏休み中ほぼ毎日練習を続ける予定でした。日を追うごとに問題点が改善されていくのを実感し充実した日々でした。
しかし、さすがにリフレッシュも必要だと感じ、一週間休みをとり、スペインに行きました。 というのも、今回の「モンディアル・デュ・パン 」では新たに「当日のくじ引きで選ばれる6種類のブリオッシュ」という課題が加わり、その中のひとつであるスペインの伝統的なパン 「ケマド(Quemado)」 に苦戦していたからです。私は実物を見たことも食べたこともなかったので、正しいイメージを掴むことができていませんでした。 そこで、現地のパン屋で本場のケマドを食べ、手に取り、香りや食感を自分の感覚で確かめにいきました。
▲スペインで買った本場のケマド
▲競技⽤に私たちが制作したケマド
この休暇のおかげで、ベルギーに戻ってからは自分が納得できる理想のケマドを作り上げることができました。 「モンディアル・デュ・パン」大会当日のくじ引きで「ケマド」が選ばれなかったのはとても残念でしたが、スペイン滞在中には、コンクールの課題パンである健康パンに使用する素材も見つかり、とても充実した学びの多い旅となりました。
「 モンディアル・デュ・パン 」 大会当日
「 モンディアル・デュ・パン 」本番前日の10月18日、 私たちはベルギーから約600km、車で7時間半かけて大会会場があるフランスのナントへ向かいました。
大会には全部で19の国と地域から代表チームが参加しており、会場に到着すると、世界各国の選手たちの熱気に包まれているのを感じました。 さまざまなチームとすれ違うたびに少し緊張もありましたが、それは不安ではなく、むしろ心が高鳴るような“良い緊張感”でした。 これまで積み重ねてきた努力を信じ、いよいよ自分たちの力を世界の舞台で試すときだと実感しました。
次回へ続く。
ベーカリーパートナー編集部