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2025.04.23

第18回「グラス(氷菓)を使ったアシエットデセール・コンテスト」レポート

アシェットデセールコンテスト

パティシエたちがアシエットデセールの腕を競う、全国洋菓子工業会主催による「グラス(氷菓)を使ったアシエットデセール・コンテスト」が、2025年4月15日と16日の二日間、東京ビッグサイトで行われました。
2時間30分の競技時間のなかで、ガストロノミージェラートと、グラス(氷菓)を組み入れたアシエットデセールを製作して競うこのコンテストに、ホテルやパティスリーから12名の職人たちが挑戦しました。

アシェットデセールコンテスト

12名の出場選手

出場選手は以下のとおり。
長嶋 駿(MFJ)/ 山元 雄太(株式会社明治記念館C&S)/ 大谷 美侑(ウェスティンホテル東京)/ 宮内 啓輔(ホテルメトロポリタン丸の内)/ 田中 晴香(パティスリー アンカド)/ 渡部 慶子(ホテルインディゴ渋谷東京)/ 市原 健太郎(ホテルグランヴィア大阪)/ 肥田野 雄紀(アリエッタ デル ジェラート)/ 吉田 有希(Lyrique)/ 菅生 吉信(リバーリトリート雅樂倶)/ 森口 昌康(ホテルアソシア高山リゾート)/ 廣畑 宏輔(WEEKEND HOUSE)

 

アシェットデセールコンテスト

▲長嶋 駿選手(MFJ)

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▲山元 雄太選手(明治記念館C&S)

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▲大谷 美侑選手(ウェスティンホテル東京)

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▲宮内 啓輔選手(ホテルメトロポリタン丸の内)

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▲田中 晴香選手(パティスリー アンカド)

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▲渡部 慶子選手(ホテルインディゴ渋谷東京)

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▲市原 健太郎選手(ホテルグランヴィア大阪)

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▲肥田野 雄紀選手(アリエッタ デル ジェラート)

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▲吉田 有希選手(Lyrique)

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▲菅生 吉信選手(リバーリトリート雅樂倶)

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▲森口 昌康選手(ホテルアソシア高山リゾート)

アシェットデセールコンテスト

▲廣畑 宏輔選手(WEEKEND HOUSE)

ガストロノミージェラートへの挑戦

選手たちは3グループに分かれ、各グループ4選手はそれぞれ5分置きに競技をスタート。これは溶けやすいアイスを適切なタイミングで試食審査するため。開始の合図とともに、選手は2時間後に提出するガストロノミージェラートに取り掛かります。普段使わないような素材をアイスと調和させ、いかに作品に落とし込むかがポイントとなります。選手たちは玉ねぎやホワイトアスパラガス、青紫蘇などを使い、思い思いにジェラートを製作していきます。

今回審査員として参加していた、第4回のアシエットデセール・コンテストの優勝者で、アイスクリームとチョコレートのワールドカップ(FIPGC)では日本代表のチームキャプテンとして出場、優勝に導いた経歴を持つ江森宏之シェフ(メゾン ジブレー)に、ガストロノミージェラートについてお聞きしました。

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▲江森宏之シェフ(メゾン ジブレー/写真左)と茂垣綾介シェフ(アクオリーナ/写真右)

江森シェフ

ガストロノミージェラートは、イタリアの料理界では10年ほど前からブームになっている、料理の中に取り入れるジェラートのことです。冷たい温度や溶ける感覚など、新しい表現方法として注目されています。ガストロノミージェラートに対する選手たちの理解度も年々上がってきていると思います。メインとなる素材をアイスにどれだけ調和させられるか。ただのミルクジェラートを作って、横に野菜を添えましたっていうのは、ガストロノミージェラートとしては認められないかなと思います。そして何より、美味しいか美味しくないか。誰もが食べて受け入れやすいものになっているかどうかがポイントだと思います。

アシェットデセールコンテスト

▲市原選手(ホテルグランヴィア大阪)の玉ねぎを使ったガストロノミージェラート「To you ~新玉(あらたま)に込めた想い出~」

わずかな温度帯での勝負

フリーザーから出した時点でどんどん溶けていってしまうアイスを、いかに審査されるタイミングに合わせて適切な温度帯で出せるかという点は、このコンテストにおける大きなポイントであり、最も難しい問題ともいえます。そのため、選手は制限時間間際に猛スピードで仕上げ作業を行う必要があります。何人かの選手が、制限時間内に人数分の作品を完成させることができずに終わる場面も見られました。

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▲いかに適切な温度帯で提供できるかが勝負のカギ

皿の上で組み立てる世界

アシェットデセールコンテスト

ガストロノミージェラートを提出した後は、選手たちは残りの30分、アシエットデセールに取り掛かり、お皿の上にすべてを出し尽くします。
今大会、ひときわ注目を集めていたのは市原健太郎選手(ホテルグランヴィア大阪)。過去2回、第13回と第15回の優勝者であり、今回の優勝候補筆頭でもあります。市原選手は圧倒的な速さと手際の良さで次から次へと性格の異なるパーツを作成し、作業を進めていきます。その多彩な仕事ぶりを、審査員のシェフたちもブースの前に集まり真剣な面持ちで見つめていました。

優勝経験者はもうひとり。肥田野 雄紀選手(アリエッタ デル ジェラート)は第5回の優勝者。競技中、ミキサーが動かないトラブルに見舞われながらも、慌てることなくブレンダーをテープで固定して乗り切るなど、優勝経験者としての場慣れした強さを見せつけました。

アシェットデセールコンテスト

▲演出力も際立った市原健太郎選手(ホテルグランヴィア大阪)

今回、審査員のひとりに、2023年の「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」世界大会でチームの一員として優勝の栄冠を手にした高橋萌シェフ(エキリーブル)の姿がありました。世界を知る高橋シェフからも、アシエットデセールで審査員にインパクトを与えるためのアドバイスが語られました。

アシェットデセールコンテスト

▲試食審査をする高橋萌シェフ(エキリーブル/写真左)と西川広三シェフ(帝国ホテル 東京/写真右)

高橋シェフ

私も、最初にアシエットデセールを始めた頃は、ただケーキをお皿に置いて飾りつけしたようなものを作っては失敗していました。私の師匠でもある德永純司シェフ(エキリーブル)から『こんなのアシエットデセールじゃない』と言われた思い出があります(笑)。

 

アシエットデセールで大切なのは、組み立てたものをお皿に置くのではなくて、お皿の上でデセールを組み立てるという意識を持つこと。あと、審査員にインパクトを与えるには、作品を構成する温度帯が2つ以上あるといいと思います。例えば温かいものと冷たいもの、さらに冷たいものと、温度帯で構成に違いを出すと、味や食感にメリハリが出て、奥行きのある作品になると思います。

アシェットデセールコンテスト

波乱の最終結果

アシェットデセールコンテスト

すべての作品の審査が終わり、いよいよ表彰式。審査員長の山本隆夫シェフ(クラブハリエ)から選手たちへ、今大会の所感と、実質的なアドバイスが送られました。

山本シェフ

年々レベルが上がっているのは間違いのないことです。ただ、褒めるだけでも仕方がないので、更なる改善を期待してのコメントとして聞いていただきたいんですけど、今回は、正直に言って、飛びぬけて『これ』といった優勝作品はなかったです。味覚の審査ではそれほどでもなかったけど、他の衛生点や作業点などが良く、総合点で優れていた方が優勝という結果になりました。

 

このコンテストは、タイトルにもあるとおり、『グラスを使ったアシエットデセール』なのですが、作品のなかでアイスが脇役になっているものもありました。あくまでアイス中心にすることを意識してもらうと、もっと点数も伸びるのではないかと思います。あと、このコンテストでは5分置きにみなさんの作品を審査するのですが、タイムオーバーで提出が遅くなると、タイムオーバーの減点だけでなく、その作品を審査する時間も少なくなるということなので、十分注意していただければ良いかと思います。

アシェットデセールコンテスト

▲審査員長の山本隆夫シェフ(クラブハリエ)

注目の結果発表では、第五回優勝者である肥田野選手が第三位、そして過去2回の優勝経験があり、今大会の本命と目されていた市原選手は準優勝という結果に。そして二人の強者をおさえ、見事優勝に輝いたのは森口昌康選手(ホテルアソシア高山リゾート)でした。
なんと森口選手は、普段はパティシエではなく料理人というから驚きです。ガストロノミージェラート賞も同時受賞した森口選手に、優勝の喜びを語っていただきました。

アシェットデセールコンテスト

▲優勝した森口昌康選手(ホテルアソシア高山リゾート)

森口選手

フレンチの料理人として出場したなかで、ガストロノミージェラートで賞を獲れたことは大きな自信につながります。一方でパティシエの方たちのアシエットデセールにはまだまだ及ばないということを受け止めないといけないのですが、ショックではありますね。昨年優勝された山本桃歌さんを見習って、作業だけでも100点満点を目指そうと思って臨んだので、そこが評価されて優勝を勝ち取れたことは嬉しいです。ただ、審査員長の山本シェフからは『デセールの味覚審査は4位くらいだったよ』と言われ、『優勝はしたけど一番ではない』という気持ちですね。やはり美味しいものを作るコンテストなので

アシェットデセールコンテスト

▲森口選手のアシエットデセール作品「赤ワインとリンゴのデクリネゾン サングリア風」

ガストロノミージェラートについて

森口選手

フォワグラと朴葉味噌を使ったジェラートをマカロン生地でサンドしたものを作ったのですが、パティシエの方たちは、糖度の高い野菜だったり、砂糖を加えてアイスクリームマシンで滑らかさを表現したのに比べ、僕の場合は、入ってるのは加糖卵黄くらいで、ほとんど甘くないアイスを作ったので、そこで差がだせたのかなという気がします。滑らかさはフォワグラの脂を生かして、そこに朴葉味噌が入ることでチーズのような発酵の風味も出しました。ただ、マカロンのパーツはぜんぜん技術が足らなくて、本番でも半分くらい失敗してしまいました。

アシェットデセールコンテスト

▲森口選手のガストロノミージェラート作品「朴葉味噌とフォアグラのアイスマカロン」

今後の目標について聞かせてください。

森口選手

パティシエとしてもう少し活躍できたら、という思いに傾きはじめています。パティスリーにハマり始めてますね。昨年からこのコンテストに参加してるんですけど、前回はガストロノミージェラート賞が獲れなかった悔しさから今回も挑戦して、結果獲れたんですけど、まさかの優勝で。しかも総評で『これといったものではなかった』と言われて。そしたらまた挑戦したくなるじゃないですか(笑) このコンテストにまた挑戦するかもしれないですし、それ以外でも、デセールというものに携われるように頑張っていきたいと思います。

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▲(写真左から)市原選手(準優勝)、森口選手(優勝・ガストロノミージェラート賞)、肥田野選手(第三位)

アシェットデセールコンテスト

▲肥田野選手(第三位)のアシエットデセール作品「アリア」

アシェットデセールコンテスト

▲市原選手(準優勝)のアシエットデセール作品「For you ~桜愛(さくら)に込めた思い出~」

【取材協力】
全日本洋菓子工業会
HP:https://pcg.or.jp/

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Writer
chefno編集部
編集長&映像制作 コウヘイ
chefno編集部
編集長&映像制作 コウヘイ
映像制作とフランス語関連の記事担当。18年のフランス在住経験あり。フランス生活で得た気づきやエスプリを生かして面白い&センスの良いコンテンツづくりを目指します!好きなお菓子はダントツでタルトタタン。
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