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2024.11.15

お客様を魅了する商品づくりの秘訣 ブーランジェリースドウ 須藤 秀男

ブーランジェリースドウ 須藤シェフ
オーナーシェフ
須藤 秀男(すどう ひでお)
焼き菓子専門店、パン屋など複数店舗で職人として研鑽を積み、2009年にブーランジェリースドウを開業。パンとお菓子の店とうたう通り、パンだけでなく焼き菓子のラインナップも豊富。オーナーシェフの須藤秀男さん、妻の枝里子さんともに職人。夫婦二人三脚で15年目を迎える。

美味しさのポイントはくちどけにあり


ベーカリーパートナーアプリの「パン屋のホンネ」というアンケート企画で、パン屋さんに、気になるお店はどこかと尋ねたところ、ブーランジェリースドウの名前が多く上がった。2009年に開業して、今年で15周年を迎えるブーランジェリースドウ。編集部が訪れた日もオープン1時間前にも関わらず、店の前のベンチに座って並んでいるお客様が数名おり、オープン時には行列ができていた。店内に入ると、息をのむような美しいパンが整列し、平台にはクッキーなどの多数の焼き菓子が展開している。美しいパンだけでなく種類の多い充実した焼き菓子のラインナップにも驚く。色褪せない人気の秘密を紐解くべく、オーナーシェフの須藤秀男さんに話を聞いた。パンづくりのモットーは「頭で難しく考えなくても、誰もが食べて美味しいと思うものをつくること」。職人のこだわりというのはときに自己満足になることもあるという。たとえば、”良い素材を使っています””良い製法だからこそこうなるんです”というような情報を伝えて、なるほどと頭で考えて美味しいと納得する、または知識がある玄人にしか伝わらない美味しさの場合もある。それだと誰もが美味しいと思っていることにはならない。須藤さんが考える万人が美味しいと感じるポイントは、くちどけの良さだという。

定番商品の食パンとパンづくりの考え方

ブーランジェリースドウの食パン
くちどけの良さにこだわってつくりあげた食パンに注目しよう。角食パンの”世田谷食パン”と、山型食パンの”世田山食パン”は開業当初から人気の商品で今や不動の定番商品。食パンは毎日食べるものなので、飽きずに食べられるものを目指した。くちどけに最もこだわり、ストレート製法で軽く仕上げている。自家製のホップ種が入っていて香りがたち、マッシュポテトなどが入っていてしっとり感もある。食パンのホップ種だけでなく、他のパンにも自家製の発酵種が入っているが、あくまでエッセンス的な使い方をしている。基本はイーストの安定的な発酵を活用しているという。須藤さんは、「不安定なパンづくりよりも、安定的なパンづくりのほうが好きなんです」と理由を説明してくれた。自家製発酵種だけの配合だと重さが感じられたり、発酵力の不安定さがあったりするため、イーストを併用してある程度ふわっと持ち上げるようにしている。イーストの発酵によるパンづくりを基本として、新たなる風味をフレーバー的に加えるという考え方だ。

基本を極めることが応用になる

安定的なパンづくりというのは須藤さんがこだわるクオリティコントロールの考え方につながる。美味しさの中にはルールがあり、毎日やり続けることが大切だと語った。毎日同じ時間に同じ作業をする、分割重量も焼く時間もきちんと決めて実行するのが重要だという。決めたことを1、2週間は継続してやれる人は多いかもしれないけど、それを5年10年もの長い間意味を理解してやり続けることは容易にはできない。「基本を極めることが応用になるという昔ながらの職人気質な考え方をしているんです」と須藤さんは話す。職人歴の中で、やっていることは10年前や20年前と同じことだけども、確かに精度が上がっているという。現状に満足せずに常に上を目指す姿勢を大切にしている。美味しさを維持するのは最低ラインで、さらにより良くするにはどうすればよいかを考え続けた。「流行りに流されたり、迷いがあったりしたら今の店づくりになっていないでしょう」と説明した。クオリティを守りながら商品を提供し続けるために、安易に商品数や製法のバリエーションは増やさず、少しずつ工夫を重ねていくという。お客様にとって、いつ来ても同じクオリティの商品がそろっているという安心感が大切だと考えている。クオリティを維持できなくなるときがお店を閉めるときなのだと覚悟をもって日々の店舗運営をしている。


パンにも「顔」を!こだわりのデニッシュ

おいしさを追求する中で、見た目の美しさにもこだわっている。目で見たものが美しいと思えば、おいしさをより感じやすい。見せるおいしさというものがあるという。美しい見た目のこだわりはパティスリーでの修行経験で培われた。ケーキだと「顔」があるといい、パンにも「顔」を見出したいと語る。このパンだとこっち向きで並べたいなど見せ方のこだわりに余念がない。スドウの代名詞と言えば見た目が美しいデニッシュ。ブルーベリーのデニッシュのブルーベリーは実際に現地に行って食べてみて美味しいと思った農家さんから産地直送してもらっている。ブルーベリーも産地によって美味しいタイミングが異なるため、時期によって産地を変えているというこだわり。季節を感じられる商品としてフルーツをのせたデニッシュを提供している。コーヒーゼリーのデニッシュも目を惹く。フルーツは季節によって傷みやすかったり、色が変わりやすかったりするので、美味しい時間が短い。パン屋というのは常温の棚が中心だから、どういう素材でつくれるだろうかということで、和菓子屋さんからヒントを得て、水まんじゅうという素材をゼリーの部分に活用したのが、コーヒーゼリーのデニッシュ。ゼリーでよく使われるゼラチンだと、だれやすいが、水まんじゅうは常温で陳列しても平気だという。夏は冷やしてから食べるのが美味しくておすすめだそうだ。またこだわりのパンはインスタグラムなどできちんと宣伝することも大切にしている。SNSは無料で発信できるツールだし、活用したほうがお客様に自店を見つけてもらいやすくなる商売ツールだと語った。おすすめのパンのこだわりポイントを聞いていく中で、語られる須藤さんのパンづくりの哲学とそこに裏打ちされたたゆまぬ努力と技術に、圧倒される取材だった。
ブーランジェリースドウのパン

①世田山食パン 860円(税込)

食パンは角食パンの「世田谷食パン」と山型食パンの「世田山食パン」の2種類を販売。自家製のホップ種を使用。軽いくちどけで毎日飽きずに食べられる。当日は生のまま、翌日はトーストしてホップの香りを楽しむのがおすすめ。

②マカロンショコラバナーヌ 800円(税込)

チョコバナナクレープが好きでパンで表現するとどうなるかと考え、他にはないオリジナリティーのある商品として作り上げたもの。自家製キャラメル、生クリーム、チョコ、バナナをあわせマカロンをのせている。

③吉田さんの朝摘みブルーベリーのデニッシュ 870円(税込)

農家さんから産地直送してもらっているブルーベリーを使用。中にはクレーム・パティシエール、マスカルポーネにフランボワーズジャムが入っています。

④挽きたてコーヒーゼリーのデニッシュ 750円(税込)

コーヒーゼリーの部分はゼラチンのかわりに水まんじゅうを使って作っている。スポイトにはエスプレッソ。中にはクレーム・パティシエール、生クリーム、あんずソース、マスカルポーネが入っている。ティラミスのようなケーキを食べているような気分に。

⑤大人のあんドーナツ 650円(税込)

ハニートーストを従業員が焦がし濃く焼いてしまったことがきっかけで生まれた商品。ロスにするのはもったいないので、あんこ、バターを併せてみるとあんドーナツのような味だと発見。ハニートーストをわざと濃く焼いてキャラメリゼして、商品化に。失敗からの発見があるのがモノづくりの面白いところ。

【須藤さんに聞いた】商品力とブランド力を高めて差別化

ブーランジェリースドウのデニッシュ
パン屋さんは全国にたくさんあり、似たような商品がたくさんある中でいかにオリジナリティーを出すか、商品力を上げていくか、付加価値をつけていくかを考える必要があります。たくさんのお店がある中で生き残っていくためには、ブランド力を高める必要があります。ブランド力というのは、提供している商品でお客様が満足してくれるか、価値を感じてその値段で買うかです。圧倒的に価値を感じていれば、いくら出してでも食べたいと思ってもらえます。わかりやすい例でいうと寿司ですね。これからお店をやる人には、それまでの職人歴の中で積み重ねてきた引き出しの多さや、ブランド力というのが求められるでしょう。スドウは店名でパンとお菓子の店とうたっている通り、パンだけでなく、お菓子も徹底的にこだわっているというのが最大の差別化だと思います。パンは60種類、お菓子は30種類あります。私も妻も職人としてパンづくりもお菓子づくりも経験が豊富なところから生まれる商品というのが最大の武器です。平均的なシーズンの日商は60万円(うち焼き菓子が15万円)、繁忙シーズンは85万円(うち焼き菓子が35万円)です。焼き菓子のパッケージやギフトボックスなども徹底的にこだわっています。パン屋さんをやりながらこれだけ焼き菓子商品がある個人店はなかなかないと思います。お菓子屋さんでもクッキーはまとめて作って日持ちするものとして、売り場に長くおくというのが多いと思うのですが、当店は焼き菓子も鮮度を大切にしているので、毎週の営業日に売り切れる分量だけを、週1で作っています。クオリティの高い焼き菓子をお店に並べるために、お店が休みのタイミングに焼き菓子の仕込み専門の日をもうけているくらいです。当店のクッキーは絶妙な焼き加減で焼いた厚切りでくちどけの良いクッキーです。パンと同様にくちどけを大事にしています。
ブーランジェリースドウの須藤シェフとスタッフ

 職人夫婦二人三脚でずっとプレイヤー


夫婦で仲良く店舗運営しているお店は良いなと思います。夫婦の空気感がお店にも出ると思います。大変さを共有しながら、良いところも悪いところも理解しあえるのがいいじゃないですか。良いものをつくるために、ときには衝突することもあるかもしれませんが、目指すゴールは一緒だと思います。私たちも夫婦で一丸となってお店を15年経営してきました。夫婦ともに職人でプレイヤーです。お互いの得意分野を活かしながら商品づくりをしています。私は成形をどうする、仕上げをどうするとアイディアを出すのが得意で、直感的に進めるタイプです。妻は形にするためにはどうしたらよいかを考え、几帳面にデータを取りながらやるタイプなので仕込みや酵母の管理が得意で、細やかに進めるタイプです。妻が生地というベースをきっちりつくるので、ブレないモノづくりにつながります。夫婦がおいしいと思ったものをモチベーション高く作り続けたいと思います。年齢的に開業当初の若さがあるわけではありません。その中でクオリティを保ったものを提供したいと考えて、営業日数の調整をするなどしています。体力の維持は難しくなってきますが、かわりに知識や技術はどんどんと向上しています。調整してできた時間的余裕で、自分の苦手とするところを勉強し、講習会も参加して、今後も変わらず職人としての向上心を持ち続けたいなと思います。

SHOP DATA

Boulangerie Sudo(ブーランジェリースドウ)
●所在地:東京都世田谷区世田谷4-3-14
●立地:世田谷線「松陰神社前駅」から徒歩1分
●開業年:2009年
●定休日:月〜木曜日
●従業員:7人(販売3人・製造4人)
●営業面積:33坪(売場11坪・工場22坪)
●日商:60~85万
●客単価:2,000円
●オーブン台数:1台
●ミキサー台数:1台
●パンの種類:60種類(生地12種類)
●菓子の種類:30種類

 

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ベーカリーパートナー編集部
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