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2025.03.18

インタビュー 街と共に成長する新しいパン屋の形を模索 ビーバーブレッドブラザーズ 割田 健一

割田 健一(わりた けんいち)
高校卒業後 1996年からパン業界の道へ。パン屋のシェフ、フレンチレストランのベーカリーシェフを経て2017年に東日本橋に「BEAVER BREAD」を開店。2022年にカフェレストラン「bouquet(ブーケ)」を開店。そして、2023年 虎ノ門ヒルズに「BEAVERBREAD BROTHERS」をオープン。


虎ノ門ヒルズの新たなランドマーク

2017年に東日本橋で開業した「BEAVER BREAD 」は瞬く間に人気を博し、売上げを伸ばした。2022年にカフェレストラン「bouquet(ブーケ)」そして、2023年虎ノ門ヒルズに「BEAVER BREAD BROTHERS 」をオープン。虎ノ門駅を出て徒歩1分以内のT-MARKETの入り口にある「BEAVER BREAD BROTHERS 」は、シンメトリーで透明感のある入り口。中に入ると特徴的な大きな柱があり、その柱を中心に広がる床に沿って常に人の流れが出来ている。その先には魅力的で色とりどりのパンが並ぶ。奥には作業が良く見えるオープンなキッチンがあり、消費者の潜在的な部分を刺激する仕掛けとこだわりが詰まっている。今回はそんな「BEABER BREAD BROTHERS 」の割田シェフにインタビューをさせていただいた。

パン職人を目指したきっかけ

割田シェフのキャリアは、実はパン職人を目指して始まったものでは無かった。高校時代には美術大学への進学を夢見ていた。しかし大学への進学が難しいとわかり、何か始めないといけないと。そこから漠然と海外で働こうと考え、スイスの外交官の知り合いに手紙を書いた。スイスで働き口と考えたときに「スイスでパン屋」として働けないかという想いを手紙で綴った。パン屋を志すきっかけはこの手紙からだったという。スイスに行くことは叶わなかったが、生活を続けていくために、東京で就職することに決めた。プランタン銀座の地下に美味しいパン屋があると聞いて、すぐに電話をかけ未経験からパン業界に飛び込んだ。

修行時代の経験と成長

銀座のパン屋で働き始めた最初の2年間は、自分がパン職人として向いているのかさえ疑問を抱くこともあったという。それでも「技術以外のところで自分にできることをきっちりやること」を決意し、来店したお客様にきちんと挨拶する、掃除を徹底するなど、基本的なことを真剣に取り組み毎日必死に働いた。とにかく忙しい中で、先輩シェフの手元を見て、ゆっくりと着実に技術を身に付けていったという。働き始めて10年目でそのお店のシェフに。その後、銀座のレストランレカングループのブーランジェリーレカンのシェフを務めることになる。

「BEAVER BREAD」 のオープン

ブーランジェリーレカンを退社した後、「BEABER BREAD 」を東日本橋でスタートさせる。「インディーズ映画を作るような感覚で、できるだけ少ない予算で、でもしっかりとした理念のあるパン屋を作り上げたかった」と話す割田さんは、銀座で20年以上働いていた際のキッチリとしたコックコート姿ではなく、ピンクのエプロン姿のラフな格好に変わった。限られた資金の中で最大限の効果を生み出し、地域に根ざした街のパン屋さん作りを目指し、オープンから着実に売上げを伸ばしていった。そして、2022年にカフェレストラン「bouquet」を東日本橋にオープンし、虎ノ門の「BEABERBREAD BROTHERS 」の出店につながる。声がかかったタイミングでは悩みもあったが、チャレンジし続ける精神、これからのパン業界のためにも一つのモデルケースになると考え、虎ノ門でお店を始めることを決意。「BEABER BREAD」「bouquet」「BEABER BREAD BROTHERS 」の3店舗でトライアングルを作ることで、店舗経営が安定すると考えた。「BEABER BREAD BROTHERS 」はオープンして約1年経った今でも、売上げは毎月上がり続けているという。

効率と品質を考えることで、長期的な考え方に

割田シェフが「BEAVER BREAD BROTHERS 」で提供するパンのレシピには、大きく3種類に分けられると話す。誰かのために作成したレシピ、企業にお願いされたレシピ、自分の生活と経験から湧き出てくるスペシャリテのレシピ、これらを時代に合わせてブラッシュアップし続けている。レシピの考え方にも変化があった。今までは自分が1~10まで作成すれば良いという考えで、レシピによっては複雑なものもあったが、店舗が増える中でスタッフが簡単に作れるものでは無ければいけないという考え方に変わった。時代背景も考えて、作業効率を保ちつつ、高い品質のパンを作るためにどうすれば良いのかを考えている。これは、よりたくさんの人に届くパンを売るにあたり、品質のブレの無いパンを作るためだろう。例えば、複雑な成形のパンも丸めるだけに変更する。といった省ける作業のバランスを迷いながらも決めていかなければいけない。このようにお店の戦力を見ながら、戦略を考えていると話す。
取り扱う材料も「美味しいものを作る」という大前提のもと商品のツボを押さえたチョイスをしている。やりすぎてもやらなすぎてもダメ。例えば、バゲットは塩にこだわる。原価をかけられないパンだけど、スパイスは良いものをチョイスする、バターは冷凍ではなくチルドのものを使用する。牛乳は低温殺菌のものしか使わない。コンパウンドクリームは使用せず40%の生クリームのみ、と材料選びも時代の流れを考えながらこだわりを持って選定している。また割田シェフはベーカリーのプロデュース業も受けており、現在3店舗、これから追加で2店舗のお店のプロデュースの予定がある。割田シェフの柔軟な感性と発想力、それとチャレンジングな姿勢はたくさんの人を惹きつける力があるのだろう。これからも業界に驚きと刺激を、次世代には夢を与えていくだろう。

【割田さんに聞いた】スタッフに対する気持ちと考え方

現在50名以上のスタッフに働いていただいています。各種マネージャーやシェフといった側近に近い存在の多くは過去職場の頃から今までついてきてくれています。スタッフにお店としてしっかり売上げを上げて、プラスで給料がもらえて、よりいろんな仕事に関われる人間になって欲しいと思っています。みなそれぞれの人生の目標がありますし、強制はしませんが、一緒に働いているスタッフには思いの100分の1でも、何か引っかかってくれるものがあれば嬉しいと思っています。
自分の関わった人間は幸せにしなきゃいけないという考えが強いので、どうやったらスタッフの給料を上げられるだろう、自分の目標を達成するにはどうすれば良いだろう、そのために1日にパンを何個売ればいいのだろう。というのは明確に考えていて、自分が1日どのくらい厨房に入ってそれ以外にしなければいけないことは何だ。ということを週単位、月単位、年単位で考えています。たくさんのパン屋さんがある中で、時代にあっているものを自分たちはこうだ!という 考え方を常に示して行かなければ衰退してしまいます。商売なので生き残るために、勝たないといけないですから。

パン屋さんの一つの形としての挑戦

東日本橋の「BEABER BREAD」は、パン屋さんが街にどのような良い影響を与えられるだろうというのがテーマで、低予算でDIY的にお店を作りました。地域に寄り添って、世界中の誰もがこんなお店が近所にあったらいいなと感じてもらえるようなお店作りを意識しています。虎ノ門の「BEABER BREAD BROTHERS」の方も新しい街づくりの一環として、お誘いがかかりました。お店のテーマは虎ノ門という場所に合わせて、いろんな国の一等地にあるパン屋さんをイメージしています。いつか自分のお店のデザインをやってもらいたいと考えていたデザイナーの方に店舗デザインをお願いしました。出店のタイミングでは、悩む部分もありましたが、シンプルな考え方で、自分が80歳までパン職人として生きるために、やるべきこと、やらなければいけないことを考えて挑戦することに決めました。これからの若い世代の人たちもいずれそういう時代が来ると思っていて、パン屋さんのビジネスモデルの一つの形になったらいいなと思っています。自分の今まで学んできたことや経験に、自分の感性や好きなものを乗せて、そこにスタッフの色も乗せて、これからもみんなで挑戦を続けていきたいと思います。

SHOP DATA
BEABER BREAD BROTHERS(ビーバーブレッドブラザーズ)

●所在地:
東京都港区虎ノ門2丁目6-3
虎ノ門ヒルズステーションタワー B2F T-MARKET
●立地:日比谷線「虎ノ門ヒルズ駅」直結
●開業年:2023年
●定休日:日曜日
●従業員:16人(販売8人・製造8人)
●日商:40~60万
●オーブン台数:3台
●ミキサー台数:2台
●パンの種類 :90種類


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ベーカリーパートナー編集部
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