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2025.10.07

「日本の食パン」がパリを席巻。もちもちフワフワの食感が大人気の「Carré Pain de mie (キャレ・パン・ド・ミ)」

キャレパンドミ

フランスは言わずと知れたパン大国。国民のパン消費量は1人あたり年間約58kgで、92%の人たちが毎日パンを食べています。そんなフランスはパリのど真ん中で、「日本の食パン」で勝負しているベーカリーがあります。
銀座で人気の食パン専門店「CENTRE THE BAKERY(セントル・ザ・ベーカリー)」がパリのマレ地区に出店した「Carré Pain de Mie(キャレ・パン・ド・ミ)」です。

バゲットやパン・ド・カンパーニュなどのフランスパンは扱わず、2017年のオープン以来、一貫して日本風食パンの製造販売をしています。「セントル・ザ・ベーカリー」と同じ、もちもちフワフワの食パンが、パリ在住の日本人のみならず、現地のフランス人や外国人観光客たちにも人気ということで取材に行ってきました。

一線を画すクオリティの「日本の食パン」

フランスにも一般的に食パン(パン・ドゥ・ミ)は存在しますが、フランス人も魅了する「キャレ・パン・ド・ミ」の食パンはどんなものなのか、ベーカリーシェフの石黒陽喜(はるき)さんにお話をお聞きしました。

キャレパンドミ

▲ベーカリー担当の石黒シェフ

石黒シェフ
「店では自分を含め4名で4種類のパンを製造しています。
まず店名にもなっている『キャレ(四角という意味)』という名の角食パン、『トースト』と呼ぶ山型食パン、そして小さいサイズのコッペパンとバターロールです。
製造数は一番人気の『キャレ』が圧倒的に多く、平日150本、週末には200~300本を焼いています。『トースト』は平日週末ともに15~20本くらいですね(1本は2斤分)。
『キャレ』は製粉過程の異なる粉を日本から輸入して作るという手間のかかる工程を敢えて行っているため、フランスのパン・ドゥ・ミ(食パン)とは一線を画した味と食感があります」

環境の違いに合わせて製造

キャレパンドミ

レシピは、パリ出店に際して、フランスでも銀座の店の味を再現できるように本社で研究開発されたのだそう。日本の食パンをフランスで作ることの難しさについて尋ねると、一番の違いは「水」と石黒シェフは答えます。

石黒シェフ
「日本と違ってフランスの水はカルシウムやマグネシウムの含有量の高い、いわゆる『硬水』です。そのまま日本の食パンを作ろうと思うと当然うまくいきません。かといって日本のお水を輸入していたら採算がとれませんから、フランスの水を軟水化装置に通したものを使用しています。

一方で、日本と比べて良い点は、湿度の低さです。製造アトリエは冷暖房装置が完備されているので、年間を通して比較的安定しています。温度と湿度は毎日計っていますが、夏場に気温が高くなっても湿度に関しては日本より低いため、生地がベタベタして作業性が落ちるリスクは少ないです。日本の小規模なお店だと管理が大変なところもあると思いますが、それと比較するとコントロールはしやすいですね。

『キャレ』には北海道十勝産の小麦粉を、『トースト』には、フランスのヴィロン社のT55 Corde Americaine(コルド・アメリケーヌ)という種類の小麦粉を使っています。バターはエシレバターで、クオリティ、風味のみならず、レシピにも適しています。他に競合がなく比較しにくい一面ももちろんありますが、『キャレ』は、おそらくフランスでもトップの品質だと思います」

日本と変わらぬ食パンの美味しさ

銀座の「セントル・ザ・ベーカリー」の食パンを知っているお客様にも「キャレ・パン・ド・ミ」の食パンは好評のようです。

石黒シェフ
「日本とフランス、どちらの食パンも美味しいと言ってくださいますし、なかにはフランスの方が美味しいと言ってくださる方もいます。同じレシピでも水やバター等材料の若干の違いで微妙な差が出るし、日本から遠く離れたフランスで食べるからより美味しく感じるのかもしれませんね。フランスのお客様は、『キャレ』の甘味のある風味が新鮮に感じるようです。それは砂糖の甘味だけではなく、甘味を引き出せる小麦粉を選んでいるからです。

新しく出会った人と話をすると、フランス人も外国人も多くの方々がこの店のことを知ってくれています。『美味しいので定期的に買っている』、『遠方から買いに来た』という声を直接聞くと、認知度の高さを改めて感じ、誇りに思います」

もともと実家がパン屋で、東京でファッションのパタンナーをした後、15年程前にパン職人に転向した石黒シェフ。外国でパン職人として働くことについて尋ねるとこんな答えが返ってきました。

石黒シェフ
「パン屋は、どこでやっても、必ず仕事として成立します。日本のみならず、世界各地にそれぞれのパン文化があり、需要があります。地域に根ざすには、真面目にやればパン屋はどこでも上手くやれる職業だと思います。真面目に続ければ、必ず成功すると信じています」

魅力のカフェメニュー

キャレパンドミ

主力商品の食パンとともに、「キャレ・パン・ド・ミ」の人気を支えているのがサンドイッチをはじめとするカフェメニュー。
製造カウンター奥のイートインスペースはシンプルで明るい内装。一息つける明るい空間が素敵です。日本の懐かしい美味しさを求める日本人はもちろん、食パンの美味しさに魅了されたフランス人や観光客など、客層はさまざま。

レストラン部のシェフである西畑孝一さんにお話を伺いました。

キャレパンドミ

▲レストラン担当の西畑シェフ

西畑さん
「あくまで食パンが主役なので、パンの美味しさがちゃんと感じられるようにレシピも工夫しています。日本風のレシピをベースに、フランスや外国のお客様も意識して少しずつ改良しています。
例えばマヨネーズは、リンゴの酸味が優しいフランスのシードルビネガーを使用しながら酸味を少し強調しています。とんかつソースも、日本風の甘味を抑え気味にして改良しました」

キャレパンドミ

▲定番人気メニューのとんかつサンド。美味しいものは全て食べてほしいというお店の方針から、サンドイッチの切れ端となるパンの耳ととんかつの端も一緒に提供されます

筆者も、大人気という海老カツサンドとパン・ペルデュをいただいてみました。
薄い衣で揚げられたプリプリの海老に、砕いたゆで卵とマヨネーズの優しい味わいで丁寧に作られたタルタルソース。ふんわりモチモチで少し甘味のある食パンに絶妙に合わせられています。
山型食パン「トースト」を使ったパン・ペルデュ(フレンチトースト)は、牛乳を少し足して浸み込みやすいよう工夫されたという付け合わせの生クリームの優しい甘味が、食パンのテクスチャーにマッチした美味しさでした。

キャレパンドミ

▲SNSでも大人気の海老カツサンド

キャレパンドミ

▲パン・ペルデュにはホイップ生クリームと季節のフルーツが添えられます(写真はチェリー)

西畑さん
「常日頃、“手間をかけて美味しいものをお出しする”という理念を忘れないようにしています。調理もオーダー後に作りはじめるのですこし時間はかかりますが、それが我々の良さでもあると思っています」

キャレパンドミ

西畑さんに、日本とフランスでの働き方の違いについてお伺いしました。

「フランスは農業大国なので、さまざまな食材の美味しさを発見できるところが大きな魅力だと思います。また休日の時間を大事にする国民性なので、日本とは違ったワークライフバランスを身近に感じられるところが、フランスで暮らす良い点だと思います。
今は日本にいてもレベルの高い技術を習得することができるとは思いますが、フランスならではの時間の過ごし方も体験して、自分の幅を広げてみるのもいいと思いますよ」

お客様のコメント

取材中にお店を訪れていた人たちにインタビューしてみました。
角食パン「キャレ」の大ファンというパリのマダムは、「毎週買いに来ています。ディナーに添えるパンにしていますが、弾力性のある食感は他のパンにはないスペシャルなもので、何もつけずに食べてもとっても美味しいの」と大絶賛。

キャレパンドミ

おしゃれな親子は、「郊外に住んでいるのですが、週末パリに来る度に必ずこのお店に立ち寄って、サンドイッチやパン・ペルデュを買っていきます」とこちらも熱心なリピーター。
一度この食パンのテクスチャーに出会うと、あっという間にファンになる人も多く、「キャレ・パン・ド・ミ」は着実に地元のファンを獲得しているようです。

キャレパンドミ

旅行に来ていた台湾のカップルは、「2年前に来た時に食べた海老カツサンドとパン・ペルデュがとても美味しかったので、今回も必ず来ようと決めていました」と、旅行者にも強烈なインパクトを残しているようです。

お店の方針に従って食感と味にこだわり、日本人らしい勤勉さでクォリティの高いものを妥協せずしっかりと作りつづける「キャレ・パン・ドゥ・ミ」。そう遠くない未来、日本の食パンがフランスの食卓に並ぶのが珍しくない日がくるのかもしれません。
パリで日本の食パンが恋しくなった時には是非訪れてみてください。

 

[取材協力]

キャレパンドミ

店名:Carré Pain de mie (キャレ・パン・ド・ミ)

住所 5 Rue Rambuteau, 75004 Paris
営業時間:10 :00-20 :00 (レストラン11:30-18:30)

ホームページ:https://ja.carrepaindemie.com/
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/carrepaindemieparis/?hl=ja

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chefnoフランス編集部
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