ガレット・デ・ロワをはじめとする伝統的なフランス菓子とその文化の普及、さらには、職人の技術向上と育成を目的に2003年に発足し、活動するクラブ・ドゥ・ラ・ガレット・デ・ロワ。同クラブでは、毎年ガレット・デ・ロワのコンテストを開催しています。焼成、レイヤージュなどの見た目はもちろん、中に詰められているクリームとパイ生地のバランスや味わいに至るまで、さまざまな審査基準から総合的に判断されて最優秀作品が選ばれます。一般部門の優勝者には、翌年の冬、フランス(パリ)で行われるガレット・デ・ロワコンクール(パリパン菓子組合主催)へクラブ代表としての出場資格が授与されます。2024年11月6日に東京で行われた「第22回ガレット・デ・ロワコンテスト」をchefnoが取材してきました。
コンテストの意義と運営
ガレット・デ・ロワコンテストは今年で22回目。それはすなわち、クラブ・ドゥ・ラ・ガレット・デ・ロワの発足から21年間、職人が技を競う場を提供し、毎年確実に歴史を刻んできたということ。コンテストの運営を担うのはクラブ理事をはじめ、歴代のガレット・デ・ロワコンテストの優勝者のシェフたち。「コンテストに参加することで職人としての経験を積む機会が生まれ、一つ一つの仕事に向き合うきっかけになってもらいたい」との思いで、業界発展のために尽力されています。
クラブ理事の一人で、過去に2度、同コンテストでの優勝経験を持つ、熊本のフランス菓子専門店「トワ・グリュ」の三鶴シェフに審査について伺いました。
「審査はカテゴリー毎に点数をつけて行われます。レイヤージュの技術、デザイン性、オリジナリティもポイントになりますが、なんといっても、食べて美味しいかどうか。フィユタージュと中のクレームダマンドやフランジパンヌとのバランス、一体感があるかどうかという点が重要になります」
これまで審査を重ねられて感じることはありますか
「まず、書類審査を通過するには、写真も重要です。一次審査ではレシピと写真を確認するとはいえ、試食がないので視覚による情報がとても大切になります。審査員は一度にたくさんの作品を審査するので、写真が美しいと確実に目を惹くと思います。
今日実際に作品を食べて思うのは、レベルは年々確実に上がっているということです。どのガレットも美味しくて甲乙つけがたいので、審査にも苦労しています」
近年の傾向や今回のコンテスト作品の特徴はどのようなものですか
「クラブでは毎年優勝した選手が講師となり、講習会を開催しています。常に最新の情報を手に入れやすい時代だということや材料がシンプルなお菓子だということもあり、どうしても似かよった作品になってしまいます。そのなかでも上位に入っている作品は全体的にまとまりがあって美味しく、さらには個性があります。また、最終的にはどれだけ作りこんできたかということが勝敗を左右しているようにも感じます。手間暇のかかるお菓子なので、練習時間をかけてブラッシュアップを重ねてきた作品には強さがあります」
部門別評価(一般部門、エスポワール部門、ヌーベル部門)
プロの製菓・製パン職人を対象にした一般部門と職人を目指す学生や、製菓・製パン愛好家を対象としたエスポワール部門に数年前からヌーベル部門が加わりました。このヌーベル部門とは、正統派ガレット・デ・ロワの基本を踏まえた上でその年のテーマに沿ったアレンジを競うもので、今年のテーマは『ピスタチオ』。ガレット・デ・ロワのさらなる魅力を引き出せるような作品を期待する部門で、選手がそれぞれの方法で想いや独自の解釈を表現する場です。
エスポワール部門の審査を担当したエーグルドゥース寺井シェフにも、感想を伺いしました。
エスポワール部門を審査された感想をお願いします
「エスポワール部門はフランス語で『希望』を意味するとおり、これから良いパティシエになってほしいとの願いがこめられている部門です。学校の先生をはじめ、クラブのシェフ会員たちが専門学校で地道に指導してきた成果もあり、この部門のレベルは年々、確実に高くなってきています。学生の皆さんには卒業後、コンテストへの挑戦で得た経験をぜひ仕事に活かしてほしいです。今日のここでの作品の出来映えではなく、一つの仕事に対して打ち込んで費やした時間、そこで得た技術や知識を取得したという経験は、現場に入った時に確実に活きてきます。これからもコンテストに向き合った時間と姿勢を忘れないでもらいたいですね」
一般部門優勝者発表とインタビュー
第22回ガレット・デ・ロワコンテスト一般部門の優勝者の発表の後に、クラブ副会長のル ガリュウM_丸山正勝シェフより総評が述べられました。
「今回ヌーベル部門においては優勝作品に該当するものはなしという結果になりました。 テーマとなったピスタチオは、アーモンドに比べて油分が多いので、もう少し工夫が必要だったと感じます。デコレーションに特化してしまうと、パイそのものの美味しさを損ねる場合もあるので慎重に選択してほしいです。
エスポワール部門は、一部に焼きが足りない作品もあったが、全体的にレベルが高く、一般部門に出せるような作品が揃っていました。
一般部門はさらにレベルが高くなり、審査も難しくなってきていると感じました。特に入賞した作品のフィユタージュ生地が美味しかったですが、中のクレームダマンドに個性があまりなく、あっさりした印象だったので、使用するアマンドに変化を加えて個性を出してもよいと感じました。レイヤージュは緻密で、トーンもはっきりしていて非常によかったです。若い人たちがコンテストに参加することで、職人としての経験を積む機会になり、選手たちのこれからの仕事への活力になってくれればいいと思います」
優勝は、辻調理師専門学校・東京で教鞭をとって4年目の堀越花依(はない)さんでした。エスポワール部門に出場した経験があり、ガレット・デ・ロワに対しては、特別な思いを抱いて向き合ってきたとのことでした。一般部門への挑戦は昨年からで、今回が2回目。一般部門の優勝者は、フランス大使館特別賞も同時受賞となっており、お祝いに駆け付けたフランス大使館経済部の農務参事官のジェローム・ペルドロー氏より祝辞が述べられました。
優勝者スピーチ中、堀越さんが壇上で感極まる場面もありましたが、学校関係者のみなさんと一緒にコンテストに参加したエスポワール部門に出場した4人の学生たちへの感謝の気持ちを堂々と述べられました。
「この場に立てていることを光栄に思っています。6年前にエスポワール部門に出場して以来、ガレット・デ・ロワと向き合うことを続けてきてよかったと思っています。これまで練習の場を与えてくれた勤務先と、アドバイスをくださったすべての人に感謝の気持ちを伝えたいです。
じつは今日提出した作品の焼き具合に、納得いっていない部分がありました。優勝を目指していたものの、入賞できるかどうか自信がなかったので、これまで練習してきたことが評価していただけたと思うとホッとしています」
授賞式後の交流で生まれる新たな繋がり
実は、今年の優勝者の堀越さんも昨年は書類審査を通過できなかったとのことでした。アドバイスを求めたシェフからは、書類写真の断面を見た時に生地がつぶれているように見えたと指摘を受けたそうです。堀越さんはパイ生地の質感はもろいものが好みで、生地を追及していました。理想の生地ではどうしても焼成時の浮きが弱く、生地がつぶれている印象を与えたことに気づき、1年間で改良を重ねてきたそうです。さらには、クレームダマンドも主張が強すぎず、ガレット・デ・ロワ全体でバランスが良いものになるよう目指したとのこと。来年の本選に向けても、歴代のコンテスト優勝者をはじめ、多くの方からアドバイスをもらいながら、今からさらにアップデートしていきたいと、力強く抱負を語られました。
3部門すべての受賞発表とフォトセッション終了後には、シャンパンが配られ、参加者、運営に携わったクラブのシェフたち、協賛企業各社関係者との懇親会が行われました。審査という大役を終えたガレット・デ・ロワ好きのシェフたちが、参加者と意見を交わす貴重な時間となっています。なかでも、自身の作品を審査員やシェフたちに試食してもらい感想を直に聞く選手たちの姿が印象的でした。この参加者同士の積極的な交流が、日本の製菓・製パン業界の技術の底上げになっていることは間違いありません。
また今年もガレット・デ・ロワの季節がやってきます。今年も多くの方が親しい人たちとこの素晴らしいお菓子を分かち合う時間を楽しめますように。
一般部門の審査結果
1位:辻調理師専門学校・東京 堀越花依(はない)さん
2位:ウィーン菓子工房リリエンベルグ 中西将浩さん
3位:マテリエル 原翼さん
エスポワール部門審査結果
1位:辻調理師専門学校・東京 杉浦多瑛(たえ)さん
2位:辻調理師専門学校・東京 杉本季保(きほ)さん
3位:町田製菓専門学校 長原海夕(みゆ)さん
(取材協力)
Club de la Galette des Rois クラブ・ドゥ・ラ・ガレット・デ・ロワ
公式HP:https://www.galettedesrois.org/galette/