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2022.12.02

フランスからつづる!ブーランジェ通信 by成澤 芽衣 Vol.44『Fouée (フエ)というパンをご存知ですか?』

こんにちは。

皆さん、「Fouée (フエ)」と言うパンをご存知ですか?ブーランジェールの私にとって、このパンが誕生した経緯は実に面白いものだったので、今回皆さんに共有させていただきます。

3年前、現在暮らす街Angers (アンジェ)で生活をするようになってからこのパンの存在を知りました。この「Fouée(フエ)」とは、ベーシックなプレーンのパン生地(バゲットトラディションなどの生地)を50g程に小さく分割して、270〜300℃の高温の窯でサッと焼き、パンに空洞をもたせる「ピタパン」の様なものです。

その空洞の中にリエット(豚のペースト)やソテーしたシャンピニオン(キノコ)、シンプルに有塩バターを挟んだり、ロワール地方では有名な白インゲン豆「 Mogette モジェット」の煮物を挟んだりして食べます。西フランス・ロワール地方の特にAngers (アンジェ)、Touraine (トゥーレーヌ)、Saumur (ソミュール)などの、美食の土地を代表する食べものなのです。

▲写真中央が白インゲンマメの煮物「Mogetteモジェット」。左がそのmogette とアンジェ名物の「Rillauds リオ(豚の胸肉をさらにその豚の脂で煮込んだもの)」 を合わせたもの。どちらもロワール地方の名物

むかしむかし電気オーブンが普及する前には、ロワール地方のパン屋さんでは主に薪窯を使ってパンを焼いていました。そして皆さんご想像の通り、薪窯には「温度設定」や「温度表示」などの機能は存在しません。庫内温度が高すぎたり低すぎたり…窯内の温度をブーランジェ達はどうやって確認していたと思いますか?実はそれがFouée誕生の理由なのです。

パンの成形作業が終わると、残ったパン生地を小さく分割→丸めて→手で平らにしてから薪窯に直接窯入れをしていたそうです。庫内温度が高すぎた場合、生地はすぐに真っ黒こげになります。逆に低すぎた場合、生地は膨らまずにペタッとしたまま真っ白く乾燥焼けしてしまいます。適正な温度の時のみ、生地の中心がぷくぅ〜と大きく膨らみ、「Fouée」と呼ばれるパンが出来上がります。ブーランジェ達はかつて、その膨らみを見て庫内の適正温度を見極めていたんですね。面白い。

そして、そのFouéeの中に作りたて熱々のリエットを挟んで、コーヒーと一緒に仕事の傍ら朝食を取っていたそうです。このなんとも素敵なエピソードを聞いてから、私が現在働くお店でFouéeのオーダーが入った時は、より気持ちを込めて作っています。

今回、アンジェから30kmほど離れたTroglodytiques (トログロディティック)※の村にある Fouée専門のレストランを訪れました。

※Troglodytiques(トログロディティック):岩穴住居 という意味。村全体が地上より低い高さに位置しています。

▲ 今回訪れた Fouée専門のレストラン 「TROGLO RESTAURANT」※

※TROGLO RESTAURANT :
https://www.caves-genevraie.fr/en-us/

 

▲伝統的なTroglodytiquesの村は、くぼんだ土地に

▲薪窯でFouéeを焼く様子

何気ない小さなパンひとつにもちゃんと歴史があって、その文化を守っていくために小さな村でいまも専門店を営む人たちがいて、そこを訪ねる人たちがいる。静かに息づくフランスの食文化にふれて、ますますフランスが好きになりました。

 

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成澤 芽衣
成澤 芽衣
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2017年 フランス全国バゲットトラディションコンクール 優勝。 現在はフランスでフリーランスのパン職人として活動する傍ら、日本でのイベントや、東京にあるベーカリーでパンの監修をさせていただいております。 フランスから私なりの視点で、パンのこと、普段のことなどなど。 生のフランス情報をお贈りします。
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