ARTICLE
2023.06.02

フランスからつづる!ブーランジェ通信 by成澤 芽衣 Vol.47「ついに自身の店(ブーランジュリー・コルネイユ)をフランスでオープンしました」

ブーランジュリーコルネイユのオーナー成澤芽衣さんと恩師リュアン氏

こんにちは。

みなさまへのご報告が遅くなりましたが、2023年3月7日にフランスのアンジェで自身のブーランジュリーを開業しました。

フランスでのブーランジュリー開業を目標に掲げたのが2018年。そう思い立ってから、開業に至るまでは、新型コロナウイルスや物件探し、そして自分のマイペースぶりもあって、ほんとうに紆余曲折ありました。今回は、そんな開業までのお話をしたいと思います。

私が本格的に物件探しを始めたのが2021年の秋。それから1年半かけてようやく「ここでパンを作り続けていきたい」と思える場所を見つけたんです。

以前の記事で、アンジェに新しくできる屋内マルシェ「レアル」での開業打診について書いたことがありましたが、レアルの責任者側から提案された出店条件など諸々の細かい部分に違和感があり、結局レアルでの出店は辞退する選択をしました。その時は「また物件探しがふりだしに戻ってしまった…」と落ち込んだのを覚えています。

ですが、長く悩んでいても時間が過ぎていくだけですので、すぐに気持ちを切り替えて、いままで開業準備に関わってくれていた製粉会社の方々や不動産屋(ブーランジュリーの物件を専門で扱う不動産屋)に片っ端から連絡をしていきました。いま思うと、その時はめちゃくちゃ焦っていたと思います。

そんな時、当時(2022年秋頃)私が働いていた、MOFブーランジェであるリュアン氏のお店で、とつぜんスタッフ4人が同時に退職することになってしまったんです。私も物件を見つけたら退職する予定でしたので、退職予備軍でした…。オーナーのリュアン氏は急に大勢の退職志願者が現れてとても困っている様子でした。

そんな時です。普段から私が仲良くしている友人(フランス人)の一人が、その状況を聞いて「ねえメイ、オーナーさんがスタッフ不足で困っているなら、彼が2つ持っているお店のうちの1つをメイが買い取らせてもらったら?そうしたらオーナーさんも楽になるし、メイもお店が持てるし、お互いウィンウィンだと思わない?」と言ったんです。なんとまあ!日本生まれ日本育ちの自分には考えもつかない大胆な助言をくれたのです。

今までリュアン氏からは、フランスでの開業に関するアドバイスを沢山していただきましたし、わたしもずっとリュアン氏に憧れて、彼のようなブーランジェになりたいと思って仕事をしてきました。

ブーランジュリーコルネイユの成澤芽衣さんと恩師のリュアン氏

▲恩師のリュアン氏と

そんな自分が、憧れであり師匠でもあるリュアン氏にいくら困っている様子だからといって「2つのお店のうち1つを譲ってほしい」なんてこと申し出たら、この状況に乗じて失礼なお願いになる気がしたんです。私にとっては夢への一歩となるその気持ちを師匠の想いも配慮して伝えるには、とても勇気が必要だなと思って不安そうにしている私に友人は「メイ、聞くのはタダなんだよ。ダメならダメで次に行けるから良いじゃん C’est pas grave(大したことないよ)だよ!」と軽いノリで言ってきました。私もここはフランスだし「そうかぁ、そうだよね!」と答えて、勇気を振り絞って恩師に相談をしてみました。

わたしがその相談を投げかけたら、リュアン氏はびっくりした表情で「たしかにスタッフ不足にはとっても困っていて、これからどうしようか考えているところだったよ。まさか誰かに自分のお店を受け渡すという発想はなかったから驚いたね。でも私にまた一つ素晴らしい選択肢をくれて感謝しているよ、ありがとうメイ」と、寛大で聡明なリュアン氏らしい返答をしてくださったんです。

そしてその2週間後、リュアン氏から「OUI ! 喜んでメイにお店を譲るよ」と、とても嬉しいお返事をいただきました。

それからは、今までに経験をしたことがない、怒涛の開業準備がはじまりました。まずは自分名義で会社を設立して、その会社名義でリュアン氏のブーランジュリーを買い取るなどなど。もう自分にとっては、はじめてのことばかりで、しかも異国の地でフランス語で交渉をしなければいけません。日々のパン作りと並行して開業に必要な書類の準備、会計士や銀行とのアポをこなしていくのは非常に難しかったです。ただいつも協力してくれる夫と大切な友人たち、リュアン氏、会計士さん達の多大なる助けがあり、なんとか開業までたどり着きました。この開業までの時間は、自分でも何がなんだか分からない間に、あれよあれよと過ぎていきました。

そして肝心のお店の名前ですが、リュアン氏への敬意も込めて、これまでと同じ「Boulangerie Corneille (ブーランジュリー・コルネイユ)」という店名を引き継いで使用することにしました。

成澤芽衣さんの恩師リュアン氏が、お店を受け渡す際にユーモアを込めて作ってくれた「鍵型」のパン

▲リュアン氏がお店を受け渡す際にユーモアを込めて作ってくれた「鍵型」のパン

現在は、3名の現地スタッフと夫と私の5人で、日々バタバタしながらもなんとかお店を運営しています。

ブーランジュリー・コルネイユで販売している、バゲット・トラディション以外の3種のバゲット(左から、3種の雑穀を入れたバゲット・グレイン、蕎麦粉のバゲット・サラザン、自家製酵母のバゲット・ルヴァン)

▲店で販売している、バゲット・トラディション以外の3種のバゲット(左から、3種の雑穀を入れたバゲット・グレイン、蕎麦粉のバゲット・サラザン、自家製酵母のバゲット・ルヴァン)

ーランジュリー・コルネイユで販売しているブール・オ・ルヴァン

▲店で販売しているブール・オ・ルヴァン

ーランジュリー・コルネイユでは、ハード系だけでなくブリオッシュや日本ではおなじみのメロンパンもあります

▲ハード系だけでなくブリオッシュや日本ではおなじみのメロンパンもあります

フランスでブーランジュリーを開業するという一つの目標は果たしましたが、それは本当にただの通過点に過ぎません。フランス伝統のパンと私たちオリジナルのパンをお客様に提供しながら、いかにお店を軌道に乗せて継続できるか。また自分自身がさらに職人として、人間として大きく成長していけるように引き続きがんばって行きたいと思います。

みなさんが、もしフランスに来られる機会がありましたら、ぜひ店にお立ち寄りいただけると、非常にうれしいです!

 

●店舗情報
Boulangerie Corneille
住所:14 rue Corneille 49100 Angers France
公式インスタグラム:インスタグラムはこちら

 

この記事をシェアする
Writer
成澤 芽衣
成澤 芽衣
運営サイトはこちら
2017年 フランス全国バゲットトラディションコンクール 優勝。 現在はフランスでフリーランスのパン職人として活動する傍ら、日本でのイベントや、東京にあるベーカリーでパンの監修をさせていただいております。 フランスから私なりの視点で、パンのこと、普段のことなどなど。 生のフランス情報をお贈りします。
1
味覚と味蕾
ARTICLE
2023.06.13
教えて!専門家の皆さん!!美味しいものを作るために知っておくべき「味覚」について
chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
2
モンディアル・デュ・パン
ARTICLE
2024.10.23
パンの世界大会「第10回モンディアル・デュ・パン」日本代表選考会レポート!
chefno編集部
編集長&映像制作 コウヘイ
3
ARTICLE
2022.03.15
フランスにいったら役に立つ!かんたんフランス語講座 第11回『味の感想』
chefno編集部
編集長&映像制作 コウヘイ
4
ARTICLE
2024.01.09
インタビュー 老舗和菓子屋からパン屋へ パティシエ出身シェフが作る美しいパン ル・シュプレーム 渡辺 和宏
ベーカリーパートナー編集部
無料会員を募集しています!
chefno®︎では、会員登録することによって、会員限定のコンテンツを視聴したり、 製パン・製菓のセミナー(無料・有料開催)に参加することができます。 ほかにもいろんな特典を考えております。みなさまの登録をおまちしています!