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2024.02.20

女性デュオが営むパリの日差しの差し込む小さなお店「パティスリー・レヨナンス」

パティスリーレヨナンス

パリの9区に、日本人女性のデュオによる新しいパティスリーがオープンしました。
パティスリー雑誌「フゥ・ドゥ・パティスリー(FOU DE Patisserie)」のアイスクリーム部門賞を受賞するなど、オープンして3か月にも関わらず、すでに大人気のお店を営むのは、パティシエールの早戸由紀さんと、共同経営者の八谷ルミさん。

二人は、ともに手島竜二氏のミシュラン一つ星レストラン「パージュ(Pages)」 で働いている時に意気投合。一緒に店を開こうと約束してから数年後、2022年の9月20日に「パティスリー・レヨナンス(Pâtisserie Rayonnance)」をオープン。
店名の「レヨナンス」はフランス語で「輝き」という意味です。

パティスリーの名店からフランスへ

小さな間口のショーケースには、生菓子や焼き菓子が整然と並び、お店の奥の工房では、早戸さんがアシスタントと共に黙々と作業する姿をガラス越しに見ることができます。

色とりどりの美しいお菓子たちを見ていると、その場で食べたい衝動に駆られ、早速ケーキを購入。お店の窓際に設けられたイートインカウンターで「タルト・シトロン・ヴェール」をいただきました。

タルト・シトロン・ヴェール

生地の上に、香り高いライムの酸味がしっかり効いたクリーム。フレッシュ・フランボワーズが中に入っている。
焼き色を入れたほんのりピンクのフランボワーズ・メレンゲの美しい仕上げに、フランボワーズの飾りとライム・ゼストの繊細なグリーンがアクセント。

一般的なタルト・シトロンとはひと味違う、早戸さんの繊細な手仕事が光る一品です。上に乗せられたラズベリーも、彩りだけでなく、お菓子に奥行きのある酸味を与えてくれています。
幸せな満足感に浸ったあと、パティシエールの早戸さんにお話を聞いてみました。

パティスリー・レヨナンスの「タルト・シトロン・ヴェール」

▲タルト・シトロン・ヴェール

いつ頃からパティシエを目指そうと思ったのですか?

早戸さん
「母の影響で、私も子供の頃からお菓子を作るのは好きで、日頃の習慣になっていました。母が製菓道具をたくさん買ったものの、結局それほど使わなかったので、自分が本格的にお菓子作りをしようと思ったときには、すでに道具が揃っていました。友達の誕生日にケーキを作って持っていったり、お菓子を作って周囲に喜んでもらえることが嬉しくて大好きでした。
ただ、当時はパティシエになることを夢見ていたわけではなく、将来はなんとなく家庭科の先生になるのかなと思っていました。

パティシエになりたいと思い始めたのは20歳を過ぎてからで、短期大学で栄養と食について学んだ後、就職先を検討していた頃ですね。
学園祭で、所属していたサークルのスタンドでクレープを焼いていた時に、ふと友人に「自分の好きなことを仕事にすればいいんじゃない」と言われたことがきっかけでした。
そこで、お菓子の技術を本格的に学ぶために専門学校に進もうと決めて、辻調理師専門学校に入りました。当時はパティシエブームで、同校の製菓部門である辻製菓専門学校は希望者が多く、なかなか入るのには難しい状況でした。残念ながら私も落ちてしまって、とりあえず和洋の調理師資格をとることにしたんです。
専門学校卒業後には千葉のパティスリ『ドルチア』に就職しました。そこからが私のパティシエール人生のスタートですね」

これまでに影響を受けた方はいますか?

早戸さん
「これまでに出会った尊敬するシェフ達からはいろいろ影響を受けました。
『ドルチア』の西野チーフの仕事の的確さや作るものから、たくさんのことを学びました。
当時、私はムースしか作れなかったのですが、ある日、私が友人のために『誕生日ケーキを自分が作ってあげたい』と言うと、チーフが助けてくれて、私の個人的な願いを叶えてくれたんです。その寛大な心遣いと、焼いていただいた生地で作ったケーキは忘れられない想い出です。

もうひとりは、『ドルチア』の後に24歳から9年半在籍した『パリ・セヴェイユ』の金子美明シェフです。シェフの創作性、技術はとても素晴らしかったです。
パリ・セヴェイユでは、はじめの2年間は販売を担当しました。そこでお客様目線から販売というものを学べたことは良い経験になりました。製造に入ってからは焼き菓子を長く担当し、子供のころからずっと作ってきた焼き菓子の奥深さと難しさもとことん学びました」

その後、早戸さんはフランスへ渡仏。
ヴェルサイユにある金子シェフのお店「Au Chant du Coq (オ・シャン・デュ・コック)」で働いた際に、フランスの材料が日本と違うことを発見。彼女の素材に対する探求心に火が付きます。毎日が化学実験のような発見の繰り返しで、とても新鮮だったといいます。
ビザの有効期限の3か月はあっという間に過ぎ、早戸さんは日本へ一度帰国。再びフランスへ渡るためにアルバイトをしてお金を貯め、2年後に再びフランスの地を踏みました。語学勉強のかたわら、フランス各地を食べ歩きながら働けるパティスリーを探しはじめました。

パティスリー・レヨナンスの早戸由紀さん

▲パティスリー・レヨナンスの早戸由紀さん

コロナ禍での苦境から生まれた独立開業への道

早戸さん
「再びビザが切れるという頃に、日本でのイベントをお手伝いしたことが縁で、手島*シェフがレストラン『Pages(パージュ)』でのポストを用意してくださり、私がパリで就業できるようにしてくれたんです。手島シェフにはとても感謝しています。
シェフの元では、創作性とディテールにこだわったレストランのデセールという、新たな領域を学びました。この新しい世界をもっと追求してみたいという気持ちが湧き、パージュには4年間在籍しました。共同経営者の八谷ルミさんと出会ったのもこのお店です」

【手島竜司】
オープンから一年半という速さでミシュランの一つ星を獲得したレストラン「Pages(パージュ」のオーナーシェフ。その後パリ8区に姉妹店のパティスリー「Pages Blanches(パージュ・ブランシュ)」をオープンし、2023年7月には京都に焼き菓子やジェラートなどを提供するショップ・カフェ「ATELIER PAGES KYOTO(アトリエ・パージュ・キョート)」をオープン。

その頃にコロナ禍となり、パージュも他のお店同様、営業ができなくなります。
そこで、八谷さんと一緒に「何かしなければ」と自発的に考え、始めたのが「Pages by Hayato Yuki(パージュ・バイ・ハヤト・ユキ)」としての、キャラメルやパウンドケーキなどの販売。
売れ行きは好調で、それがきっかけとなり、二人は「近い将来お店を開こうか」と話すようになります。

早戸さん
「自分の店を持つことは夢ではありました。ただ、何歳までにオープンしたいとか、明確なプランがあったわけではなく、常に目の前のことに全力を尽くして、自分に出来ることをやり続けた結果、望んでいた結果になったという感じです。
『感謝する気持ちを忘れない』と自分に言い聞かせてやってきた日々の連続が、今に繋がったのかなと思いますし、いろんな方との巡り合わせのおかげで今があると思うので、私はとてもラッキーだと思います」

こうして念願のお店「パティスリー・レヨナンス」をオープンした早戸さんと八谷さん。
八谷さんは販売やお店の実務関係などを担当し、早戸さんとはお互いをほどよく補えるよきパートナー。途切れることなくお店にやってくるお客様に応対する八谷さんにも、合間を縫って少しお話をお聞きしました。

パティスリー・レヨナンス

▲店頭に立つ八谷ルミさん

八谷さんは、アメリカとフランスで育ったそうですね?

八谷さん
「はい。横浜出身なのですが、父の仕事の関係で5~10歳の時はアメリカで育ち、いったん日本に帰国して、その後14歳の時にフランスに来てからはずっとフランスに住んでいます。
最初の就職先が『Passage 53(パッサージュ・サンカントトロワ)』(当時ミシュラン2つ星の佐藤伸一シェフのレストラン)で、その後、パージュでサービスの職務に携わりました。

アメリカで育った経験もあり、自分のルーツである日本の文化には人一倍魅かれていました。例えば、日本に一時帰国していたときには、茶道のお稽古に通っていました。
その後14歳でフランスに来たとき、たまたま近所で弓を持って歩いているフランス人を見かけ、とても興味を惹かれて声をかけました。それから数年間、その方(モーリスさん)が稽古するパリの弓道クラブに毎週末通うことになりました。弓道は、無駄な動きをしない。その精神性は、今の仕事の考え方にも役立っています。
モーリスさんのご家族とも親戚のように仲良くなり、当時全くできなかったフランス語を話せるようになったのも、モーリスさんのおかげなんです」

お菓子の紹介

パティスリーレヨナンスの焼き菓子

▲焼き菓子の種類も豊富

早戸さん
「私はいろんな要素がごちゃごちゃしているのはあまり好きではないので、素材の味がストレートに感じられるもの、そして食感を大事にしてレシピを考えます。
例えば、ほうじ茶のサントノレ。チョコレートクリーム、カスタードクリーム、そしてクレーム・シャンティ、どれにもほうじ茶を入れて味わいを統一しています。
デザインの点では、四角は四角、直線は直線という構築的な形の中に丸さがあるというようなお菓子を美しいと思います。今後も、洗練された美しさをもつお菓子を目指していきたいです」

ほうじ茶のサントノレ

チョコレートクリーム、カスタードクリーム、クレーム・シャンティの3種類のほうじ茶のクリームの違いが楽しめる。カカオサブレのベース、トップにはマスコヴァド糖でカラメリゼしたクルミ。

パティスリーレヨナンスのサントノレ

▲ほうじ茶のサントノレ

ガトー・ア・ラ・ヴァニーユ・ドゥ・マダガスカル(マダガスカル産バニラ・ケーキ)

パート・シュクレ、ラム酒で香りづけしたフランジパンヌ、ホワイトチョコレートのガナッシュ、バニラ風味のクレーム・シャンティの構成。
濃厚なガナッシュが、フランジパンヌとクレーム・シャンティの美味しさを引き立てている。繊細な丸いホワイトチョコレートの飾りがおしゃれ。

パティスリーレヨナンスのプチガトー

▲ガトー・ア・ラ・ヴァニーユ・ドゥ・マダガスカル(マダガスカル産バニラのケーキ)

取材を終えて

パティスリー・レヨナンスのオープン日、八谷さんにとってフランスのお父さんともいえる、そのモーリスさんが逝去されました。フランス人から日本の精神を学んだ八谷さんが、パティスリーを通してフランス人に日々の幸せを届ける。ただの偶然ではないのかもしれません。
取材中、フランス人の友人家族や、海外から駆け付けたというお友達もお店に来られていました。ルミさんの明るくポジティブな性格が、そのような人の繋がりを広げているようです。

ふたりの輝く笑顔と、輝くお菓子たちが温かく迎えてくれるパティスリー・レヨナンス。
パリを訪れた時にはぜひお店に行ってみてください。


●取材協力
パティスリーレヨナンス
パティスリー・レヨナンス(Pâtisserie Rayonnance)
住所:17 Rue de Maubeuge, 75009 Paris
営業時間:11:00-19:30
定休日:日・月曜日
公式ホームページ:https://www.patisserie-rayonnance.com/
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/patisserie_yuki_lumi/
公式フェイスブック:https://www.facebook.com/people/P%C3%A2tisserie-de-Yuki-Lumi/100082914147966/

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chefnoフランス編集部
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