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2023.03.10

オーストラリアからつづる!ブーランジェ通信 by成澤 聡Vol.03『食パンが導いてくれた出会い』

こんにちは。

ここメルボルンでは、3月に入ってから急にひんやりして秋の訪れを感じています。メルボルンでは「今日から秋!」と、きっちり季節が変わるくらい季節の変わり目がはっきりしています。

さて、前回の通信では「メルボルンでの食パンブーム」についてお話ししましたが、今回は、僕が食パンを作ることになった始まり、そして現在働く「LITTLE CARDIGAN」をオープンするきっかけにもなったカツサンド専門店「Saint Dreux」との出会いについて話したいと思います。

 

日系カフェへの食パン作りがはじまる

以前に勤めていたメルボルンのベーカリー「Loafer Bread」でのサワードウ・ブレッド作りにも慣れてきた2017年中旬のこと。同店の近所に日本人オーナーのカフェ「Kissa Taiyo Sun」というお店がオープンしました。その名の通り、日本の喫茶店をイメージしたコンセプトのお店です。どうやら、お店であずきトーストやピザトーストなどを提供したいらしく、そのメニューに適した食パンの製造を委託できるところがないか探しているという情報を、Loafer Breadの常連のお客様から聞いたんです。

それを聞いた僕は、「僕にできることがあれば!」との思いで、その店での食パン作りを買って出ることにしました。

食パン作りを進んで請け負ったものの 、その当時はLoafer Breadで雇われて働いていましたので、どこで食パンを作るのかという問題がありました。そこでLoaferBreadのオーナーに相談すると、幸いにも営業後にキッチンを使うことを許可してくれたんです!さらにオーナーからは「食パンを作る際の材料もLoaferBreadで仕入れているものを使い、後日設備費と合わせて精算するのはどう?」とまで提案してくれました。使い慣れたキッチンで、しかもオーガニック中心の良質な材料まで使えるなんて、これ以上にない嬉しい提案でした。

早速、日本から食パン型をいくつか取り寄せ、日本での食パン作りの経験を思い出しながらレシピを仕上げていきました。当時のKissa Taiyo Sunは小さなカフェということもあり、生産量もそこまで多くなかったので、毎日食パンを焼く必要もなく、Loafer Breadでの通常勤務をこなした後の誰もいないキッチンで、時々食パンを焼きました。

Kissa Taiyo Sunのために作った山型食パン

▲Kissa Taiyo Sunのために作った山型食パン

こうして、僕のメルボルンでの食パン作りが始まったんです。

 

BENCH COFFEとの出会い。そしてSaint Dreux 用の食パンを作ることに

副業としての食パン作りを始めて1年ほど経ったある休日。美味しいコーヒーを求めて、以前から行きたいと思っていたおしゃれなカフェ「580 BENCH」を訪れました。するとそこには、日本人のバリスタが二人もいて、ついつい日本語でのお喋りに花が咲いてしまいました。

ちなみに、メルボルンは世界的にも知られているコーヒーシティ。世界各国からやって来た腕利きのバリスタに出会えます。もちろん、日本人バリスタに出会う機会も少なくありません。

580 BENCHを訪れてから数日後。 580 BENCHを運営するBENCH COFFEE CO.(当時メルボルン市内に2店舗。現在は4店舗)のオーナーであるFrankie(フランキー)から連絡がありました。内容は「メルボルンにカツサンド専門店「Saint Dreux」の出店準備をしているんだ。カツサンドに合う食パンを求めて手当たり次第メルボルンで手に入る食パンは試食してみたけれど、自分たちが求めている食パンにはまだ出会えていないんだ。この店のために食パンを作ってもらえないだろうか?」というものでした。

既にメルボルンでの食パン作りには慣れてきていたし、Kissa Taiyo Sunの時と同様、僕にできることがあればという思いもあり、 Saint Dreux の食パン作りを引き受けることにしました。

580 BENCHを訪れた際に自分がベーカーをしていて、副業で食パンも焼いていることを話したかどうか記憶は曖昧ですが、あの時、日本人のバリスタとワイワイ楽しくお喋りしたことがきっかけで、新たな食パン作りの旅が始まりました。

 

Saint Dreuxの求める食パン。試行錯誤の結果…

前回の通信でお話しした通り、当時メルボルンではすでにカツサンドブームが起こり始めていました。そんな中でSaint Dreuxが作ろうとしているカツサンドは「これまでにない高級感と、未体験の味わいと食感」という商品コンセプトでしたので、前述のKissa Taiyo Sunに提供している食パンとは違うレシピを考える必要がありました。

製法、使用するミルクやバターの種類、小麦粉の配合などを見直し、試行錯誤を繰り返しました。そして最終的にたどり着いたのが湯種食パンでした。もっちりとした食感、深い味わい、そして老化が遅いためパンの品質が良い状態(長い時間)で保つことができるからです。

僕が試作で作った湯種食パンを食べたFrankieは、とても喜んでくれました。なによりも気に入ってもらえたのは、これまでに試食した食パンとはまったく異なる「弾力性」だったようです。実は、彼に気に入ってもらえるまで試行錯誤した一番のポイントが、弾力性でした。

こだわりの湯種食パン

▲Frankieに認められたこだわりの湯種食パンが完成!

Saint Dreuxのカツサンド

▲Saint Dreuxのカツサンド

Frankieに僕の食パンが認められ、いよいよ生産が開始。昼はLoaferBreadでパンを製造、夜は副業で食パン製造する日々が定着し、食パンの製造数も多くなってきました。

Saint Dreux用の食パン

▲生産が始まったSaint Dreux用の食パン

日本から食パンの型を新たに取り寄せ

▲日本から食パンの型を新たに取り寄せて、増産に対応できるように準備もしておきました

2019年3月Saint Dreuxがオープンしてから、お店用の食パンを作り続けて今年でまる4年。途中、パンデミックによるロックダウンで製造をお休みする時期もありましたが、今日に至るまで、食パンの品質を落とさぬように気を配りながら、パン生地との密な会話を続けています。

Kissa Taiyo Sunへの食パン作り、そして580 BENCHでのバリスタとの出会いが繋いでくれたSaint DreuxのオーナーFrankie。その時は、僕のベーカー人生がそこから大きく舵を切ることになるなんて思いもしていなかったけれど、今思えばあの時の勢いが、今に繋がっているんだなと思います。

そして現在、「Saint Dreux」の誘いでパートナーシップを結び、準備してきた店舗「LITTLE CARDIGAN」で新たなベーカー人生がスタートしたことにワクワクしています。

LITTLE CARDIGANで販売しているShokupan

▲LITTLE CARDIGANで販売しているShokupan。材料を変えてよりリッチに仕上げています

 

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Writer
成澤 聡
成澤 聡
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パン職人になってかれこれ20年余。2012年、縁あってオーストラリアに移住。2022年12月、仲間と共にベーカリーとコーヒーロースタリーが併設した店舗をオープン。マルチカルチャーなオーストラリアの文化と人々に刺激されながら、美味しくて、楽しくて、そしてサステナブルなパン作りを日々模索しています。オーストラリアはメルボルンから、パンにまつわるエトセトラはもちろん、日々のことなどをお届けします。
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