こんにちは。
1月に入り、メルボルンは夏らしくなってきました。日本と季節が真逆のオーストラリアでは、クリスマスや正月は半袖短パン、サンダルの季節。サンタクロースもサングラスに半袖姿で、時にはサーフィンをしている姿も見かけます。
でも、日本で生まれ育った僕にとっては、やっぱりお正月は寒くないとしっくりこないものです。厳かさに欠けるというか、師走感がないというか。
今回は、ここ2、3年のメルボルンのベーカリートレンドについてお伝えしたいと思います。本題に入る前に、まずは予備情報として、メルボルンの食文化についてお話しします。
移民大国であるオーストラリアは、ぼくも含めて、様々な国から移り住んできた人々が共生するマルチカルチャーな社会。なかでもメルボルンはオーストラリアの「カルチャーキャピタル」として知られ、様々な国の文化が付かず離れずバランスよく街全体に根づき、人々の日常に溶け込んでいます。
ヨーロッパ、地中海、中東、アジアや中南米など、世界各地の影響を受け育まれたメルボルンの食文化はカジュアルかつ良質で、豊富な選択肢が特徴です。
街を歩けばイタリア料理、ギリシャ料理、中華料理、ベトナム料理、マレーシア料理、レバノン料理、インド料理、エチオピア料理などなど…あげればキリがないほどの多国籍ぶり。メルボルンの人々が美味しいものに敏感で舌が肥えているのにも納得です。
もちろん日本食も充実しています。高級寿司店からチェーン展開の巻寿司屋、日本さながらそれぞれの個性を発揮するラーメン店、和定食やおにぎりなどを提供するおしゃれなカフェなど。そしてメルボルンの人たちは日本食が大好き。メニューや価格帯、お店の形態に関わらず人気があります。
このように多種多様な食文化が楽しめるメルボルンでは、パンの種類も豊富です。
定番のサワードウブレッド、バゲットやチャバタ、シナモンロール、クロワッサンやデニッシュ系(数多あるベーカリーの中には、スイートスターターと呼ばれる自然発酵種を使って20時間程発酵させてクロワッサンを焼くお店もあります) 、バブカやベーグル、フラットブレッド、それに日本やアジアでよく売られている菓子パンなど、ありとあらゆるパンが手に入ります。
そんなラインナップのなかに、日本の定番である食パンが仲間入りしました。
というのも、メルボルンでは2、3年前から「カツサンド」が流行りだしたからなんです。 2019年にSaint Dreux(サンドリュー)というカツサンド専門店ができた頃から、メルボルンのカフェやダイニングなどではカツサンドがメニューに登場するようになりました。従来からの日本食人気もあり、カツサンドはメルボルンの人々にすぐに受け入れられ、グルメサイトや新聞などでも、「Katsu-Sando」と日本語での呼び名のまま紹介され話題になりました。
じつは、先程カツサンド専門店として紹介したSaint Dreuxでは、僕の焼いている食パンが使用されています。メルボルンでの食パン作りや、パンが導いてくれたSaint Dreuxとの縁については次回にお話ししたいと思います。
そして、カツサンド人気と同時に、カツサンドをつくるための大事な食材として食パンが「Shokupan」とこれまた日本語の呼び方のままで取り上げられました。
それまでオーストラリアには、食パンのようにやわらかくて中身が白いパンがなかったわけではありません。従来からあるWhite Sandwitch Bread(ホワイトサンドウィッチブレッド)という食パンに似たパンは、その名の通り、サンドウィッチ用のパンとしてどこのスーパーでも売られています。見た目も用途も食パンと似ているのですが、メルボルンでは、カツサンドに使われている食パンが「あまりにも柔らかくて美味しい!」ということで、それまでのサンドウィッチブレッドとは似て非なるものとして人気を得たようです。
今では、食パンを扱っているベーカリーがあったり、いくつかのカフェ(主に日系又はアジア系)が自家製食パンを焼き、カツサンドはもちろんトーストを提供しています。さらに、日本食材を売っているアジア系のスーパーでは、日本から輸入された食パンを冷凍で販売しているところもあります。
長きにわたって多くの国籍の人間が移り住んで文化を形成してきたオーストラリア。異国のものを受け入れるスピードも、他の国々に比べると早いように感じます。カツサンドの次は何が流行るのか、ベーカリー界の動向が気になります。