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2024.08.28

コーヒーからベーグルへ。想像力とご縁で広げる無限の可能性 シネマコーヒーアンブレラ 森慶太

シネマコーヒーアンブレラのベーグル
シネマコーヒーロースターズ森オーナー
CINEMA COFFEE ROASTERS(シネマコーヒーロースターズ)オーナー
森 慶太(もり けいた)さん
大学卒業後、東京の飲食店やバー、音楽学校などで勤務した後、出身地である兵庫県に家族と帰郷。
家業である塗装業をしながら、東京のバーでこだわりのコーヒーを提供していた経験をもとに、コーヒーの勉強を始め、2021年5月、西脇市に自家焙煎コーヒー店「シネマコーヒーロースターズ」を開店。
その後「シネマコーヒーターミナル」(加東市)、「シネマコーヒーアンブレラ」(西脇市)、「シネマコーヒーフィールド」(三木市)をそれぞれオープン。
運営サイトはこちら

世界の中で、日本はどれくらいコーヒーを消費しているでしょうか?欧米に比べると日本のコーヒー文化はまだまだ…と思われるかもしれませんが、実は世界第4位 *のコーヒー消費国です。ショッピングの合間に友人とカフェで一杯。仕事前にいつものスタンドで一杯。今ではコーヒーは私たちの生活に欠かせないアイテムの一つといえます。気軽にさっとオーダーできるコーヒースタンドだけでなく、自家焙煎やスペシャルティコーヒーといったこだわりのコーヒーを提供するお店もどんどん増えています。

そんなコーヒー専門店のなかで、コーヒーに留まらず、自らの強みを生かした店舗展開をおこなっているお店があります。自家焙煎のコーヒー専門店から、イートインのあるお店を新たにオープンした「シネマコーヒーロースターズ」オーナーの森さんに、お店を始めた経緯や想いを伺いました。
*参考資料:全日本コーヒー協会調査データ「世界の国別消費量(2023.12.8更新)」

物語のあるお店づくり

兵庫県西脇市で自家焙煎コーヒーを提供するシネマコーヒーロースターズ。現在、加東市や三木市も含め全4店舗を展開していますが、店舗ごとにコンセプトは異なっており、それらはすべて映画好きのオーナー、森さんの想像を膨らませて形になっているそうです。

森さん
「1店舗目の『シネマコーヒーロースターズ』は、僕がコーヒー店を始めようとしていた時に一目ぼれした焙煎機が1989年のドイツ製のものだったのですが、その年は大好きな映画『ニューシネマパラダイス』が公開された年でもあるんです。そこで、『もともと映画館だった場所で、自家焙煎コーヒー店をオープンした』という想像でお店を作りはじめました。

1店舗目から同じチームでお店作りをしてきたので、僕のイメージを伝えながら、みんなで作り上げるのが楽しくて。実は設計士やデザイナーの方はいなくて、全て同じアーティストの方と作っています。来てくださるお客様が、ただ食べたり飲んだりするだけじゃなくて、この空間を楽しんでほしいという想いで、どの店舗もこだわりを散りばめています」

2023年11月にオープンした、シリーズ3店舗目となる「シネマコーヒーアンブレラ」では、4店舗の中で唯一、コーヒーだけでなくベーグルや焼き菓子も提供しています。なぜイートインスペースがあるお店を始めることになったのでしょうか。

森さん
「オーブンなどの機械が元々設置されている、初期投資が要らない移住型のパン屋さんを誘致する空き家プロジェクトが西脇市で立ち上がっていて。 最初、僕はその実行委員のメンバーとして参加していました。

ただ、なかなか入居者が決まらなかったので、僕たちにも応募してほしいといわれたんです。先の2店舗で提供している自家焙煎コーヒーに合わせるお菓子や、ギフトの製造に興味を持ち始めているタイミングだったのもあり、この物件に応募することにしました。2022年の冬に声がかかって、翌年の3月にコンペ、8月には物件引き渡し、11月末にオープン…と怒涛の1年でしたね。

コーヒー店としては名前を知られてきていたので、『どんな焼き菓子を始めるんだろう』と興味を持ってくださる方も多かったみたいです。僕たちも、イートイン併設のお店を作るならどんなことが出来るだろう、と不安もありつつわくわくしていました。

ここは『傘が好きな女の子が夢で見たお店』がコンセプト。コーヒーもパンも好きな女の子が主役というイメージです。ベーグルをしようと思ったのは、元々僕がベーグル好きだったから。遠方から買いに来てくださるお客様も結構いらっしゃるのですが、思い返してみると、自分自身も市外や県外へ買いに行くことはよくあったなと。パンはパンですが、『ベーグル』というひとつのブランドになっているような気がします。インスタグラムのハッシュタグ検索でも、1万件以上ヒットするし、都会の人気店も増えてきていますよね。

シネマコーヒーアンブレラ

▲お店に入るとまず目に留まる、赤い傘のライト

たとえ未経験でも、1年後の未来は明るい!

パンとお菓子の監修には、神戸の人気ブーランジュリー「ビアンヴニュ」の大下シェフと、数々の店舗プロデュースや商品開発を手掛ける「エスクール」の石川シェフが携わっているとのこと。

森さん
「コーヒー専門店ではなく飲食店である『アンブレラ』をすることが決まって、何から始めればいいか悩んでいた時に、偶然大阪のアワジヤ菓機の柴峠社長と知り合いました。新店の話に興味を持ってくださって、このお店に必要な設備や機械など色々と相談をする中で、大下シェフと石川シェフをご紹介していただきました。

お店を始めるときに、商品のラインナップ候補は色々ありましたが、目玉商品が多すぎるのも良くないのではないかと思い、ベーグルを軸に展開していくことになりました。パン屋さんほど大きな窯ではないのであれこれできないというのもありますし、ブレずに目玉商品を大切にしようという考えもあります。

お二人に商品開発の依頼をさせていただいたときにすごいなと思ったのは、僕たちのコンセプトやイメージを理解した上で、スタッフのスキルも見ながら、オペレーションがスムーズに運ぶように考えてくださったところです。うちにしか出せないものを大切にしようというのは、僕からお伝えする前に、シェフから言っていただきました。

コーヒーがメインのお店という強みを大切に、焼き菓子に自家焙煎したコーヒーを入れたり、また、曜日限定で提供しているコーヒーシュークリームがあるんですが、これも初めからプレーンがあるわけではなくて、まずコーヒーを使ったお菓子を、ということで考えてくださいました。生地のクッキー部分とクリームに、香り高いスペシャルティコーヒーを使っています。他に、アフォガードも提供していますが、こちらもスペシャルティコーヒーを使ったおすすめの一品です。

シネマコーヒーアンブレラのコーヒーシュークリーム

▲曜日限定で提供される人気商品のコーヒーシュークリーム(提供:シネマコーヒーアンブレラ)

お店の設備と商品開発、心強い味方とともに、準備は順風満帆に進んだように思われますが、それでも初めて経験することも多く、苦労したこともあったそうです。

森さん
「ここにはパティシエやブーランジェの経験者はいません。製菓専門学校卒でも、仕事としては未経験だったりブランクがあったり、お菓子は趣味程度の経験しかなかったり。だから、オープン前の準備期間は何もかも初めてのことばかりで本当に大変でした。僕自身も経験が無いながらひたすらベーグルの成形をしたりしていました。

オープン初日から4日間くらいは、もう記憶にないくらい、客足も途絶えなくて、仕込みでほとんど寝る時間もありませんでした。最初はマネージャーである葉山が製造の中心に入ってくれて、今ではスタッフだけでも回せるようになりました。彼女も全く経験がなかったのですが、『とにかくお店に商品が無いことにはオープンできない!』という一心で頑張ってくれていました。

オープンしてからも初めてのことばかりで、例えば、暑くなるとこんなに人って外出しなくなるんだなと実感しましたね(笑)。コーヒー専門店だと、冷たい飲み物を飲みに来られるので、イートインがこんなに季節に影響されるというのを初めて知りました。オープンして数カ月経ちましたが、この1年はデータをとる期間にしようと思っています。春夏秋冬で経験するすべてが毎回初めてのことなので。

でも1から始めて形にしていくのはすごく面白いです。こうやって自分たちが可能性を広げてきたということを、スタッフだけじゃなくてお客様にも知ってもらうことで、何か気づきを与えられることもあるのかなと思います。

シネマコーヒーアンブレラのアフォガード

▲スペシャルティコーヒーを抽出したエスプレッソをかけたアフォガード

ポジティブに困難を乗り越えてこられたのも、想像することが好きなおかげだそう。うまくいくイメージを常に持っているから、初めてのことも怖さを感じずに挑戦してこられたといいます。

森さん
「ここを始めるとき、何かうまくいかないことがあったとしても、他の部分でカバーできるとか、スタッフを信じているのでうまくいく自信はありました。僕は『1年後に未来は明るくなる』ってよく言っています。誰でも最初は初心者で大変だけど、1年続けていけば絶対に上手くなるし、お店は活気があふれて楽しくなっているに違いない。この1年は苦しくて大変なこともあるけど、やるしかない。それを乗り越えたら楽しさが倍増するんじゃないかなと思うんです。本当は失敗のデータがもし買えるなら欲しいくらいです。でも、失敗も含めて、実際に色々な経験をすることで自分たちの自信につながるんだと思います」

シネマコーヒーアンブレラ

▲一緒に取材を受けていただいたマネージャーの葉山さん(右)と

こだわりをもつこと、自分たちにできること

最後に、「シネマコーヒーアンブレラ」の今後の展望について話していただきました。

森さん
「二人のシェフに支えてもらいながらオープンからここまできたので、これからは僕たちの自力が試されると思っています。あくまでコーヒーが軸で、ペアリングや、新しい展開をどんどん考えていきたいです。今パフェの開発をしているんですが、このパーツには浅煎りのコーヒーがいいとか、こっちの産地の豆の方が香りが合うんじゃないかとか、お菓子との相性を考えるのがすごく楽しいですし、僕たちからシェフに提案していくのも面白いと思います。

また、ベーグルの新しい体験の仕方も提案していきたいと思っています。生地と具材とソースを選べるベーグルサンドの提供が理想ですね。他の店舗でも販売しているギフト製品にも、これからもっと力を入れていきたいです」

シネマコーヒーアンブレラの焼き菓子

▲スペシャルティコーヒーを使った焼き菓子

「お店としては、この辺りでコーヒーを学ぶにはここが一番いいっていう場所にしていきたいです。ここで働いているスタッフたちが、いずれ独立したいと思った時に恥ずかしくないくらいのスキルをもって卒業できるように育てていきたいと思っています。『ここで働きたい』と思ってもらえるようなお店作りをして、西脇市内のコーヒー専門店の底上げをしていきたい。また、地域の皆さんと一緒に、もっと活動の幅を広げていきたいです。

店舗運営は今、葉山を中心に任せています。そのおかげで僕は、世界的に活躍されている方の講習やセミナーを積極的に受講することができるので、そこで学んだことをスタッフと共有したい。僕たちの活動や、お店の世界観は、周りから見ると変わっているのかもしれないですが、ちょっと目立つことによって、興味を持ってもらえるきっかけにもなります。そこからだんだんとご縁が広がって今があるので、こだわったお店作りは大事なことなんじゃないかなと僕は感じています。

そして、僕の最終的な目標は、福祉に結び付けることです。様々な境遇の方が一緒に働ける場を作るのが僕の夢なんです。そのためにも、今できることをしっかりとやっていこうと思っています」


●取材協力
シネマコーヒーアンブレラ
Cinema Coffee Umbrella(シネマコーヒーアンブレラ)
住所:兵庫県西脇市和田町25
営業時間:11:00~17:00(LO 16:30)
定休日:月・火・水
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/cinemacoffeeumbrella/

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Writer
chefno編集部
エディター兼ライター まる
chefno編集部
エディター兼ライター まる
輸入商社で営業部に所属。好き嫌いが無くなんでもたくさん食べられます。
丁寧な取材と記事作りを目指しています。写真は勉強中。
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