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2021.12.13

ヴァンドゥーズから学ぶ接客術Vol.1 「ヴァンドゥーズってお店でどんな役割?」

一般社団法人 全日本ヴァンドゥーズ協会 会長、パティシエ ショコラティエ イナムラショウゾウ オーナーシェフパティシエ
稲村 省三さん
早稲田調理師専門学校卒業後、東京ヒルトンホテルへ入社。渡欧先の各地のホテルや製菓店で修業し、スイス・ルツェルンのリッチモンド製菓学校でショコラ科、アントルメ科を卒業。さらにフランスのルノートル製菓学校であめ細工科を卒業。フランス、シャルルプルーストコンクールで銀賞、アルパジョンコンクールでは準優勝を受賞。2008年ショコラティエ・イナムラショウゾウをオープン。2009年一般社団法人 全日本ヴァンドゥーズ協会を設立。初代会長に就任。
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「ヴァンドゥーズ」
あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、フランス語で「女性の販売員」のことを指します。
日本では主にパティスリーなどのカウンターに立ち接客をする、販売員の方をそう呼びます。
ただの「売り子さん」「販売員」とはまた違った、専門知識を備えたれっきとしたプロの職業なんです。

お菓子やパンのプロフェッショナルな販売員、「ヴァンドゥーズ」の地位の向上と教育を目的として2009年に「全日本ヴァンドゥーズ協会」を立ち上げたのが、日本のパティスリー界をけん引してきた稲村省三シェフ。

2021年11月現在、協会の認定を受けたヴァンドゥーズは日本全国に429名いるそうです。

ヴァンドゥーズという仕事を通して、接客術を学ぶこのシリーズ。第一弾は、日本でヴァンドゥーズ協会を立ち上げるきっかけともいうべき、接客業に関わる人たちが抱える課題について、稲村シェフにお話をお伺いしていきます。

 

協会を立ち上げてヴァンドゥーズの社会的な地位向上を目指した

稲村シェフの考える「ヴァンドゥーズ」とはどのようなものですか


菓子職人は“パティシエ”と呼ばれるのに、販売する人は“売り子さん”などと呼ばれることにずっと違和感がありました。そこで僕は、お菓子やパンの販売員のことを、敬意を込めてヴァンドゥーズと名付けて広めたいと思ったんです。

良いお店は、『良い商品』と『良いサービス』の両方が揃っているので、そのどちらが欠けても成り立ちません。海外だと、販売員にもちゃんと階級があってスキルアップするシステムがあるけれども、日本にはそれがない。だから、キャリアとして認められず、離職する人も多いのだと思います。

僕は講義の中で、ヴァンドゥーズの仕事は、ただ商品を売るだけではなく、『商品を売ることを通じて、お客さまにサービスを提供すること』、『様々な知識や技術を駆使して、お客様が楽しく心地よいお買い物の時間を過ごすためのお手伝いをすることこと』だと伝えています。

短い接客時間の中でお客様のご要望を的確に理解して提案することが要求されるヴァンドゥーズの仕事は、実際、とても専門性が高いプロフェッショナルな職種です。ケーキはお祝い事や嬉しいときなど、何か特別な日に買いにこられる方が多いので、そうしたお客様の幸福な時間を演出し、より大きな感動を生み出すのがヴァンドゥーズの仕事の醍醐味だと思っています。

各所の製菓専門学校にてヴァンドゥーズの接客技術講義を実施。生徒たちが熱心に耳を傾けている

ホスピタリティという目に見えないものを扱うからこそ、誰にでも分かりやすく、伝承していけるようなしっかりとした教育体制が必要です。今では、ヴァンドゥーズへの理解を深めてもらい、リスペクトの精神をもって接してもらえるように、全国で12〜13ヵ所の製菓専門学校で学生たちにヴァンドゥーズの接客技術を教えています。

 

協会を立ち上げようと思ったきっかけになる出来事があったのでしょうか?

私が日本に帰国して、あるホテルでシェフをしていたときに、こんな出来事がありました。たまたま手の空いた時間に見回りをしていたときに、ショーケースの所で一生懸命ご婦人が尋ねようとしているんですけれども、3名いたヴァンドゥーズが背中を向けてお喋りをしていて一向に気づかなかったんです。見兼ねて僕が接客をしました。

お客様が帰られたあとに、「これではいけないよね」とヴァンドゥーズに注意したところ、「私たちは料飲部(直属)のマネージャーの指示しか受けません」と言われてしまって。「格式あるホテルのはずなのになんてレベルが低いんだ」と思って愕然としました。

その当時から業界では販売の人材を確保するのがとても難しくて、離職率もとても高かったんです。それはなぜかなと振り返ったときに、パティシエの場合は、技術アップのために定期的にヨーロッパから講師としてパティシエを招いて講習を受ける機会があるのですが、ヴァンドゥーズにはそれがありません。

接客で何か問題があったとしても、それを見ていた上司が本人に伝えるだけで終わってしまって、技術が一向に向上していかないので、なんとなく勤めて、なんとなく辞めていく人が多いのだと思いました。

実際、パティシエに対して、すでにあるレシピを使ってお菓子を製造する方法を教えるのは簡単なのですが、人の心を扱うヴァンドゥーズの仕事は教えるのがとても難しいんです。
でも、ここをしっかりと教育していかない限り、作ったものを一番喜ばれる形でお客様に届けることはできないし、離職率を下げられないと思ったのと、そのためにはヴァンドゥーズたちに目標を持たせることが必要だと感じ、協会を立ち上げることにしました。

 

教本を作ることで伝えにくかったヴァンドゥーズの知識や技術を集約

構想から設立まで大体どのぐらいの期間があったのですか?


大体6〜7年ですね。僕は2000年に自分の店を立ち上げたのですが、そこでまた問題が起きました。ずっとホテルに勤めていたので、販売というのをやってこなかったんです。でも、忙しいときは実際にお店に出ることがあって、慶弔関係の予約がお客様からくるんですよ。日本独自のしきたりですよね。私はこれをほとんど知らなくて困りました。もし間違えてしまった場合、お客様が恥をかいてしまうことになります。そこで、僕自身が商業ラッピング検定3級の講習を受けて、2週間練習をして試験を受けました。実際やってみて、目から鱗でした。日本には世界にない独自の包み方がたくさんあるんです。

販売のプロを目指す場合は、慶弔関係を8割知っているのではダメで、10割知らないといけません。プロと名乗るからには目に見える何か目標が必要だと思ったので、ヴァンドゥーズ認定の最低ラインとして商業ラッピング検定3級以上の取得を条件にしました。

協会を立ち上げた当初、まずは何をしようかと思ったときに、ヴァンドゥーズ同士の横のつながりが必要だと思ったんです。そこで接客のいろはを教えるためのビデオと、ヴァンドゥーズに必要な知識やノウハウをまとめた教本となるルールブックも作りました。

 

日本の接客技術は世界的に見ても高いと思うのですが、他国の接客と比べたときに何か大きな違いはあるんですか?

日本の接客の場合は、お客様があまり質問をしてこないので、察して伝えるような技術が必要です。逆に海外の場合はお客様からどんどん質問をしていただけるので、それに対してたくさん説明をします。

あと、日本との大きな違いは、海外の場合、職業訓練校を卒業して販売員になることで、仕事もすべて階級制になっていることですね。階級によって仕事内容が異なっていて、少しずつグレードアップしていくので、ランクにあった責任範囲で仕事が任されます。

続きはVol.2へ…

次回Vol.2は、
実際にヴァンドゥーズ協会を立ち上げてから自走するためにどのような仕組みを整えてきたのか、業界全体としてどのような変化が見られたかについてお話をお伺いしていきます。

 

お楽しみに!

 

●取材協力
❏全日本ヴァンドゥーズ協会
公式サイト:サイトはこちらから


 
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Writer
ワタリドリ製作所 矢作 ちはる
ワタリドリ製作所 矢作 ちはる
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ワタリドリ製作所 代表。 株式会社リクルートにて、編集、商品企画、プロモーション事業に従事した後、出版社にてビジネス書の編集を経て独立。 渡り鳥が軽やかに国境を越えて旅するように、各地を飛び回りながら、ヒト・モノ・コトに関わるその土地ならではの魅力を発掘&発信する活動をしている。 書籍や雑誌、Webメディアの企画・執筆・編集をメインに、オウンドメディアの編集長としても活動中。著書は『石の辞典』(雷鳥社)、『世界の絶景1000』(英和出版社)共著。 地図は読めないけど、街歩きがすき。
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