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2023.12.05

ヴィーガンスイーツを通じて誰もが健康で美味しいお菓子を楽しんでほしい。大阪初のヴィーガンスイーツ専門店「Vegancafe sister」

vegancafe sisterのケーキ
vegancafe sister今井さん
Vegancafe sister 代表取締役
今井 奈都紀さん
大阪府出身。ヴィーガン・ローフードの料理教室講師をしていたが、より多くの人にヴィーガンを知ってもらいたいという思いから、2020年11月、大阪 博労町にヴィーガンスイーツ専門店「Vegancafe sister」をオープン。
運営サイトはこちら

「ヴィーガンスイーツ」と聞いて、みなさんはどのようなお菓子を想像しますか?

生クリームもバターも卵も使わない、あっさりとした素朴なお菓子でしょうか。

大阪メトロ堺筋本町駅からほど近い、落ち着いたエリアにこぢんまりと店を構えるのは、大阪初のヴィーガンスイーツ専門店「Vegancafe sister(ヴィーガンカフェ シスター)」。ヴィーガンスイーツとは気づかないほど豪華で、しっかりとした味わいのケーキがショーケースに7~8種類ならぶほか、クッキー缶やキャロットケーキなど焼き菓子のラインナップも豊富です。

ヴィーガン料理教室も主宰しているというオーナーシェフの今井奈都紀(なつき)さんに、お店のことやヴィーガンスイーツの今後について、お話をうかがってきました。

ヴィーガンの人もそうでない人も一緒に楽しめる場所を作りたい

初めに、ヴィーガンのお店をはじめようと思ったきっかけについて教えてください。

今井さん
「元々、ローフード*やロースイーツを専門に料理教室をしていたんです。そこにはヴィーガンの方だけでなく、かわいいお料理やスイーツを作りたいという人がたくさん来てくれていたんですが、まずはきっかけや興味がないと、料理教室に来る人がいなくて。

ローフードやヴィーガン料理を色んな方に食べてもらいたいとは思うけれど、そういう料理を知ったうえで探して来てくれる人がいる反面、そんなものがあるということさえ全然知らない人もまだまだ多い。もっとヴィーガンを広めるにはどうしたらいいだろうと思ったときに、小さくてもいいから将来自分でカフェをやって、色んな人に食べてもらえたらいいなと思っていたのですが、突然、場所とタイミングが合って、スタートすることになりました」

*ローフード(Raw food)…加熱していない生の野菜や果物、ナッツ類のこと。熱に弱い酵素や栄養素を摂ることができると注目されている。

スイーツ専門店に絞った理由は?

今井さん
「本当はお料理もやりたくて、お店をはじめたばかりのころは手作りのベーグルサンドを売ったりもしていたのですが、あれもこれもやると大変なのでお菓子に絞りました。スイーツだと、手土産で利用する機会も多いかなと思って。ケーキならお祝いのときも食べられるし、私がコーヒー好きなので、コーヒーと一緒にスイーツを扱っているお店を小さくはじめたいなという思いがありました。
ここに来てくれるお客さんは、ヴィーガンでなくても、『あ、カフェがある』という感じで入ってきてくれる方が多いんです。それが最初の狙いで、看板で特別に『ヴィーガン』とわかりやすく謳っているわけではなくて、『たまたま入ったらこういう店だった』みたいな感じのコンセプトにしたいと思っていたんです」

vegancafe sisterの看板

▲お店の看板。一見するとヴィーガン専門店とは気づきにくい

大阪では初めてのヴィーガンスイーツ専門店だとお聞きしたのですが、ここでお店をしようと思ったのは、何か理由があるのですか?

今井さん
「それが、何かこだわりがあってこの場所に決めたわけではないんです。ヴィーガンがより認知されている東京や京都も検討していましたが、家賃が高くて難しかった。大阪なら地元なので土地勘もあるし、元々スイーツ教室に参加してくれていた人がお店に来てくれたりもします。『地域密着型』というわけじゃないですけど、細々とできたらなと思っていたので。スイーツに限らず、そもそも大阪にはヴィーガンのお店が少なくて、「もうちょっとあったらいいのにな」と思っていたので、挑戦ではありましたがきっかけの一つになりました。

私自身は、勉強のために、卵や乳製品を使ったケーキも食べることはあるんですけど、ヴィーガンの人はお店で食べられないものって結構いっぱいあるんです。ヴィーガンの人が食べられるメニューがそろっている店って、今は少しずつ増えてきていますが、お店をはじめたころは大阪にはあまりなかったんですよね。そうなると、ヴィーガンの人はお友達とお店に入ったときに『一緒に食べられない』と残念な気持ちになるし、一緒にいる人も気を遣ってしまう。ヴィーガンかどうかに関係なく一緒に、お喋りしながらワイワイ食べられたり、みんなで買って食べたりできるお店があったらすごくいいのにと思っていたので、『誰でも食べられる』というコンセプトにしたかったんです。『プラントベース』と謳ってもいいのかなと思っていたんですが、わかりやすく『ヴィーガンカフェ』にしています」

vegancafe sister店内

▲色調にもこだわったという内装。イートインスペース後ろのグリーンは本物

お菓子作りのあれこれ

ヴィーガンスイーツの材料について教えてください。

今井さん
「卵や乳はもちろん、はちみつや白砂糖*、ゼラチンも使っていません。うちの店では白砂糖は完全不使用で、きび砂糖や甜菜糖、アガベなどを使っています。焼き菓子には主に米粉、タカキビ粉、タピオカ粉やコーンスターチなどを使用しているほか、小麦粉も一部使用しています。オープン当初は、焼き菓子にそば粉も使用していたのですが、想像していたよりもそばアレルギーの方が多くて、使用をやめました。そのほか豆乳を使ったり、糖の吸収を穏やかにする水溶性食物繊維のイヌリンを使ったりしています」

*白砂糖…精製する際に牛骨炭を使用することから、ヴィーガン食では使用されないことが多い。

▲ヴィーガンスイーツを学んだフランスで衝撃を受けたピスタチオのクッキーをヴィーガンで再現。自慢の一品

ヴィーガンスイーツを作るにあたって、難しいことは何ですか?

今井さん
「私は外国でヴィーガンについて勉強したので、その時に使っていた材料を使いたかったのですが、なかなか日本で同じ条件の材料の調達は難しいと感じることはあります。今はヴィーガンバターなどを大手のメーカーも出してはいますが、日本で手軽に手に入らない材料もあって、自分で作ることが多いです。

例えば、チョコレートは、今は『プラントベース』と謳っているものが出てきていますが、乳成分が含まれないスイートチョコレートでも、同一工場内でミルクチョコレートやホワイトチョコレートが製造されていることで、乳のコンタミがあったり、完全にヴィーガンのものはまだないので、最初は自分で作っていました。ナパージュなどの既製品でも使えない材料が含まれていることがあるので、寒天ベースで作ることもあります。また、卵や乳を使わないタルトは調整が難しいのですが、さくっとした食感や焼き加減を大切にしていてすごく自信があるので、手作りにこだわっています。そういう手間が、大変かもしれないですね」

とてもかわいいお菓子ばかりですが、ビジュアル面で、何かインスピレーションを受けるものはありますか?

今井さん
「何かからインスピレーションを受けるというより、最初にお菓子のデザインや大体のイメージを思いついたところから作っていくことが多いです。パティシエさんによっては、一から細かく絵を描いて作る人もいると思うのですが、私の場合は試行錯誤しながら完成していくという感じです。思いついたデザインから、ここはこういう材料を使おうとか構成にしてみようとか。

きっと普通のケーキ屋さんが見たら『何これ!?』と感じるものもあると思います。ハロウィンのケーキも真っ黒で驚くようなビジュアルのケーキなので、そういう面では本当に自分の作りたいものを作っているかもしれません。いわゆるケーキという感じでは作っていなくて、見て楽しめるようなケーキを作りたいと思っています。

反対に、旬のフルーツなど、材料からお菓子を考えるときもあります。例えば、今お店で出しているパフェは、『このマスカットを使ってパフェにしたい』と考えて作りました」

▲期間限定のマスカットのパフェ。色鮮やかなフルーツと2色のムースのバランスが絶妙

ヴィーガンスイーツを作るときに、どういうところから情報収集をされていますか。

今井さん
「仕事で海外へ行くときは、現地の人のニーズに合わせて、彼らが好きそうなものをリサーチするためにいろんなお店に行ったりします。普通のケーキ屋さんにも行ってみて、『これをヴィーガンで作るとしたら』と考える。

海外旅行は元々好きですが、イベントや勉強のために訪れる場合ももちろんあります。何か新しい発見がないかなと常にアンテナをはっています。ヴィーガンについては外国の方が進んでいるので、新しい情報を得るためにヴィーガンのイベントに行ったりもします。今(取材時の10月)出しているごまのケーキは、先日行った韓国でのヴィーガンのイベントで提供していたケーキです。韓国では黒ごまとトウモロコシのお菓子がよく売られていて、そこでヒントを得て作りました。

常に何か新しいことがしたいと思っていて、ずっと定番の商品もあるけど、基本的には同じものをやりたくない性格なんです。ハロウィンなら、今ショーケースに並べているケーキを、全く違う真っ黒のケーキに変えたり。ケーキはほとんど毎月内容を変えています。『こんなケーキ見たことない!』って言ってもらえるような、お客さんの期待に応えられるお菓子を作りたいと思っています」

ヴィーガンスイーツの勉強の為に何か国も訪問されていますが、ヴィーガンスイーツを学ぶならこの国がいい、というところはありますか?

今井さん
「やっぱりフランスはパティスリーがたくさんありますね。ヴィーガン料理などのお店は他の国にもたくさんありますが、ケーキは、あまり他の国には無いかもしれないです。フランスには普通のパティスリーと変わらないビジュアルのケーキがたくさんありました。ただ、ビジュアルはいいのですが私には少し甘すぎました。実際に私がフランスで勉強したケーキは甘くて、ヴィーガンでも白砂糖を使っていました。ビジュアルと、味の組み合わせは参考にしました」

ヴィーガンスイーツを求めているのはヴィーガンの人だけじゃない

英語のメニュー表

▲外国人のお客様へ、英語メニューも用意

お店にはどのような方が来ますか?

今井さん
「私は最初、いわゆる『ヴィーガン』のお店をはじめようと思ったんですが、オープンしたら、アレルギーを持っている人がすごく多いんだということを実感しました。ヴィーガン専門店が珍しいので、オープン当初は動物性のものが食べられないヴィーガンのお客さんが多かったんですが、ヴィーガン食は意外とヴィーガン以外の人たちにも需要がすごく高くて。

現在はインバウンドの方がたくさん来てくれているのと同時に、『アレルギーで子供が食べられなくて』というお客さんがダントツで多いです。乳アレルギーで生クリームが食べられないお客さんから、夢だったクリーム(豆乳クリーム)たっぷりのケーキを依頼されたこともあります。誕生日ケーキのご注文が入ることも多いのですが、他のパティスリーでもここまで飾り付けをしているところが少なくて、ヴィーガンかどうかは関係なく、かわいいから買いに来てくださることもあります。外国の方も多いですが、日本の方も、遠方からここを見つけてきてくださる方もいます」

ヴィーガンの方ではなくアレルギーを持っている方からの要望はありますか?

今井さん
「焼き菓子に一部使用している小麦粉は、グルテンフリーの観点から不使用を希望される声もあるのですが、今のお菓子を気に入ってくださっているお客様も多いので、ゼロにすることは難しいです。生菓子に関しては、グルテンアレルギーの方のためにも、オープン当初から全てグルテンフリーでやりたいと考えていたので基本的には全部グルテンフリーです。ただ、ナッツ類は使わないと厳しいですね。ナッツアレルギーのお客さんからナッツを抜いてほしいという要望はよくいただくのですが、生菓子は小麦粉も使っていないので、抜いてしまうのは技術的に難しいです。タルトにアーモンドパウダーを使っていたり。ですが、商品によってはナッツアレルギーの方も食べられる生菓子もあります。例えば、定番品のチョコレートケーキやマスカットのパフェは、ヴィーガンでグルテンフリーで、しかもナッツフリーです。アルコールは、ハラルなど宗教的に口にできない方や、妊婦の方や子供もいるので、いろんな方が楽しめるように、ほとんど使っていません」

vegancafe sisterホールケーキ

▲取材時仕上げを行っていた、特注の誕生日ケーキ。旬のフルーツとクリームがたっぷり

日本でも徐々にヴィーガンスイーツは増えてきていますが、実際に需要が増えてきていると感じることはありますか?

今井さん
「大阪はまだ少ないですが、東京は結構増えてきていますし、こういうお店を探されている方は多いのではないかと思います。通販では焼き菓子だけ販売しているんですが、結構注文は多いです。このお店がないと困ると言ってくれる方や、スイーツを食べたかったけど、ずっと食べられなくて我慢してきたという方の声を聞いていたら、こんなにも困っている人がいたんだと衝撃を受けました。

当初はヴィーガンのこと以外あまり考えてはいなかったし、このお店が人気が出ると思っていなかったというのもあるんですが、ヴィーガンだけに限らずアレルギーや健康面で求めている方も多いと改めて実感しました」

何かの替わりではなく、ただ美味しいものを求めて

これからヴィーガンスイーツをはじめてみようと考えている方に向けて、何かアドバイスされるとしたら。

今井さん
「『ケーキはこういう味じゃないと』という考えを持たずに作ることではないでしょうか。

私がパティシエ出身ではないのと、ヴィーガンの勉強からスタートしているので、一般的なパティシエの方とは違って、卵や乳製品を他の材料に置き換えるということはしていません。普通のケーキの味に近づけようとか、『この味じゃないと』という固定観念は捨てて、例えばバターの風味、チーズの味や卵のコクがあるのが当たり前だと考えずに、ただ美味しいものを作るということ。

私は元々甘いものやお菓子が苦手で、バターやチーズの味や香りがきついと思っているのですが、反対に、知識や経験のあるパティシエさんほど再現したい味があると思うので、持っている知識が邪魔をしたり、ヴィーガンのお菓子作りは難しいと感じたりすることはあるかもしれませんね」

vegancafe sisterの生ケーキ

▲抹茶のモンブランはサクサクの自家製タルトを使用。奥のチョコレートケーキはグルテン・ナッツフリーでもある

パティシエの方にお菓子について意見をもらったことはありますか?

今井さん
「偶然近くでヴィーガンの勉強会をしていて、パティシエの方が来られたことがありました。こんなケーキはなかなかないということで、いろいろ尋ねられたりしました。私の作るお菓子は食べたらすごくあっさりしているケーキなので、男性や年配の方でも何個でも食べられそうなくらい、食べやすいって言われます。アレルギーやヴィーガンに関係なく、濃い味が苦手な方にもあっさりして食べやすいケーキです。パティシエの方は普通のケーキの味に慣れていて、もしかするとこのケーキは物足りないかもしれないですが、ヴィーガンの材料を使ってどういう味に仕上げるか、というのはそのお店次第なのかなと思います」

 

ヴィーガン専門店ではないパティスリーでまずできることは。

今井さん
「ヴィーガン対応メニューはぜひやった方がいいと思います。最近では有名店でも少しだけ置いていたりするところも増えてきています。専門店ではなくても、オプションでヴィーガンメニューがあるだけで、誰とでも一緒に行けたり、『食べてみようかな』と思う人が増えたりすると思います。

それはすごく大事なことで、ヴィーガンスイーツを全然知らない人も、こんなケーキがあるんだと知ったり食べたりするきっかけになりますよね。手間がかかるし、材料の調達が、ハードルが高いという人ももしかしたらいるかもしれないですが、逆にヴィーガンをとりいれることで、今まで来られなかった、ヴィーガンメニューを求めている遠方からのお客さんを引き寄せることができるんじゃないかなと思います」

取材を終えて

筆者は仕事柄パティスリーを訪れることも多いのですが、ヴィーガンスイーツは「物足りないだろう」と無意識に決めつけていたのかもしれません。今回の取材でケーキ(3つ!)とパフェをいただきましたが、どれもしっかりと素材の風味が感じられて満足感が高いのに、食べた後はお腹がすっきりとして、もたれた感じが全くしないことにとても驚きました。

「垣根なく美味しいスイーツを共有できる場所が増えて欲しい」と願う今井さん。

日本ではまだまだヴィーガンスイーツは一般的ではありませんが、ヴィーガンの人もそうでない人も、今井さんが作る新しいスイーツをぜひいちど、食べてみてはいかがでしょうか。

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Writer
chefno編集部
エディター兼ライター まる
chefno編集部
エディター兼ライター まる
輸入商社で営業部に所属。好き嫌いが無くなんでもたくさん食べられます。
丁寧な取材と記事作りを目指しています。写真は勉強中。
フランス菓子とウィーン菓子が好きで、特にカルディナールシュニッテンが大好物。
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