パン屋の開業準備を進める中で、多くの人が頭を悩ませるのが、物件探しと高額な機材の導入です。実際、開業に向けてオーブンやミキサー、大型冷凍庫などを購入するとなると、機材だけでも1000万を超えてしまうため、予算内でどのメーカーのどの機材を導入するかで頭を悩ませる人が多いそうです。
また物件探しでは、販売したい商品を売るために理想の商圏かどうかを吟味しながら探す必要があるため、開業準備に膨大な時間がかかってしまいます。
こうした心理的ハードルを一気に下げてくれるのが、居抜き物件を活用した開業法です。居抜き物件というと、お客さんが来なくて廃業してしまった物件などマイナスなイメージを持たれる方も多いかもしれません。
しかし実際のところ、、後継者がいない、オーナーが高齢でそろそろ引退したいといった理由で、地元客に惜しまれつつも、お店を閉じようとしている物件も多くあります。
こうした新たな担い手を探しているオーナーさんと、これから独立開業を目指しているパン職人をマッチングさせるサービスを提供しているのが、アルバネット(リテイル活性化協会)です。
今回は、アルバネット代表の竹谷光司さんと、副代表の渡辺誠さんに、協会の取り組みや、立ち上げた経緯、居抜き物件を活用するとどのようなメリットがあるのか、そして、実際にアルバネットを通じてパン屋を開業されたというご夫婦にもお話をお伺いしました。
目次
厨房をもつパン屋を街に残したい!その思いから協会を立ち上げた
日本の朝ごはんの風景が、ごはんからパンに変わった今、雑誌などで特集記事が頻繁に組まれるほど、空前のパンブームが続いています。
しかし、街で売られているパンの多くが、オートメーション化された工場で作られたもの。厨房をもつパン屋(リテイルベーカリー)は、1997年の1万2500軒をピークに、現在は25%も減少し、いまも毎年約200軒ものリテイルベーカリーが街からなくなっているのが現実です。
そんな現状を食い止めようと、アルバネットを立ち上げた竹谷さんですが、ちょっと変わった経歴の持ち主でもあります。
大学卒業後、パン職人になろうと某大手パンメーカーに就職しましたが、オートメーション化された分業制の現場では、パンの技術は学べないと思い1年で退職。
パンの本場ドイツに単身渡って3年間研修を受け、帰国後に日清製粉株式会社に入社。
有志で「ベーカリーフォーラム」を立ち上げるなど精力的に活動し、パン業界を牽引されてきました。
「ベーカリーフォーラム」とは、昭和62年から続いている、製パン技術者の自主勉強会で、現在ではパン業界のレジェンドと言われている方も多数参加されていたとのこと。
パン業界の名だたる職人さんが、実は竹谷さんの門下生だったりします。
パンを心から愛する竹谷さんは、退職後の2010年に、地元千葉県佐倉市に「美味しいパンの研究工房つむぎ」を創業し、2018年からは息子さんご夫婦が受け継いでいるといいます。
現在は、日清製粉で同僚だった渡辺誠さんと、アルバネット(リテイル活性化協会)を設立。
お店を手放そうと思っているオーナーと、お店を持ちたいと思っているパン職人をマッチングさせることで、街からリテイルベーカリーがなくならないように活動しています。
リテイルベーカリーを残すことこそが、日本のパン業界を救う
なぜ、そこまで竹谷さんと渡辺さんは、リテイルベーカリーを残すことにこだわるのだろう。
その理由は、生活をかけて必死にお客さんに喜ばれるパンを作り続けてきたオーナーの方をたくさん身近で見てきたから。
かつてパン業界でブームになった商品も、元をたどれば街のパン屋が生み出して火付け役となった物も少なくないそう。
もし、街からリテイルベーカリーが消えてしまったら、日本で魅力的なパンが生まれなくなり、ひいてはパン業界全体が落ち込んでしまうのではないかと危惧しています。
もちろん、リテイルベーカリーが閉業する理由も様々なのですが、中には超優良店にも関わらず、オーナーが高齢で、後継者が見つからずに閉店を余儀なくされるケースも多くあるといいます。
「70歳を過ぎて体力的にはかなりきつい中で、常連さんのために閉店できないでいるオーナーさんも多くいらっしゃいます。そうした人たちと、これから開業したいと思っているパン職人との架け橋になれたらと思っています。」
居抜き物件ならば、最小の労力とコストで開業することができる
居抜き物件の場合、パンを焼くための機材がほぼすべて揃っているので、最小の機材導入だけでお店をオープンさせることができます。
ゼロから機材を揃えるとなると、1000万円以上の初期投資が必要になるので、それを大幅に減らせるという意味では、コスト面でのメリットがかなり大きいといいます。
実際、内装や厨房設備など含めると、新しくベーカリーを立ち上げるために1500万円~3000万円ほどの資金が必要です。
その中でも一番高額となる機材のコストが抑えられるだけで、開業のためのハードルを一気に下げることができます。
また、ゼロから物件探しをしようと思ったら、商圏的に自分の求めるお客さんがいるかなどを調べる必要があり、物件探しの時間的なコストが非常に多くかかるのですが、既にパン屋を運営していた物件であればどんなユーザーがいるか等を事前に前オーナーから聞くことができるため、その手間が一気になくなります。
さらに、地元の方にもパン屋があることが認知されている場所なので、かつてのお客さんが、そのまま自分のお店にも足を運んでくるという集客面でのメリットもあるそう。
居抜き物件は、開業面ではいいこと尽くしなのです。
また、お店をオープンさせる人ばかりではなく、物件を貸してくれるオーナーさんにも大きなメリットがあるといいます。
それは、使用年月8年超えだと機材の価値が0円になってしまうので、処分するにも手間と費用がかかりますが、それをそのまま居抜きという形で使ってくれるのであれば、機材を無駄にしないばかりか、空き家となってしまう店舗から家賃収入を得ることができます。
物件を貸してくださる高齢のオーナーさんの中には、長年培ったパン作りの技術を無償で借り手の方に継承してくれる方もいるそう。
まさに双方にとって、Win-Winの仕組みです。
開業資金を抑えることで理想に近い内装のお店にすることができた
実際にアルバネットのサービスを使って2021年末にお店をオープンされた、Boulangerie Kazu(ブーランジェリー カズ)の髙島さんにお話しをお伺いすることができました。
「もともと僕一人でパンを作るつもりだったので、都内で15坪15万円ぐらいの条件で物件を探していました。内見も3軒ほどしたのですが、なかなかいい物件には巡り合えませんでした。上に人が住んでいる物件の場合、カフェだったらいいけど機械を使うパン屋は騒音がするからダメと言われることが多かったんです。」
そんな中、アルバネットさんに出会い、物件を何件か内覧してご夫婦共にとても気に入った物件が見つかったといいます。
3年お店を続けてくれたら、機材もすべて無償で提供するという条件のもとで契約。
「この物件を借りる決め手となったのが、内装を含めて自由に手を加えていいとオーナーさんがおっしゃってくれたことです。そのお陰で、僕たちが理想とするお店を楽しみながら作れています。」
居抜き物件を活用したことで、当初予定していた資金の3割強ほど節約することができました。
節約できた分、内装費に資金を充てることができたそう。美大出身のパートナーの協力もあり、5カ月ほどかけて店舗の内装をお二人で少しずつ作り上げていきました。
壁を塗ったり、床にモルタルを塗ったりと、毎日、左官工事に勤しむお二人に、地元の方が度々声をかけてくださったといいます。
そして、立ち話をする中で、新しくパン屋がオープンすることが地元の方にも知れ渡っていきました。
店舗の二階は、いずれアトリエやワークショップのような交流の場として活用する計画です。
「すぐ近くに元オーナーさんが住んでおり、来月にはお店で人気だったパンの作り方を教えてもらう予定です。あとは、この時期にはこんな商品がよく売れる、といった長年の経験で培った地域ならではの情報も教えていただけるので、初めてお店をもつ私たちにとっては、様々な情報を教えていただけるのはとてもありがたいです。」
オーナーさんとは、時々お茶を飲んだり、奥様がパンを買いに来てくれたりと、とてもよい関係を築いているそう。
一人ずつ顔馴染の方が増えていくように、地域の人たちと緩やかなつながりができ、現在のように地域の人たちに愛されるお店になっていったのだろうと、お二人のお話をお伺いしながら思いました。
開業資金を抑え、物件探しのハードルを限りなくゼロに近づけられる居抜き物件での開業。
本当に自分たちがこだわりたいと思っていることに資金投資することができるので、最小限のリスクで理想のお店づくりができます。
パン屋を開業する際にお困りの方は、アルバネットにご相談してみてはいかがですか。
●取材協力
❏アルバネット(リテイル活性化協会)
千葉県佐倉市上座400-111
MAIL:post1@arbanet.org
公式サイト:サイトはこちらから
❏Boulangerie Kazu
千葉県佐倉市江原台1-27-7
営業時間:9:00-17:00(売り切れ次第終了)
定休日:月・木(臨時休業あり)
公式インスタグラムはこちらから
❏Bakery&Cafe TSUMUGI
千葉県佐倉市ユーカリが丘4-8-2 ユーカリが丘駅
営業時間:8:30~19:00(L.O.17:00)
定休日:日・月曜日と第4火曜日
公式サイト:サイトはこちらから