前回の記事で、多くのことを語ってくださった、グラスデザートの名店「ラトリエ ア マ ファソン」森郁磨シェフ。「僕はパティシエではない」そう話す森シェフの、美しくカットされ盛りつけられたフルーツ、幾重にも重ねられたグラスの中の層、計算し尽くされた一皿としてのスタイリングは、多くの人の心を魅了してきました。「主役はグラスデザートたち」と話す森シェフは、今までどのメディアにも自身を語ることがなかった今回、グラスデザートの根本となるシェフの考えや構造美への飽くなき探求心、そして未来のパティシエや料理人を含む、多くの人にとってスパイス(刺激)ともなる、インタビューに仕上がっています。貴重なお話は、後編として締めくくります。
目次
多様化しすぎたパフェの世界。「私が作り出したものは、俗にいうパフェなのか?」
「パフェっていうのをやめようと思っています。ずっと疑問があって。“日本で一番まねされた”とほこりをもっていいのかなと思うこともありますが、あまりにも多様化してきて(自分も原因だけれど笑)、私が考え、作り出したものが俗に言う“パフェ”なのか?
私が今まで様々なグラスを用いて表現していることは、生半可な思いでやっていない。長く向き合うと毎年必ず“気づき”や“その先”が見えてくる。パルフェは、“完璧”という意味が語源とされているけれど、完璧って退屈だと思うし、不完全だからこそ、進化や成長が生まれる。人間も同じだと思います。
パフェではなく、「グラスデザート」
もう誰よりも“パフェとは何か?”を考え始めて16年。
僕らの方から“パフェ”から外へ出ちゃおうと思い、独立してからは
“グラスデザート”と呼んでいる。
「私がグラスの中に詰め込むのは、“文化”」
「グラスデザート、よくインスピレーションはどこからか?と聞かれます。最近だと、昔からテーマがあるものを題材にしよう(桃太郎)とグラスデザートを作りました。ひと目見てこれは桃太郎だよねってわかるじゃないですか。それも“だいたいの人が桃太郎だと思えるもの”でよくて、そこはあいまいでいいんです。みなさんが脳裏に焼きつけている香り、所作、イメージ。多くの人がそれぞれ違う、懐かしい記憶のどこかにひっかかればいいなと。」
「実は、誰も知らない食材、見たこともない組み合わせは興味なくて。普段、当たり前に見ているものを、当たり前じゃないものに昇華させるのが醍醐味だと思っています。グラスという、その形状なら何をつめるか。そこでたどり着いたのは『文化をつめる』ということ。
それが僕の仕事です。
いちごの切り方だけで7パターン必要になる理由
「盛り付けも構成もいちごの切り方一つとっても、すべてが毎日の格闘でそれもグラスデザートにおいて大事な構成要素です。どうやって切るか、ミリ単位で角度も、毎日チェックしている。いちごのブーケのパフェ、ただ薄く切っているようにみえるけど、あれは切り方だけで7パターンもあるんですよ(笑)。薄く切ってただのせればいい、ではないんです。滑って落ちないようにする切り方、甘い部分を感じてもらえるための切り方、いちごを大きく見せるための切り方…etc. それに重力に逆らえないアイスをのせた場合の強度計算もしながら。
“ああするためには”が、この7つないと成立しなくて、突き詰めていくうちにこうなりました。お客さんはそこには絶対に気づかないけれど、それぞれの価値観でいいと思っています。
「若い人へ。“違う人になりたい”ではなく自分で工夫や発見をし、長く向き合えば自ずと他と違う人になれる」
「最後に、言い忘れましたが若い人に言いたいことがあります。パティシエさんでも、料理人でも“とにかく人と違う人になりたい”などと、先にイメージしちゃうとただの変わり者になります。私は自分より先輩や先生、指標となるモデル店もなかったので、がむしゃらに前を突き進みました。
SNSが発達して、何でも見れてしまう今では、“こうなりたい”と思わないのは逆に困難かもしれませんが、私の場合はうどんとパフェを選択した訳ですが、それはとにかく選択は何でもいい。好きになるように自分で工夫や発見をし、改善点を見出し、集中して長く向き合えば、自分にしか見えない景色が待っている。集中して向き合える環境は助けを借りてでも自分で作る。人は一人では生きられないと知る。やがて情熱はお客様やスタッフに伝わります。」
Profile
森郁磨 Mori Ikuma
1996年 辻調理師専門学校卒業
1996年 『ホテルニューオータニ東京』入社
2004年 『Café 中野屋』開店
2019年 『Café 中野屋』閉店
2019年 ラトリエ ア マ ファソン(L’atelier à ma façon)開店