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2026.06.23

パンを通じて、人と人をつないできた25年

メゾンカイザー木村シェフ

メゾンカイザー 木村 周一郎
メゾンカイザー日本展開の立ち上げを担い、現在もブランドを牽引するブーランジェ。歴史あるパン店に生まれ、一般企業勤務を経て製パンの道へ進む。アメリカ、フランスで技術を学び、エリック・カイザーと出会い、日本での展開に携わる。

日本で25年目メゾンカイザーという店

メゾンカイザー

フランスのブーランジェ、エリック・カイザー氏が創業したメゾンカイザー。1996年にパリで誕生し、2001年、海外展開の最初の市場として日本に進出した。その日本展開の立ち上げを担ったのが、木村周一郎氏だ。

アメリカ、フランスで製パンを学び、エリック・カイザー氏本人と関係を築いたのち、日本での展開に携わることになる。

実際に店舗に立つと、まず印象に残るのは、周囲との距離の近さだった。アルバイトスタッフにも、自然に名前で声をかける。そこには、肩書ではなく、一人の人として向き合っている空気がある。パンを通じて人が集まり、従業員、お客様を問わず、会話が生まれる店内。日々のやり取りの積み重ねが、店の雰囲気を形づくっているように感じられた。

厳しい環境の中で孤独と戦った海外生活

木村氏は、自身について、決して現在のような穏やかな性格ではなかったと振り返る。負けず嫌いで、感情が先に出てしまうこともあったという。通っていた学校も、厳しい環境だった。小学校から大学まで続く一貫校で、中学の段階から落第制度がある。基準に届かなければ、そのまま退学になる。実際に、同じクラスの中から退学になっていく生徒が出ることも珍しくなかった。

歴史あるパン屋の家に生まれながら、卒業後は、まず一般企業へ進んだ。その理由の一つに、大学時代に病気で約2カ月入院したことが挙げられた。当時、同級生にパン業界へ進む者は一人もいなかった。さらに復帰した頃には、周囲の学生の就職はほぼ決まっていたという。焦りもあり、先輩に勧められた生命保険会社に入社したと話す。当時を振り返る表情は、どこか照れくさそうで「業界研究もしたけれど正直、生命保険会社が何をする会社か知らないまま入社してしまった」と語ってくれた。

ただ、その先に待っていたのは、決して軽い社会経験ではなかった。
現場で過ごしたのは、6~7年。形のないものを扱い、数字で評価される世界の中で、楽しいことばかりではなかったとも話す。
生命保険会社での経験を経て、その後、パンの道へ進むことになる。当時、父から「そろそろパンの世界に来ないか」と声をかけられたことが、一つの転機となった。海外で製パン技術を基礎から学ぶため、まずアメリカへ渡る。アメリカで学ぶ中で、特に苦労したのは語学だったという。日常会話には困らなかったが、製パンの専門用語になると、理解に苦労する場面も多かった。製パン理論を基礎から学び、その後、現場で実務経験を積みながら、職人としての技術を身につけていった。

その後、木村氏はフランスへ渡る。そこで出会ったのが、ブーランジェ、エリック・カイザー氏だった。当時の工房は、フランスの中でも厳しい現場として知られていたという。言葉も文化も異なる環境の中で、現場に立つ日々が始まる。

当初は、名前で呼ばれることはほとんどなかった。ミスが起きた際には、言葉が十分に通じない木村氏に責任が向けられることもあったという。それでも、任された仕事に向き合い続けた。ある時、それまで厳しく接してきたスタッフが休みに入った際、木村氏がそのポジションを任されることになる。その経験を境に、現場での評価も、少しずつ変わっていったという。

逆境を超えて、愛されるパン屋へハード系パンの認知

メゾンカイザー

木村氏は、カイザー氏のもとで確実に技術を磨いていた。その後、日本での展開構想が動き始める。海外展開の最初の市場として選ばれたのが、日本だった。

その中心となって動いたのが、木村氏だった。そして2001年、メゾンカイザーの日本展開がスタートする。しかし、立ち上げ当初、決して順調だったわけではなかった。
当時、日本のパン市場において、本格的なハード系パンはまだ一般的とは言えなかった。周囲からも、「日本では難しいのではないか」という声があったという。オープンしてからはしばらくバゲットはほとんど売れなかった。「毎日せいぜい14本。15本は超えなかった」と振り返る。一方で、製造は止められない。焼き上がりの鮮度が落ちれば、さらに売れなくなる。そこで、焼き方を変えた。まとめて焼くのではなく、焼きたてを維持するため、時間を分けて焼き続けるようにした。結果として、1日に100本以上焼く日もあった。当然、売れ残る。そのパンは、来店したお客様に試食として渡し続けた。「どうせ捨てるなら、食べてもらった方がいい」という考えだった。それを半年ほど続けた。

すると、ある日、状況が変わる。クリスマスだった。その日、バゲットは一日で500本以上売れた。理由は、はっきりしていた。普段、バゲットは「おいしいけど生活に必要ないもの」として見られていた。しかし、クリスマスは違う。

ワインを飲み、特別な料理を作る。そのとき、パンがお客様にとって「必要な食材」になったのだ。ここで、木村氏は一つの確信を持つ。
売れない理由は、「固いから」でも「日本人の嗜好」でもなかった。食べる文化が、まだ生活に入り込んでいなかっただけだった。だから、売り方ではなく「使い方」を伝えることに力を入れた。

パンを売るのではなく、パンのある食卓を提案する。そこから、少しずつ支持が広がっていった。現在、メゾンカイザーは、全国に店舗を展開するブランドへと成長している。
しかし、その根底にある考え方は、変わっていない。従業員やお客様ではなく、 人と人がパンを介して向き合い、「パンのある素敵な生活」を体現できる場所となっている。日々の積み重ねが、店をつくりブランドをつくり上げた。そして今も現場の中で受け継がれ続けている。

メゾンカイザー

① バゲットモンジュ 351円(税別)
メゾンカイザーのバゲットは、小麦・塩・水・発酵という極めてシンプルな構成で作られる。だからこそ、技術と思想が最も表れるパンでもある。特徴的なのは、オープンから変わらずに継ぎ足し使っている発酵種を使用している点。また、伝統的なフランス製法に近づけるため、イースト使用量も極力抑えている。

② クイニーアマン 333円(税別)
サンマロ由来の菓子パン。季節で味バランスを調整している。冬は重め、夏は軽め。市場や気候によって味の設計を変えている。女性に人気のあるパン。

③ クロワッサン 314円(税別)
クロワッサンには専用のバターを使用。過去にはフランス産バターを使用していた時期もあったが、現在は北海道産バターをベースに、専用仕様のものを使っている。
より良いものがあれば変えていく、という考え方で選択している。

④ パン オ フロマージュ 509円(税別)
使用しているのは、最高級のエメンタールチーズ。ただし重要なのは、単に高級原料を使うことではなく、品質を守りながら、供給を安定させること。品質を担保した上で、大量調達・空輸管理を行う。クラムのさっくり感と少し温めたときのチーズのしっとりとした食感が癖になる。木村さんも一番のお気に入りという商品。

⑤ ハイファイバーブレッド(ホワイトチョコ)296円(税別)
健康的なパンとして売り出している商品。特徴は食物繊維量。特にレジスタントスターチが多く、腸内環境への働きが期待されるパン。味を強く作るというより、日常的に食べ続けられる設計。

【木村シェフに聞いた】「ただパンを売る場所」にしない

メゾンカイザー木村シェフ

メゾンカイザーでは、パンを通じて、人と人が関わる場所であることを大切にしています。
お客様との関係も、一方的にパンを提案するのではなく、会話の中で一緒に作っていくものだと思っています。よく例え話で出すのが、牛丼屋さんの話です。常連になると、「いつもの」と言えば、つゆの量やネギの量まで分かってもらえる。

ああいう関係って、消費で終わらない店というか、すごくいいと思うんです。パン屋も、同じことができると思っています。パンの食べ方も、お店から一方的に伝えるだけではなくて、お客様との会話の中で生まれていく。実際、店を開けたばかりの頃、お店の売上も芳しくなく、何も買わずに帰ろうとしたお客様がいらっしゃいました。理由を聞くと、「今日は肉じゃがと、お刺身だから、バゲットは合わないと思って」という話でした。

そこで、肉じゃがならポトフに、お刺身ならカルパッチョにしてみたらどうですか、という話をしました。そうすると、バゲットも自然に合うようになります。
そういう会話をきっかけに、パンの使い方が広がっていくこともあります。「こうやって食べたらおいしかった」「家族が喜んでくれた」そういう声を、あとからお客様が教えてくれることもあります。中には、「こういう料理にも合いましたよ」と、逆にお客様から教えてもらうこともあります。

そうやって、店からの提案だけではなく、お客様からの提案も重なっていく。その積み重ねの中で、パンの楽しみ方が広がっていくんだと思っています。そして、常連のお客様が、「これ、私が教えたの」と、誰かに話してくれる。牛丼屋さんで、「つゆだく」「ネギ多め」みたいに、自分の“いつもの”があるのと、少し似ていると思っています。
パンの場合は、量やトッピングではなくて、食べ方や料理との組み合わせになる。「このパン、こうやって食べるとおいしいのよ」と、自分の経験として、誰かに伝えられる。

そういう関係が生まれることが、すごく大切だと思っています。会社としては、従業員が安心して働ける環境をつくることも大事にしています。毎年、少しずつでも給料を上げていく。実際に、5%ずつ上げてきました。そうすると、働く側にも余裕が生まれます。

その余裕が、自然とお客様との会話につながっていく。結果として、それが、お客様にとっても居心地のいい場所になっていくんだと思っています。それが、「パンのある素敵な生活」につながっていくのではないかと思っています。

長く続けていくために変わっていくこと

メゾンカイザー

僕は、変えることと、変わらないことは、両方必要だと思っています。本質の部分は守りながら、時代に合わせて変えていく。長く続いている店ほど、実は少しずつ変え続けていると思っています。

例えば、配合は変えなくても、発酵の取り方は変えることがある。焼き色も、市場によって変えることがある。材料も、時代に合わせて変わることがある。
ただ、変えてはいけないのは、パンに対する考え方や、何を大切にして作るか、そういう根幹の部分だと思っています。
「枝葉は、どんどん変えていい。」メゾンカイザーのお客様は、品質をきちんと見ているお客様だと思っています。安ければいい、というわけではないと思っています。

例えば、安くするために、原材料の質を落としたり、作り方を変えたりすれば、それはお客様にも分かるでしょう。お客様は、そこまで含めて価値を見ていると思っています。もちろん、ブランドによって考え方は違うと思います。ただ、自分たちだけが我慢すればいい、従業員が我慢すればいい、というやり方は、長くは続かないと思っています。

しかし、この先、10年、20年と続けていくためには、それだけでは難しい。
だからこそ、守るべきものは守りながら、どうやって続けていくかを考える。それもまた、変えていくことの一つだと思っています。

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ベーカリーパートナー編集部
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