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2026.08.10

ベルギーからつづる!ブーランジェ通信 by若杉あかね Vol.6「ベーカリーで働き始めました!」

chefno ブーランジェ通信

みなさん、こんにちは!
ベルギー生まれの日本人ブーランジェが、ベルギーの文化やパン事情をお届けするこの連載。

今回は、わたし自身の新たな挑戦についてです。
専門学校を卒業したわたしは、この春からベーカリーで働き始めました。「ベーカリーで働く」という大きな一歩を踏み出し、毎日新しい発見や学びの連続です。
今回は、ベーカリーで働くことになった経緯や、お店のこと、そして実際に働き始めて感じたことをお話しします!

ベーカリー「simple(サンプル)」との出会い

私は3月下旬からSimpleというベーカリーで働き始め、気が付けば3か月ほどが経ちました。
昨年10月に開催されたモンディアル・デュ・パンでは、最終決戦「Best of」に進出する上位6チームが決定しました。私がコミを務めたベルギーチームは惜しくも7位という結果に終わり、「Best of」進出の夢はあと一歩のところで叶いませんでした。
しかし、その後フランスチームが出場を辞退することとなり、昨年末、ベルギーチームが繰り上げで「Best of」への出場が決まりました。複雑な気持ちではありましたが、再び世界を舞台に挑戦できることを、心からうれしく思いました。

ただ、その「Best of」の日程がなかなか決まらず、私自身の今後の予定が立てられない状況でした。
学校を卒業した今、仕事を探す予定でしたが、「Best of」への出場が決まったことで状況は大きく変わりました。大会の日程によっては、働き始めても3か月ほどで退職しなければならない可能性があったためです。そのような前提で仕事を探すのは決して簡単ではありませんでした。

2月ごろから何軒かのベーカリーに履歴書を送ってみたものの、学校を卒業したばかりで実務経験もほとんどなく、しかも3〜4か月という短期間で雇ってくれるベーカリーは、なかなか見つかりませんでした。

そんな中で、私を受け入れてくれたのがsimpleです。simpleは、オープンしてまだ1年にも満たない新しいベーカリーでした。
シェフのマクシムは、オープンからずっとパートナーのキャトリンと2人だけでお店を切り盛りしていました。マクシムがパンを作りキャトリンがドリンク、パンの販売など接客担当です。

chefno ブーランジェ通信

▲シェフ マクシムの成形は一つひとつ丁寧で、その美しさが際立ちます。

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▲キャトリン担当のドリンク。メニューには、いまヨーロッパでも人気の抹茶ラテも。

真面目に美味しいパンを追求するSimpleは評判を呼び、固定客も少しずつ増えていきました。それに伴って仕込むパンの量も増え、マクシムは朝5時から夜23時まで働く日が続くようになったそうです。さすがにこのまま2人だけで続けるのは体力的に限界と判断し、スタッフを募集することに。

そんなタイミングで、私はsimpleと出会いました。まず私はsimpleに履歴書を持ってアポ無しで突撃しました。キャトリンの反応は、「3か月だけの採用は短すぎる……」というもの。私は半ば諦めながら帰りました。

ところが数日後、キャトリンから「あなたの経歴が面白いので、マクシムも一緒にもう少し話を聞きたい」と電話があり、再訪することになりました。学生時代に出場したコンクールの結果に興味を持ってくれたようでした。色々なコンクールに出場させてくれた先生に感謝すると共に、結果を出してきた自分の努力が無駄ではなかったと思いました。

そして当日、普通の面接を想像して出向いてみたら、いきなりクッキーを一緒に作りながら話をすることになり、私としてはただ楽しい時間を過ごしただけで面接という実感もなく終了となりました。実際の技量を見たかったのか、単に面接の時間が取れないほど忙しかったから作業をしながらだったのか、なぜパンではなくてクッキーなのか…。真相は、聞いてないのでわかりません(笑)。クッキーを作りながら色々会話をすることで、お店の雰囲気や2人の人柄をより知ることができ、面白いアイデアだと思いました。

工房の様子

クッキー面接を経て、めでたく6月いっぱいまでsimpleで働かせてもらえることになりました。学校とコンクールでの経験はあるものの店舗での実務経験はほぼ無い上に、たった3ヶ月と言う勝手な要望を受け入れてくれたマクシムとキャトリンには感謝しかありません。

さらに、働き始めてすぐ、simpleがとても働きやすく、とても恵まれた環境であることがわかりました。
まず、simpleの工房はとても広く、十分過ぎるぐらいの作業スペースが確保されています。

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そして、几帳面な性格のマクシムは、整理整頓が徹底しているので、道具は常に決まった場所に整然と片付けられ作業がとてもスムーズに進みます。時間や手順が重要なパン作りには、こうした環境づくりが重要であることを日々実感しています。

また、働き始めてすぐに仕込みの仕事をどんどん任せてもらえたことも嬉しかったです。自分の技術を信頼して仕事を任せてもらえていることが嬉しく、その信頼に応えたいという気持ちで、責任感を持って働いています。
毎朝5時半からマクシムが1人でパンを焼き始め、私は8時から出勤して仕込みを中心に担当しています。そこから一緒に作業を進め、仕事が終わるのはだいたい19時頃です。最初はパン作りが中心でしたが、私がお菓子作りが好きということを知ったマクシムは、「好きなものをどんどん作っていいよ」と言ってくれました。そこからレモンケーキ、マーブルケーキ、バナナブレッドやディアマンクッキーの試作品を作りマクシムからOKが出たら実際にお店で販売するようになりました。

他で働いたことがないので比較できませんが、新人として働き出して、すぐに仕込みを任されたり、自分の判断で新商品を試作したりそれを実際に店頭で売ってもらったりという経験は、なかなかできないのではないかと思います。

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▲ディアマンクッキー

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▲マーブルケーキ

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▲レモンケーキ

マクシムもキャトリンも、パンづくりには一切妥協しない真面目な職人ですが、とてもフレンドリーで、人間関係にも恵まれた環境だと感じています。今では3人で仕事終わりにビールを飲むこともあり、仕事の話だけではなく、いろいろなことを話せる関係になりました。お互いに思ったことを素直に言い合える、とても居心地の良い職場です。その後、ようやく「Best of」の日程が来年の1月に決定しました。

6月までという期間限定で始まった仕事でしたが、マクシムに相談したところ、9月までそのまま働き続けられることになりました。コンクールまでの時間も、この環境でさらに多くのことを学んでいきたいと思っています。短い期間の予定で始まったこの出会いでしたが、パン職人としてだけではなく、人とのつながりの大切さも感じることができる大切な経験になっています。

コラボイベント

働き始めてから、Simpleの成長を実感する出来事もありました。先日には、Simpleで初めてとなる大きなイベントが開催されたのです。タトゥーアーティストのMinustattooとオーツミルクの会社Oatly、そしてSimpleによるコラボイベントです。このイベントでは、パンを1つ購入するとOatlyのオーツミルクを使ったドリンクが1つ無料でもらえ、さらにMinustattoo氏による無料タトゥーも体験できるという、とてもユニークな、というか謎なコラボでした(笑)。

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▲厨房の片隅でタトゥーの施術を受けるお客さん。

無料タトゥーは先着15名までだったのですが、当日は想像以上にたくさんのお客様がSimpleに来てくださり、一日中行列ができるほどの盛況ぶりでした。DJも来ていて、お店の中は音楽とたくさんの人の笑顔でいっぱいになり、とても盛り上がった1日になりました。

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▲店の前ではDJによるライブを開催。当日は多くのお客さんが思い思いの時間を楽しんでいました。

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▲カルダモンのブリオッシュ

「Simple」という名前に込められた想い

「Simple」という店名には、 “シンプルなパン屋をつくりたい”というマクシムの想いが込められています。オープン当初に並んでいたパンは、クロワッサン、パン・オ・ショコラ、そしてカンパーニュの3種類だけ。本当にシンプルなラインナップからのスタートでした。そこから少しずつ種類を増やし、今ではパンや焼き菓子が数多く並ぶお店へと成長しました。

それでも、「シンプルだけれど、本当に美味しいものを届けたい」という想いは、今も変わっていません。私もそんな想いを大切にするお店の一員として、お店づくりに携われていることをとても嬉しく思っています。
chefno ブーランジェ通信

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▲層が細かく、見た目も美しいクロワッサンとパン・オ・ショコラ。素材にもこだわりが詰まっています。

まだオープンして間もないお店ですが、パンはもちろん、お店の雰囲気やマクシム、キャトリンの人柄も本当に素敵です。
ベルギーに来る機会があれば、ぜひSimpleにも立ち寄ってみてください。きっと美味しいパンと温かい時間を楽しんでいただけると思います。

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Writer
若杉あかね
若杉あかね
ベルギー生まれ。 ベルギーの製菓・製パン専門学校で2年間学び、日々パンとお菓子に向き合いながら技術を磨いています。 ベルギーならではの食文化や日常、コンクール準備や現場で感じたリアルな経験、学校での実習などを中心に発信していきます。
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