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2024.11.12

自治体主催のスイーツコンクールは、生産者と菓子職人の出会いの場 ~いいづなまちりんごスイーツコンクールレポート~

第六回いいづなりんごスイーツコンクール

近年、地域の特産物をアピールする方法として、自治体がスイーツコンクールを主催するケースが増えてきているように感じています。今回訪れた長野県飯綱町(いいづなまち)でも、特産品であるりんごの振興や需要拡大につなげることを目的に、2019年から飯綱町産 りんごを使用したスイーツのコンクールを開催しています。

県北部に位置する飯綱町では、明治時代中頃からりんご栽培がはじまりました。昼夜の寒暖差が大きいだけでなく、年間平均気温が11℃前後、年間を通して降雨量も少なく、日照量が豊富。更に土壌が粘土質というりんご栽培にとって好条件がそろっていたため、昭和に入り栽培量が増加。今では50種類以上のりんごが栽培され、町にはアップルミュージアムやシードル等のりんご加工品を作る施設もあるという、まさにりんご尽くしの町で行われた「第6回いいづなりんごスイーツコンクール」をchefnoが取材してきました。

「第6回いいづなりんごスイーツコンクール」の詳細はこちら

りんごスイーツの完成度は回を重ねる毎にレベルアップ

第六回いいづなりんごスイーツコンクール

▲書類審査を通過した13作品が最終試食審査に集結

「いいづなりんごスイーツコンクール」は、プロのパティシエや企業の菓子開発担当者、製菓学校の講師を対象としたコンクールです。飯綱町産のりんごを使ったお菓子であることを条件にしているため、希望者には町内産のりんごが提供されます。今年は、全国から50を超える応募があり、その中から書類選考を経て最終選考に駒を進めた13作品が当日会場に集結しました。

最終選考に進まれた方には、本審査用のお菓子を作るためのりんごがさらに提供され、りんごについて農家さんから学ぶことのできるツアーも企画されています。今年もりんご農家さんが自ら品種や栽培について説明され、品種ごとのジュースのテイスティングなどが行われました。参加者の皆さんは品種の多さや味わいの違いに驚き、りんごの魅力を再発見し喜んでおられました 。

第六回いいづなりんごスイーツコンクール

▲収穫時期の忙しいさなか、入賞者の皆さんにりんごの説明をしてくれた大友農場のみなさま

▲生食ではパリッとした食感、加熱するとねっとりとして味が濃厚になるのが特徴の「秋映(あきばえ)」

審査をするのはコンクール初回から変わらないプロ審査員4名と公募で選ばれた町民審査員。別室で試食を終えたフランス菓子・料理研究家の大森由紀子氏、菓子工房オークウッドの横田秀夫シェフ、パティスリー ・ル ・ポミエのフレデリック マドレーヌシェフ、パティスリー ラ・ヴィ・ドゥースの堀江新シェフに率直な感想を伺いました。

いいづなりんごスイーツコンクール

▲プロ審査員の皆様(左上:大森氏、左下:横田シェフ、右上:マドレーヌシェフ、右下:堀江シェフ)

いいづなりんごスイーツコンクールの審査で意識している点はありますか?


横田シェフ
「見て楽しめることはもちろんですが、最終的にはやはり食べて素直に美味しいかどうかという点です。このコンクールが始まった当初は、りんごスイーツの王道を狙った作品が多く、素材の組み合わせなども似通ったものが多くありましたが、今はいろんなタイプがそろっています。焼き菓子、和菓子、パンなど様々な応募作品の中から審査する際、そのジャンルに適した基準での審査を行う点も大切にしています」

大森氏
「応募者が色々な種類のりんごを使用したり、調理法を変えたりと試行錯誤をしているのを感じています。作品の見た目も重要ですが、最終的には味のバランスが重要。りんごの味をうまく引き出せているものには、自然と高評価がつき、製菓技術の基礎も備わっていると感じました」

いいづなりんごスイーツコンクール

▲レシピを確認しながら、丁寧に真剣に作品と向き合う審査風景

マドレーヌシェフ
「焼き菓子にフレッシュのりんごをそのまま使うのは難しい。焼成する中でリンゴから出てくる水分を計算して、加工に向いたりんごを選定してほしいです。生食で甘みを感じるものを使うとお菓子にした際に味がぼやけてしまうことが多いです。お菓子を構成する上で、りんごの配合量が40%以上であることがコンクールの作品規定にあります。酸味のある加工に向いたりんごを使い、最終製品にもしっかりりんごの存在感を出すことが大切です」

堀江シェフ
「私は口に入れた時にりんごの酸味がはじけるようなものに美味しさを感じます。スイーツの甘みをりんごで切るようなイメージです。ただそのようなお菓子は、定番化されているシンプルな構成のお菓子になることが多い印象です。あくまでコンクールなので、作品のオリジナリティは重要ですが、やはり審査基準の中で最も配点が高い『りんごの味や香りを出す』というポイントを重視しています。また、常温で1日保管できるお菓子であることも条件になっているので、作り立てから時間の経過と共に変化が出るものには配慮が必要です」

初回のコンクールから審査をされてきて、感じていることはありますか?


堀江シェフ
「飯綱町を訪れるまで、日本でもこんなに多くのりんごを栽培していることを知りませんでした。英国りんごについての知識もなかったので、審査員という立場を通して自分自身も勉強できる貴重な機会をいただいています」

横田シェフ
「入賞するまで何度も応募してくれている人もいます。チャレンジ精神を持ち続け、様々な品種のりんごと向き合って、これからもりんごスイーツの可能性を広げてもらいたいです。審査しているなかで、回を重ねる毎に、確実にスイーツのレベルは上がっていると感じています」

マドレーヌシェフ
「これまで訪れたりんご農家さんや、いいづなアップルミュージアムの見学なども印象に残っています。ブラムリーズシードリング*という品種のりんごで作ったシードルも試飲しました。私はフランスのりんご栽培が盛んなノルマンディー地方出身です。このイベントに審査員として参加できることをとても嬉しく誇りに思っています。コンクールを通じて生産者さんとパティシエとの交流が生まれているだけではなく、世界各国から集まった良質で多品種のりんごを生産する飯綱町の認知度を高めることや地域経済を支えるという役割を担う、重要なものだと感じています」

※ブラムリーズシードリング:強い酸味があり、独特な食味と芳香な香りで、大きく扁平した形が特徴。イギリスでは「クッキングアップルの王様」と呼ばれ愛されている料理用の青りんご

いいづなりんごスイーツコンクール

▲飯綱町産の種類豊富なりんご達 前列中央の緑色のものが、ブラムリーズシードリング

責任重大の町民審査

りんごスイーツコンクールの本審査が飯綱町で行われるようになったのは、じつは2021年の第3回大会からで、町民も積極的に参加する今の審査体制となりました。
初回は、東京の銀座にある長野県のアンテナショップで行われ、たくさんの作品で会場が埋め尽くされました。続く第2回目はコロナ禍に突入してしまったため、東京の会場に応募作品を送ってもらいフルリモート開催。

第3回目より、初回のコンクールに参加した上野菓子研究所の上野啓介氏が運営のサポートに加わり、本審査を現地で行うことや町民審査を取り入れることを発案されました。さらには、発表会後の懇親会など参加者にとっての有意義な時間もプログラムに組み込まれたそうです。応募者目線の意見を取り入れ、より良い運営にしようという町の姿勢が、コンクール参加者の増加に繋がっているようです。

町の特産品であるりんごを全国に広めるために始めたコンクールは、回を重ねる毎に新たな目的も加わり、町を挙げてのイベントへと発展しています。イベント担当者のひとり、飯綱町役場 産業観光課の原田さんに詳しくお話を伺いました。

いいづなりんごスイーツコンクール

▲飯綱町役場 産業観光課 農政係 担当係長の原田愛さん

同コンクールの開催意義を改めてお聞かせください。

原田さん
「まずはなんといっても、飯綱町の特産品であるりんごを全国に広めることです。りんご=長野県ではなく、りんご=飯綱町と認知してもらえる状態を目指しています。全国のパティシエさんにスイーツメニューを提案していただくことで、生食でおいしいりんごはもちろん、熱を加えるなどの加工をしておいしいりんごにも注目が集まることを期待しています。

これまでの受賞作品の中には、ふるさと納税の返礼品として採用させていただいたお菓子もあります。着々と成果を出しているコンクールですが、第3回目から町民にも審査員としてコンクールにかかわってもらっています。町を挙げて盛り上がるイベントにこれからも育てていきたいです」

町民の皆さんにとってりんごとはどんな存在?

原田さん
「りんごの収穫時期になると、りんご栽培をしていない家庭にも近所からのおすそ分けがあるなど、多くの町民の暮らしのなかにりんごが身近にあるのが飯綱町です。私の実家もりんごを栽培していたので、子供の頃からりんごはよく食べていました。生食以外には、自宅でりんごを絞ってジュースにしたり、甘く煮てコンポートにしたりすることが多いです。そんな私たちの周りに当たり前にあるりんごが、パティシエのみなさんによって新たな形に生まれ変わり、町民がコンクールに審査員として参加することで、改めてりんごの魅力を再認識してもらえると考えました。応募者の皆さんにとっては、町民賞を設けることで、消費者目線の評価も意識した作品作りに繋がっていると感じています」

いいづなりんごスイーツコンクール

▲公募により選出された飯綱町の町民審査員の皆さん

いいづなりんごスイーツコンクール

▲初回コンクールで特別賞を受賞された上野菓子研究所の上野啓介氏が町民審査員への菓子説明や結果発表の司会進行を務められた

優勝者インタビュー

会場では一般観覧に集まった70名を超える人々が見守るなか、審査結果の発表が行われました。第6回いいづなりんごスイーツコンクールは雪印メグミルク株式会社の大崎喜史氏が最優秀賞と町民賞のW受賞を果たされました。

まずは率直に受賞の感想をお聞かせください

大崎さん「今回は昨年に続き、2回目の挑戦でした。前回の敗戦から必ずリベンジをしたいと強い思いをもって臨んだコンクールです。最初に発表のあった町民賞を獲れただけでもうれしかったのですが、最優秀賞もいただけて、大満足です」

第六回いいづなりんごスイーツコンクール

▲最優秀賞と町民賞を受賞した雪印メグミルク株式会社の大崎喜史氏

りんごのお菓子を考える上で難しかったところは?


大崎さん「前回できなかったことを克服しないと入賞できないことはわかっていました。一番難しかったことは、どうやってりんごの味を焼き菓子として表現するかです。タルトタタンの要素を入れたいけど、タルトタタンにはしたくなかったんです。さらには焼き菓子ですが、見た目をあまり茶色っぽくしたくなかった。試行錯誤の末、目で見て楽しく、赤色が良いアクセントになった仕上げに落ち着きました。味覚面では、常温で1日保管できなければいけないという制約の中で、いかにジューシー感を残すかにこだわりました」

第六回いいづなりんごスイーツコンクール

▲最優秀賞/町民賞:大崎喜史氏(雪印メグミルク株式会社)「おごっそ【いいづな】」

第六回いいづなりんごスイーツコンクール

▲第2位:原田晋太郎氏(Pâtisserie CONSTELLAS)「Partrie(パトリ)」

第六回いいづなりんごスイーツコンクール

▲第3位: 溝口陽奈子氏(おかしやpage)「pompom(ポムポム)」

第六回いいづなりんごスイーツコンクール

▲特別賞:沖田慎太郎氏(沖田製菓舗)「檎薫奏林」

入賞者には飯綱町産のりんごや、長野県アンテナショップ「銀座NAGANO」での菓子販売提供の機会が与えられます。審査終了後の懇親会では、参加者が審査員に熱心にアドバイスを聞いている姿があり、参加者同士がそれぞれの菓子を試食しあいながら意見交換する場にもなっていました。

提供するのは生産者と菓子職人の出会いの場、育みたかったのは継続できる繋がり

町の特産品を広めたいと始まったスイーツコンクールですが、今ではこのコンクールをきっかけに新たな交流が生まれています。今年はブラムリーズシードリングという酸味の強いりんごが予想以上の収穫量となったとか。そんな折、コンクールの司会進行役をしている上野氏の声掛けにより、全国のパティシエから注文が入ったとのこと。丹精込めてりんごを作っている農家さんにとっても、珍しいりんごが買えたパティシエにとっても、また、自治体にとっても「三方良し」の結果となった出来事です。

コンクールを通じて全国のパティシエの方との繋がりができたことは町にとって大きな宝ですと話すイベント担当の原田さん。コンクールをより魅力あるものに成長させていき、今後も幅広く応募作品を集めていきたいとのことでした。行政が絡んで、町と特産品をPRしつつ、パティシエの皆さんにとっても生産地や素材について知れる良い機会になる自治体主催のスイーツコンクールに、これからも目が離せません。

いいづなりんごスイーツコンクール

▲長野県飯綱町のりんごのポスター

第六回いいづなりんごスイーツコンクール

▲授賞式後、関係者全員での集合写真

取材協力:

長野経済研究所

ホームページ:https://www.neri.or.jp/www/index.html

飯綱町役場 産業観光課

ホームページ:https://www.town.iizuna.nagano.jp/chosei/soshiki/shokokanko/

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Writer
chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
製菓業界に足を踏み入れて早20数年。読者目線の企画運営が目標です! 食べることと旅行が大好きな1児の母。サンマルク、カイザーゼンメルが大好きです♡
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