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2023.03.31

オーストラリアからつづる!ブーランジェ通信 by成澤 聡Vol.04『生産者の顔が見える食材選びとベイカーネットワーク』

LITTEL CARDIGANのホットクロスバンズ

こんにちは。
3月にはいると、例年メルボルンの街はイースターの雰囲気に包まれます。スーパーやデパートは、うさぎやタマゴのデコレーションで飾られ、イースターの季節限定商品が所狭しと並んでいます。

イースターのウサギのチョコ

▲スーパーのイースター陳列棚にはチョコレートのうさぎさんたちがぎっしり

ベーカリーには「ホットクロスバンズ(hot cross buns)」という、イースターの季節限定のパンが登場します。ホットクロスバンズとは、一般的にはドライフルーツとスパイスの風味が効いていて、パンの上部に十字(クロス)が刻まれているのが特徴です。サイズはだいたい手のひらサイズ。上下で半分に切って、トースターで焼いてバターを塗って食べます。

それぞれのベーカリーがオリジナリティのあるホットクロスバンズを作っているので、食べ比べても面白い商品です。なかには、チョコレート屋さんによるチョコレート味のホットクロスバンズ、ベーグル専門店のホットクロスベーグル、クロワッサン専門店のホットクロスワッサンも!!

毎年メルボルンでは「どのベーカリーのホットクロスバンズが美味しいか」というランキングがニュースになるほど愛されている商品です。ベイカーの僕としては、「また今年もイースターの季節がやって来たか」と一年で一二を争う忙しいシーズンの到来を感じている今日この頃です。

LoaferBreadのホットクロスバンズ

▲毎年ランキング上位にあがるLoaferBreadのホットクロスバンズ

さて今回は、僕のメルボルンでの食材選びについてお話ししたいと思います。

そもそも僕は、前職のLoaferBreadで働く前まで、特に食材についてのこだわりはありませんでした。普通に、美味しいことは当たり前の基準としつつ、価格、仕入れのしやすさ、安全性など、一般的なことしか考えていませんでした。それが、メルボルンに移り住み、LoaferBreadで働くようになってから、考えが変わりました。

LoaferBreadのオーナーAndreaは、お店で使う食材に自信と誇りのようなものを持っていました。仕入れるものは基本的にオーガニックで、できるだけお店から近いところ(ビクトリア州、オーストラリア)で作られ、誰がどうやって生産しているのか、様々な人と交流し情報を集めながら食材を選んでいました。農薬などを使わない、生産の安定しにくい農家さんが多いので、当然収穫状況や天候などに左右されることも多く、時には大胆に使用する食材の見直しを迫られたり、またある時は生産者のサポートを優先に仕入れをすることもありました。

そしてお店で働くチームのみんなに惜しみなく食材に関する知識や情報を共有してくれました。僕が自分のお店を持つことになった今、気がついたら当たり前のようにAndreaと同じように食材を自分の目で探し、選ぶようになっていました。

そういう訳で僕の店では、パンの基本食材である小麦粉、たまご、バターや牛乳などの乳製品は、できるだけお店や自分の生活圏内に近い地域で作られているものを選んでいます。オーガニックがより好ましいとは思いますが、必ずしも認定オーガニックである必要はなく、自然環境に配慮していたり、生産に関わる労働者に負担がなく、持続可能な方法で作られていたりするものを選んでいます。そして生産性や効率性、利益を優先したコモディティ商品はできるだけ使わないように心がけています。

美味しく安心で、作っている人の顔が見えて、車で1−2時間のところで作られている食材が新鮮な状態で手に入る。そんな食材選びを可能にしているのは、メルボルンの都市のサイズ感や人口密度、豊かな自然環境、文化醸成などが「ちょうど良い」からではないかな、と思います。

加えて、メルボルンのベイカー同士がネットワークで繋がっていて、日々の仕事をしていくなかで、食材に関する情報を共有しているんです。「最近バターの状態が安定していないけど、折り込み作業はどうしてる?」「最近あの小麦粉、まとまりがいいよね?」など、ベイカーならではの材料に関する相談や、作業上のアドバイスをしあえることは、本当に有難いことです。時々、食材の貸し借りをすることまであります。商売敵として敵対するのではなく、お互いが刺激し激励しあっているメルボルンのベイカーネットワークに支えられています。

さらには、生産者や業者との関わりもそのベイカーのネットワークに加わって、もっと大きな繋がりを形成していることも素晴らしいことだと思います。

メルボルンでは、お店の数も、生産者の数も、多すぎず少なすぎない。日本と比べたら物足りなさを感じることもあるけれど、何事においても“仲間たち”から、「これが最善、これで十分」という豊かで大事なことを教わっています。

冒頭に紹介したホットクロスバンズですが、今年は僕がお店をオープンさせて初めてのイースターなので、自分で考えた新レシピで作っています。せっかくなのでここで僕の店のホットクロスバンズの主な材料を紹介します。

LITTLE CADIGANのホットクロスバンズ

▲僕のお店「LITTLE CARDIGAN」で作っている米麹と柚子のホットクロスバンズ

小麦粉は、ビクトリア州の隣、ニューサウスウェールズ州にある製粉会社「Wholegrain Milling(ホールグレイン・ミリング)」のオーガニックフラワー。酵母は米麹を使っていて、メルボルンから車で1時間半余のところにあるデイルズフォードでお味噌を作っているKaoKaoMisoの米麹。アクセントとして使っている柚子は、ビクトリア州北東にある柚子農家Mountain Yuzuのユズゼストです。

▼関連リンク
Wholegrain Millingのホームページ

KaoKaoMisoのホームページ

Mountain Yuzuのホームページ

KaoKao Misoの米麹

▲オーストラリア産のオーガニックライスを使って仕込まれたKaoKao Misoの米麹

米麹を製造されているKaokao Misoのカオリさんは日本人で、お店を始める前から知人の紹介で知り合った仲。カオリさんと知り合い、ビクトリア産の米麹が手に入ることがわかってから、米麹を使ったパンを作りたいと思っていたので、ホットクロスバンズという特別な季節商品で実現できて嬉しく思っています。

このホットクロスバンズはもっちりとした食感と柚子の風味が特徴で、動物性食材を使っていないので、ビーガンの人たちにも食べてもらえるホットクロスバンズになりました。米麹を使っているので、後味に酒饅頭のような味がほんのりして、僕にとっては少し懐かしさも感じられる商品です。

イースターが明けたら、メルボルンは秋本番、日本の桜を想っています。

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Writer
成澤 聡
成澤 聡
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パン職人になってかれこれ20年余。2012年、縁あってオーストラリアに移住。2022年12月、仲間と共にベーカリーとコーヒーロースタリーが併設した店舗をオープン。マルチカルチャーなオーストラリアの文化と人々に刺激されながら、美味しくて、楽しくて、そしてサステナブルなパン作りを日々模索しています。オーストラリアはメルボルンから、パンにまつわるエトセトラはもちろん、日々のことなどをお届けします。
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