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2024.02.16

オーストラリアからつづる!ブーランジェ通信 by成澤 聡Vol.08『オーガニックベーカリー・LoaferBread が教えてくれたベーカリーができること』(後編)

こんにちは。

前回に引き続きLoaferBreadに関するお話(後編)です。

後編では、LoaferBreadのオーナーAndrea(アンドレア)に、お店ついて話を聞いた内容をお伝えします。

LoaferBreadの歴史

アンドレアがLoaferBreadを始めたきっかけは?

アンドレア
「LoaferBreadは、もともとはカナダ出身のオーナー(創業者)が経営していたのよ。開業から5年ほど経った2007年、彼がカナダに帰るのをきっかけに『ビジネスを引き継がないか』と相談があったんです。最初は『No』って返事したんだけど、悩んだ挙句、引き継ぐことにしたのよ。当時私は、イタリアンレストランに勤めていて、デザート担当としてデザートを作ったり、パンを焼いたりしていました。そろそろ自分のお店を持ちたいなと思っていた頃だったけれど、ベーカリーで働いたこともなければ、ハード系のパンのことも詳しくなかったので、自分でベーカリーを営むなんて想像もしていなかったわね。どうして引き継ぐことを決めたかって?あんまり記憶にないんだけど、元オーナーと話をしているうちに、なんだかやってみようと思ったのよ」

過去のLoaferBreadのインスタグラム投稿では、元オーナーのパン作りや運営面のこと、そして アンドレアがビジネスを引き継いだ時のことなどが紹介されています。
https://www.instagram.com/p/BGFZRT9BgI6/

引き継いだ当時のLoaferBreadはどんな感じだった?

アンドレア
「当時のLoaferBreadは週4日程度の不定休営業で、コーヒーの販売もなければ、今のようにデニッシュやサンドイッチもなく、ハード系のパンだけを売っていたのよ。すでにオーガニックのベジタリアンベーカリーとして地元住民には定評があり、地元のオーガニック食料品店に卸販売もしていたわね。

元オーナーはお店作りにもこだわりがあって、すべて“手作り”していたの。たとえば、内装は一切釘を使わず造作されていて、電動工具すら使わず、すべて手作業で工事をしていたそう。バーカウンターは、廃材(木材)を使用し、彼の友人が手作りしたもの。ただ、すべてが唯一無二のカスタムメイドで作られたお店は、素敵なのは間違いないけれど、どれもサイズがちぐはぐだったのよね(笑)。肝心の製造現場の話だけど、オーブンはガスではなく薪窯で、毎回薪を割らなくちゃいけない。ガスと違って、窯の温度は一定じゃないからもう大変だったわね。しかも、冷蔵室もなかったから、私が作りたいケーキやデニッシュは常に常温で作らなければいけなくて、それはそれは苦労したのを覚えているわ」

現在の人気商品ができるまで

▲LoferBreadのバゲット製造のようす

お店を引き継いだ アンドレアは、苦労しながらも、運営やパン作りを楽しむ日々が続いたそうです。引き継いだ当時からラインナップも増え、日々アップデートしながら生まれた、お店の人気商品について聞いてみました。

バゲット

アンドレア
「私が店を引き継ぐ前から、バゲットを作って欲しいという要望が多かったの。私も、オーブンから焼きたてのバゲットを店に並べたくてバゲットを作り始めたのよ。当初は、ホワイトブレッド(食パン)と同じレシピで、ただ形を変えただけのバゲットだったわね。それから、新たなバゲットを開発するためにサワードゥを使ったバゲットの試作を始めたの。レシピは何度も変更して、さまざまな小麦粉を試しました。改良を重ね、時には地元の小麦農家にも相談してようやく完成したバゲットのレシピは、 Jeffrey Hamelman※のバゲットのレシピをベースに、私なりに改良してできあがったのよ」

ローファーブレッドのパン
※Jeffrey Hamelman
世界各国でパン職人や講師を行った、パン職人のひとり。1996年にパリで開催されたクープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブランジュリー(パンのワールドカップ)では、アメリカチームのキャプテンを務める。1998年には、アメリカ合衆国76番目のマスター・ベイカーに認定。現在ヴァーモント州ノーウィッチにあるキング・アーサー・フラワー・カンパニーのベーカリーのディレクターと併設のベーキング・エデュケーション・センターの講師などを務めている。

クロワッサン

アンドレア
「前オーナーからレシピはもらっていたけれど、私なりに改良し続けて現在に至るわね。引き継いだ当時、お店に並んでいたのは、その時々に手に入る材料で都度改良してできた進化の賜物ともいうべきパンなの。 今でこそ、メルボルン近郊で作られている良質のバターはいくつかあるけれど、当初は本当に選択肢が少なく、ましてや発酵バターもクロワッサン用のシートバターも手に入らなかったから、自分でバターを伸ばすしかなくて大変だったわね。今は近郊で作られているいいバターの選択肢が増え、シートバターも手に入るので、本当に助かってるわ」

ローファーブレッドのクロワッサン
カルダモンロール

アンドレア
「この商品を作り始めたのは、私がカルダモンが好きだからというのもあるけれど、以前この店にいたスウェーデン出身のパン職人が、このパンのレシピを教えてくれた事がきっかけだったの。自分で開発したレシピももちろんいいけれど、『これはよい!』と思ったレシピであれば、他の人の意見やレシピを取り入れるようにしているのよ」

カルダモンロール
ホットクロスバンズ

アンドレア
「このパンの象徴でもある十字を綺麗に入れるために、パンの生地には湯種を使っています。他のパンと同様、このパンも常に改良に改良を重ねながら進化しているパンなのよ。その改良の過程で、パンの生地に湯種を入れてみたんです。それ以来、すべてが良くなったわね。食感はもっちり。味も美味しく、老化も防げる。そして、十字が綺麗に仕上がったの」


アンドレアの哲学

お店の運営からパン作りまで、 アンドレアを尊敬する部分はたくさんありますが、パン職人としてだけでなく、違った面でも尊敬できる点を紹介します。

あなたはLoaferBread以外のパン屋やパン職人はもちろん、地元のスモールビジネスをする方やアーティストにも協力的で、サポートを惜しまずしているけれど、どうしてなの?

アンドレア
「私は、LoaferBreadを引き継ぐ前にイタリアンレストラン Da Noi Restaurantに勤めていたんだけど、そこのオーナー・ピエトロさんが、今の私のようにさまざまな人たちのサポートをしていたんです。私はそれを踏襲しているだけなのよ。私が、LoaferBreadを始めると決心して退職する時も、ピエトロさんは、嫌な顔をするどころか、いろいろと助言をくれました。また、当時の同僚がアイスクリーム屋を始めると言った時も、同じようにサポートしてくれたわね。私は、材料の選び方、スタッフとの付き合い方、情報の共有、環境への配慮、コミュニティの大切さなど、すべてについてピエトロさんから学んだことを、可能な限り実践するようにしているわね。

ちなみに、ピエトロさんとは今でも付き合いがあり、LoaferBreadでは彼が経営する農場の卵(オーガニック)を使っています。そして、LoaferBreadで残ったパンはその農場の飼料になっているのよ」

ピエトロさんが経営されているレストラン
インスタグラム: https://www.instagram.com/danoi95/

▲僕がまだ今のお店を開ける前、LoaferBreadのキッチンを使って食パンを焼いていた頃の写真。日に日に食パンの需要が増えて、店で働いている仲間たちが僕の食パンビジネスを手伝ってくれました。それを許してくれたのがアンドレアでした

サステナブルへの取り組みもイタリアンレストランのオーナーから?

アンドレア
「そうですね。食材選びだけでなく、ビジネスに関わるあらゆる人たちが継続して仕事ができるようにすることも大事なことよね。スタッフと私にとって、持続可能になるようにあらゆる角度から努力し続けなければいけないと思っているわ。私は、その考えを、オーナーから学んだのよ」

 

今回、あらためてアンドレアがどのように今のLoaferBreadを築き上げてきたかを聞くいい機会となりました。結果、アンドレアの元上司であるイタリアンレストランのオーナーから受け継いだサステナビリティの精神を彼女は僕にそっくりそのまま手渡してくれていたんだと実感しました。また、ビジネスを受け継いで以来、レシピだけでなくお店作りについても時々の状況にあわせて改善改良を重ねていることも知りました。

美味しいパンを作ることだけでなく、従業員やパン屋さんに関わる生産者さん、他のパン屋さん、そしてお客さんとのコミュニティ、「それぞれが持続可能であるためにできることは何か?」。今、自分でビジネスを立ち上げたからこそこの課題の重要さと難しさを味わっています。あせらず確実にできることからひとつずつ…。

❑お店情報
Loafer Bread
サイト:https://www.loaferbread.com
インスタグラム:https://www.instagram.com/loaferbread/
フェイスブック:https://www.facebook.com/p/Loafer-Bread-100047713645676/

 

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Writer
成澤 聡
成澤 聡
運営サイトはこちら
パン職人になってかれこれ20年余。2012年、縁あってオーストラリアに移住。2022年12月、仲間と共にベーカリーとコーヒーロースタリーが併設した店舗をオープン。マルチカルチャーなオーストラリアの文化と人々に刺激されながら、美味しくて、楽しくて、そしてサステナブルなパン作りを日々模索しています。オーストラリアはメルボルンから、パンにまつわるエトセトラはもちろん、日々のことなどをお届けします。
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