毎日朝から晩まで働いている職人の皆さん。体を酷使する職業なので、体のトラブルを抱えている人も少なくはないと思います。職人さんたちにとって体は大切な資本。日頃からしっかりケアをして、トラブルを未然に防ぎたいものです。そこで、職人の皆さんが抱えるさまざまな身体のトラブルについて専門家にお話を伺おうというのがこの企画です。
シリーズ第5弾の今回は、「肌」の話です。
マスクなどによる顔の肌荒れ、水仕事による手荒れ、やけどやケガなどなど…職人の皆さんの製造現場には「肌」に関係するさまざまなトラブルのリスクが潜んでいるのではないでしょうか。そんな肌トラブルの原因や対策について、美容皮膚科医の中地先生に説明していただきました。
目次
肌荒れを寄せ付けない肌に!原因別に対策を解説
原因①マスクの着用
製造現場で多くの職人さんが着用しているマスク。「マスクによる肌荒れ」はよく耳にしますが、マスク着用がどのように肌荒れにつながるのでしょうか。
マスクでの肌荒れは多いですね。実際コロナウイルスの流行前と比べてマスクの肌荒れはすごく増えました。口の周りが赤くなってヒリヒリしたり、乾燥した状態になります。一番大きな原因はやはり摩擦です。マスクをしながら喋ったり、頻繁にマスクをずらしたりすると、摩擦が起きます。肌は外部からの刺激に弱く、摩擦が原因で肌荒れを起こしてしまいます。
肌には摩擦や紫外線、薬剤などの外からの刺激によってばい菌が皮膚の中に入らないようにバリアする機能がありますが、肌荒れの状態になってしまうとバリア機能が落ちてしまうので、ばい菌や刺激に対してすごく弱くなってしまいます。
そのため、肌荒れがある状態が続くと、それ以外の症状を引き起こしてしまうこともあります。例えば、小麦アレルギーの症状です。パン職人やお菓子職人のみなさんは小麦粉をよく使うと思いますが、元々小麦などにアレルギーの症状がなかった人がいきなりアレルギーを発症することがあります。元々バリア機能があったところが破綻してしまうと、今までアレルギーを防げていたものが、ある日突然発症してしまうことがあります。
外部からの小麦の接触でアレルギーが発症されるのですか?
そうです。肌荒れによる皮膚炎への接触によって、そこからアレルゲンが入っていくことが考えられるので、普段アレルギーがない方でもアレルギーの症状が出る可能性はありますね。
対策
マスクによる肌荒れというのは接触皮膚炎といって、皮膚科で治療することが推奨される症状です。1番の予防は摩擦を避けることですが、作業中ずっとマスクを着用しなければいけないということであれば、うまくマスクと付き合っていくことが大切です。
対策として、マスクのフィット感に注意してください。要は、マスクのサイズが小さすぎず摩擦が強すぎないもの、マスクをしながら喋っているときにこすれている感じが強すぎないものを選ぶことが大事です。あと、マスクの中は結構蒸れますよね。蒸れると、唾液などでばい菌が繁殖しやすい環境になるので、肌の悪くなったところをさらに悪くしてしまう可能性があります。1日に何回かマスクを取り替えることも効果的だと思います。
②食生活の乱れ
肌荒れの原因としてよくいわれる食生活の乱れや偏り。職人の方は試食も多く、食べる量が多くなったり、栄養が偏ったりとどうしても食生活が乱れてしまいがちになります。そのような食生活もやはり肌に影響があるのでしょうか。
そうですね、まずお菓子やパンに多く含まれる「糖質」の摂りすぎは肌に対してあまりよくありません。糖質を摂ると、体の中のタンパク質と過剰に結合し、いわゆる糖化といわれる現象が起きます。するとAGE(終末糖化産物)という成分が出てくるのですが、これは肌の老化の元凶となるような成分の1つになります。ですので、摂りすぎは良くないですね。糖化することによって、肌にAGE(終末糖化産物)が溜まっていきます。そうすると、肌のくすみ、よく「黄ぐすみ」といわれるような透明感が失われた状態になってしまいます。もし摂取量を減らすことができるならそれが一番良いですが、お仕事上難しいかと思います。
対策
溜まってしまったAGEを落としていくためには、洗顔が大切です。皆さんされていると思いますが、例えば男性の方で面倒くさがってされないという方も、ぜひ洗顔を試してみてください。肌の表面に、角質層という肌の老廃物を蓄積している一番表面の部分がありますが、そこにAGEも溜まることがあるので、洗顔でしっかりと落としてあげましょう。
洗顔は多くすれば良いというわけではありませんので、基本的に朝晩2回で大丈夫です。洗顔方法ですが、石鹸の泡を肌に乗せた時点で、洗浄は始まっています。こすらず肌にやさしく洗顔をするよう心がけましょう。
また、肌が乾燥状態になるとさらに症状を悪化させやすくなるので、洗顔後の保湿も大切です。
③睡眠不足
職人の方々は朝が極端に早かったり、繁忙期は夜遅くまで作業されたりと、睡眠不足になりやすい印象です。睡眠不足が肌に良くないということはよく聞きますがどうでしょうか。
人の肌が回復するのは夜中に寝ている時間帯です。肌の土台になるような成分で、コラーゲンやエラスチンをつくるものがあるのですが、それは睡眠時、成長ホルモンが出ているときに活発に働きます。それが働くことによって、肌の土台が出来上がっていくので、睡眠不足になると肌の土台が潰れてしまい、老化やたるみ、シワにつながるといわれています。
対策
ですので夜はちゃんと寝たほうが良いですね。睡眠時間もやっぱり7時間は確保した方がいいと思います。成長ホルモンが出ないと、肌のターンオーバーも悪くなってしまいます。ターンオーバーが悪くなると、ニキビができやすくなってしまい、さらには、ちょっと老けた顔になってしまいます。やはり睡眠は大切です。
職人の必需品キャップやコック帽、ヘアキャップがもたらす頭皮への影響は?
マスクと合わせて、よく着用されるのが製品への髪の毛の混入を防ぐためのキャップ。キャップを1日被っていることによる頭皮への影響は何かありますか。
しっかりケアしていればあまり影響はないですね。
ただし、ずっと被っていると蒸れが起こってくると思うのですが、そうなるとばい菌が繁殖し、不衛生になり頭皮が荒れる原因になってしまいます。例えばかゆみや赤み、かぶれにつながってしまうことがあります。
対策
その蒸れの対策として、例えば通気性の良いキャップを使用したり、1日に何回か替えたり、外す時間を確保する。やはり同じキャップをずっと使い続けるのはあまり良くないですね。もし洗えるのであれば、定期的に洗った方がいいと思いますし、なかなか洗いにくいものであれば、アルコールスプレーをして殺菌するのが良いと思います。
保湿というよりは、蒸れた状態をなくすことが大切です。よくキャップを被ることで、みなさん心配されるのが、「頭皮が圧迫されて血流が悪くなって、薄毛につながるんじゃないか」ということです。実際血流が悪くなるほどのキャップは、かなりの締め付けがあります。思いっきり鉢巻きでぐっと巻いているレベルのものではない限り、頭皮にはそこまで影響はありません。この点はご安心いただければと思います。
職人の最も大切な商売道具「手」を手荒れから守るには
職人の方々の代表的な肌トラブル、手荒れ。職人さんは、製造作業、水回りの作業など手を酷使するので、手荒れに悩まされることも。
手荒れの原因というよりも、肌トラブルの原因として1つあるのが、先ほどお伝えしたバリア機能がやられているということです。僕たちの肌には皮脂という油分が含まれていて、「皮脂が多すぎても良くないので洗顔しましょう」と一般的によくいわれていますが、皮脂にはそもそも皮膚を守る役割があります。ですので、適量の皮脂がないと外的な刺激に対して皮膚は弱くなってしまいます。洗いすぎるというのは、肌を守ってくれている皮脂を落としすぎてしまうということにつながります。そうなるとバリア機能が弱くなってしまい、周りから細菌が入るなど直接的に皮膚がやられてしまって、肌荒れにつながります。
原因はバリア機能の低下。そのバリア機能が下がる理由は、やはり手洗いが大きいのかなと思います。
対策
熱いもの、冷たすぎるものも外的刺激のうちの1つなので、手を洗う際はぬるま湯にするだけでも肌への影響が軽減されます。あとはハンドソープを使うのであれば、そのハンドソープを低刺激性の弱酸性のものに変えるというのも1つです。洗う回数を減らすのは難しいと思うので、その中でも極力刺激の少ない洗い方、ぬるま湯にして低刺激性のハンドソープを使うというのを試してみてください。
日々のケアとして、作業時間以外でこまめに保湿するというのも大事ですね。例えば、出勤前や朝晩のケアをするときには保湿のクリームを塗るだけでも変わってきますよ。
こんなときどうする?やけどやケガをしてしまったとき
やけどやケガは跡が残ってしまうリスクがあるので正しく対処したいところですが、それが起こってしまったとき、どう対処するのが正解でしょうか。
まず前提として、どんな傷でも傷跡が残ります。その中で傷跡になりにくいものが浅いやけどですね。やけどの度合いにもよりますが、痛いぐらいの浅いやけどであれば、医学的にはⅠ度の熱傷ということになります。これは、基本的にはきれいに治ります。やはりすぐ水で冷やすというのが、どんな現場でも、最速でやっていただきたいことです。
やはり、冷やすのが大切なんですね。いくら気をつけていても避けられないのが手のケガですが、対処方法として思いつくのが、「絆創膏を貼る」です。これは正しい方法なのでしょうか。
絆創膏を貼るのは、まず傷が清潔な状態なっているという前提で貼るのであれば良いと思います。切ったときに出血がたくさんあったらまず圧迫してもらうのが一番です。圧迫して病院に行く、小さな傷であれば基本的には大抵のケアでもほぼ跡なく治ります。
皮膚は切れると外側に引っ張られるので、そのままにしておくと、その後の傷跡が太くなってしまいます。開こうとする傷口をうまく絆創膏でぐっと寄せながら貼るのがちょっとしたコツです。
ただ、切ってしまったとき、皮膚というのはバリアがなくなり、ばい菌が入りやすい状態になります。調理用のナイフはきれいかと思いますが、もし錆びている部分があって、その錆が傷口から入ってしまうと、体の免疫よりもばい菌が勝ってしまう”感染”という状態になる可能性があります。錆は体にものすごく悪いです。感染した場合、点滴での治療や入院と、状態が悪くなればなるほど大変な事態になってしまいます。最悪の場合にはお仕事ができない状態になってしまいますので、医者の立場でいうと、怪我したらまず病院で診てもらうのが1番良いですね。
取材を終えて
肌荒れなどの肌トラブルは、小麦アレルギー発症の引き金になるなど、職人の方々にとってとりわけ大きなリスクであるということがわかりました。
普段、肌に何かトラブルがあっても生活に支障をきたさない限り、ついつい日々のケアや病院へ行くのを後回しにしてしまう方が多いのではないでしょうか。しかし職人として長く続けていくためにも、職人の皆さんには忙しい日々の中でもご自身の肌と向き合い、ケアする時間をぜひ取っていただきたいと思います。この記事で紹介した対策を参考に、健やかな肌を目指してみてください!
●取材協力
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