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2022.03.16

『Mr. CHEESECAKE 』田村浩二が今話す“これからのミスチ、未来のミスチ”

2018年にブランドが立ち上がり、オンライン販売開始と同時に注文が殺到しては、 “なかなか手に入らないスイーツ”として話題を呼んだチーズケーキ。あの長方形のチーズケーキを想像すれば、ほとんどの人が『Mr. CHEESECAKE』を思い浮かべることかと思います。

立ち上げから3年が過ぎ、2022年度はついに4年目へ突入。コロナ禍もあり、世の中そして洋菓子界が物凄いスピードで変わっていく中で、『Mr. CHEESECAKE』代表の田村さんに「これからのミスチ、未来のミスチ」をどう描いているのかを取材。また今後の洋菓子界の動向と、マーケットと戦略、そしてブレることのない「美味しさ」の追求について語っていただきました。

 

貫く「信念」と、会社としての変化と挑戦

Q.コロナ禍でお取り寄せスイーツブームもおき、現在ではその流れも変わりつつあると思います。これからの『Mr. CHEESECAKE』はどのような道を目指していくのでしょうか?

田村さん「『Mr. CHEESECAKE』というブランド自体は、これからもずっと続けていきたいし、色々なことに挑戦していくつもりです。とくに洋菓子界は、流行り廃りがある世界です。

『Mr. CHEESECAKE』が立ち上がる3年半前は、バスクチーズケーキが生まれ始めたぐらいのころ。世の中全体でチーズケーキへ注目が集まろうとする流れの中でしたが、あまりそれを意識していたわけではなくて。たまたま当時作りたいと思ったものが『Mr. CHEESECAKE』でした。美味しいと言ってくれる方がたくさんいて、世の中のニーズにも合致し、多くの人に愛されることとなりました。

そもそも、このチーズケーキを生み出したのは、レストランの料理だけではなく、自分の自由な表現で多くの人に、おいしいものを食べてもらいたいと考えたからです。例えば、高級レストランの料理は食べ手にもリテラシーが求められ、食の経験値がないと理解しにくいものもあると思うんです。そうではなくて“誰が食べても美味しい”“誰でも幸せになれる”そういう体験を提供したいという想いが込められています。ただ、どうしても今のチーズケーキブームの中では、その文脈が埋もれてしまっているように感じ、焦りもあります。

そんな中でも、先述の信念を曲げずに貫きたいと思うし、会社としても色々な挑戦を今年しなくてはならないと感じています。」

シェフとしての“スキル”『Mr. CHEESECAKE』としての“新しい価値”の提案をしていきたい

Q.今後、田村さんご自身の変化や挑戦をどう考えていらっしゃいますか?

田村さん「最近『Mr. CHEESECAKE』を知って下さった方は、もしかしたら僕のことを“チーズケーキの人”だと思っている方も多いかもしれませんね。僕自身は、海外での経験含めレストランシェフとしての経験が長いので、もう少し“田村浩二”としてのスキル・感性というものを、チーズケーキ以外のシチュエーションや分野で発揮して、新しい食べ方を含めた体験や価値創造を見出していきたいと思っています。そうすることで、『Mr. CHEESECAKE』が提供できる価値もより増えていけば、と。」

 

変わっていく時代。美味しさを守りながらも5年後、10年後をどう考えていくべきか?

田村さん「コロナ禍を受けて、人の考え方・価値観・行動が大きく変わったと思います。同じような壁が、また次の5年後にも別の形で起こるかもしれません

そこで大事なのが、“5年後に○○をしよう”と具体化して明確な目標を掲げるのではなく、『美味しさ』という変わらない価値を磨き上げながら、届け方であったり、伝え方であったり、人の行動にフィットするような提案というものを常に考え、イメージし続けられることが大事だと思っています。」

 

旅するミスチで目指したのは、全国のたくさんの人たちとの温かいつながり

Q.昨年は全国11箇所でのポップアップを開催し大盛況だったと思いますが、全国を旅するかのように、これまでのオンラインを中心とした販売から、「リアルでの販売」へと動かれた理由を教えてください。

田村さん「実は、もともとポップアップはやりたかったけれど、コロナ禍でなかなかやりづらかったんです。オンラインで販売しているものの、実際にお店に買いに行く、という行動自体は楽しいことだと思いますし、リアルならではの価値も感じています。

『Mr. CHEESECAKE』の成長や海外展開も含めた戦略を考えると、まず日本をまわっておきたいと、チームと話し合いました。イメージとしては、インディーズのバンドが、地方を一個一個まわって、日本ツアーをするようなイメージですね。

今のまま海外へ進出しても、お客様から見るとどこか他人事になってしまう気がして。それよりも『自分の街にきてくれた、あのブランドが海外にいって、海外でも人気らしいよ』って、ポップアップに並んでくださった全国の方々が感じてくださる方が、より自分事のように思っていただけるんじゃないかなと思ったんです。」

Q.ポップアップを通じて、多くのファンや人とのコミュニケーションの場となったかと思いますが、『Mr.CHEESECAKE』にとってどんなポジティブな経験を得られたのでしょうか?

田村さん「ポジティブなことしかなくて。印象に残っているのは、例えば、ブランド初期の頃は銀色のパックに手書きでサインを入れて販売していたのですが、それを覚えていて当時から応援しているという方が声をかけてくれたんです。あとは、スタッフのお母様が来店して下さることもあったりして、すごく温かい場でした。インスタやTwitterなどSNS上でもすごく温かい言葉をもらえたし、大変なことも多かったですがやってよかったです。」

 

家で作るからこそ、体験できる豊かな時間と体験の提供を目指したレシピ本

Q.話は変わりますが、レシピ本を出されたことも、田村さんの培ってきたスキルやその価値を提供しようという試みの一つになるのでしょうか?

田村さん「そうですね。本に載せるレシピは、家で作るべきお菓子であることをテーマに考えています。外で買える洋菓子と、まったく同じレシピでは作る意味があまりないと思っていて。それなら、外で食べたほうが美味しいじゃないですか。

そうではなく、例えば焼き立てのシュークリームにたっぷりとクリームをつめて、カリッカリの状態で食べるというのは、なかなかお店で買ってきても体験できないこと。自分で作るからこそ美味しく、そして楽しく体験できるものがこのレシピ本に詰まっています

例えば、ウィーエンド・シトロンというケーキがあります。お店だとカットで提供されることが多いんですよね。そうすると、カットしても形が保てるように、少し固めに作られます。でも家では形が崩れることも気にしなくていいので、出来る限り小麦粉を減らして、ギリギリまでレモンジュースを入れて、柔らかな食感にできるんです。その時の滑らかな口溶けが本当に最高なんですよ。それが贅沢で。

その美味しさはもちろん、そこでしか得られない体験や豊かな時間を、レシピ本を通じて伝えられたらと考えています。季節の変わり目だってそうで、秋になったからこれとか、時間とともに愛される本になればと思い“何を感じて、何を体験してもらうか”を考え抜きました。」

 

次の一歩は? 人と時間に寄り添うプロダクトの開発

Q.今後、チーズケーキ以外にどんなもの・ブランドを立ち上げられるのでしょうか?

田村さん「会社を立ち上げたときから、『Mr. CHEESECAKE』としてチーズケーキ1本でいこうとは思っていません。それ以外に美味しいものを作る、それをどういう商品で誰に届けるかは、ずっと考えています。

世の中の美味しさに対する、考え方も少しずつ変わってきていると感じています。『Mr. CHEESECAKE』ももちろんたくさんの方に愛していただいているので更に成長させる必要がありますが、もっとカジュアルで、美味しさを日常的に楽しむ瞬間もあるといいなと感じています。もっと日常に近くて、安らぎ・休息にフィットするものはなんだろうと考えていくうちに、僕の中で提供したい体験の変化・価値観の変化がありました。

そういうものを形にしながら、『当たり前だけれど、小さな幸せ』というか、小さな気づきを感じられる、人と時間に寄り添うプロダクトができればいいなと思っています。」

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