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2021.12.15

ヴァンドゥーズから学ぶ接客術Vol.2 「ヴァンドゥーズ協会では何を学べるの?」

一般社団法人 全日本ヴァンドゥーズ協会 会長、パティシエ ショコラティエ イナムラショウゾウ オーナーシェフパティシエ
稲村 省三さん
早稲田調理師専門学校卒業後、東京ヒルトンホテルへ入社。渡欧先の各地のホテルや製菓店で修業し、スイス・ルツェルンのリッチモンド製菓学校でショコラ科、アントルメ科を卒業。さらにフランスのルノートル製菓学校であめ細工科を卒業。フランス、シャルルプルーストコンクールで銀賞、アルパジョンコンクールでは準優勝を受賞。2008年ショコラティエ・イナムラショウゾウをオープン。2009年一般社団法人 全日本ヴァンドゥーズ協会を設立。初代会長に就任。
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シリーズ「ヴァンドゥーズから学ぶ接客術」。

ヴァンドゥーズという仕事を通して、接客術を学ぶこのシリーズ。
第1弾は、協会を立ち上げた稲村さんに、全日本ヴァンドゥーズ協会ではどのようなことを教えているのか、ヴァンドゥーズ認定試験のことやお仕事の魅力についてお話しいただきました。

 

今回はヴァンドゥーズ協会を立ち上げてから、協会としてどのような仕組みを整えてきたのか、活動を進める中で業界にどのような変化が見られたかをお伺いしていきます。

 

ヴァンドゥーズの仕事を一生続けてもらうために証明書文化を取り入れた

ヴァンドゥーズという仕事は離職率が高いということですが?

海外では、どの職種も職場を辞めるときに証明書を発行してもらえます。
次の職場では前職での階級から仕事をスタートできるシステムになっているんです。
なので海外ではヴァンドゥーズという仕事を長く続けやすい環境が整っていますね。
前職でどのポジションにいて、どういう仕事をしていたかがすべて書かれますので、それによって次の職場では、たいていの方が、証明書に悪いことを書かれないようにしっかり仕事をするんです。

パティシエの世界でも同じで、海外で働きたいお店があったとしたら、有名なコンクールでの受賞歴などを見せればスムーズに雇ってもらえます。
このように海外は証明書文化なので、日本でのヴァンドゥーズの世界にもヴァンドゥーズの世界にも取り入れようと思ったんです。

全日本ヴァンドゥーズ協会の活動によって、日本でも証明書文化が浸透してくれたらと思います。

選ばれしヴァンドゥーズにしか与えられない称号(ピンバッジ)

そんな想いもあり、まず私たちの活動で証明書文化を促進する動きをする事にしました。
それが、ヴァンドゥーズ協会の厳しい試験に合格した方にしか与えられないピンバッジです。
このバッジのロゴには、「ヴァンドゥーズからエネルギーを発信していけばお客様に伝わって、今度は逆にお客様からもエネルギーが戻ってくる」というイメージを込めています。

お客様が10人いたら10通りの接客が必要です。
心が豊かでないとお客様に感動を与えることはできないので、人の心を扱うヴァンドゥーズの仕事は、AIには絶対にできない、高度でいて存在価値の高い仕事だと伝えています。

 

高い技術と優秀なヴァンドゥーズを輩出する為に

ヴァンドゥーズ協会の認定試験というのはどのように行われているのですか?

ヴァンドゥーズの中でも優秀な20名ほどのメンバーがいます。

その人たちを、テクニカルリーダーという形で全国の各エリアに配置しており、各リーダーが地域ごとに認定試験を行なって、優秀な人材を育てています。

このように地域ごとで育成しながら、ヴァンドゥーズのレベルを上げる活動を行っています。
その優秀なテクニカルリーダーの中でもトップクラスの能力があると私が思っている方が、兵庫県にいるチーフテクニカルリーダーの高木さんという方ですね。

さらにヴァンドゥーズの認定を取得した人しか出られないコンクールがあって、2015年から2019年まで年1回、計4回実施しました。

 

ヴァンドゥーズの認定試験を受けるための条件などがあれば教えてください

満18歳以上の男女で、パン、もしくはケーキ店での販売経験が2年以上ないと認定試験にトライできません。
パートやアルバイトの場合も、総労働時間が2,400時間以上であることが条件になります。
そのうえで販売業務従事証明書を勤務先の代表者に発行してもらって、初めて受けることができます。
また、商業ラッピング検定3級以上の取得も条件となります。

 

認定試験ではどのようなことを行うのか教えてください

認定試験の様子。厳しく審査をする審査員

まずは講習を受けてから実技試験を行います。
来店からお見送りまで、10分ほどの時間の中でいかにお客様に感動を与える接客ができるかを、ロールプレイングを通して学んでもらいます。

スペーサー技術を習得する事も、一流のヴァンドゥーズには必要

例えばですが、
認定試験前の講習会終了後にお菓子を6種類持って帰ってもらっています。
というのも、試験では、お客様が商品を購入した際の個数に応じて、どうやって箱詰めするかを瞬時に判断する試験を行います。
これには、高度な“スペーサー技術”というのが必要です。
このスペーサーというのは、お菓子がケーキ箱内で崩れないようにするための仕切りのことです。
この試験に備え、自身で練習をしてもらいます。

この技術を学んでいただくために『スペーサー技術教本』という本もつくりました。
スペーサーの技術をまとめた本は世界初ですよ。

実際に試験では、箱詰めが終わった後に審査員がわざと中身を揺らして、中身が動かないかをチェックします。

知識だけでなく、こういった瞬時に対応できる技術の習得にも力を注いでいます。

あとは、ホスピタリティの部分での審査でも、
『入学式のお祝いでお菓子が必要なんですけど、どんなものを頼めるんですかね?』
と、あえて抽象的な質問をして、どれだけお客様に寄り添えているかなども接客技術として審査します。

試験官も4〜5人いるので、普段しっかり接客していないとすぐにわかりますし、なかなか厳しいですよ(笑)。

AI時代には人の心を扱うヴァンドゥーズの価値がより一層高まると思います。

 

稲村さんの今後の活動は…

ヴァンドゥーズという職業の認知度は上がっていますか

まだまだ、だと思います。
以前、ヴァンドゥーズ認定に合格された方が、ご自身が働いているお店でその経験は生かされたか等を聞いていると、先輩たちがバッジをつけていないから、君もつけないでくれと言われてしまったらしいんです。
とても残念だな、と。
やる気がある方がせっかくいるのに、そうした待遇だとモチベーションが上がらないですよね。

「オーナーの皆さん!ヴァンドゥーズ資格がある方には手当をあげるなど、何か待遇面でもよくしていく必要があると思います」。

実際、お客様とパティシエの代弁者としてヴァンドゥーズがいるので、パティシエの方がヴァンドゥーズを下に見てしまう文化はなくすべきです。

真剣に講義を受ける未来のヴァンドゥーズたち

今後はヴァンドゥーズに理解をもっているオーナーやパティシエを増やしていきたいです。
やってみないとどれだけ大変かがわからないので、僕の店ではパティシエよりもお客様の代弁をするヴァンドゥーズに力をもたせているぐらいです。

認定試験を受ける人たちは講習会を受講した後、お店に戻って店舗のメンバーを巻き込みながらロールプレイングの練習を行います。
それを手伝うメンバーも、彼らから刺激を受けて頑張ろうという気持ちになるため、結果としてお店全体がとてもよい方法に向かっていくようです。

 

協会として今後ヴァンドゥーズをどうされていきたいと思っていますか?


私の役割は土台をつくること。プロフェッショナルなヴァンドゥーズを育てることで、製菓業界のポッカリとあいた穴を埋めていきたいと思っています。

厳しくも丁寧に講義を行う講師

パティシエの技術を教えている方はたくさんいるけれども、ヴァンドゥーズの技術を教えてくれる人はまだまだ少ないです。
だからこそ、僕は業界に対する恩返しとしてヴァンドゥーズを育てたいと思って、全国にいるテクニカルリーダーたちの力を借りながら、製菓学校で職種を問わずヴァンドゥーズの技術を教えています。

こうした優秀なテクニカルリーダーの周りでタケノコの如く素晴らしいヴァンドゥーズが誕生するはずなので、彼らが動きやすいように今度は僕が後ろに回る番だなという認識です。


この中から現代名工を出して国に認められたい、そこまでやって私の役割は終わりかなと思います。
今後どんどんAIの世の中になったときに、人は人の心を求めるようになると思います。
ヴァンドゥーズという仕事はそんなときに真の力を発揮する、将来性の高い職業だと思っています。

 

取材を終えて

長きに渡って製菓業界を牽引してきた稲村さんだからこそ気づけた、ヴァンドゥーズというお仕事の大切さを存分に知ることができるお話しでした。
今後、ヴァンドゥーズの接客技術が継承され続ければ、日本の接客技術は日本のみならず世界的にも高い評価を得られるだろうという期待を感じさせてくれました。

 

次回以降は、稲村さんお墨付きの、飛び抜けて高い接客技術をもつヴァンドゥーズにインタビューをしていきたいと思います。

 

●取材協力
❏全日本ヴァンドゥーズ協会
公式サイト:サイトはこちらから


 
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Writer
ワタリドリ製作所 矢作 ちはる
ワタリドリ製作所 矢作 ちはる
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ワタリドリ製作所 代表。 株式会社リクルートにて、編集、商品企画、プロモーション事業に従事した後、出版社にてビジネス書の編集を経て独立。 渡り鳥が軽やかに国境を越えて旅するように、各地を飛び回りながら、ヒト・モノ・コトに関わるその土地ならではの魅力を発掘&発信する活動をしている。 書籍や雑誌、Webメディアの企画・執筆・編集をメインに、オウンドメディアの編集長としても活動中。著書は『石の辞典』(雷鳥社)、『世界の絶景1000』(英和出版社)共著。 地図は読めないけど、街歩きがすき。
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