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2023.03.21

女性も長く働ける製菓・製パン業界へ!vol.6「‟お菓子の仕事が好き“の想いを大切にして引き寄せることができたご縁」辻製菓専門学校 渡中美穂

辻製菓専門学校渡中先生
辻製菓専門学校
辻製菓専門学校 洋菓子教員
渡中 美穂さん
福井県出身。同校製菓衛生師本科、辻製菓技術研究所卒業後、神戸のパティスリーで約6年間パティシエールとして勤務。充電期間を経て現職へと転職。現在4歳と6歳になる息子さんを育てる2児の母。
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パティシエ・パン職人の道への入り口とも言える製菓製パン系専門学校の学生さんは、約8割が女性です。これは筆者が学生だった20数年前から変わっていません。

それなのに、当時いっしょにお菓子を学んだ友人のなかで、現在も製菓業界で仕事を続けている女性は1人しかいません。
時代が令和になった今、製菓・製パン業界の労働環境もいくらか改善され、女性職人が生き生きと働ける場所になったのではと、期待をこめて現状を調べてみると、予想に反した答えが見つかりました。

なんと、就職してから半年後に行う離職調査(※出典元 辻調グループキャリアセンター調べ)によると、2021年度の女性の卒業生のうち、19.2%が仕事を辞めてしまっていたのです。

なぜ、女性が製菓・製パン業界で働き続けにくいのか?どんな理由で仕事を辞めることが多いのか?理由は様々でしょうが、そんななかでも技術と知識を活かし、生き生きと働き続ける女性職人たちがいます。彼女たちへの取材を通し、好きな仕事を長く続けていくためのヒントを見つけ出して欲しい。そして新人の職人さんたちが勇気をもって夢を抱けますように!

女性の思考を知ることは、男性職人やオーナーさんにとっても良い機会のはず。貴重な人材である女性職人への接し方のヒントが、見つかるかもしれません。

シリーズ6回目は、辻製菓専門学校教員の渡中(わたなか)美穂さんにお話を伺いました。職人の皆さんの中には、菓子職人として身に着けた技術を活かし、専門学校の職員という道を選ぶことを考えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。同校の卒業生でもある渡中先生が母校で教壇に立つきっかけはどんなものだったのでしょう。専門学校教員の仕事内容や、パティスリーでの勤務経験をお持ちの先生から製菓・製パン業界へ羽ばたかれる学生さん達へ伝えたい想いなどをご紹介いたします。(取材日2022年12月19日)

体力第一の菓子製造現場から一転、伝える力が第一の現在

高校卒業後に地元の福井県を離れ、辻製菓専門学校へ通うために大阪で一人暮らしを始めた渡中先生は、2年間の学生生活を経て神戸のパティスリーへ就職されます。パティシエとしての修業現場では、ただただ毎日がむしゃらにお菓子に向き合う日々を過ごされていたとのこと。複数の修業先で経験を積まれるのではなく、菓子職人から製菓学校の教員へと転職された経緯とは。

ケーキ屋さんでの修業時代に辛かったことはありましたか?

□渡中先生
「修業先は機械化が進んだパティスリーではなかったので、体力的にはとても大変でした。半製品をほぼ使わないお店だったので仕事量も膨大でしたが、当時はパティシエとして技術を身に着けたいと必死でしたし、仕事を覚える為には長時間労働も仕方ないと思っていました。お休みは月に6回で、連休もお店の定休日の前後で取るのが一般的だったので、ほぼ平日。休日が合わないことで、徐々に疎遠になってしまった友人がいたことが、今思うと残念でしたね」

人間関係や労働時間の長さが原因で辞める人が多い印象ですが、先生がケーキ屋さんを辞めた理由は何でしたか?

□渡中先生
「確かに卒業生に話を聞くと、離職理由で圧倒的に多いのが人間関係の悩みですが、私がお店を辞めたきっかけは将来のことをしっかりと考えたからという感じです。それまでも漠然と、結婚する時はこの仕事を辞めるか、パートタイマーとして働くんだろうなと思っていました。当時、自分が結婚するタイミングだったわけではないのですが、未来の自分の暮らしを考えた時に、結婚を節目に好きな仕事を辞めなくてもいい職場を探したいと思ったのが修業先を辞めた理由です。辞めてからは実家に戻って少しゆっくりし、何となく大手コーヒーチェーン店でのアルバイトをしながら自分自身と向き合う時間を過ごしていました」

次の仕事(教員の職)を決めずに辞められたことも驚きです。専門学校の教員になられたいきさつは?

□渡中先生
「専門学校時代の恩師から電話がかかってきて、『学校が新しい事業を開始するので人材を探している』という話を伺ったのが始まりです。
卒業後も学校には何度か訪れていて繋がりもあったこと、仕事を辞めた時も恩師に報告をしていたことで、連絡をいただけたんだと思います。新規事業の内容は、ショッピングモール内に学生が運営するパティスリーを作るというもので、パティスリー現場での経験がある人材に教員になってもらい、経験を活かした指導と店舗運営のサポートをするというものだったので、自身にぴったりでした。さらに、学校に産休・育休制度があったことも、この業界でもう一度働く事を決意できた大きな理由でした」

辻製菓専門学校教員

▲『出会いやご縁を大切にしてきたから今がある』との言葉が印象的でした

 

専門学校教員の仕事あれこれ

専門学校教員の仕事内容はどんなものですか?

□渡中先生
「菓子職人と製菓教員という2つの仕事は、お菓子を作って接客するという共通項はありますが、職種としては全く異なることも事実です。菓子職人の仕事は、大量生産を実現させるための体力勝負である一方、製菓教員の仕事は学生に教えることが軸にあるので、『どうやったらうまく伝わるか』ということを常に考えないといけないんです。製造現場ではお菓子にずっと触れられていることがとにかく楽しかったですし、計画性を持って仕事を組み立ててシェフや同僚とイベントをやり遂げた時の達成感はかけがえのないものでしたが、今は話し方・伝え方を日々勉強し、若い学生たちに関わり続けられる事も新鮮で楽しいですよ。その中でも、自分自身の言葉で現場での実体験を話せることは、大きいですね。
講習・実習授業の準備や担任業務などの仕事は、経験を重ねていく上で仕事内容も複雑になって量も増えていきますが、そのあたりは現場で働く職人さんの仕事と共通だと思います」

辻製菓専門学校授業風景

▲実習室で学生たちが作製したお菓子について説明を加える渡中先生

教員になられてから結婚・出産をご経験されたとのことですが、仕事を辞めずに続けられている理由は何が大きいですか?

□渡中先生
「なんといっても、実際に結婚されてお子さんを育てながら働き続けている女性の先生方が多い事です。製菓・製パン業界に限らず、仕事でのキャリアアップを目指しても結婚や出産を機に仕事と家庭のどちらかを選ばないといけなくなるケースはまだまだ女性に多い気がします。夫はいつも私の想いに寄り添ってくれるので、結婚を機に教員を辞めるという考えは沸きませんでしたが、産後は仕事に戻れるのか不安になったこともありました。幸い学校側の理解も大きく、育休明けの仕事内容にも配慮があったので続けられてきたという感じです。そして何より、同僚からの『戻ってきてくれてありがとう』という温かい言葉が、『自分を受け入れてくれる環境があるんだ』と思えて、何よりも嬉しかったことを覚えています」

1日の先生のスケジュールについて教えてください

□渡中先生
「流動的な部分もありますが、平日は毎日こんなスケジュールです」

[5:30~6:00] 朝の支度
自分の支度と、子供たちの食事の準備。できる時は、夜ご飯の準備も済ませます。

[7:40] 自宅を出発
朝は夫が子供たちを保育園へ連れていきます。

[8:45~] 勤務開始
担任業務のホームルームから始まり、日々の授業の準備。現在は製菓実習と講習の材料発注も任されています。

[17:00~18:00] 退勤
一日中実習の日は、放課後の業務も増えるので流動的。

[18:30] 保育園へ子供たちのお迎え

[19:00] 帰宅
夕食。翌日のご飯の準備、家事。
子供たちの入浴と寝かしつけは、夫が毎日担ってくれています。

[23:00] 就寝
夜2時間くらいは自分自身の時間を持てています。

□渡中先生
「自分自身の日々のスケジュールをお話して改めて感じたのが、菓子職人として私のような勤務時間(8:45~17:00)で働けるパティスリーは、まだまだ少ないということです。でもこれからは製造業も働き方を選択できる時代に変わっていくと思います。そんな新しい時代にこそ、手に職があることの強みは発揮されるのではないかと思うんです。たとえ、仕事から離れないといけない期間があっても、また、その仕事に戻れば身体が仕事を覚えている。まさにそれが『手に職』ということですよね。そんな意味からも若いうちには技術をしっかりと身に着けておくべきですし、学生たちには修業時代もあきらめずに頑張って欲しいと強く思います」

 

製菓・製パン業界を担う次世代の職人たちへ

読者の皆さんは、急速に変化し続けている業界に社会人としての一歩を踏み出された若手職人さんや、その若手職人さんたちと日々仕事をされている先輩職人さんたちが多いと思います。仕事への向き合い方や、後輩たちを指導する上で持っておくべき心構えのヒントが先生のお話の中にはありました。

学生さんへ授業で伝えている大切なことは?

□渡中先生
「身に着いた技術が学生たちの働く場所の幅を広げてくれると信じているので、その手助けになるように人と仕事をする上で大切なことを伝えています。学校に通っている1年間では技術はそうそう身に着きません。現場での信頼関係が築け、任された仕事に向き合っていく事で確実に技術は身に着いていきます。ですので、いつも『ちゃんと挨拶ができ、大きな声で返事をし、指示されたことを的確にこなして、自分という人間を信用してもらえるような行動をしよう』と話しています。加えて、嫌なことがあってもすぐに辞めたいと思ってしまわないような強い夢を持てるような指導を意識しています」

これまでの学生さんで、卒業後に伸びた方々の特徴は?

□渡中先生
「意外な子が職人として続いているということはよくあります。生真面目な学生というよりは、臨機応変な対応ができる柔軟な子が多い印象です。状況や環境に適度に合わせられるというのは重要な要素ですね。さらに大切なのは、明確な夢と素直さです。どんなことでも将来の自分に役に立つと考えて、物事に素直に向き合った人が結果的に多くのことを短時間で身に着けているような気がします」

若い職人さんへのアドバイスをお願いします

□渡中先生
「つらい事があれば、誰かに相談しましょう。卒業生なら是非ご自身の学校に足を運んでみてください。物事を深く考え過ぎずにがむしゃらに働けるのは若い時しかない一方、一生懸命すぎるゆえに、些細なことでプツンと糸が切れて、辞めてしまおうという思考になっている人も多いような気がしています。せっかく志を持って入ったのにすぐに辞めちゃうのは残念。状況や思いを言葉で誰かに伝えることで、気持ちの整理ができたり、思いがけないアドバイスがもらえたりするので、いつでも学校に遊びに来てください」

辻製菓専門学校教員

▲副担任の先生との打ち合わせ。お互いに相談し合える時間を意識して設けている

 

取材を終えて

取材日は2学期の授業もすべて終了した冬休み。学生さんがいない実習室では、技能検定を受ける予定の教員の方々が実技練習をされていました。渡中先生も、ヴァンドゥーズ検定試験を目指されているとか。教員陣が学生さんを指導する(わかりやすく伝える)ということにいつも心を砕きながら、ご自身の技術・スキルアップも欠かさないという姿勢は素晴らしく、またその環境を提供されている専門学校側の努力にも心を打たれた時間でした。
実は筆者自身も同校の卒業生なのですが、そんな素晴らしい先生方にご指導いただいていたことには当時は気づいておらず、若かりし自分の学生としての態度を反省した日にもなりました。
今年のクリスマスケーキは息子さんに作り方を教えながら一緒に仕上げようかなと笑顔で話されていた渡中さんは、正に先生であり、菓子職人であり、自慢のお母さんだなと思いました。これからも製菓業界で働く女性がいろんな形で活き活きと働かれている姿を取材していきますので、ご期待ください!

辻製菓専門学校教員

 

●取材協力
辻製菓専門学校
住所:大阪市阿倍野区松崎町3-9-23
アクセス:大阪メトロ谷町線「阿倍野駅」5番出口から徒歩5分
公式URL:こちらから
公式インスタグラム:こちらから
公式フェイスブック:こちらから

 

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Writer
chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
製菓業界に足を踏み入れて早20数年。読者目線の企画運営が目標です! 食べることと旅行が大好きな1児の母。サンマルク、カイザーゼンメルが大好きです♡
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