皆さま、ご無沙汰しております。
今回のテーマを考えているうちにどんどん時間が過ぎてしまい、気がつけば日差しの気持ちいい春になってしまいました。
春といえば日本では卒業式や入学式などのお祝いのシーズンでもあると思います。
私の住んでいるフランスでは、学校などの年度は9月から始まり7月まで、そして8月は一ヶ月間丸ごとヴァカンス(夏休み)という感じになります。
そんなフランスでは、毎年3月下旬から4月上旬にあるPâque(イースター祭:イエス・キリストの復活祭)が終わると、5月から母の日や結婚式シーズンなどのお祝い事のシーズンが始まります。
この時期、私の働いていたフランスのパティスリーでほぼ毎週末と言っていいほど注文を受けるのが上の写真のようなお菓子、クロカンブッシュ(Croquembouche)です。 日本ではあまり馴染みのないお菓子ですが、フランスでは伝統的にお祝い事の席(キリスト教の洗礼式、結婚式、還暦祝いなど)のために作られてきたお菓子です。 名前の『Croquembouche』は、フランス語のCroque en bouche(口の中でカリカリと音を立てる)というフレーズが由来だと言われています。
構成はというと、アーモンドスライスやアーモンドダイスをキャラメルに混ぜ込んだヌガティーヌを円形やリング上に成形したものとシュー生地をキャラメルコーティングしたものを円柱状や円錐状に組み立てた物が一般的です。そこへさらに飴細工やパスティヤージュ、グラスロワイヤル、ドラジェなどを飾って、祝いの席をより一層豪華に飾り立てます。日本でピエスモンテ( Pièce montée )というと飴細工やチョコレート細工を意味することが多いのですが、フランスではピエスモンテはイベント用の飾り菓子をさし、ほぼ100%このクロカンブッシュのことを意味します。
気になるシューの中身はというと、学校の授業で作るものに関してはクリームを入れてしまうと重みで強度が落ちてしまい、生徒が大きなものを組み立てる際の成功率を下げてしまうので、中身は空洞のままのものをキャラメリゼして使うことが多いのですが、お祝いの席用などに用意される物はちゃんとシュー生地の中にカスタードクリームが詰められています。お祝い事の最後には切り分けられて一人3個から4個のシューを食べるのが一般的です。
私の働く製菓学校でも、フランス人はもちろんインターナショナルの生徒を対象としたほぼ全てのプログラムで、クロカンブッシュを作成します。


はじめ、なぜより見た目が華やかな飴細工やチョコレート細工ではなく、クロカンブッシュが全てプログラムの中に組み込まれているのか疑問に思い、フランス人の上司に聞いてみたことがありました。すると、クロカンブッシュは宴会などで披露されるとても伝統的なお菓子で、約200年もの歴史があり、フランスのパティスリーを象徴する代表的なお菓子だからという答えが返ってきました。そこで気になって調べてみたところ、これもまた諸説あるのですが、もともとは結婚式などのお祝いの場に招かれた出席者が各自プティガトーやブリオッシュを持ち寄り、それを塔のように積み上げ新郎新婦がその上で塔を崩さずにキスをすることができたら幸せな結婚生活が得られる、という慣わしがあったそうです。
そのお菓子の塔を当時のパティシエの知恵と技術を駆使して一つの立派な装飾菓子に昇華させたのが、パティシエなら誰もが一度は聞いたことがあるであろう19世紀のフランス宮廷料理人、アントナン・カレームです。

以前も紹介させていただいた上の写真のような円錐状のものが最も一般的なのですが、200年前はシンプルにヌガティーヌのディスクの上にシュークリームを円錐状にキャラメルで固定しながら積み上げ、周囲にフォークなどを使って飴を糸状に固めたものとドラジェなどで飾っただけの物だったようです。時代に応じて新たな技術を用いたり、流行りの形が現れたりなど少しずつ姿形を変えながらも伝統をベースに進化するその姿は、なるほどフランスのパティスリー界そのもののようにも思えます。
フランスでは若手のパティシエが各々のオリジナリティーを詰め込んだクロカンブッシュをその場で作り競い合うコンクールもあり、とても発想力豊かで、見たことのないような形のクロカンブッシュを発見することもできます。 私の勤務する学校では、学生が初めてでも作れるようにシンプルなデザインを考慮しつつ、完成した時に達成感や喜びを感じられるものを課題として用意するようにしています。
下の写真は課題で出したバイオリンをモチーフにしたクロカンブッシュです。


ということで、今回は名前からしてユーモアがあり、伝統を重んじつつ革新を常に探求する、まさにフランスを代表するお菓子の一つをご紹介しました。
では、また次の記事でお会いしましょう。
À bientôt!
ベーカリーパートナー編集部