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2026.10.06

「売れるのに儲からない」人気ベーカリーを手放した女性オーナーが再起するまで— JollyJolly清水麻衣さんインタビュー(前編)

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JollyJolly(ジョリージョリー)オーナーシェフ
清水麻衣さん
2012年 大阪市福島区にてベーカリー「グランジュテ」を開業
2019年 「グランジュテ」を譲渡売却
2023年 パン・ド・カンパーニュ専門の「JollyJolly(ジョリージョリー)」を創業。休業中の店舗を間借りしてパンを製造。イベント出店や卸をメインに活動
2025年 大阪関西万博マルタパビリオンにて無形文化遺産「フティーラ」のレシピ監修、生産管理を担当
2026年 新店舗へ移転しドーナツカフェを限定的に営業開始

「はたらけど はたらけど猶(なお) わが生活(くらし) 楽にならざり ぢつと手を見る」。時代が変わっても、石川啄木が詠んだこの有名な歌は誰にとっても共感を呼ぶのではないでしょうか。
「JollyJolly(ジョリージョリー)」の清水麻衣さんのお話を聞きながら、この歌を思い出しました。清水さんは、かつてはあるベーカリーのオーナーシェフ。雑誌やテレビにも取り上げられ、お客が絶えない人気店になりました。しかし、店は忙しくなるのになぜか収益があがらない。

「一生懸命やれば収益はあとからついてくると信じてやっていたけど、やればやるほど忙しくなり、最後にはやりがいも楽しさも削られていった」という清水さん。一時は大好きだったパンづくりが嫌いになるほど疲弊し、ついにはお店を手放すことになりました。
それから7年。現在は5人の子どもを育てながらも、再び大好きなパンづくりと向き合っている清水さん。その原動力となるパンへの愛情と尽きることのないバイタリティに迫りました。

母親業とパン職人を両立する毎日

清水さんの日々の仕事はパンづくりだけではありません。5児の母でもある彼女の一日は早朝6時前、高校生の息子2人のお弁当づくりから始まります。

家族の朝食を作り、子どもたちを送り出し、最後は末っ子を保育園まで送り届ける。毎朝、これらをこなしてやっと、清水さんのパン職人としての一日が始まります。パンを焼き、ドーナツを作り、11時にお店をオープン。開業セミナーで知り合ったアキさんとお店を切り盛りし、仕込みを終えてお店の営業が終わるのが16時頃。そこから保育園、学童保育へと子どもたちを迎えに行きます。

家路につく途中、家の買い物をし、余裕があれば子どもたちと公園へ。家に帰るとさっそくその日の夕飯づくり取り掛かります。夜9時頃には、仕事を終えた夫と、部活で泥だらけになった高校生の息子たちが帰ってくる。すべての家事を終えて眠りにつくのは23時ちかくになります。

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働きっぱなしですね、と筆者が言うと、「それでも最初のパン屋時代に比べたら全然マシです」と清水さんは笑う。卸売市場内にあった以前のお店のオープンはなんと朝5時で、清水さんは毎朝2時半に起きていたそう。

清水さん
「お店も家から1時間くらいかかる場所だったので、当時ちいさかった2人の子どもを保育園に迎えにいくのもいつも閉園ギリギリで。家に帰ったら帰ったで寝ないといけない時間がどんどん迫ってくるので常にバタバタしていました。当時の睡眠時間は4~5時間くらいかな」

家事育児をしながらそのスケジュールはあまりにもハードですね。

「かなり無理をしていたと思います。パン屋は自分が好きではじめたことなので、『だからこそ家事育児もちゃんとやらないといけない』と思いこんでいました。それでも子どもたちに対して十分に母親の役割を果たせていないのではという罪悪感と、パンは売れているのにお店の収益があがらないストレスでぐちゃぐちゃになってました。『忙しい』という字は心を亡くすと書きますけど、本当にそんな感じでした。好きなことをしているはずなのに、ぜんぜん幸せじゃなかった」

バゲット300本。なのに思うように利益が上がらない。

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学生時代に神戸の名店「コムシノワ」のパンを食べてハード系の美味しさに目覚めた清水さんが、自分のパン屋「グランジュテ」をオープンしたのは、いまから14年ほど前のこと。清水さんも「はじめの2年は楽しかった」と振り返ります。次第に雑誌やテレビにも取り上げられ、多くの人が訪れる人気店になっていった「グランジュテ」。レストランからの信頼も厚く、卸のバゲットを一日に300本焼くこともあり、まさに順風満帆、売上も右肩上がりと思いきや、なぜか収益は伸びず。

パンは売れていたのになぜ収益が上がらなかったのでしょうか?

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▲「グランジュテ」当時の陳列棚

清水さん「経営というものが全く分かっていなかったんですよね。まず、原価に対してパンの値段も安すぎたし、作ったパンと売れたパンの数の管理もあいまいでした。あとは人件費が一番大きかったですね。子どもを迎えに行かないといけない時間になると、わたしはお店を出てあとはスタッフに任せるんですけど、私が帰ったあと、2時間で済むだろうと思っていた仕事に3時間4時間かかっていたり、わたしの管理不足なんですけど、そういうことも人件費がかさむ原因でした。

そういう意味ではスタッフ教育もできていなかった。人を雇うということに関してはいまだにトラウマというか、抵抗がありますね」

スタッフの給料を払うために働く毎日

値上げはしなかったんですか?

清水さん「自信がなかったんですよね。下町だったので、値上げをしたら来てもらえないんじゃないかっていう不安で上がられなかった。パンは安いのにこだわりだけは一人前だったんで(笑)。当時バゲット1本250円で売ってましたから」

飲食店の卸のバゲットが一日200~300本だったというから、商品をバゲット一本に絞れば人手もかからず売上も安定するはず。その疑問をぶつけると、「分かっていた」という。

清水さん「それだけをやるのが正解だったと思います。途中でそれに気づいたけど、毎日のように買いに来てくれるお客さんがいるし、社員も3人を雇っていたので、「辞めてください」なんて言えなくて。自分がどうしたいかよりも、お客さんが来るから、スタッフにお給料を払わないといけないから、という理由で働いていましたね」

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明け方の4時から16時まで働きどおしなのに収益が上がらない。しかしスタッフの給料のために働き続けなければならない。やめたくてもやめられない負のスパイラルから清水さんがようやく抜け出せたのは、2019年。お店をオープンして7年が経った頃でした。

清水さん
「きっかけは4人目の子ができたことですね。ちょうど同じタイミングで、運よく『お店を引き継ぎたい』って言ってくださる方がいて。顧客もスタッフもそのまま引き継いでくれるというので『もう今しかない!』という感じで逃げるようにやめてしまいました」

パンと距離をおいた2年間

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不毛な重労働から解放され、穏やかな毎日が過ぎていく。夫の営む町工場の手伝いをしながら母親業に専念する清水さんの心にも余裕が生まれ、自宅で家族のためにパンを焼いたり、パン教室を開催するなど、パンを作る喜びもすこしずつ取り戻していきました。

パンへの情熱は、冷めることなく清水さんの奥底で生き続けていました。というよりも、くすぶっていたというほうが正しいのかもしれません。自宅でパン作りをしたり、パン教室に取り組む日々のなかで、「やっぱりパン職人、パン屋でありたい」という想いが、生地が発酵するようにふつふつと湧き上がってくる。ただ、その想いをなかなか表に出すことができなかったといいます。

清水さん
「過去の失敗の経験から、パン屋をやることイコール家族に迷惑をかけることのように思えて仕方がなかったんです。だから『家でパンを焼くだけで満足するべき』と自分に言い聞かせて、もう一度パン屋をやりたいという気持ちには必死にふたをしていました」

そんな清水さんのパンづくりへの想いが爆発したのは、こどもの卒業式に出席したときのこと。

清水さん
「卒業生たちが、卒業証書を受け取って、壇上で自分たちの夢について話すんです。その生き生きとした姿を見ていたらなんだか涙が出てきて。『わたしももう一度パン屋をやりたい!』と爆発してしまいました。家族に想いを伝えたら、こちらの不安とは裏腹に意外とあっさり「いいんじゃない?」と(笑)」

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再出発のためのルール

再出発にあたって、清水さんが自分に課したひとつのルールがあります。それは、家族にしわ寄せがいくような働き方をしないこと。最初のベーカリー経験から学んだ教訓です。

清水さん「あんなに忙しくて収益がとんとんなんだったら、パンの種類を絞って小さく商売をやってすこしだけど利益を出す、というのと変わらないじゃないですか。たくさん稼がなくてもいいから、子どもたちの生活を守りながらできる形でしかやらないと決めていました」

作るパンは、カンパーニュとバゲットだけ。ただ商売として始めるには営業許可付の工房がどうしても必要で、清水さんにはずっと前から気になっていた場所があった。家の近くにある、1年以上休業状態になっているベーカリー。ガラス扉から店内をのぞくと、暗がりの奥にオーブンが見えた。思い切って呼び鈴を押した。インターホン越しに、パン屋の店主に自身の状況や想いを伝え、厨房を貸してもらえるよう頼み込んだ清水さん。1、2か月やり取りを続け、週3日、厨房を間借りさせてもらうことになりました。

あたらしい屋号は「JollyJolly(ジョリージョリー)」。清水さんのパン人生がまた、動き出しました。

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(後編へつづく)

【取材協力】

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「JollyJolly(ジョリージョリー)」
※現在は改修工事のため休業中。2026年秋ごろリニューアルオープン予定
インスタグラム:https://www.instagram.com/jollyjolly___/

 

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Writer
chefno編集部
編集長&映像制作 コウヘイ
chefno編集部
編集長&映像制作 コウヘイ
映像制作とフランス語関連の記事担当。18年のフランス在住経験あり。フランス生活で得た気づきやエスプリを生かして面白い&センスの良いコンテンツづくりを目指します!好きなお菓子はダントツでタルトタタン。
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