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国内外から注目を集める新潟のブーランジェリー
新潟駅から車で5分、徒歩15分の場所に、今、国内のみならず、世界からも注目を集めているパン屋「La Boulangerie Richer (ラ ブランジェ リシェ)」がある。店内には所狭しとパンが並んでおり、そのパンには「美しいパンを、一番美味しい状態で届けたい」というシンプルな考え方が、まっすぐに表れている。国内外問わず注目を集めているのは、シェフ遠藤信行さんの手がけるヴィエノワズリーだ。SNSを通して全世界のシェフから賞賛されるヴィエノワズリーは、目を見張るほどの美しさだ。今年57歳になるという遠藤さんは、日々インスタグラムでパンの情報収集や、海外のシェフたちと情報交換しているという。「まだまだ進化の途中」と話す遠藤さんに、これまでの経緯やパンへのこだわりを伺った。
ガソリンスタンドの店員から転身 独学で学んだパン作り
遠藤さんの経歴は異色だ。車好きということもあり、高校卒業後24歳までガソリンスタンドで働いていたという。その頃、遠藤さんの慕う上司が起業することとなり、その新規事業の一つにパン屋があったことが、遠藤さんがパン職人の道に進むきっかけだ。それまでなにひとつパンのことを知らなかった遠藤さんは、必死で専門書を読み、独学でパン作りを学んだ。パン屋さんでの研修後、すぐに自分でパンを焼きはじめることとなる。
当初は冷凍生地を使用しており、パンの原価が高かった。それもあって、なかな
か利益が取れず苦悩したという。
明石さんとの出会いとパンへの向き合い方
そんな時に紹介してもらったのが、現ベッカライブロートハイムの明石克彦氏
だ。明石さんのお店に入った遠藤さんは、すべてのパンが輝いてパンが生きている
と感じたという。強く感銘を受けた遠藤さんは、ことあるたびに新潟から東京まで、明石さんのお店に足を運んだ。明石さんとの出会いが転機となり、パンに目覚めたという遠藤さんは、冷凍生地をやめ、自分で生地の仕込みを始めた。
ミキサーを買ってほしいと社長に頼みこんだときは、最初いい顔をされなかったという。「本当にできるのか?ミキサーにクモの巣が張るようなことになったらわかっているな?」そんな社長の心配をよそに、遠藤さんの決意は本物だった。
「自分のパンを逆算して考えなさい」という明石さんの言葉から、遠藤さんはたくさんのことを学んだという。大切なのは、どうやったらお客様に、自分のパンをベストな状態で提供することができるかを突き詰めること。怒られるかもしれないけれど、と前置きして、遠藤さんは照れくさそうに「僕のパンの師匠は明石さんなんです」と話してくれた。その笑顔がとても印象的だった。
50歳を超えてから手に入れた武器 情報を柔軟に取り入れる姿勢
遠藤さんがヴィエノワズリーを自分の武器として極めていくことに決めたのは、今から3年前、遠藤さんが54歳の頃だという。ちょうどその頃SNSで海外のバイカラークロワッサンを見た遠藤さんは「なにこれ?」と驚愕した。どうするとこうなるのだろうと、誰に教わるでもなく、自分なりに試行錯誤してすぐに試作してみたという。昔から「こうやったら、こうなるんじゃないか?」という仮説を立ててパンを作るのは得意だったと遠藤さんは話す。それから僅か3年。遠藤さんは、国内外に注目されるほどのヴィエノワズリーを手がけるようになった。お店が流行るためには、自店にどのような武器があるのか見極めることが大事だと遠藤さんは言う。ヴィエノワズリーに出会うまでの遠藤さんは、自分の武器を探すのにもがいていた。自分の中の引出しを片っ端から引っ張り出して、色々なことを試していたという。今のお店のオープン当初も、自分の方向性、武器が定まらず振るわない結果となった。自分の武器を見つけるのに、時間がかかってしまったと話す遠藤さん。しかし、武器を探すためにもがいた時間は無駄ではない。どうしたら美味しくなるのか、どうしたら自分の思い通りのパンが作れるのかと、パンとお客様に向き合ってきたからこそ、たどり着いたのが、今のヴィエノワズリーだろう。
お店を取り巻く皆が潤う考え方
お店をやるならば、会社に利益を出すのが大前提だと遠藤さんは話す。さらに、問屋さんやメーカーさん、生産者の方々、全員が潤わないとダメだと続ける。お客様が満足するパンを作り、買っていただく。売り切って会社に利益を出し、良い材料をたくさん使う。材料の値段が20~30円上がったなら、その分、自分がもっとパンのことを勉強し、商品のブラッシュアップをすればいいと遠藤さんは語る。そして、より魅力のある商品を作って商品の値上げをするのだという。そうやって、カバーをしていくことが大事だと考え、値上げの際は必ず何かしら、商品のブラッシュアップを行っている。
そういう考えがあるからこそ、パンの値段を変えることは、あまり怖くないのだという。もちろんお客様の反応はダイレクトに返ってくるが、それすら受け止めて、成長の糧にしているように感じられた。
現状に満足せず、どうすれば良いかを考え、思ったことをすぐに実行する。常に自身がレベルアップできる状態に身を置いているのだろうと感じた。今回お会いして話してみるまで、職人肌のイメージをもっていたが、お話を聞いていくうちに、物事を柔軟に考えておられる、人間味の強い方だと強く感じた取材となった。
① クロワッサンピスターシュ410円(税込)
イタリアシチリア産のピスタチオ、フランス産の発酵バターを使用、端の方までたっぷりとピスタチオクリームが入っています。
② パン・オ・ショコラ ピスターシュ365円(税込)
有機バトンショコラとイタリアシチリア島産のピスタチオを使用。フランス産の発酵バターの香りを楽しめる商品。
③ クロワッサン 315円(税込)
フランス、ブルターニュ産の発酵バターを使用したリシェのスペシャリティ。
④ SP パン・オ・ショコラ リシェ 385円(税込)
フランス産オリジナルショコラを包んだパン・オ・ショコラ。フランス産の発酵バターの香りとチョコレートと相性抜群な、リシェのSP 表示の一品です。
⑤ 越後姫の花 580円(税込)
花のモチーフのデニッシュ。ピスタチオクリーム、新潟県産のいちごで花びらのように見せた見た目も美しい商品。
【遠藤さんに聞いた】クロワッサンへのこだわり
私の作るクロワッサンは、そのままでも、サンドとして具材を挟んでも良いように、あえて特徴を出しすぎないというか、オリジナリティを出さないようにして、他のヴィエノワズリーに変化できるような味を心がけています。食感は表面はバリバリサクサクで中はふわふわを目指しています。通常クロワッサンの生地には牛乳を使用すると思うんですけれど、私はバターの香りを強調したくて、生地に牛乳は使用せず、水だけで製造しています。わかりやすく言うと、砂糖とバターが入ったフランス生地をしっかりミキシングをかけるイメージです。生地は、丸めた後に季節によってですが40分~60分ほど前発酵を取ります。その後ガスを抜いてビニールに包んでマイナス3度の冷凍庫に入れておき、翌日に折りやすい硬さになっているようにしています。この時に生地が膨らんでいないというのがポイントで、発酵ではなく、イーストを寝かせて熟成させるというイメージです。
流れとしては、前発酵はしっかりとって、冷凍庫で熟成、しっかり潰してリターダーにかける。折るときに、バターと生地の温度はバターの方が多少低いくらいで調整しています。バターはフランス産の発酵バターを2種類、使い分けて使用しています。味の骨格を出すため最後に2時間半ほど26度で生地を乾燥させないよう湿度を下げすぎないようにホイロを取った後、コンベクションオーブンで一気に焼き上げます。
大事なのは温度管理だと思っています。パン全体に言える事なんですが、ヴィエノワズリーの場合、特に商品の出来上がりに顕著に出てきますね。
一番大事なのは情熱
何をやるにしても情熱が一番大事だと思います。私は24歳の時に今の社長が「パン」というアイテムを与えてくれたから30年以上パン職人を続けてきました。それは別にパンじゃなくても、例えば、大袈裟ですが「明日からパスタやる」と言われたら、明日からパスタを作るためにどうするかを考えると思います。そんな風に、別の事業でも私のスタンスは変わらなかったと思います。私は拾ってくれた今の社長に答え続けられる仕事をしたいという、いわば恩返しなんです。こんな情熱を植え付けてくれたのも、こういう僕を作り上げてくれたのも社長です。「思いっきり仕事をしよう、どんなことでもいいからやれ」、「地域で一番を目指しなさい」「社員を幸せにしよう」「お客さんを笑顔にしよう」それだけを守って来ました。今でこそSNSで海外の方にも自分のパンを見ていただいたり、実際に買いにいらしてくださったりしていますが、元はタイヤの組み換え作業をしていた人間ですが、パン職人と言う仕事に対して誰よりも情熱を注いできたという自信はあります。年を取ろうが若かろうが、自分の関わる人間に、仕事に、どれだけ情熱を注げるかが一番大事だと、今は強く思います。
SHOP DATA
La Boulangerie Richer(ラ ブランジェ リシェ)
所在地:新潟県新潟市中央区鐙2丁目14-20
開業年:2011年3月
定休日:火曜日
日商:30~50万円
客単価:1,400円
オーブン台数:2台
ミキサー台数:1台
パンの種類:約70種類(生地12種類)