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2023.04.26

食問題を伝える懸け橋に。パン職人として経験ゼロでパン屋を開業したワケ (後編) ~coboto bakery 酒井 圭一~

coboto bakeryオーナーシェフ
酒井 圭一さん
兵庫県神戸市出身。前職では、市の職員として働く。20代になって環境問題に関心を持ち始め、まずは自分の食を変えていこうと、休日を活用し有機農家巡りを始めた際に生産者と出会い人生観が大きく変わる。その後、独学でパン作りを行いパン職人となり自店を開く。パン職人でありながら食問題やパン業界についてメディアを通じて発信をする活動も行っている。
運営サイトはこちら

前編に引き続きパン職人として経験ゼロでパン屋を開業したcoboto bakeryの酒井 圭一さんにお話を聞いていきます。
前編では、パン職人になったきっかけや開業までのストーリーについてお話をお伺いしました。後編では、開業後の運営のお話やパン職人としてのメディア戦略についてお聞きしました。

週3日の営業スタイル。酒井さんが考えるパン屋のカタチとは

混雑するcoboto bakeryの店内
コボトベーカリーは、パン屋さんでは珍しい週3日の営業。その合間に、酒井さん自身がパン職人になったきっかけでもある 「発酵」に関するワークショップ、生産者や食問題に関するセミナー、またメディアを活用した発信等、ここでも王道のパン屋運営とは違ったスタイルでの活動を続けられています。酒井さんが考える、運営スタイルについてより深堀してみます。

週3日の営業スタイルというのはパン屋さんでは珍しい気がしますが、実際に週3日の営業でやっていけますか?

そうですね、現在は店も運営しつつ通販での販売もしていますので、なんとかやっていけています。開業1年目は、週3日営業して、それ以外はワークショップやセミナーなどを開催していました。ただ、パンづくりに専念しながら並行してワークショップやセミナーをやっていくのは正直厳しかったんです。これはもう少し店が軌道にのってからすべきだなと思い、2年目はパンの製造販売に集中して、パンの品質と売上を上げることを優先しました。それからある程度私も慣れてきた頃に、週3日+他の企画をしても運営できるなと思い、現在に至ります。

週3日+他の企画をされている酒井さんの1週間のルーティンが気になります

お店の営業日が、土・日・月曜日の3日間ですので、土曜日始まりで1週間のルーティンをご紹介します。

土:店舗営業
日:店舗営業
月:店舗営業
火:休み(WEBショップ更新作業、ワークショップ、YouTubeの企画など)
水:休み
木:仕込み
金:仕込み

休みは2日ありますが、休みの日も事務作業やメディア配信用の企画や撮影・編集をしているため、実質週1日お休みがあるかな~という感じですね。

ここで気になったのが、パン職人でありながらメディア配信にも力を入れられていること。メディアを活用した職人のスタイルというのは、これからの時代にマッチするのではないでしょうか。次項ではそのメディア戦略をする狙いについてお聞きします。

 

パン職人だからこそ伝えたい食業界のオモテウラ

インタビューに答えるcoboto bakeryの酒井さん

パン職人でありながらメディア戦略に力を入れられているそうですが、その狙いは?


パン屋をするきっかけにもなった、素材や生産者さんの表側・裏側のことを伝えたいというのがありました。ワークショップやセミナーに参加いただいた方には、その表裏をお伝えする活動はしていましたが、もっと色々な方に実情を知って欲しいと思って、ブログやYouTubeを通じて配信をしようと力を入れるようになりました。

あと、これは何度も言ってしまいますが、私は王道のパン職人ではないですし、天才的な技術を持った方々とは違います。そんなパン職人のみなさんと技術面で差別化するのはなかなか難しい…。ならば、自分ならどんなことができるかなと思った時に、元々メディアを使うことに興味があったので差別化も考えてメディア事業も取り入れようと思ったんです。

メディアを活用したことで得られたものはありますか

YouTubeの企画で、パン屋のオーナーさんやパン業界の方々、また、パン業界とは違いますが、流通会社さんや生産者さんと対談させていただき、みなさんと様々な意見交換や情報をいただくきっかけになりました。そのおかげで、パンを製造しているだけでは恐らく気づくことができなかった「パン屋のありかた」を多角的に見られるようになったと思いますね。

さらに、YouTubeを始めてから、「これからパン屋さんを始めたい」、「カフェをやりたい」という視聴者の方から連絡をいただき、お店にも来ていただきました。情報を発信したおかげで、今までつながらなかった方々ともつながることができ、お店を広く知っていただくきっかけにもなったと思います。

様々な方々と意見交換をされて、今のパン業界について感じたことはありますか

作業をするcoboto bakeryの酒井さん

もちろん、多くのパン屋さんにリスペクトする部分はとても多いですが、パンの主原料である小麦などの生産や生産者に目を向ける機会がとても少ないと感じているのも事実です。

具体的に言うと、「こんなパンを作りたいから、こういう小麦粉を使いたい」という、ゴールから考えてパンを作ることが多い印象がありますね。原材料・生産者選びから始める、いわゆるゼロからから考えるパン屋さんは、色々な方々とお話してきましたが、少なかったです。

もう少し、そこに目を向けてくれる有名シェフが増え、情報発信される流れができれば、パン職人が生産者に目を向けるきっかけになるかもしれませんね。

酒井さんは、パン職人の方々にどんな行動を起こして欲しいですか

やはり、先ほどお伝えした通り、漠然と小麦粉を使う前に、小麦の生産者やそれを加工する製粉会社を探すところから始めて欲しいですね。そして、気になる生産者や会社があれば直接出向いて欲しい。

「普段使っている小麦粉は、どんな思いで小麦生産者さんが作っているか知っていますか?」そんな、問いかけをして答えられる方はまだまだ少ないと思います。ごく当たり前のように、問屋さんが納品してきた小麦粉を毎日使うのと、実際に生産者の想いや現実を聞いて使うのでは、パンを作る時の重みも違ってくるのではと思っています。

小麦生産者「ナカツカサファーム」さんでの小麦収穫風景

▲酒井さんが出会った小麦生産者「ナカツカサファーム」さんでの小麦収穫風景

こだわって生産された小麦を手に取るナカツカサファームの中務さん

▲こだわって生産された小麦を手に取る中務さん。「この小麦の良さをもっと知って欲しい」と酒井さんは言います

 

これからのcoboto bakery、そして酒井さんが目指すものは

インタビューに答えるcobotobakeryの酒井さん

酒井さんは、パン職人としてこれからどんなことをされたいですか

まだまだパン職人としてのメディア事業を確立できているわけではありませんので、もっとメディアでの発信を充実させたいですね。また、生産者さんについての情報配信はまだ少ないですが、いきなりその情報を出してもなかなか視聴してくれないと思いますので、発信するタイミングやファンの育て方はもっと考えないといけません。例えば、誰も触れたがらないパン業界のリアルな労働環境のことやマイナスのこともあえて配信することで、より興味を持ってもらえるかもしれません。自分ができる範囲の情報は発信したいですね。

あとは、私が言うのもおこがましいですが、もっと異なる業界や考え方のアプローチが違う方がお店をした方が業界的にも面白くなるんじゃないかと思っています。もちろん、何十年も修業して独立されることは素晴らしいことです。ですが、それでは単色になってしまい、同じ色のパン屋さんばかりになってしまいそうな気がします。私のような異色の経歴でも、何か想いがあればパン屋ができるということを、この記事を通じて感じていただけたら幸いです。

 

取材を終えて

今回の取材をして、自分自身の視野の狭さに気づいた気がします。素晴らしい技術を持った職人が日本にはたくさんいますし、素晴らしいお店があるのも事実。そのことに嬉しさを感じる一方で、「美味しいパンが食べられるのが当たり前」になっている気がしました。美味しいパンを作るのにパン職人の技術はもちろん大事ですが、その製品づくりを支えている生産者、加工会社、そしてその商品を流通させる商社や問屋があります。普段使っている素材が、当たり前のようにお店に届き「美味しいパン」が作ることができるのは、影で支える方々がいるからなのではないでしょうか。

 

●取材協力
coboto bakeryで販売されているパン

coboto bakery(コボトベーカリー)
住所:兵庫県姫路市梅ケ枝町873-1
電話:079-278-4571
営業日:土、日、月曜日
営業時間:11:00~16:00(パンが売り切れ次第閉店します。)
公式サイト:こちらから
公式インスタグラム:こちらから
公式YouTube:こちらから

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chefno編集部
プロモーション担当兼エディター リョウ
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