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2022.08.30
新メニュー開発のインスピレーションはどこから!?-LURRA°(ルーラ) Jacob Kear / 堺部 雄介-
LURRA°
シェフ/ Jacob Kear(ジェイカブ キアー)さん
ミクソロジスト / 堺部 雄介さん
Jacob Kearさん (写真左)
米・カルフォルニア生まれ。LAや東京での経験を重ねた後、デンマーク・NOMAで研鑽を積み、noma東京に随行。ニュージーランド・Clooneyでヘッドシェフ時代、NZ・Cuisine Good Awardsの3ハットを獲得。
 
堺部 雄介さん (写真右)
千葉県生まれ。バーテンダーを志し、武者修行のため単身海外へ。
アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドを中心に数々のバー、レストラン勤務を経て、海外のバーテンディングの経験を積む。ニュージーランド・Clooneyにてバーマネージャーとして、3ハット獲得に貢献。
運営サイトはこちら

浮かんだアイディアや使いたい素材を商品(作品)として形にしていくことは、パン職人、菓子職人の仕事にとって醍醐味のひとつではないでしょうか。ひとりで考える、師匠や近しい人に相談する、同業者の情報を参考にする…方法は十人十色ですが、忙しくてなかなか新商品開発に時間が割けない、アイディアが浮かばない、マンネリ化しているなど、悩みやジレンマがつきまとうこともあると思います。
みなさんの新商品開発のヒントになればと、製菓・製パン業界とはフィールドの異なる分野で新メニュー開発をされている方々にお話をお聞きする「新メニュー開発のインスピレーションはどこから!?」シリーズ第二弾です!

▼第一弾の記事はコチラから
https://chefno.com/article/kaihatsu_couriere/

 

まるで映画を観に行ったときのような、「料理」を超えた「体験」を提供したい

シェフのジェイカブさん、ミクソロジストの堺部さん、ジェネラルマネージャーの宮下さん、3名の共同経営で2019年にオープンしたLURRA°(ルーラ)。LURRAはバスク語で「地球」、「°」は月を意味している。自然に囲まれ、歴史深い京都という土地で「季節と文化のショーケース」と称される料理とドリンクは、多くの人を魅了し、リピーターも多い。また、オープンからわずか1年でミシュラン1つ星を獲得した実力店であることも特筆すべき点。今回はジェイカブさん、堺部さんのお二人に、料理とドリンクそれぞれの新メニュー開発について伺いました。

まず、お料理の提供スタイルを教えてください

ジェイカブさん
「ドリンクペアリング込みの夜のコースのみです。今まで10品だったのですが、7月から12品に増やしました。もう少し長く、ゆったりと料理を楽しんでもらいたいという想いから品数を増やしました」

コースは一斉スタート。キッチンを囲んだカウンター席で料理とペアリングドリンクを堪能したあと、全員で隣のテーブル席へ移動。揃ってデザートを食べるスタイル。

堺部さん
「映画を観に行ったときのような、そんな体験をしていただきたいんです。デザートを食べるテーブル席では、一つの作品を見終わったあとみんなで感想を言い合うように、自然とお客様同士の会話が生まれます。単なる『料理』ではなく、『体験』を提供したいと思っています」

ジェイカブさん
「このスタイルはオープン前からずっと考えていました。カウンター席からはキッチンがよく見えると思います。うちのキッチンにはガスコンロが置いていなくて、全て薪で調理しています。沸き立つ煙や香りに、ガスと違った迫力を味わってもらえると思います」

なぜ薪での調理を選択されたのでしょうか

ジェイカブさん
「monk※での修行時代に、薪での火入れを経験しました。他の修行先でも備長炭など色んな調理法を経験してきましたが、こんなにも素材が美味しくなるんだ…と薪の素晴らしさを知りましたね」
※monk「京都・哲学の道にあるレストラン」
monkのサイトはこちら→https://restaurant-monk.com/

堺部さん
「あと、オープン当時、スタートからフィニッシュまで全て薪で調理するお店は無かったので、その珍しさもあり今のスタイルになりました」

▲仕込み作業中の厨房。キッチンとカウンター席は非常に近く、臨場感がある

▲厨房奥にある薪オーブン。LURRA°では全ての火入れを薪で行っている

 

開発のスタートは「季節の素材」から。「何を食べているのか」が分かるシンプルな料理を。

カウンター席は、キッチンとの一体感や臨場感が味わえる造り。

そんな空間で提供される料理にはどんな想いがあるのかジェイカブさんに伺うと、「なるべくシンプルに。お客様に『今何を食べているのか』が伝わる料理を心掛けています。」と、とても分かりやすくシンプルな回答が返ってきました。ここからは開発のスケジュールや手順について詳細を伺っていきます。

メニュー開発の年間スケジュールを教えてください

ジェイカブさん
「春夏秋冬の3ヶ月周期で徐々にメニューを入れ替えていきます。一度に12品総入れ替えすることはありません。ですので、3ヶ月後にもう一度来ていただければ、全てのメニューが変わっている感じです」

ではメニュー開発はどういった手順で行われていますか

ジェイカブさん
「季節の食材から全てが始まります。珍しい食材などは、ずっとお願いしているバイヤーの方がいるので、その方に伝えて探してもらいます。使用している食材の90%が京都で作られたものです」

常に求めている食材が頭にあるのでしょうか

ジェイカブさん
「はい。そうです。お店のオープン当時は常に食材探しをしていましたが、もう4年目に入り、どの時期にどんな食材が出回るかだいたい頭に情報が入っています。あとは、『海外ではこの時期こういう素材を使うけど、日本にはあるのかな…』とか。例えば、行者ニンニク※だったら、日本は茎の部分を使うのが一般的ですが、海外では葉っぱの部分を使うので、バイヤーさんに葉っぱを探してもらったり」
※行者ニンニク:ニラなどと同じユリ科ネギ属の多年草。にんにくのような香りがする。

食材を探している時点で完成品のイメージはできているのですか

ジェイカブさん
「全然できていません。食材が手に入ってから、試食をしたり、発酵保存させて経時変化を見たりしながら、イメージを膨らませていきます。食材は旬の時期にフレッシュな状態で提供することもあれば、保存しておいて半年後に提供することもあります」

▲花弁のピクルスや、まだ青い段階の苺を梅干しの要領で漬けた「苺干し」など、様々な食材が様々な手法で保存される圧巻の食材貯蔵庫

ジェイカブさん
「完成までの具体的な順序を言うと、先に料理のビジュアルを決め、そこから分解してパーツ毎に詳細を詰めていきます」

▲レシピには鮮やかな料理のスケッチが。最初にビジュアルを頭の中で完成させ、そこからパーツに落とし込んでいく。3年間で開発したレシピの総数は186品にのぼり、一度提供したレシピを繰り返し提供することは無いそう

ドリンクの開発はいかがでしょうか。

堺部さん
「シェフから料理のアイディアが出てきてから、そこに相性の良い素材を当てはめていきます。レストランなので料理が主体です。ドリンクに合わせて料理を開発していくことはLURRA°ではやらないですね。全てのイニシャルアイディア(最初の発想)はシェフから出てくるので、僕は(アイディアを)持たないようにしています。

開発は、『料理の余韻をどうやって調整するか』を考えています。例えば脂身の多いお肉のジューシーさを食べ疲れることなく味わってもらいたいと思った時は「酸」を加えます。逆に料理に酸の要素があれば、ドリンクから酸は引きます。五味がまとまるよう、ドリンクで整えていくイメージです」

開発はそれぞれお一人でされるのですか

ジェイカブさん
「ベースは一人で考えますが、試作ができるとみんなで試食し、積極的に従業員の意見を聞いています。それに、本当に美味しいと感じているかは顔を見れば分かっちゃうので、素直な反応を見ています。

味も見た目もベストな状態で提供したいので、その日の勢いで提供することは無いですね。何度も試作を重ね、納得がいかずお蔵入りになるメニューもあります」

堺部さん
「一度完成した料理も、提供しながらどんどん進化していきます。約3ヶ月の提供の間、最初と最後で結構違う形に変化していることもよくあります。ずっと同じ食材が手に入る訳でもないですし。お客様のなかにはそういう同じメニューの変化を見たいとコンスタントにご来店くださる方もいらっしゃいます。それってつまり彼の料理のファンが多いってことだと思います。

あと、開発についてはドリンクも同じです。ベースは僕やシェフが考えますが、みんなで『何か違うね』『どこを改善しようか』など話し合いながら完成を目指します」

▲みんなで意見を出し合うスタイルは修行時代からの名残でもあるそう。インタビュー中も厨房のメンバーとの掛け合いが自然に行われ、とてもフラットでカジュアルな雰囲気

従業員の意見を積極的に取り入れながらブラッシュアップしていく…ということですが、お客様からフィードバックをもらう機会はありますか

ジェイカブさん
「LURRA°は『体験』を大切にしているので、普段からお客様とのコミュニケーションは積極的にとっていて、自然とフィードバックをもらえる環境にあると思います。あと、オープンキッチンなので、お客様のお顔を見れば分かりますね。美味しいと感じていただいている時は特に分かります」

 

アイディアの源は全然アーティスティックなものじゃないですよ(笑)

日々進化していく生き物のようなLURRA°の作品は、二度、三度と足を運びたくなる魅力があります。リピーターをも満足させる多くの引き出しはどうやって構築されていくのでしょうか。インスピレーションの源について伺いました。

開発するうえで日常のインプットがとても大切だと思うのですが、どういったものからインスピレーションを得ていますか

ジェイカブさん
「毎日の買い出しがインプットの場になっています。『あんな食材去年は無かったな…あれでこんな料理作ってみたいな…』など、買い出しの帰り運転をしながらふと思い付くことが多いです。無理して絞り出そうとすると上手くいかないと最近分かってきたので、自然と目に入ったもの、気になったものを形にするようにしています」

堺部さん
「普段仕事以外でも飲む・食べる機会を多く持ち、色んなドリンク・料理に触れるよう心掛けています。どんな素材がどんな風に使われているのか、常に研究していますね」


「食」以外のものからインスピレーションを受けることはありますか

堺部さん
「絵画や音楽など、アートからインスピレーションを受けることはないです。シェフも僕も本当に素材ベースで考えています。全然アーティスティックじゃないですよ(笑) 食べたもの、飲んだものからインプット・アウトプットしています」

お店がお休みの日は、仕込みや試作をされているのでしょうか

ジェイカブさん
「いえ!休みは完全に休みます。映画を見たり、ゲームをしたり…お店でずーっと料理のことを考えているので、家で料理は絶対にしないです!って言っても、頭の片隅で考えてしまうんですけどね…(笑)」

堺部さん
「僕はずーっと飲んでいます!(笑)お酒が好き…というより、その空間が好きなんですよね。人の作品(ドリンクや料理)に触れるこういう時間が、開発に活きているなと思っています。

あと…最近息抜きにお店のみんなでよくスナックに行くんですが、スナックの空間からもインスピレーションは受けていますね。スタイルは違えど、僕たちが目指しているホーミー(仲間のよう)な空間と共通する部分があります。それに『おばちゃんが小指で混ぜてくれるハイボールってなんでこんな美味いんだろう…』と考えることもあります(笑)」


では最後に、今後の展望を教えてください

ジェイカブさん
「まず、ミシュラン2つ星を目指したい。あと、「アジアのベストレストラン50」や「ワールドベストレストラン」などの称号も獲りたいです。そういった称号を獲ることが修行中お世話になった恩師への恩返しにもなると思っています。

あと、LURRA°とは別で、違うコンセプトのお店を新たに創りたいなと思っています」

 

取材を終えて

インタビューが行われたのは仕込み時間である午前中。厨房では日本語・英語が飛び交い、BGMには従業員が好きだというロックミュージックが流れる。エネルギッシュでお洒落な空間から、アーティスティックな発想や開発を勝手に想像していた筆者でしたが、その実情は非常にシンプル。自分が食べたもの・飲んだもの・触れたものからインスピレーションを受け、薪の力強さを味方に調理していく。素材との出会いを大切にし、実直に向き合う姿勢が印象的でした。

また料理という完成された作品に、追いかける形で作られるドリンクの開発方法は、パン・菓子職人にとっては新鮮なアプローチだったのではないでしょうか。日々変わりゆく食材に順応しながら、料理を進化させ、ドリンクで1つの「体験」を作り上げる。料理人・ミクソロジストならではの職人技だと感じました。

 

●取材協力
LURRA°(ルーラ)
京都市東山区石泉院町396
電話:050-3196-1433
営業時間:17:30〜23:30
17時30分からと20時30分からの一斉スタートのみ
定休日:日、月
公式HP: https://lurrakyoto.com/

 

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chefno編集部
ディレクター兼ライター M
chefno編集部
ディレクター兼ライター M
輸入商社の営業部で働きながら、編集部ディレクター・ライター修行中。一歩踏み込んだ情報発信が目標です。バタークリームと杏ジャムがあればご機嫌な甘いもの好き。
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