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2023.02.14

異業種コラボで生まれたスイーツブランド「KAKERI」。店舗を持たないパティスリーの開業ストーリー

スイーツブランドKAKERI
KAKERI(カケリ)
魚住 莉穂さん(左) 徳沢 精悟さん(右)
パティシエ 魚住 莉穂さん
製菓専門学校に通い、製菓衛生師免許を取得。 卒業後に香川県の洋菓子店に3年半勤務ののち、神戸でカフェのパティシエとして1年3ヶ月勤務。 2020年に独立し、2021年よりスイーツブランド「KAKERI」を運営。

マーケター 徳沢 精悟さん
同志社大学社会学部卒業後、広告系の会社に就職。 その後、未経験からプログラマーに転身。 フリーランスプログラマーとして独立後、Webマーケティングを学び、マーケターとして活動。 2021年よりスイーツブランド「KAKERI」を企画宣伝担当として運営。
運営サイトはこちら

EC販売を活用し、無店舗型のパティスリーとして運営するKAKERI(カケリ)。日本酒の豊かな香りとガトーショコラの口溶けが絶品の「日本酒ガトーショコラ」は、テレビや新聞などでも取り上げられる人気商品です。

KAKERIはパティシエの魚住莉穂さんと、マーケターである徳沢精悟さんがタッグを組んで生まれたスイーツブランド。異業種のふたりが事業を立ち上げることになったきっかけは?その開業ストーリーに迫ります。

店舗へのこだわりを捨て、まずは小さなことから始めてみよう

まず、スイーツブランドKAKERIについて教えてください。

魚住さん

KAKERIはパティシエである私と、マーケターの徳沢がコラボして生まれたスイーツブランドです。各地にある「美味しいけど、まだ知られていない素材」でスイーツを作り、たくさんの方にその魅力を届けていきたいという想いで立ち上げました。
「素材を掛け合わせる」「職人と職人を掛け合わせる」など、さまざまな掛け合わせから、より良いものをみなさんにお届けしたいという思いを込めて、ブランド名をKAKERIとしました。
私と徳沢の地元である兵庫県三木市は、日本酒が特産品なんです。ですので、まずは日本酒とガトーショコラをかけ合わせたスイーツを作ろうと思い立ち、「日本酒ガトーショコラ」が生まれました。

KAKERIの日本酒ガトーショコラ

▲大人気の日本酒ガトーショコラ

事業を始めるにあたって、店舗を持たずにEC販売を選択したのはなぜでしょうか?

魚住さん

昔から「いつか独立して自分のお店を持ちたい」という想いがありました。でも、徳沢と事業の計画をしていくなかで、初めから店舗を持つのは現実的に厳しいという話になったんです。
やはり、お店を持つとなると資金面が一番の問題になります。まだ販売も始まっていない開業前にたくさんお金がかかってしまうのはリスクがあると感じたんです。

議論を重ねるうちに、「実店舗を持つことにはこだわらず、まずは何でもいいから小さく始めてみよう」と。徳沢はマーケターという職業柄、ネットに強い。ですので、EC販売から始めてみることに決めました。

KAKERIパティシエの魚住さん

▲KAKERIパティシエの魚住さん

徳沢さん

ネットに強いといっても有形商材を扱うのは初めてでしたので、どのように動けばいいのかわからない部分が多くありました。そこで、さまざまな方へ相談していくうちに「クラウドファンディングを利用してみたら?」とアドバイスを受けたんです。
確かにクラウドファンディングであれば手軽に挑戦できるし、資金調達の面でもリスクが少ない。「これだ!」と思い、なかば勢いでクラウドファンディングをすることに決めました。

クラウドファンディングにはMakuake*を利用し、ブランドやスイーツに対する自分たちの想いをたくさんページに載せました。

*Makuakeに掲載したKAKERIさんのプロジェクトページがこちら

まずはクラウドファンディングで先行販売、その後一般販売を開始されていますね。クラウドファンディングをやってみてどうでしたか?

魚住さん

多くの方が私たちの想いを理解してくださった上で商品を注文してくださり、さらに嬉しいことに応援のコメントもたくさんいただけました。
自分達だけでサイトを立ち上げて販売するだけでは、ここまで多くの方に知っていただくことはできなかったと思います。Makuakeという認知度の高いサービスを利用したからこそ、たくさんの方に私たちの想いが伝わったんだと思っています。

徳沢さん

一般販売を開始した今でも、クラウドファンディングでの実績が味方になってくれているように感じています。多くの方に応援していただけたことは本当に心強かったですね。
また、クラウドファンディングで事前にお金を回収してから製造に入れたことは金銭面での心配材料が減るだけでなく、売れ残って生産したものを廃棄する心配もなくなるんです。その点も大きな安心材料になりました。

KAKERI企画宣伝担当、マーケターの徳沢さん

▲KAKERI企画宣伝担当、マーケターの徳沢さん

 

「地域に根差したブランドを」‟日本酒を使ったガトーショコラ”が完成するまでの試行錯誤

商品開発について教えてください。「地元のお酒を使ったスイーツを」ということでしたが、ガトーショコラにしたのは理由があるんですか?

魚住さん

私にとってガトーショコラは思い入れのあるスイーツなんです。そもそもパティシエになりたいと思ったきっかけのひとつに、子供の頃に親と一緒にガトーショコラを作った思い出があるんです。なので自分で事業をするなら、「まずはガトーショコラで」という想いがありました。
「素材を掛け合わせる」がテーマのKAKERIの構想を進めていくなかで、ガトーショコラであれば、日本酒との相性が良いのではないかと思ったんです。

徳沢さん

実は僕、最初はガトーショコラに日本酒を入れることに反対したんです(笑)
というのも、ブランド立ち上げ当初、いろんなところに宣伝して回っていたのですが「日本酒は飲めないから、普通のガトーショコラにしてくれたら買うのに」と、皆さん口を揃えたように言うんです。
「地域に根ざしたブランドを作りたい」という強い想いがあって日本酒を採用したのですが、だんだん自信がなくなってきてしまって…「やっぱり日本酒は入れない方がいいんじゃない?」と話したことがありました。

魚住さん

わたしが「絶対入れる!」といって押し切りました(笑)
当時はまだ試作段階ではありましたが、日本酒を入れた方が絶対美味しいのは確信していたので。

徳沢さん

単に僕が自信を無くしてしまっただけです(笑)彼女がパティシエの立場から「絶対に美味しい」と言い切ってくれたので、僕もその後は安心して進めることができました。

魚住さん

お互いが違う角度からの視点で見ているので、意見を交換することで物事を見つめ直すきっかけにもなります。そうすることで、さらに良いものを作っていけるのではないかと感じています。

KAKERIのふたり

▲パティシエとマーケターという異業種のふたりだからこそ、お互いの視点を尊重している

日本酒ガトーショコラの開発までの道のりを教えてください

魚住さん

三木市にある酒蔵、稲見酒造さんとコラボさせていただけることになり、まずはそこの日本酒の銘柄をすべて用意し、どの銘柄のお酒が一番ガトーショコラと合うのか、ひとつずつ試作していったのですが、銘柄が決まるまでかなり時間がかかりましたね。

日本酒の香りがちょうどよく残るのはどれか、チョコレートの種類などにもこだわっていくうちに、試作は何十回と増えていって…ようやくコレだ!というものができたのが、純米大吟醸「大吟古酒」という日本酒を使ったものでした。
「大吟古酒」は深い味わいと香りが特徴的なお酒で、風味の高いガトーショコラに入れても、しっかりと香りが残ってくれました。

兵庫県三木市の酒蔵「稲見酒造」

▲歴史ある兵庫県三木市の酒蔵「稲見酒造」

徳沢さん

試作用の日本酒を取り寄せてからレシピが決定するまで、2ヶ月ほどかかったと思います。銘柄の決定に時間は要したものの、僕としては比較的スムーズに商品完成まで辿り着いた印象です。実際に試作した魚住は大変だったと思いますが(笑)

魚住さん

ただ、ここからがさらに大変だったんです。

 

試作品と味が違う?商品開発時の盲点

というと?

魚住さん

EC販売をするにあたって、お菓子の製造から受注処理、発送業務まで、すべてを私たち二人だけで行うのは大変です。なので、商品の製造については製造会社さんとパートナーシップを結んでお願いすることにしました。

そして、完成したレシピをお渡しして、販売前に製造会社さんで試作品を作っていただいたのですが、出来上がったものがイメージしていた味と違っていたんです。
というのも、それまで試作は自宅のキッチンで行っていました。自宅のオーブンと製造会社の業務用オーブンでは、火の入り方が変わってしまい、完全に日本酒の香りが飛んでしまっていたんです。
オーブンが違うのですから当然ですよね。でも、当時はまったく頭になかったんです。

徳沢さん

すでにクラウドファンディングで先行販売分の注文が確定していて、告知や発送などのスケジュールを立てている状態だったのですが、そのスケジュールが全部まっさらになってしまいました。完全に自分達のミスなのですが、当時は本当に焦りましたね。

魚住さん

そこでまたゼロから開発し直し。
製造会社さんの厨房に入らせていただいて、仕込みからオーブンの温度、時間、すべて見直しました。3ヶ月ほどかけてやっと完成した時は、本当にホッとしましたね。

ガトーショコラ試作シーン

▲理想の味を求めて何度も試作を重ねた

道具の違いは確かに盲点ですね。製造を委託されている製造会社さんとはどのように出会われたのでしょうか?

徳沢さん

食品OEM会社にかたっぱしから電話して、小ロットでも協力してくださる会社を探しました。
こちらが希望する数を受けてくださるところがなかなか見つからず、苦労しましたね。小ロットといっても1,000個からがスタートだったり、法人でないと取引してくださらなかったり…
何日もかかってようやく出会えたのが、現在パートナーとして協力してくださっている製造会社さんです。初めて事業を展開する僕たちを応援してくださり、親身になって動いてくださるので本当に感謝しています。いまはおかげさまで売上も順調で製造数も増えて、すこしはご恩返しができたかなと思います。

製造スケジュールはどのように管理されているのでしょうか

魚住さん

表計算ソフトのエクセルを使って簡単な在庫管理表を作成して、製造を依頼するタイミングや数をコントロールしています。以前、たくさん作りすぎてロスになってしまったことがあったので、繁忙期などシーズンに合わせて在庫量を調整しています。

徳沢さん

立ち上げ当初はすべての工程を外部委託していたのですが、固定費がかかることと、製造数が増えるにつれて正確な数の把握ができなくなってきたため、委託する部分と自分たちで管理する部分を分けることにしました。
いまは、「日本酒ガトーショコラ」は冷凍商品なので在庫を保管するための冷凍庫を自分たちで持ち、発送も自分たちで行っています。

KAKERI製造会社さんと

▲小ロットで対応してくださる製造会社さんとの出会いに感謝

 

商品を知ってもらうためには、とにかく自分たちで積極的に動くこと

EC販売というスタイルを選択したことで苦労された点はありますか

魚住さん

お菓子づくりの面でいうと、お店を持っていない分、新しい商品の試作など、ちょっと思いついたものを試しに作ってみたいな、という時にさっと作業ができないという部分がどうしてもありますね。もちろん自宅のキッチンでもできますが、日本酒ガトーショコラの開発時のように、オーブンが変わると結局レシピも変わってしまうので。

徳沢さん

実店舗がなく、コンサルなども入れていないので、集客のためのアクションを自分たちで積極的に行う必要がありました。SNSでの発信、新聞社やWebメディアへのPR活動、催事出店のための営業など、とにかく知っていただくためには自分たちで動かなければなりません。

魚住さん

製造スケジュールを立てながらの広報活動は大変でしたね。
「このくらいに間に合うだろう」と販売に合わせて告知・宣伝をするのですが、パッケージを作るのに思っていた以上に時間がかかったりして。宣伝をしてから販売・発送までのスケジュール感覚がつかむのに、 最初はとても苦労しました。

徳沢さん

ただ、店舗を持ってない分、催事などのオフラインで販売することに「ここでしか買えない」というイベント性が生まれます。メディアが取材に来てくださったり、自分たちでもアピールする機会が増えるのは大きなメリットだと感じています。

 

好きな仕事だからこそ長く続けて欲しい

KAKERIのお二人

おふたりのような事業展開に興味を抱く方も多いのではないかと思います。これから独立を考えている方にアドバイスをいただけますか

魚住さん

私には、パティシエが独立するには店舗を構えなければならないという思い込みがありました。でも、必ずしもお店でなければならないことはなく、EC販売で独立できる道があることを多くのパティシエにも知っていただけたらと思います。

ネットで販売するなんて難しそう…そう感じる人もきっと多いと思います。
私もお菓子作り以外のことには疎く、ネットには苦手意識がありました。そもそも右クリック*が何かもわからない状態だったんです(笑)
もちろん、マーケターであるパートナーがいるからこそできるようになった部分が大きいですが、今は自分でブログを書くことも、SNSで発信することもできるようになり、やればできるんだと自信に繋がりました。

ですからひとりで抱え込まずに、苦手な部分は得意な人にフォローしてもらうこと、時には任せることも視野に入れておくと良いかなと思っています。

*右クリック:マウスの右側をクリックしてメニューを表示させること

徳沢さん

全部をひとりでやろうとすると、細かい部分まで手が回らずに結局中途半端になってしまいます。魚住がいうように、苦手な部分を他の人にお願いするというのは、事業を軌道にのせるためには大事なことだと思います。
例えば在庫管理などの数字管理が苦手なら、数字に強い友達と組めばいい。EC販売は手軽にできるという点がメリットですが、在庫を持つ限り数字の管理をしっかりしていかないと大変なことになります。僕たちも、立ち上げ当初は甘く考えていて痛い目をみてきましたから。

魚住さん

パティシエとして独立したいという気持ちがあるのなら、あきらめてほしくないと思っています。やはりこの業界は労働時間が長く、女性が働きづらい環境だと感じています。
しかし、KAKERIのような事業スタイルであれば、ライフスタイルに変化があっても長く続けていけるのではないかと考えています。

パティシエになりたくて、パティシエが好きで始めた仕事です。長く、楽しみながら働ける環境として、KAKERIのような事業スタイルを参考にしていただけると嬉しいです。

 

取材を終えて

パティシエとマーケター、お互いの強みや弱みが対照的といってもいいほど視点が違うふたり。その視点の違いがあるからこそ、店舗を持たないパティスリーとして成功しているのだと感じました。
そして何より、おふたりとも心から楽しんで事業を運営されているのが印象的です。「好きで始めた仕事を、長く楽しく続けていく」。すべての働く人に捧げたい言葉でした。

●取材協力
KAKERI(カケリ)
公式ホームページ:こちらから
公式インスタグラム:こちらから
公式ツイッター:こちらから

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さとう れいこ
さとう れいこ
運営サイトはこちら
大阪在住フリーライター&カメラマン。取材・インタビュー記事、SEO記事など幅広くジャンルレスに執筆しています。
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