大阪府吹田市、阪急千里線豊津駅を出ると目の前にある「花パン製作所」。
店主の中村朋子さんが主に製造、夫の大河さんが事業専従者として製造補助と販売を担当し、二人三脚ではじめたベーカリーです。
1年半ほど前にオープンして以来、客足の絶えないこの小さなお店は、ほぼ毎日16時前には商品が売り切れて閉店するほどの大人気店。
なぜ毎日売り切ることができるのか。人気の秘密は何なのか。お話を伺っていくうちに、このお店が、このお二人が、地域に愛されている理由が見えてきました。
経験ゼロの夫と二人三脚ではじめたベーカリー
夫婦二人で手探りで始めたベーカリー。夫の大河さんは当初、パン製造経験のまったくない状態でした。
はじめからお二人でお店を持つ計画だったのですか?
いえ、元々はわたしがお店を持ちたいという夢があって。ひとりでもできるちっちゃいお店を考えてたんですけど、パン屋さんで修業をしていくうちに、小さいお店でも1人で全部やるのはめっちゃ大変なのがわかったんです。でも、人を雇うのもちょっと勇気がいるなと思ってて。夫の大河は人と喋るのが好きな人なので、「接客担当にちょうどいいや」と思って(笑)
ちょくちょく勧誘されてましたね。僕は元々サラリーマンで別の仕事をしてきたんですけど、やっぱりひとつの事業を夫婦でするのって結構リスクだと思っていたので、ずっと断ってたんです。もし商売がうまくいかなかったときに、生活が成り立たないっていうのが一番怖いじゃないですか。それよりも、もしもの場合に僕の収入で生活を支えられるようにって考えてたんです。
それでも朋子さんはことあるごとに大河さんを誘いつづけ、ある日大河さんは朋子さんと一緒にお店をやっていくことを承諾します。どういった心境の変化があったのでしょうか?
ちょうど転職を考えていた時期で、自営業をやってみるのも一つの経験としてプラスになるんじゃないかなと考えたんです。もしダメだったとしても「またサラリーマンに戻ればいいか」ぐらいの感じでこの世界に飛び込んだのがはじまりですね。
パンづくりの経験はゼロとお聞きしました
それまでアルバイト以外で飲食業界に関わったことがありませんでした。積み重ねてきたキャリアがまるで関係ない、全くゼロからのスタートというのは、やっぱり初めは勇気が要りましたね。
実際やってみてどうでしたか?
「すごいとこに入ってしまったな」って(笑)
自営業って、サラリーマンよりちょっと緩くなるんかなと思いきや、逆にめちゃくちゃハードで。1人の時間っていうか、ちょっとYouTubeを見る時間とかもなくて、朝早くから夜遅くまで働いて、家に帰ってご飯食べて寝て、それでまた次の日っていう、そんな生活でした。
でも、いまは夫もだいぶ仕事に慣れてきたんで、わたしも本当に体が楽なんです。最初は、わたしが製造をほぼ1人でやってたんでぜんぜん終わらなくて。次の日の仕込みが終わるのが夜の9時とか。でもいまはだいぶできるようになってくれたんで、夕方の5時とか6時にはお家に帰れます。
修業期間わずか5年でのスピード開業
「楽観的で『何とかなるか』と思える性格」と自身を評する朋子さんは、ベーカリーでの修業期間が5年、若干29歳という若さで開業。そこには女性ならではの考えがありました。
ふつうは10年とか修行されてから独立・開業という人が多いんかなと思いますけど、わたしの場合、なんで29歳で開業したかというと、この先の人生、とくに子供のこととかを考えたときに、たとえば10年修行してそれから独立となったら、その頃には40歳くらいになってしまうなと。それだと体力的な不安が大きくなるので、開業は早めに、20代のうちにしたかったんです。そのためにも自分にどんなスキルが足りてないのかを考えながら修行してました。
なるほど、そういう意図があったんですね。
10年修行した人と比べると、やっぱりスキルも全然足りていないのは自分でも痛感してるんです。それに、早くに開業したら教えてくれる人がいなくなってしまうんで、いまも講習会に参加したりして勉強を続けてます。
修行時代が5年間と、当然開業資金を貯める期間も短かった朋子さん。当時の自己資金200万に対して開業に必要な資金は1600万。融資も900万までが限度と伝えられたそう。
最終的には両親が資金を貸してくれたんです。その点はすごく恵まれてますよね。本来はしっかり経験を積んで、ちゃんとした事業計画書を作って、金融公庫さんでお金を借りてやってるところを、わたしの場合はすごい楽しちゃってるところがあるんで、そこに対する負い目はあります。なので、とりあえず両親への借金はちゃんと返そうと思って、毎月利子をつけて20万円ずつ返済しています。
ここ(豊津)にお店を出した理由は何でしょうか?
わたし、生まれも育ちもここが地元で、生まれてから20年ぐらい住んでたんですけど、このあたりは昔からあんまり変わってない。マンションやスーパーは結構あるけど、飲食店とかが少ないので、住んでる人も多いし、「この辺にパン屋さんがあったらぜったい流行るやろうな」って思って。
まさしく駅の真ん前で、立地的には申し分ないと思いますが、家賃が高いのではないですか?
いや、それほどでもないとわたしは思ってるんですけど、いくらだと思います?
20万円くらいでしょうか?
15万なんです。最初は20万くらいでずっと探してたんですけど、この駅前の立地でこの賃料だったらと即決しました。
つくりたいのは地域に愛される「ふつうのパン屋さん」
お店のコンセプトはありますか?
コンセプトって言われるとちょっと困ってしまいますけど(笑)
ベタですけど地域密着の、誰でも知ってるようないろんなパンを置いてる「ふつうのパン屋さん」です。クリームパンとかメロンパンとかカレーパンとか。まあカレーパンはないんですけど。
そういう馴染みのあるパンと、プラスハード系とか、ちょっと珍しいのもできたらいいかなという感じで。
イメージしてるのもいわゆる「ブーランジュリー」よりも街のパン屋さん、ベーカリーっていうか。ブーランジュリーになれるセンスがあればいいんですけど(笑)
たしかに、お店の外観も昭和を思わせるような雰囲気で、テントとかもレトロな雰囲気でかわいいですね。
そうなんです!以前に修行をさせてもらった「まん福ベーカリー*」さんが大好きで、自分のお店も似た感じにしたかったので、しましま模様のテントを色違いで真似しました。
※まん福ベーカリー:大阪府北浜エリアにある大人気ベーカリー
まん福ベーカリーインスタグラム:https://www.instagram.com/manpukubakery.fuku/
お店のロゴも可愛らしいですね。デザイナーさんに頼まれたんですか?
はい。「ココナラ」っていうサイトでフリーのデザイナーさんにお願いして作ってもらいました。最初は別の、「ぜひこの人に」って考えてたデザイナーさんに頼でたんです。デザインのラフ案とかもらってたんですけど、イメージのすり合わせがなかなかうまくいかなくて。
お店のロゴはこの先ずっと残るもんやから、やっぱり100パーセント納得できるものにしたかったんです。なので、そのデザイナーさんには申し訳ないんですけど1回、別の人に頼んでみようというので、ココナラで見つけた方にお願いしたら、一回でばしっといいものを作っていただいて「これやっ」って感じで決まりました。
【後編につづきます】
【取材協力】
花パン製作所
住所:大阪府吹田市山手町2丁目7-3
営業時間:11:00-16:00(売り切れ次第終了)
定休日:日・月・火曜日(不定休あり)
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/hanapanseisakusyo/