ARTICLE
2024.04.23

夫婦で独立開業!笑顔とリピーターの絶えない「花パン製作所」・後編【全2回】

花パン製作所

大阪府吹田市、阪急千里線豊津駅を出ると目の前にある「花パン製作所」。
まだ法人化はしておらず、個人事業主である中村朋子さんが主に製造、夫の大河さんが事業専従者として製造補助と販売を担当し、二人三脚ではじめたベーカリーです。
1年半ほど前にオープンして以来、客足の絶えないこの小さなお店は、ほぼ毎日15時頃に商品が売り切れて閉店するほどの大人気店。
後編は花パン製作所の一日の流れからお店づくりの工夫、夫婦としてお店をやっていくことの良さや難しさについて、全2回にわたってお話をお聞きしました。

花パン製作所の一日の流れ

花パン製作所

朋子さん

朝4時に起きて5時に出勤して、まず店頭に並べるパンをぎりぎりまで焼き続けて準備して、11時にオープンします。そこからまた大体13時とか14時ぐらいまでパンを焼いてますね。
製造量は、雨の日とかはちょっと減らしますけど、土曜日は700個くらい。イベントのときはちょっと気合を入れて1000個作ったこともあります。お店に入ったときにパンがたくさんあるほうがお客さんにも喜んでもらえると思うので、オープン時に50種類くらいのパンが並ぶようにしています。
スタッフはパートさんがひとりオープン前に袋詰めに来てくれて、それからオープン時に、レジ打つ人と補充する人、外で行列の整理をしてくれる人で、計4人のパートさんが15時まで入ってくれています。

花パン製作所

▲オープン時には50種類ものパンが棚に並ぶ(写真提供:cobotobakery様)

大河さん

おかげさまで、いまは15時ぐらいに売り切れになるので、そこで閉店して、18時くらいまで翌日分の成形や仕込みをして、次の日の負担をなるべく減らすために冷蔵庫をいっぱいにして帰ります。それから家に帰ってご飯を食べて、何やかんやして寝るのは11時ぐらいですね。

連日完全に売り切っているというのはすごいですね。

朋子さん

最後のほうになると、わたしの場合は『(商品がなくて)すいません』ってなるんですけど、夫はその辺ポジティブなんで『まだこれ残ってますよ、ラッキーですね』みたいな巧みな話術で売りさばいてくれるんです。商品の特徴とかを丁寧に説明してくれて、お客さんも『じゃあ買ってみよかな』みたいな感じで、うまいこと誘導というか(笑)

花パン製作所

▲完全売り切りを可能にする大河さんのポジティブな接客

お店を好きになってもらうための工夫

「お店に来てくれる大半は地元のお客さん」という花パン製作所。普段使いのパン屋として地域に愛され、二人で出かけると「花パンさんや」と声をかけられることも多くなったといいます。お店のファンを作るための取り組みについてお話をお聞きしました。

朋子さん

うちはコンクールで賞を獲ったとか、看板商品と言えるような特別なパンがあるわけでもない、ごく普通のパン屋なので、「お客さんを大切にする」っていうことには手を抜かないようにしています。

大河さん

やっぱり毎日目につくほうがお店に対して親近感を持ってもらえると思うので、インスタのストーリーズは毎日アップするようにしてます。あとは完売したときにただ『完売・クローズしました』というのではなくて、何時に完売したかを書くようにしています。その時間を入れることによって『この時間に完売するんだったら何時までに行かないと』とお客さんにも伝えられるので。せっかく来てもらったのにパンがないっていうのがやっぱり申し訳ないので、お客さんに無駄足を踏ませてしまわないように工夫しています。

朋子さん

あとはイベントをやるときに、お客さんに喜んでもらいたいのもありますけど、せっかくなら自分たちも楽しみたいので仮装とかしてます。いまはもう定番になってますね。

大河さん

僕は初めはちょっと恥ずかしくて、戸惑いながら着替えてたんですけど、1年経つと僕もスタッフさんもけっこう楽しみながらやるようになりましたね。

花パン製作所

▲バレンタインにはハートのかぶりものを着用(インスタグラムより)

夫婦でお店をするということ

夫婦でいっしょに仕事をするということは、普段の生活との境界線があるようでない状態。衝突することもしょっちゅうというお二人。夫婦ならではメリット・デメリットはあるのでしょうか?

朋子さん

二人の性格は似ていると思います。基本ポジティブ。夫の方がマメなので、材料の管理とか発注の面で助かってますね。わたしはその辺『何とかなるわ』みたいな感じが強いので、そこでバランスがとれてるのかなと思いますね。わたしは特に何もしてませんけど(笑)

パン職人の先輩としての朋子さんはどうですか?

大河さん

僕はどっちかというと夫婦でのフラットな関係でいくんですけど、妻としてはパン業界の先輩後輩っていう上下関係があるので、最初はやっぱりぶつかることが多かったですね。

朋子さん

会話は夫婦のフラットな関係のままでいいとは思うんです。でも教えてもらう態度じゃないんですよ(笑)どっちも性格が似ていて、あまり人に指示されたくないんですよね。例えばわたしが「こうして」って指示したときに『おれはこうしたい』みたいなのがあったときにぶつかりますね。「そこは先輩のゆうことを聞いてくれ」と思って。

ケンカしたときに仲直りはどうしてるんですか?

朋子さん

わたしが嫌な言い方しちゃうときもあるんですけど、夫はへそをまげると無口になるので『何で黙ってんの?』みたいにつきまといますね(笑)。その日には仲直りして次の日も仲良く仕事がしたいので。ここで解決しておかないと、お店の雰囲気やパンにも響くと思うので。

大河さん

でもね、ケンカした時って作業がめっちゃ早く進むんですよ。なんでかっていうと、話さないから。あえて僕を怒らせることによって仕事の効率化を進めようとしてるんじゃないかなって思うぐらい。雑談しながらだとどうしても手が遅くなるので、たまのケンカもそれはそれでよかったりするんじゃないかなって。

朋子さん

ポジティブやねえ。

これからの花パン製作所

最後に、これからお店をどうしていきたいか、また夫婦として、家族としてどういうふうにしていきたいかを聞かせてください。

朋子さん

ありきたりなことしか言えないですけど「現状維持」です。
わたしは現状を維持するのってすごく大変なことだと思っているので、いま来ていただいてるお客さんにずっと通ってもらうにはどうしたらいいのかなっていうのを考えながら、飽きられないように、工夫しながらやっていきたいなと思います。特別なことがしたいとかは何もなくて、ただ街の人たちに長く愛されるパン屋さんを作りたいと思ってます。
ただ、2人でゆっくりする時間はもうすこし欲しいなと思いますね。周りのベーカリーの皆さんはもっと働いてらっしゃるかもしれませんけど、今のリズムのままで働いてたら子供なんて絶対に無理なので。何かしらそれを変えていければとは思っています。それには、シンプルにパンを減らすしかないんですけど、今はたくさんお客さまが来てくださっているので、期待には応えたいなっていう気持ちもあって。そこがちょっと悩ましいところです。

大河さん

妻が修行時代、朝は僕よりも早く出て、夜は遅くに帰ってきて大変だったのを見ていたので、仕事の効率化とかを考えて、働きやすい環境を整えていきたいと思ってます。無理して働いて、どこかでガタがきて仕事ができなくなるのが一番怖いですから。朝早いのは変わらないと思うんですけど、早く帰って自分の時間をもっと充実させることで、それが仕事にも間違いなく生きてくると思うので、休みの日には仕事とは違うことを二人で楽しんで、仕事も仕事でしっかり楽しむっていうのをより確立していきたいですね。
いまは週3日の休みのうち、1日は仕込み、2日は休みなので、世間のお仕事されてる方とだいたい同じだと思います。ただ、1日の働く時間が長いんです。現状では、朝4時に起きてご飯を食べて、お昼休憩はとらずにちょこっとパンをかじる程度でずっと働き続けなんで、できればね、休憩やご飯を食べる時間がしっかり取れたら、より仕事もメリハリつけてできるんじゃないかなって思っています。
ただ、そこでよくケンカになるのが、僕が効率化を考えていろいろ試すんですけど、それが彼女にしてみれば駄目みたいで。

朋子さん

でもね、効率じゃないんですよ、それが。たとえば教わったことを、作業の順番を変えることで早くなるとかだったら、わたしは全然オーケーなんです。むしろありがたいんですけど、この人、シンプルに数を減らすんですよ。
例えば「明日これだけ出しましょう」って決めた数があるとして、数が少なければ早く売り切れる、イコール早く帰れるという考えで、勝手に数を減らそうとするんです。さすがに「そこは相談してくださらないかしら?」って。

大河さん

いや、そうことでもないんですよ。この話、いろいろと異議ありなんですけど、ちょっと話長くなりそうなんでやめときます。また次来てくれたらゆっくりお話します。

朋子さん

愚痴聞きにわざわざ来てくれへんよ。

取材を終えて

取材中も、お互いのコメントにツッコミをいれながらも終始たのしそうな笑顔を浮かべていたお二人。花パン製作所はこのお二人の人柄をそのまま映し出しているような微笑ましいお店でした。たくさんのお客さまが足繁く通う理由には、きっとパンだけでなく、この二人に会う楽しみも含まれているのだと思います。
8月にオープン2周年を迎える花パン製作所。オープン記念日は奇しくもお二人の結婚記念日と同じとのこと。訪れる人を幸せな気持ちにさせてくれるこのお店に、みなさんもいちど訪れてみてはいかがでしょうか。

【取材協力】
花パン製作所
花パン製作所
住所:大阪府吹田市山手町2丁目7-3
営業時間:11:00-16:00(売り切れ次第終了)
定休日:日・月・火曜日(不定休あり)
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/hanapanseisakusyo/

この記事をシェアする
Writer
chefno編集部
編集長&映像制作 コウヘイ
chefno編集部
編集長&映像制作 コウヘイ
映像制作とフランス語関連の記事担当。18年のフランス在住経験あり。フランス生活で得た気づきやエスプリを生かして面白い&センスの良いコンテンツづくりを目指します!好きなお菓子はダントツでタルトタタン。
1
味覚と味蕾
ARTICLE
2023.06.13
教えて!専門家の皆さん!!美味しいものを作るために知っておくべき「味覚」について
chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
2
パティスリーKII
ARTICLE
2024.03.19
和歌山・紀の川市から。ここでしか手に入らない素材を使ったお菓子づくりを楽しむパティスリー「KII(キイ)」谷本シェフの思考
chefno編集部
パティシエール兼ひよっこライター ハルミ
3
ARTICLE
2024.01.09
インタビュー 老舗和菓子屋からパン屋へ パティシエ出身シェフが作る美しいパン ル・シュプレーム 渡辺 和宏
ベーカリーパートナー編集部
4
ARTICLE
2022.03.15
フランスにいったら役に立つ!かんたんフランス語講座 第11回『味の感想』
chefno編集部
編集長&映像制作 コウヘイ
無料会員を募集しています!
chefno®︎では、会員登録することによって、会員限定のコンテンツを視聴したり、 製パン・製菓のセミナー(無料・有料開催)に参加することができます。 ほかにもいろんな特典を考えております。みなさまの登録をおまちしています!